八百年生きた俺が十代の女に恋をするのはやはり罪ですか?

松岡夜空

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最終章 誰よりも大きなおかえりなさいを貴女へ

斜に構えていないと生きられない

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「あー」


 相談もせず余計なことしてくれちゃってと、言われる可能性が頭によぎった。実際その通りでもあった。ただ相談したら絶対こいつ断るからな。
 しかしここまでやってしまった以上、黙っているという選択肢はない。嘘をついて誤魔化すという選択肢もまたない。


「いや、お前が風邪引いてる理由ぐらいは、ペレに伝えといてもらおうと思ってさ。……迷惑だったか?」
「……それは、別にいいけど、多分……」


 十分ほどして、カーテンが開かれる。
 出てきたペレが、意味深な笑みを俺たちに向けてくる。


 その後に、パミュがカーテンから顔だけを出してきた。
 申し訳なさそうに、マリオンを見下ろしている。
 マリオンは、顔も向けなかった。
 唇が震えている。
 千切れそうになる堰を、必死に押さえている。
 そんな感じだ。


 言え。『大丈夫だった?』とか『無事でよかったね、心配してたんだよ?』の定型句の一言でも言って楽になれ。ここを逃したら、まーた面倒なことになるから。


 俺は万感の想いを込めた肘を、マリオンの二の腕に打った。
 そうしてから、パミュにも目を向ける。


 お前もお前だ。そう思ったからだ。お前もマリオンに言いたいこと、言うべきことがあるはずだと。
 そう目で訴えようと思ったのだが――


 パミュが、寂しそうに、俺を、いや、俺とマリオンの間を見つめている。


 何だこいつ……?
 何を見ている……?


 相手が相手なだけに、俺はパミュから注意を外さないようにしつつ、パミュの視線の先を目で追った。


 やはり、何もない。
 気のせいか……。


 パミュに視線を戻す。
 パミュは『あ』と開けた大口を、ピンクのマニキュア目立つ掌で隠していた。


 そして。


「つ、次の方どうぞーっ!!」


 公私混同はするまいとしているのか、目一杯の笑顔を、列の先頭に向ける。
 釣られて、俺も列の先頭へと目を向けた。
 そこにいたのは、ペレと同じサングラスをかけた、褐色の女。


「誰かと思ったらターニャじゃねぇか。お前いつの間に」
「さいっしょっからおったわ!! うちのスルースキルに感謝せぇよホンマ!!」


 ターニャが吠え立てる。
 パミュはカーテンの中へと消えていた。


 考えてみれば、この観衆だ。お互い言いたいことが言えないのは道理でもあった。もっと早くに気づけよってな話でもあるが。


 マリオンが気持ちを押さえるようにしていたのは、この場では、言いたくても、言えなかったから?
 あるいは、恥ずかしかったから?


 本当のところはわからないが、どっちにしても、当事者の気持ちを全く考えない行為であったのは、確かだろう。 


「あー」


 俺は言い訳の言葉を考えながら、マリオンに目を向ける。


 マリオンは斜め下を向いていた。
 マリオンの、艷やかな唇が動く。


「……動くのが遅いんだよ、クソバカ」


 遅い?


 順当に考えれば『今更謝っても遅い』ということだろう。


 バカな。


 そんなわけない。


 そう言おうと思った。
 そう言うべきでもあったと思う。


 それでも言えなかった。
 先にお節介をして失敗をしたばかりだからだ。


 この問題は多分、俺みたいなデリカシーのない人間では手に負えないと思った。
 もっと色々わかっている奴、例えば、そう。
 現在外で遊んでる、黒髪ロングの、気障なあいつとか……。


「キャー」
「こっちこっち、次こっちにお願いします、ティアラナさん!!」


 相当派手にやっているようで、歓声やら拍手やら、色々中にまで聞こえてくる。
 何だったら、パミュの占いにまで影響出るんじゃねぇのってなレベルだ。
 これじゃ本末転倒だろうによ。


「ケホケホ」


 マリオンがまた咳をしている。
 自分の無力さが、ただ悔しい。


 だけどよ。
 俺だけじゃない。
 お前もお前なんだぜ? 
 ティアラナさんよ。


 お前もペレと同じか? 
 見守るだけで終わるのか?


 最初は何をやってるのかわからない。
 しかし結末を見るといつもハッとする。


 それがお前のやり方なんだろ?


 だったら、今回も―― 


 雲でも落ちてきたか? ってな勢いの水音が、光指す窓の奥から聞こえてきた。
 惨事ではないことを教えるように、男女の軽やかな声音が後に続く。

 対して、レジ付近の空気だけが、鈍色に染まって――


「ど、どうしたの、マリオンちゃん!! らしくないよ?」
「おいどけよ。マリオンちゃん。何を落ち込んでるのか知らないけど、悩みがあるんだったら、俺たちが力になるよ!!」
「おいおい列を乱すのはやめろよ二人共。え? マリオンちゃんが元気ないって? 俺に話してみなよ、マリオンちゃん。俺は君の倍は生きてるんだからさ。多分力になれ――うお!!」


 三人目のヤバイ男を、クジャから渡された、剣の切っ先を向けて黙らせる。無論、鞘に入れたままの状態ではあるが。


「ほらほらほら。列乱すな、ちゃんと並べ。ほら」


 俺は馬でも躾けるように、鞘でペチペチ打ちながら、男どもを一列に並ばせる。男はどこをガードしても叩かれるので『痛い痛い』言いながら、言うことに従った。


 マリオンに目を向ける。


 マリオンはまたコホコホと咳をしていた。


 やれやれ。


 ――対して、レジ付近の空気だけが、鈍色に染まっていた。訂正する気なし。
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