八百年生きた俺が十代の女に恋をするのはやはり罪ですか?

松岡夜空

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最終章 誰よりも大きなおかえりなさいを貴女へ

こんなことを言いたかったわけじゃない

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「あー疲れたー」


 んっとパミュが伸びをする。


 PM六時半。


 予定より三十分延長して、仕事が終わる。
 当然と言っては何だが、全てを捌き切れてはおらず、外でナギその他が事情の説明に追われていた。
 部屋の中に今いるのは、パミュ、マリオン、セイレーン、俺の四人だけとなっていた。


 ストンと、マリオンの隣にパミュが腰を下ろす。


 両手を合わせて、顔を向けた。


「ゴメン!! マリオン!! 何か、あたしのせいで風邪引いちゃったみたいで……」


 今日の晩御飯は奢るから、ぐらいのノリだった。


 正直、気持ちはわかる。


 仮に、パミュが何かをやらかして、マリオンが風邪を引いたなら、もう少し深刻に謝ったかもしれない。
 しかし、パミュはされたほうだ。


 加えて言えば、マリオンは友達だった。
 友達だからこそ、真剣に謝るべき、というのは道理である。
 しかし、友達だからこそ、真剣では早々向き合えない。
 真剣に向き合うということは、文字通り、白刃で斬り合う、ということに似ていた。
 友達ならこれでわかってくれるだろうと、パミュが逃げてしまうのは、非常によくある心理だ。


 ちなみに俺は、それを受けて入れてやるのが、友達ってもんじゃねぇのって、軽い考えを持っている。


 だから……。


「別にいいよ。パミュに迷惑かけられるのなんて、いつものことなんだから」


 こんな発言をするマリオンに対しては、俺ですら軽くイラッときた。
 恐らく、同性、あるいは友達なら、もっとイラッときたはずだ。


 実際パミュは、それに対しての返答はせず、顔を背けて、頬を膨らました。


 そりゃそうだ。
 そりゃそうなるぜ、マリオン。


 仮に五十人が見て、お前の方が正しいと言ったとしても、誰だって、自分の中に正義があるんだ。
 誰もが、自分が一番正しいと思って生きているんだ。
 それを否定された時、人は、それが正しいと言ってくれる人のところに、吸い寄せられていく。


 チリンチリン。


 ギルドフルーレの扉が開く。


「ふぅ」


 吐く息一つで色っぽく感じるのは、俺が惚れているからだろうか?
 扉を背にして一息つくティアラナが、そこにいた。 


「あ、ティアラナさん!!」


 パミュが駆けていく。
 マリオンを放ったらかしにして。 


『謝ったでしょ。だからはい。これで終わり』


 と言わんばかりに。


 パミュが嬉々として、ティアラナに話しかけている。
 こんなことができた。
 こんなことがあったと。
 両手を広げ、全身で楽しさを、嬉しさを表現していた。
 ティアラナは唇に手を当て、クスクスと笑っている。


「ケホケホ」


 パミュとティアラナを見鬼で見つめるマリオン。
 見鬼を使わなきゃ、何を考えているのかはわからない。


 ただ……。


 マリオンが俯く。
 頭を支えていた糸を、切られたような、そんな動き。


 気落ちしてるってことぐらいは、見鬼を使わなくても、さすがにわかる。


 いや、どうにかしてやれよと、自分でも思う。
 しかし、気持ちに結果がついてくるのなら、俺の人生はもっとバラ色だ。
 口で言って、伝えられる自信なんか欠片もない。
 傷口をいたずらに広げる予感しかない。
 本能がそう言ってる。
 本能が言ってる時は、大体正しい。
 本能が、ここは手を出すなって。


「パミュちゃん」


 黒髪ロングの気障なあいつに。


「え? は、はい」
「せっかくだし、マリオンも占ってあげたら?」


 任せておけって、そう言っていた。


「え……」


 マリオンが小さく声を上げる。
 パミュに目を向けられ、咳をしながら目をそらす。


「いいですよ、別に。マリオンそういう子供っぽいのに興味ないんで。何より――」
「風邪引いて、無理してまで残ってくれたのに、本当に興味がないの? マリオン。辛かったら上で休んでていいよって、あたし言ったよね? 体調崩してて聞こえなかった?」


 マリオンがティアラナに目を向ける。
 ティアラナもマリオンを見つめていた。
 紫暗の瞳と、蒼穹の瞳の中に、お互いがいる。
 マリオンがまた咳をする。
 咳をするついでに、目をそらした。


「そういう問題じゃないでしょ。仕事じゃないですか」

「それだけ?」

「はい。前にも言いましたけど、マリオンを子供扱いしないでください。そんなことで仕事を休むほど責任感なくないです」
「子供扱い、かー」


 唇に指先を当て、ティアラナが上向く。その顔は半笑いだった。


 マリオンはそれに露骨にイラッとした顔を見せたが、意図的かたまたまか、咳き込むことで、その怒りを外に流した。


 そして。


「――それに、どうせ占ったところで、適当なこと言うだけですから。こいつは……」


 口を押さえながら、マリオンが言う。


「むーっ!! 適当なことなんて言わないもん!! ちゃんと占って結果言うもん!!」


 さすがのパミュも、これには堪忍袋の緒が切れたようで、眦まなじりを上げて怒っていた。
 ある意味で、いつものパミュに戻った、と言えなくもない。


「その占いが適当だって言ってるんだよ。本当何もわかってないな、あんたは。今回これだけ人が集まった理由も、どうせ何も理解してないんでしょ。ほんとクソバカ」


 マリオンの口調がドンドン厳しいものになっていく。
 朝っぱらの、しおらしいマリオンはどこにもいない。


「何それ!!」


 二人の間で火花が散っていた。
 これはさすがにまずいと思った。


「おい、落ち着けって――」


「思わせぶりなこと言っちゃってさー!! そんなこと言ったら、マリオンだって何もわかってないじゃん!! あたしの――」


 バン!!


 その時、響いた。


 壮烈な音。


 机を叩く音だった。


 椅子が倒れる。


 その音が聞こえないぐらいの大音声だった。


「わかるわけないじゃんか!! あんたのことなんか!!」


 マリオンの、叫ぶかのような、その声は。

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