八百年生きた俺が十代の女に恋をするのはやはり罪ですか?

松岡夜空

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誰がための呪

魔王からは逃げられない

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「ふふふ」


 表情に笑みの残滓を残したまま、あご肘をつき、俺を見下ろす。


「魔術師としては相当だが、人としては相当温いな、ビュウ=フェナリス。あるいはわざとやっているのかな?」


「なに……っ」


「ははは。怖い顔じゃ。怒らせるのは本意ではない故、話を戻すが、これはハル自身の問題でもあるのだ。ハルはもうエルメルリアには行けない。行きたくても行けないのだ。トラウマになっているようでのう。エルメルリアに行こうとすると、吐きそうになる。だそうだ」


「そうなのか?」
 

 ありえる。そう思ってパミュに尋ねた。しかし、パミュは視線を横に外して答えを返してこない。
 クジャの笑い声が響く。クジャは、指を二本合わせ、俗にいう刀印を作っていた。


「ハルは呪の坩堝でね。口を禁じることなど造作もない」


「お前……っ」


「恨むか、あたしを。当然よな。お前が大事にしている娘を、あたしは好きに弄ぶことができる。政略的にどこぞの王子と結ばせることも、猟奇的に路上の醜男と結ばせることも、思いのままぞ。
 ハルはそれだけ危険な場所におる。味方もおらぬ。この国で、あたしと敵対できるやつは、怖いもの知らずでかつ腕の立つ、野良魔術師ぐらいのものよ」


「……仕えろってことか、俺に」


「いやいや。あたしに仕えろとはあえて言わぬ。しかし、ハルには仕えてやってほしいと、一人の親として言いたいのだ。信じてもらえないやもしれないが、あたしはハルのことを愛しておる」


「なにをぬけぬけと」


「本当よな。できた娘ぞ。健気で眩しい。しかしだからこそ、壊したくなるのだ。お前と同じように、あたしの精神の半分は死界に依っているでな。殺せ殺せと、頭の中で呪詛が渦巻く」


「……」


「守ってやってくれぬか? 誰あろう、あたしから。要はセレンの役の牽引だ。無論セレンにも相応の役を与えるつもりだ。先も言ったが、うちは武官が少ないのでのう。遊ばせておくつもりは毛頭ない。
 どうかのう? 良くはないかもしれぬ。が、悪い話、とも思わぬが」


 嫌な問いかけだった。


 美しく着飾っちゃいるが、早い話が。


『パミュの命を消されたくないならば、傘下に入れ』


 ということではないか。


 俺の気持ちを見透かしたように、クジャがクツクツと笑った。


 横手に置いていたグラスを手に取り、テイスティングでもするように、クジャが振るった。
 グラスに映る俺は、まるで紅い海をたゆたう藻屑(もくず)のようだ。


「手札は全て出し終えた。今の状況を説明するなら、そんなところかのう? ビュウ=フェナリス」


 グラスを台の上に戻す。鈍い音が響いた。それでも、俺のいる場所は、変わらずの紅だった。
 

 今まで滅ぼしてきたもの。
 

 それらを絞ってかき集めた、血のように真っ赤な紅(ひとみ)が、俺を捉えて離さなかったのだ。


「さあ。端的かつ明瞭に聞かせてみせよ」


 クジャが酷悪に笑う。
 

「娘(ハル)が惚れた男の、呪というものを」


 この野郎……っ。

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