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最終章 誰よりも大きなおかえりなさいを貴女へ
正論なんて、言われなくてもわかってる
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チャリチャリーン。
テーブルの上に金が置かれる。
誰かと思えば、今度はこいつか。
腰を折り曲げることによって作られた胸の谷間。
マリオンは汚らしいものでも見たように目を背け、俺は、目のやり場に困って、視線を上向けた。
頭で獣耳が動いている。白い肌に紅い髪。
女がかけていたサングラスを外す。すると、魔力量三位の黄金の瞳が、笑いかけてきた。
日々酒浸りの手習い所主人。ペレ=ルーヴェンス。手にはまるで鞄のように、紐で縛られた酒ダルを持っていた。
「いやっほー」
白い手を振ってくる。
俺とマリオンはナチュラルに無視していた。
ペレは腰に手を当て、ムッとした顔を俺たちに向けた。
「んもう、つれないわねー。やっほーって言ったら、やっほーって返すのが、礼儀なんじゃないのん? レジ係りは接客の顔でしょう?」
「悪いがどっちもクールを売りにしてるもんでね」
「……ケホケホ」
「あらら。マリオンまだ風邪引いてるのん? 長いわねー。何だかんだで一週間近く引いてない?」
「ケホケホ。ケホケホ」
「病人は休むのが仕事。ましてやマリオンはまだ子供なんだからー。上で眠ってたほうがいいんじゃないのん?
ラーニャはそんなことじゃ怒らないでしょう?」
「……ケホケホ。……別に、これでも慢性酔っぱらいのペレより仕事できるから、やってるだけだし」
気持ちはわかるがそういうこと言ってんじゃないんだよなーペレは。
「コホコホ。コホコホ」
マリオンがまた口を押さえて咳をする。
おかげと言っては何だが、俺とペレが、苦笑しながら顔を見合わせる画を見られることはなかった。
「ふふふ。まあここを逃したらってところはあるわよねん、マリオン。でもねん、気持ちは、言葉にしないと伝わらないものなのよん。逆に、言葉がきつければ、どれだけ態度で示しても、離れていってしまうかも。頭が回らないんだったら、休むのも吉だとあたしは思うけどニャー。
人心追いすぎるべからず。離れたからって、走って近づくと怪我しちゃうかも。どっちとも」
「ペレ。ちょっといいか」
俺は立ち上がって、ペレの肩に手を回し、奥、つまり、脚の低いテーブルがある方へと連れて行く。ここじゃちょっと人が多すぎた。マリオンに目を向けられていることを知りつつ、俺はペレの獣耳に耳打ちした。
八百年魔法使いの俺にしてはかなり大胆なスキンシップだが、こいつを女と思えたことは一度もない。
「ちょっと頼みがあるんだけどよ」
「ふむふむ」
「お前の言う通り、マリオンは今ちょっと頭が回ってない。ってか、ローテンションでいつもの口調のままだから、いつも以上に言葉に刺々しさがある」
「そうみたいねん」
「マリオンが風邪を引いたのは、パミュのためなんだ。それだけでもパミュにやんわりと伝えてやってくれないか? これじゃあまりにもマリオンが不憫すぎるぜ」
ちなみにペレは、パミュがクジャに乗っ取られたところを見ていない。当然あの場にいなかったからだが、理由は寝坊らしい。
薄情と言えばその通りだが、ペレらしいと言えばこれ以上なくペレらしい。
だから、マリオンはあの魔王クジャに立ち向かったんだぞ、という事実を、パミュに伝えてもらうことはできなかった。
「そうねんー」
ペレがマリオンに目を向ける。
マリオンは未だ咳き込んでいた。
「まあ毎月お酒一本ってところかしらねんー」
「えらく高いな」
「じゃあやめとく?」
「お前は心まで獣か?」
「それ差別発現ねん」
呆れ顔でペレが言うが、本当に呆れたいのはこっちの方だ。
「人の心はねぇのかって言ってんだ。可哀想だと思わねぇのかよ?」
「まあ半々ってところかニャー」
「半々?」
「可哀想でもある。自業自得でもある」
「お前本気で言ってんのか?」
「うん」
「……冷たいやつだ。信じられねぇ」
「ビュウくんは、マリオンに人一倍甘いねぇー」
「友達が困ってる。だから助けたいと思う。それが甘いってんなら、俺は誰にだって激甘だ」
「ふふふ。まあ男はそれでいいと思うよ。男は女を守るものだから。ただ、誰も彼も優しくしてると、どこまでも膨らんじゃって、立てなくなっちゃうでしょう? だから、女は女を見守るものなの」
「それっぽいこと言ってるけど、要は酒が飲みたいだけなんだろ?」
「ニャハハー」
ペレが陽気な笑いで、俺の的を射た発言を誤魔化した。
やれやれ。
そりゃお前はいいだろうよ。
悩みの一つもねぇんだからさ。
でもマリオンは違うんだぜ?
十三歳の子供だ。
多感な時期だ。
だってのにこいつは……。
はぁ。
重いため息。
もちろん俺のだ。
「俺がこの街にいる間、毎月酒をお前の家に届ける。それでいいか?」
「ニャハハー。いい申し出ねん」
両手を結びながら、ペレが獣らしい犬歯を見せて笑う
やれやれ。とはいえ、これであの二人の仲が改善されるっていうなら、安いもんだ。
「じゃあ、頼んだぞ」
「でも、それで絶対に解決するとは思わないでねん」
酒樽を振り回しながら、ペレが踵を返した。
「知恵を使えば子供でも物をどかすことは可能だけれど、こういう問題はねん。意外と必要なのは、お酒の力だったりしてねん。ニャハハー」
普通に法律違反だっつうに。ちなみに南尾の酒は十六から。
と思い終わる頃には、ペレはカーテンの中へと入っていた。
やれやれと思いながら、俺はマリオンの隣についた。
「コホコホ」
マリオンが咳をしている。
その顔は仄かに赤い。
やはり風邪はひどいのかもしれない。
ガタン。
マリオンが席を近づけてくるので、俺はそんなマリオンを見下ろした。
マリオンは、手で咳を留めるように、口元を押さえていた。
「……ペレに何を頼んだの?」
テーブルの上に金が置かれる。
誰かと思えば、今度はこいつか。
腰を折り曲げることによって作られた胸の谷間。
マリオンは汚らしいものでも見たように目を背け、俺は、目のやり場に困って、視線を上向けた。
頭で獣耳が動いている。白い肌に紅い髪。
女がかけていたサングラスを外す。すると、魔力量三位の黄金の瞳が、笑いかけてきた。
日々酒浸りの手習い所主人。ペレ=ルーヴェンス。手にはまるで鞄のように、紐で縛られた酒ダルを持っていた。
「いやっほー」
白い手を振ってくる。
俺とマリオンはナチュラルに無視していた。
ペレは腰に手を当て、ムッとした顔を俺たちに向けた。
「んもう、つれないわねー。やっほーって言ったら、やっほーって返すのが、礼儀なんじゃないのん? レジ係りは接客の顔でしょう?」
「悪いがどっちもクールを売りにしてるもんでね」
「……ケホケホ」
「あらら。マリオンまだ風邪引いてるのん? 長いわねー。何だかんだで一週間近く引いてない?」
「ケホケホ。ケホケホ」
「病人は休むのが仕事。ましてやマリオンはまだ子供なんだからー。上で眠ってたほうがいいんじゃないのん?
ラーニャはそんなことじゃ怒らないでしょう?」
「……ケホケホ。……別に、これでも慢性酔っぱらいのペレより仕事できるから、やってるだけだし」
気持ちはわかるがそういうこと言ってんじゃないんだよなーペレは。
「コホコホ。コホコホ」
マリオンがまた口を押さえて咳をする。
おかげと言っては何だが、俺とペレが、苦笑しながら顔を見合わせる画を見られることはなかった。
「ふふふ。まあここを逃したらってところはあるわよねん、マリオン。でもねん、気持ちは、言葉にしないと伝わらないものなのよん。逆に、言葉がきつければ、どれだけ態度で示しても、離れていってしまうかも。頭が回らないんだったら、休むのも吉だとあたしは思うけどニャー。
人心追いすぎるべからず。離れたからって、走って近づくと怪我しちゃうかも。どっちとも」
「ペレ。ちょっといいか」
俺は立ち上がって、ペレの肩に手を回し、奥、つまり、脚の低いテーブルがある方へと連れて行く。ここじゃちょっと人が多すぎた。マリオンに目を向けられていることを知りつつ、俺はペレの獣耳に耳打ちした。
八百年魔法使いの俺にしてはかなり大胆なスキンシップだが、こいつを女と思えたことは一度もない。
「ちょっと頼みがあるんだけどよ」
「ふむふむ」
「お前の言う通り、マリオンは今ちょっと頭が回ってない。ってか、ローテンションでいつもの口調のままだから、いつも以上に言葉に刺々しさがある」
「そうみたいねん」
「マリオンが風邪を引いたのは、パミュのためなんだ。それだけでもパミュにやんわりと伝えてやってくれないか? これじゃあまりにもマリオンが不憫すぎるぜ」
ちなみにペレは、パミュがクジャに乗っ取られたところを見ていない。当然あの場にいなかったからだが、理由は寝坊らしい。
薄情と言えばその通りだが、ペレらしいと言えばこれ以上なくペレらしい。
だから、マリオンはあの魔王クジャに立ち向かったんだぞ、という事実を、パミュに伝えてもらうことはできなかった。
「そうねんー」
ペレがマリオンに目を向ける。
マリオンは未だ咳き込んでいた。
「まあ毎月お酒一本ってところかしらねんー」
「えらく高いな」
「じゃあやめとく?」
「お前は心まで獣か?」
「それ差別発現ねん」
呆れ顔でペレが言うが、本当に呆れたいのはこっちの方だ。
「人の心はねぇのかって言ってんだ。可哀想だと思わねぇのかよ?」
「まあ半々ってところかニャー」
「半々?」
「可哀想でもある。自業自得でもある」
「お前本気で言ってんのか?」
「うん」
「……冷たいやつだ。信じられねぇ」
「ビュウくんは、マリオンに人一倍甘いねぇー」
「友達が困ってる。だから助けたいと思う。それが甘いってんなら、俺は誰にだって激甘だ」
「ふふふ。まあ男はそれでいいと思うよ。男は女を守るものだから。ただ、誰も彼も優しくしてると、どこまでも膨らんじゃって、立てなくなっちゃうでしょう? だから、女は女を見守るものなの」
「それっぽいこと言ってるけど、要は酒が飲みたいだけなんだろ?」
「ニャハハー」
ペレが陽気な笑いで、俺の的を射た発言を誤魔化した。
やれやれ。
そりゃお前はいいだろうよ。
悩みの一つもねぇんだからさ。
でもマリオンは違うんだぜ?
十三歳の子供だ。
多感な時期だ。
だってのにこいつは……。
はぁ。
重いため息。
もちろん俺のだ。
「俺がこの街にいる間、毎月酒をお前の家に届ける。それでいいか?」
「ニャハハー。いい申し出ねん」
両手を結びながら、ペレが獣らしい犬歯を見せて笑う
やれやれ。とはいえ、これであの二人の仲が改善されるっていうなら、安いもんだ。
「じゃあ、頼んだぞ」
「でも、それで絶対に解決するとは思わないでねん」
酒樽を振り回しながら、ペレが踵を返した。
「知恵を使えば子供でも物をどかすことは可能だけれど、こういう問題はねん。意外と必要なのは、お酒の力だったりしてねん。ニャハハー」
普通に法律違反だっつうに。ちなみに南尾の酒は十六から。
と思い終わる頃には、ペレはカーテンの中へと入っていた。
やれやれと思いながら、俺はマリオンの隣についた。
「コホコホ」
マリオンが咳をしている。
その顔は仄かに赤い。
やはり風邪はひどいのかもしれない。
ガタン。
マリオンが席を近づけてくるので、俺はそんなマリオンを見下ろした。
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「……ペレに何を頼んだの?」
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