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魔王
これで決める
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「念押ししておくが、俺は本気だ。下がるなら追いはしない。しかし、そこから一歩でも向かってくれば、この娘を突き刺す。そうだ? 信用してもらうために、眼の一つでも潰しておこうか? 目を潰しても、我々が欲しいものは、微塵も揺るがぬのでね」
男がより剣を近づける。
迷っている時間はない。
すぐにでも、言葉を……発し、なければ……。
「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ……」
「何だそれは? 犬のマネか? よく聞こえんな。やはり一言ぐらい聞いておくか? 女の悲鳴を」
「待て!! バカ野郎!!」
掻き出すようにして、俺は言った。
口元の血を、肩でぬぐう。
「俺が死んでも……お前らはパミュを殺す、だろうが」
「話はきちんと聞くものだ。俺は殺すと言ったんじゃない。突き刺すと言ったんだ」
同じことだろうが……っ。
男の言葉に歯噛みしたくなるも、口から出てくるのは、喘鳴と唾液。
「継承者のみとは言え、刹那で空間を渡るとされる、転移の術式。俺たちが欲しているのはそれだ。魔王クジャ=ロキフェラトゥはそれをもって紅の三夜行と南尾の統一を成したが、東尾(われら)は違う。この素晴らしい術式を民間に組み込み、地域復興にあてる。どちらに大義があるか、わかるだろう?」
戯言だな。
パミュを洗脳するためだけの言葉だ。
魔術師である俺には、こいつの感情は手に取るようにわかる。
「パミュはどうなる?」
「どうなるとは?」
「死に体だろ」
「誰かのために一生を費やす。それが死に体か? やはり価値観が違うな。相容れない。東尾の人間なら、男でも女でも、絶対にそんな言葉は使わない。お前は、十五年も生きて、うちの下手人以下なのか?」
男が、氷のように冷たい目を、パミュに向ける。
パミュの瞳が、斜め下を向いた。
いつも前ばかり見ているこいつが、だ……。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」
息が切れる。
それでも。
そんなことはない。
そう言おうと思った。
だが。
「話は以上だ。十秒後に突き刺す。一度退いて望みを先に繋ぐか、女の悲鳴を聞きながら特攻するか。好きな方を選べ」
男が剣を逆手に持ち替えた。
あくまで軍人としての評だが、見事な男だと思った。
ゼーレの雪のように冷たく容赦がない。
これだけの手練れの上に立っているのも頷ける。
もしも俺が東尾に住む庶民なら、この男を輩出した東尾(じこく)に誇りと安心を覚えることだろう。
俺は――
知らず知らずのうちに、嗤っていた。
「大したもんだよ……ゲホゲホッ、お前は」
「八、七ー」
男が剣を持ち上げる。
「さすがは……十狼刀決死組三番隊組長、カルロ=惣一朗さんだけ、あるよなー。下手人の名は、ランファ……か」
カルロ含め、周りの敵兵が息を呑む。俺はこいつらにわかるように、見鬼を発動させてやった。
見鬼はB級魔術師で喜怒哀楽の四情。A級魔術師で、愛嘘信憎恐の五情。俺やティアラナのようなS4魔術師になると、その国の一音一音を読み切れる。
S4魔術師イコール強いというわけではない。
実際ティアラナじゃ、この中の誰にも勝てないだろう。
それでも恐ろしいはずだ。
S4魔術はそのほとんどが、理論上可能なだけの、神がかり的技法ばかり。
自分には決して扱えない技法を見れば、誰だって数秒は恐れる。
たかが数秒。されど数秒。
その数秒抱いた感情を使って、東尾の英雄を鏖殺(おうさつ)する。
呼吸。
寒空の中に響いた。
構えていた切っ先を、下段から中段、カルロの鼻先にまで、持ち上げる。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
呼吸を止めた。
また、嗤う。
困難を前にした時、つい嗤ってしまう俺の悪癖。
最低野郎とよく罵られる。
人の心はないのかと、繋いでいた手を、解かれてしまったこともある。
しかし俺はこの悪癖に感謝してる。
困難を前に、必ず泣かなければならないと言うのなら――俺は今頃、枯れ果ててるよ。
「決着つけてやんぜ。どっちが上で、どっちが下か。こいつが死出の、カウントダウンだ」
俺は、鼻先まで持ち上げていた剣を、やや下げた。
そして。
「な!!」
暗夜めがけて放る。
柏手を打つ。
地面に諸手をついた。
「『ユキカゼ』巡りて『テンリ』覆い、『ヒヒ』王駆けて『クレナイ』満たし、『チザ』に『セツラン』の華『サク』
ジグワールゾクオッドベオウルフラジルザガンベリオット――」
これで決める!!
「なっ、龍術と近代呪の複合だと!? 一体何を考えている!?」
カルロが驚き慌てる。十秒後に突き刺すと言ったことなど、既に忘れているようだ。
「うぅ……っ」
目が合った。
奴は見ただろう。
紅い瞳と、流れ込んでくる悪意のまま、好き勝手に嗤っている、俺の面を。
七門虚空。先の柏手は魔術共鳴。魔力誘導で操り、陣を描いた。
まずは初手!!
男がより剣を近づける。
迷っている時間はない。
すぐにでも、言葉を……発し、なければ……。
「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ……」
「何だそれは? 犬のマネか? よく聞こえんな。やはり一言ぐらい聞いておくか? 女の悲鳴を」
「待て!! バカ野郎!!」
掻き出すようにして、俺は言った。
口元の血を、肩でぬぐう。
「俺が死んでも……お前らはパミュを殺す、だろうが」
「話はきちんと聞くものだ。俺は殺すと言ったんじゃない。突き刺すと言ったんだ」
同じことだろうが……っ。
男の言葉に歯噛みしたくなるも、口から出てくるのは、喘鳴と唾液。
「継承者のみとは言え、刹那で空間を渡るとされる、転移の術式。俺たちが欲しているのはそれだ。魔王クジャ=ロキフェラトゥはそれをもって紅の三夜行と南尾の統一を成したが、東尾(われら)は違う。この素晴らしい術式を民間に組み込み、地域復興にあてる。どちらに大義があるか、わかるだろう?」
戯言だな。
パミュを洗脳するためだけの言葉だ。
魔術師である俺には、こいつの感情は手に取るようにわかる。
「パミュはどうなる?」
「どうなるとは?」
「死に体だろ」
「誰かのために一生を費やす。それが死に体か? やはり価値観が違うな。相容れない。東尾の人間なら、男でも女でも、絶対にそんな言葉は使わない。お前は、十五年も生きて、うちの下手人以下なのか?」
男が、氷のように冷たい目を、パミュに向ける。
パミュの瞳が、斜め下を向いた。
いつも前ばかり見ているこいつが、だ……。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」
息が切れる。
それでも。
そんなことはない。
そう言おうと思った。
だが。
「話は以上だ。十秒後に突き刺す。一度退いて望みを先に繋ぐか、女の悲鳴を聞きながら特攻するか。好きな方を選べ」
男が剣を逆手に持ち替えた。
あくまで軍人としての評だが、見事な男だと思った。
ゼーレの雪のように冷たく容赦がない。
これだけの手練れの上に立っているのも頷ける。
もしも俺が東尾に住む庶民なら、この男を輩出した東尾(じこく)に誇りと安心を覚えることだろう。
俺は――
知らず知らずのうちに、嗤っていた。
「大したもんだよ……ゲホゲホッ、お前は」
「八、七ー」
男が剣を持ち上げる。
「さすがは……十狼刀決死組三番隊組長、カルロ=惣一朗さんだけ、あるよなー。下手人の名は、ランファ……か」
カルロ含め、周りの敵兵が息を呑む。俺はこいつらにわかるように、見鬼を発動させてやった。
見鬼はB級魔術師で喜怒哀楽の四情。A級魔術師で、愛嘘信憎恐の五情。俺やティアラナのようなS4魔術師になると、その国の一音一音を読み切れる。
S4魔術師イコール強いというわけではない。
実際ティアラナじゃ、この中の誰にも勝てないだろう。
それでも恐ろしいはずだ。
S4魔術はそのほとんどが、理論上可能なだけの、神がかり的技法ばかり。
自分には決して扱えない技法を見れば、誰だって数秒は恐れる。
たかが数秒。されど数秒。
その数秒抱いた感情を使って、東尾の英雄を鏖殺(おうさつ)する。
呼吸。
寒空の中に響いた。
構えていた切っ先を、下段から中段、カルロの鼻先にまで、持ち上げる。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
呼吸を止めた。
また、嗤う。
困難を前にした時、つい嗤ってしまう俺の悪癖。
最低野郎とよく罵られる。
人の心はないのかと、繋いでいた手を、解かれてしまったこともある。
しかし俺はこの悪癖に感謝してる。
困難を前に、必ず泣かなければならないと言うのなら――俺は今頃、枯れ果ててるよ。
「決着つけてやんぜ。どっちが上で、どっちが下か。こいつが死出の、カウントダウンだ」
俺は、鼻先まで持ち上げていた剣を、やや下げた。
そして。
「な!!」
暗夜めがけて放る。
柏手を打つ。
地面に諸手をついた。
「『ユキカゼ』巡りて『テンリ』覆い、『ヒヒ』王駆けて『クレナイ』満たし、『チザ』に『セツラン』の華『サク』
ジグワールゾクオッドベオウルフラジルザガンベリオット――」
これで決める!!
「なっ、龍術と近代呪の複合だと!? 一体何を考えている!?」
カルロが驚き慌てる。十秒後に突き刺すと言ったことなど、既に忘れているようだ。
「うぅ……っ」
目が合った。
奴は見ただろう。
紅い瞳と、流れ込んでくる悪意のまま、好き勝手に嗤っている、俺の面を。
七門虚空。先の柏手は魔術共鳴。魔力誘導で操り、陣を描いた。
まずは初手!!
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