八百年生きた俺が十代の女に恋をするのはやはり罪ですか?

松岡夜空

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誰がための呪

ねぇ

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 王都グインシーは、夜の街。この街には日が登らない。空からは、クジャの魔力を焼いて剥がれた黄金の粒子が、間断なく降ってくる。


 俺とティアラナは、肩を並べて、そんな街を歩いていた。


「いやーでも、パミュが無事でよかったよな、ティアラナ」
「うん」
「何やかんやで、大団円に終わってさ」
「うん」
「報酬も手に入れたしな」
「うん」
「パミュもまた、エルメルリアに来れるみたいだしな」
「うん……」
「結果だけ見れば、誰も傷ついてないしな」


 ティアラナは、その問いには何も応えず、スタスタと足を回した。


 俺の頭の中で、モジャモジャした毛鞠みたいな思考が湧いて出た。


「おい」


 俺は、ティアラナの手を強引につかんで、その足を止めた。


「なに怒ってんだよ?」


 核心を尋ねた。
 ティアラナが振り返る。
 やっと目が合った。
 だってのにさ……。
 何だよ、その顔……。
 遠く見るような顔、しやがって。


「ねぇ」


 いや意味がわからないんですが。
 ティアラナが、俺につかまれた手首を見てくるものだから、俺は慌てて手を離した。


 ティアラナがクスクスと笑い、スタスタと一人歩く。



「大団円でよかったね」
「え? うん……」


 俺は空返事して、ガキみたいにティアラナの後についていった。


「報酬も手に入れたし」
「うん」
「パミュちゃんもまた、エルメルリアに来れるし」
「うん」
「あたしも、優秀な助手を失わないで、すんだしね」
「あ……」


 ティアラナが振り返る。
 目が合ってから、プイと、目を背けてきた。


 あ~~~もうそういうことかよ、くそ!!


 俺小走りで駆けてから、ティアラナの前に出て行く手を塞ぎ、パンと掌を合わせる。 
 そして、神様に拝む時よりなお深く、誠実に、頭を下げた。


「わかった、悪かった! お前の先約があったのに、こっちから一方的に切ろうとしたんだ、今回の一件は、百パーセント俺が悪い。だからこうしよう。ペナルティとして、月に銀十枚だった契約を、銅十枚に。俺にあてられるはずだった褒賞金も、全てお前に渡す。これでどうだ」
 

 金に目がないこいつのことだ。これで完璧。そう思った。
 ティアラナが溜息をつく。雲一つない黒天を見上げた。
 黄金の粒子が、雪のようにポツポツと降っている。それは、掌の上に落ちると、やっぱり雪であったかのように、溶けて消えた。


「お金かー」
 

 ティアラナが、ポツリとつぶやく。
 俺の口がワナワナと震えた。


「なっ!! なななななななななななな!! なんだってーーーーーいてててて」
「あれれ~。おかしいぞー? あたしはいつそんな顔を向けられるような発言をしたのかなー。記憶にないなー」
「わりゅきゃった。わりゅきゃったから、ひょひょひゅねるのひゃめろって」
 

 言葉になっていない声で何度か謝ると、ティアラナが指を離した。ティアラナがクスクスと笑う。
 
 やっと笑顔を見せてくれたのは結構なことなんだけど、クジャの前で背中を叩かれた時とは、比べものにならないぐらい痛いぞ、これ。笑顔とは裏腹に、メチャメチャ怒っているっていう可能性も十二分にありうるな、こりは。
 
 ティアラナが数歩進んで足を止めた。表情は見えないが、魔装がどこか沈んでいた。


「あたしはお金より、約束を守ってほしかったの。ルナリエで夜景見ながらのご飯。楽しみにしてたのに」
「そんなこと言ってたらパミュが潰れてたよ。パミュはダチだ。見捨てられるわけねえ」
「そうかもね。ううん。間違いなくそうなってた。あたしにも、それはわかる。だけど、あたしは……」

 
 間が開いた。


「あたしは……何だよ」
「言わない」
「どうして?」
「言葉にしちゃうと、嫌なものがたくさん、見えちゃいそうだから」
 

 風が吹く。
 ティアラナが口元を、髪の毛で覆う。
 暖をとっているのかもしれない。
 こいつは結構寒がりだった。
 でもまあ多分、違うだろう。


「あ、あのー」
 

 探り探り、俺は言った。
 ティアラナが目を向けてくる。
 目尻に涙が浮いているのは、気のせいだと思いたい。
 
 その時。


 頭上。 
 気配。


 ティアラナの前につけ、頭上を見上げた。
 手は、クジャに強引に佩かされた、黒剣の柄にかけている。


「え?」


 素っ頓狂な声が、口からポロンとこぼれ出る。
 俺は覚束ない足取りで、そいつの落下地点まで足を進めると、差し出すように、両手を前に。


 ドスン!!


 結構な重みと共に、金髪メガネ、ロリ巨乳の身体が、俺の手の中に収まった。どこからどう見ても、パミュの変装である。変装の一環か、珍しくロングスカートをはいていて、押さえるようにして、足を抱えていた。
 俗に言う、お姫様抱っこされながら、変装したパミュが、俺のことを見上げてくる。
 パミュの顔は赤かった。多分俺の顔も赤かったろうと思う。
 俺は目を逸らしながら、パミュを地上に下ろした。


「ナイスキャッチ!!」


 照れくさそうに敬礼し、パミュが言った。


「ナイスキャッチじゃねえっての。お前な――」
「おおー!!」


 そこかしこで、民衆が手を鳴らしていた。空間からではなく、どっかの家から落ちてきた、あるいは逃げてきたと思っているのだろう。誰もがサザーランドの姫を見る態度ではなかった。
 パミュは、どーもどーもと拍手をしてくれた人に感謝している。


「ったく、こいつはいつもいつも。な――ティアラナ!?」


 振り返って、びっくらこいた。
 ティアラナが、頭を押さえて俯いている。
 
 
 死聴?


 クジャが聞いていたのと同じもの。
 だが……どうして、今。
 ティアラナに、死聴を聴く理由なんて、ないはずなのに……。


 呆然とティアラナを見つめる俺。


 その後ろに、人だかりと、そして。
 心配そうにティアラナを見つめる、パミュがいた。
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