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誰がための呪
魔王が歩いた後の平野
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「あるいは」
柄頭に施された輪に指を入れて、クジャが剣を旋回させる。
「この言葉を、お前と出会ってから何度用いたかわからぬ。あるいは使えるやもしれぬ。あるいは意味があるやもしれぬ。
あるいは、何か才があるのではないかと」
当たり前のように、パミュとの間合いを潰していくクジャ。
その歩みには、微塵の躊躇も感じさせない。
物を取りに行くような感覚で、娘の命を奪おうとしているんだ、こいつは。
旋回させていた剣の柄を、クジャが握りしめる。
「しかし、見つかるはずもないと今わかった。お前には、何かをつかむための手も、前に進むための足も必要ない。ただの木偶じゃ。
お前が、俎上に置いたときだけ輝くことは知っている。だが、その程度の存在が、あたしの腹から産まれたという事実が我慢ならない」
クジャが剣を持ち上げる。
必死の間合い。
だがそこは――
俺の間合いでもある。
「去ね。この世界から。この十五年、まっこと無意味な付き合いであったな、ハルモニカよ!!」
クジャの剣が振り下ろされる。
その時。
「ハルモニカァァァァァァァァーっ!!」
セイレーンの声。
背中から響いた。
凄まじい勢いで、十文字槍が飛んでくる。
まっすぐクジャを狙っていた。
リズの手。
抜く手も見せないほどの速さで動く。
納刀音が響くと同時に、十文字の槍の穂と柄が分断された。
しかし、それでも。
十分な時間だ、セイレーン。
リズの初太刀を止めた。
これなら、貫ける。
柏手の音。
二つ響いた。
俺とティアラナのもの。
クジャの足元を流れるワインの錐が、クジャを襲う。
しかし――
「あたしは!!」
その必要は、なかった。
バシャン。
クジャの足元を狙っていたワインの錐が、音を立てて沈んだ。
十文字槍の柄と穂先、今になって、床に落ちる。
柄に乗せられたリズの手。先よりほんの少しだけズレていた。
全員が、呪をかけられたかのように、止まっている。あの魔王クジャ=ロキフェラトゥも含めて。
そんな中、パミュは今も、ボロボロと泣いていた。握った拳を、ワナワナと震わせながら。
一転、パミュの顔が、クシャクシャになった。
自分の感情を、絞り出すかのように。
「……あたしは無意味だなんて、思ってない!! お母さんといた十五年も、この時間だって、無意味だなんて、ちっとも全然、思ってない!!
そりゃ――嫌いだよ。ちっとも優しくないし、あたしのこと構ってくれたことなんか一度だってない。お母さんより、みんなの方が優しいんだもん。どこをどう好きになったらいいのか、才能がないあたしには、ちっとも全然わかんない!! だけど……
こんなことしたいなんて、思ったことな、い……。
あたしがしたいのは、あた、しが……お母さんとした、かかか、かった、のは……」
今になってパミュは気づいたのかもしれない。
海千山千の、『七』人の視線に。
ちなみにリズだけは、俺達から視線を外していなかった。
「ふぇえええ……」
いつもの、嵐が来る前の前兆。
反射的に俺は、ドキリとした。
「ふぇーんえんえん。ふぇーんえんえん。ふぇーえんえん」
女の子座りしたパミュが、あられもない泣き声を、緊迫した現場に落とす。
クジャが、目を白黒させながら、そんなパミュを見据えていた。
信じられないと、顔に書いてある。
パミュの口を封じる呪。
それを解いた記憶が、こいつにはなかったのだろう。
当たり前だ。こいつがそんな人らしい感情持ち合わせているはずがない。短い付き合いでも、それだけは断言して言える。
だとすれば、何故パミュの呪は、今この瞬間に、解けたんだ?
パミュの隠れた才能? あるいは奇跡? そんな小便臭いご都合主義を笑ってねじ伏せる。
それがこの女、魔王クジャ=ロキフェラトゥだと思っていたが……。
クジャの剣。今にも手から零れ落ちそうだった。
長手袋に包まれた黒い手が、落ちそうになっていた剣の柄を握りしめる。
剣を下ろし、白刃の腹に、自分の顔を映し出した。
意図も、何を考えているのかも俺には全くわからない。
交鳥歴最強の魔術師の基本(せいてん)だ。呆然自失であろうが、そう簡単に打ち破れたりはしない。
クジャが笑って、剣の腹を額に当てた。
「俗物が……二度ないことぐらい、見事に決めよ……」
そして。
剣を振るう。虚空に向かって。風切り音が――いや、魔術共鳴の、呪が響いた。
瞬間。
パミュの表情が虚ろとなり、天井から釣られたように立ち上がった。そして、糸が切れた人形のように膝を崩すパミュの首根っこを、クジャがつかんで、支える。
「クジャ様……呪を?」
「ん? 魔力横溢(まりょくおういつ)ならかけたよ? それ以外は知らぬな」
「……そうですか。とすると、ゼーレの呪ですかな? クジャ様のかけている呪を封ずるための呪が、まだ微かに残っていて、それが今、発現した。――そんな馬鹿げた話がありましょうか?」
「あたしに聞くな。あるいは、自力で解いたのやもしれぬ」
「それこそバカげています!! 交鳥歴最高にして最強、クジャ様のかけた呪を、こんな――」
「ふふふ。あるいは、双子、セレンがなにかしたのやもしれぬ」
振り返った先。
セイレーンは槍を放った状態で固まっていて、そのセイレーンに双子が絡みついていた。
クジャやリズにとっては猫のちょっかい程度でも、セイレーンにとっては命を賭した一撃だったはず。
セイレーンにかかる精神的負荷は相当大きかったようで、激しく息切れしながら、この場を見つめていた。
その目尻には、涙さえ浮いている。
「あるいは、白亜のがなにか、仕組んだのやもしれぬ」
一同に目を向けられ、ティアラナが目を外方に向けた。
無理だと思う。
しかし、こいつならと思わせるところが、既にさすがだった。
「可能性は数あれど、全てが奇跡よな。ちと滑稽な奇跡ではあったがのう」
パミュをタオに投げ渡し、クジャが玉座の鞘に、剣を叩きつけた。
身を引き締めるような納刀音が、謁見の間に響く。
「ビュウ=フェナリス」
王冠を、指の動き一つで引き寄せる。
つかんだそれを頭にかけた。
その時。
クジャがグラリと態勢を崩す。
身を支えるようにして、頭を押さえた。
食いしばった歯の隙間から、泡を噴いている。
それが顎を伝って、一滴二滴と、床に落ちていった。
死聴。
魔力量が九位以上の魔術師が、殺意を抑えた時に起きる頭痛(げんしょう)。
何故滅ぼすのをやめた。何故滅ぼさないんだとせっつかれるわけだ。死界から。
その痛みは激甚の一言で、位が上がるほど痛みは強力になっていく。
魔眼所持者ともなれば、その痛みは、寿命にまで、影響する。
突然。
投げつけられた刀剣を、俺は拳で殴りつけて旋回させ、握りしめる。
玉座に佩いていた、刀剣だった。
「くれてやる」
「いらん」
「会いたいのだろう? ハルとまた。ここではなく、エルメルリアで」
沈黙で答えた。
すると、クジャは、天に向かって哄笑した。
「リズ。お前は後ろの三人を獄に入れておけ。断っておくが、殺すなよ。残りの雑務はタオに引き継ぐ。二人とも、滞りなくすませよ」
「「御意」」
「あたしは、ハルと共に術式部屋におる。終わったら来い」
パミュの首根っこをつかんだクジャが、空間を擦る音と共に、消えた。
リズは膝のバネのみで跳躍し、天井スレスレを滑空した。
三人の前に降り立つや、神速で双子を打ち倒し、鞘に納まったままの切っ先を、セイレーンに向ける。
セイレーンは、なんだったら向けられる前から、両手を上げて降伏していた。
刀を腰に戻し、二人の首根っこをつかんで、退出するリズ。
今度は、三人の結末を見届けたタオが、階段を下りて近づいてくる。
指を鳴らす。
階段を伝っていたワインが、飛ばされていったボトルが、時を巻き戻されたかのように、逆流していく。
最終的に、階段の上に紅はなく、台の上のビンは割れておらず、全ては夢幻であったかのように、元通りになっていた。
よく見ると、接合部分が魔力結合で凍らされていたりしていたが。
「それでは、ここから先は死延の魔術師たる私が仕切らせていただきます。ビュウ様は、部下と金。
白亜様は、クジャ様の伝書と、金、ということですね。まずこちらで――」
俺はタオの言葉を右から左に聞き流し、投げつけられた刀剣を引き抜いた。見鬼を発動させて、白刃を見据える。
やはりな。呪が込められている。
恐らく、この剣を渡してきた理由は二つ。
一つは、この剣を俺が持っていることで、パミュが俺の元にピンポイントで飛べるというもの。ピンポイントで飛べる呪がかかっているわけではなく、同じ神承呪文継承者の呪が込められているが故に、飛べる、というわけだ。簡単に言えばな。
これはつまり、パミュをエルメルリアで歩かせたいなら、お前が面倒を見ろ。クジャはそう言いたいのだろう。
もう一つは、この剣を持つことで、クジャに俺の位置が筒抜けになる、というもの。これもそういう呪が込められているわけではない。魔力探索という技法の一つで、自分がかけた呪の位置ぐらいは、高位の魔術師なら大体追える。もっとも、数百キロ先まで追える術者は、魔王クジャを置いてそういないだろうが。間違いなくS4魔術師の領域である。
俺はこの剣を手放せない。手放した場所に、パミュが転移してしまうことになるからだ。つまり俺は、ティアラナと同じく、エルメルリアに縛られてしまった。そういうことになる。
まあ、そんなところか。意図は。
音を立てて剣を納刀する。
「って、私の話を聞いとるんすか、あんたらは!!」
タオが吠え立てている。
事実全く聞いてなかった俺は、笑いながら、ティアラナに目を向けた。
何やかんやあったが大団円だ。
最後は、こいつの笑顔で締めたかった。
酒もタバコもしない俺にとって、それが何よりの祝杯だった。
だが――
ティアラナが、瞳をあらぬ方向に向けた。
明らかに俺の視線に気がついているにもかかわらずだ。
え……?
柄頭に施された輪に指を入れて、クジャが剣を旋回させる。
「この言葉を、お前と出会ってから何度用いたかわからぬ。あるいは使えるやもしれぬ。あるいは意味があるやもしれぬ。
あるいは、何か才があるのではないかと」
当たり前のように、パミュとの間合いを潰していくクジャ。
その歩みには、微塵の躊躇も感じさせない。
物を取りに行くような感覚で、娘の命を奪おうとしているんだ、こいつは。
旋回させていた剣の柄を、クジャが握りしめる。
「しかし、見つかるはずもないと今わかった。お前には、何かをつかむための手も、前に進むための足も必要ない。ただの木偶じゃ。
お前が、俎上に置いたときだけ輝くことは知っている。だが、その程度の存在が、あたしの腹から産まれたという事実が我慢ならない」
クジャが剣を持ち上げる。
必死の間合い。
だがそこは――
俺の間合いでもある。
「去ね。この世界から。この十五年、まっこと無意味な付き合いであったな、ハルモニカよ!!」
クジャの剣が振り下ろされる。
その時。
「ハルモニカァァァァァァァァーっ!!」
セイレーンの声。
背中から響いた。
凄まじい勢いで、十文字槍が飛んでくる。
まっすぐクジャを狙っていた。
リズの手。
抜く手も見せないほどの速さで動く。
納刀音が響くと同時に、十文字の槍の穂と柄が分断された。
しかし、それでも。
十分な時間だ、セイレーン。
リズの初太刀を止めた。
これなら、貫ける。
柏手の音。
二つ響いた。
俺とティアラナのもの。
クジャの足元を流れるワインの錐が、クジャを襲う。
しかし――
「あたしは!!」
その必要は、なかった。
バシャン。
クジャの足元を狙っていたワインの錐が、音を立てて沈んだ。
十文字槍の柄と穂先、今になって、床に落ちる。
柄に乗せられたリズの手。先よりほんの少しだけズレていた。
全員が、呪をかけられたかのように、止まっている。あの魔王クジャ=ロキフェラトゥも含めて。
そんな中、パミュは今も、ボロボロと泣いていた。握った拳を、ワナワナと震わせながら。
一転、パミュの顔が、クシャクシャになった。
自分の感情を、絞り出すかのように。
「……あたしは無意味だなんて、思ってない!! お母さんといた十五年も、この時間だって、無意味だなんて、ちっとも全然、思ってない!!
そりゃ――嫌いだよ。ちっとも優しくないし、あたしのこと構ってくれたことなんか一度だってない。お母さんより、みんなの方が優しいんだもん。どこをどう好きになったらいいのか、才能がないあたしには、ちっとも全然わかんない!! だけど……
こんなことしたいなんて、思ったことな、い……。
あたしがしたいのは、あた、しが……お母さんとした、かかか、かった、のは……」
今になってパミュは気づいたのかもしれない。
海千山千の、『七』人の視線に。
ちなみにリズだけは、俺達から視線を外していなかった。
「ふぇえええ……」
いつもの、嵐が来る前の前兆。
反射的に俺は、ドキリとした。
「ふぇーんえんえん。ふぇーんえんえん。ふぇーえんえん」
女の子座りしたパミュが、あられもない泣き声を、緊迫した現場に落とす。
クジャが、目を白黒させながら、そんなパミュを見据えていた。
信じられないと、顔に書いてある。
パミュの口を封じる呪。
それを解いた記憶が、こいつにはなかったのだろう。
当たり前だ。こいつがそんな人らしい感情持ち合わせているはずがない。短い付き合いでも、それだけは断言して言える。
だとすれば、何故パミュの呪は、今この瞬間に、解けたんだ?
パミュの隠れた才能? あるいは奇跡? そんな小便臭いご都合主義を笑ってねじ伏せる。
それがこの女、魔王クジャ=ロキフェラトゥだと思っていたが……。
クジャの剣。今にも手から零れ落ちそうだった。
長手袋に包まれた黒い手が、落ちそうになっていた剣の柄を握りしめる。
剣を下ろし、白刃の腹に、自分の顔を映し出した。
意図も、何を考えているのかも俺には全くわからない。
交鳥歴最強の魔術師の基本(せいてん)だ。呆然自失であろうが、そう簡単に打ち破れたりはしない。
クジャが笑って、剣の腹を額に当てた。
「俗物が……二度ないことぐらい、見事に決めよ……」
そして。
剣を振るう。虚空に向かって。風切り音が――いや、魔術共鳴の、呪が響いた。
瞬間。
パミュの表情が虚ろとなり、天井から釣られたように立ち上がった。そして、糸が切れた人形のように膝を崩すパミュの首根っこを、クジャがつかんで、支える。
「クジャ様……呪を?」
「ん? 魔力横溢(まりょくおういつ)ならかけたよ? それ以外は知らぬな」
「……そうですか。とすると、ゼーレの呪ですかな? クジャ様のかけている呪を封ずるための呪が、まだ微かに残っていて、それが今、発現した。――そんな馬鹿げた話がありましょうか?」
「あたしに聞くな。あるいは、自力で解いたのやもしれぬ」
「それこそバカげています!! 交鳥歴最高にして最強、クジャ様のかけた呪を、こんな――」
「ふふふ。あるいは、双子、セレンがなにかしたのやもしれぬ」
振り返った先。
セイレーンは槍を放った状態で固まっていて、そのセイレーンに双子が絡みついていた。
クジャやリズにとっては猫のちょっかい程度でも、セイレーンにとっては命を賭した一撃だったはず。
セイレーンにかかる精神的負荷は相当大きかったようで、激しく息切れしながら、この場を見つめていた。
その目尻には、涙さえ浮いている。
「あるいは、白亜のがなにか、仕組んだのやもしれぬ」
一同に目を向けられ、ティアラナが目を外方に向けた。
無理だと思う。
しかし、こいつならと思わせるところが、既にさすがだった。
「可能性は数あれど、全てが奇跡よな。ちと滑稽な奇跡ではあったがのう」
パミュをタオに投げ渡し、クジャが玉座の鞘に、剣を叩きつけた。
身を引き締めるような納刀音が、謁見の間に響く。
「ビュウ=フェナリス」
王冠を、指の動き一つで引き寄せる。
つかんだそれを頭にかけた。
その時。
クジャがグラリと態勢を崩す。
身を支えるようにして、頭を押さえた。
食いしばった歯の隙間から、泡を噴いている。
それが顎を伝って、一滴二滴と、床に落ちていった。
死聴。
魔力量が九位以上の魔術師が、殺意を抑えた時に起きる頭痛(げんしょう)。
何故滅ぼすのをやめた。何故滅ぼさないんだとせっつかれるわけだ。死界から。
その痛みは激甚の一言で、位が上がるほど痛みは強力になっていく。
魔眼所持者ともなれば、その痛みは、寿命にまで、影響する。
突然。
投げつけられた刀剣を、俺は拳で殴りつけて旋回させ、握りしめる。
玉座に佩いていた、刀剣だった。
「くれてやる」
「いらん」
「会いたいのだろう? ハルとまた。ここではなく、エルメルリアで」
沈黙で答えた。
すると、クジャは、天に向かって哄笑した。
「リズ。お前は後ろの三人を獄に入れておけ。断っておくが、殺すなよ。残りの雑務はタオに引き継ぐ。二人とも、滞りなくすませよ」
「「御意」」
「あたしは、ハルと共に術式部屋におる。終わったら来い」
パミュの首根っこをつかんだクジャが、空間を擦る音と共に、消えた。
リズは膝のバネのみで跳躍し、天井スレスレを滑空した。
三人の前に降り立つや、神速で双子を打ち倒し、鞘に納まったままの切っ先を、セイレーンに向ける。
セイレーンは、なんだったら向けられる前から、両手を上げて降伏していた。
刀を腰に戻し、二人の首根っこをつかんで、退出するリズ。
今度は、三人の結末を見届けたタオが、階段を下りて近づいてくる。
指を鳴らす。
階段を伝っていたワインが、飛ばされていったボトルが、時を巻き戻されたかのように、逆流していく。
最終的に、階段の上に紅はなく、台の上のビンは割れておらず、全ては夢幻であったかのように、元通りになっていた。
よく見ると、接合部分が魔力結合で凍らされていたりしていたが。
「それでは、ここから先は死延の魔術師たる私が仕切らせていただきます。ビュウ様は、部下と金。
白亜様は、クジャ様の伝書と、金、ということですね。まずこちらで――」
俺はタオの言葉を右から左に聞き流し、投げつけられた刀剣を引き抜いた。見鬼を発動させて、白刃を見据える。
やはりな。呪が込められている。
恐らく、この剣を渡してきた理由は二つ。
一つは、この剣を俺が持っていることで、パミュが俺の元にピンポイントで飛べるというもの。ピンポイントで飛べる呪がかかっているわけではなく、同じ神承呪文継承者の呪が込められているが故に、飛べる、というわけだ。簡単に言えばな。
これはつまり、パミュをエルメルリアで歩かせたいなら、お前が面倒を見ろ。クジャはそう言いたいのだろう。
もう一つは、この剣を持つことで、クジャに俺の位置が筒抜けになる、というもの。これもそういう呪が込められているわけではない。魔力探索という技法の一つで、自分がかけた呪の位置ぐらいは、高位の魔術師なら大体追える。もっとも、数百キロ先まで追える術者は、魔王クジャを置いてそういないだろうが。間違いなくS4魔術師の領域である。
俺はこの剣を手放せない。手放した場所に、パミュが転移してしまうことになるからだ。つまり俺は、ティアラナと同じく、エルメルリアに縛られてしまった。そういうことになる。
まあ、そんなところか。意図は。
音を立てて剣を納刀する。
「って、私の話を聞いとるんすか、あんたらは!!」
タオが吠え立てている。
事実全く聞いてなかった俺は、笑いながら、ティアラナに目を向けた。
何やかんやあったが大団円だ。
最後は、こいつの笑顔で締めたかった。
酒もタバコもしない俺にとって、それが何よりの祝杯だった。
だが――
ティアラナが、瞳をあらぬ方向に向けた。
明らかに俺の視線に気がついているにもかかわらずだ。
え……?
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