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おもしろ小話番外編
2、結婚式には白薔薇を(中編:エクトル視点)
「あなた様も招待されていましたの?」
「ええ、はい。エクトル宰相閣下の特別の計らいで」
ローザが笑う。彼女の白い歯がきらりと光に煌めいて見えた。
「まぁ! エクトル様の!」
エレナが頬を染めて喜び、エクトルとローザを交互に見据えた。興奮で目が輝いている。
「あなた様を喜ばせようとなさったようですよ」
ローザがそう告げると、更にエレナは浮かれはしゃいだ。
「まあぁ! エクトル様が! ありがとうございます! 素敵ですわ。思い出作りのために、結婚披露宴でかような演出をなさってくださったのですね? わたくし、とても嬉しゅうございます!」
「いや、そ……」
白薔薇の騎士に扮したローザの腕を引っ張り、エクトルが耳打ちする。
――ローザ王太子殿下! 何故かような真似を!
流石に叱責口調になってしまう。
――ほほほ、エレナ嬢がわたくしと踊りたいと、そう希望していたようですので、お二人の結婚のお祝いにさせていただこうと思いつきましたの。大丈夫、男性パートも踊れますわ!
――せ、せめて事前に打ち合わせをなさって下さい!
――ええ、次はそういたします。
――次! 次って! いや、ちょ……。
「では、お手をどうぞ」
「ええ、喜んで」
ローザが差し出した手にエレナが自分の手を乗せる。再び、きゃあという黄色い声が周囲から上がった。
エクトルはその様子を見て、成る程、先程の貴婦人達が騒いでいたのは、白薔薇の騎士が会場に現れたからだとそう納得する。
おそらく、自分達の結婚を祝福してくれたのだろう。ローザ王太子殿下の粋な計らいだと分かるが……肝が冷えた。
エクトルは額に浮いた汗を拭う。
市井に出没し、悪人退治をして回っているのが王太子殿下だと知られれば、きっと大目玉を喰らう……って、いや、一体誰に?
エクトルはそこで首を傾げてしまう。
オーギュスト陛下はこの事実を知っている。
つい先日も、このままでいいのかと、それとなく進言したところ、好きなようにさせておけと言われてしまった。陛下自身が目こぼししているのなら、白薔薇の騎士の正体が、おおっぴらになっても特に問題はない?
そう考えるも、エクトルはぶるぶると首を横に振った。
いやいや、もしばれたら、市井に出没する白薔薇の騎士の命を狙う輩が出るかも知れない。やっぱり駄目だ。王太子殿下の身の安全の為にも! ここはきっちり秘密にしておかねば! エクトルがそう決意を新たにする中、
「よう、エクトル、可愛い嫁さんをもらえてよかったな!」
気軽に肩を叩いてきた人物はギデオン皇帝で、エクトルの背がぴんっと伸びた。
「こ、これは皇帝陛下! 恐悦至極、もったいないお言葉、ありがとうございます」
確かに招待状を出したが、まさか皇帝本人が来るとは思っておらず、聖堂で彼の姿を目にしたエクトルは、腰を抜かさんばかりに驚いたものだ。
王太子の結婚式というならいざ知らず、たかが臣下の結婚式に、皇帝自身が出席するなど聞いた事がない。たとえ招待されても、ヴィスタニア帝国の臣下が来ればそれで十分であろう。
――どうだ! 結婚の祝いに駆けつけてやったぞ!
聖堂に現れたギデオンを目にして、エクトルは目を白黒させた。
――わ、私の為にわざわざ?
――水くさいな、旧友だろ? オーギュストと一緒になって遊んだ仲じゃないか。
ギデオンにばしばしと背を叩かれてしまう。
――へ、陛下と私とでは格が違いますぞ!
――堅苦しいこと言うな! オーギュストだってそう言うだろうよ。
ギデオンはそう答えて、豪快に笑った。
「ところで、お前の嫁さんと踊っている、あのキザったらしい奴は誰だ?」
ギデオンが指差したのは、白薔薇の騎士に扮したローザだ。エレナと優雅にダンスを踊っている。煌びやかな二人の姿は注目の的だ。何て言えばいいのやら……。エクトルは何ともいえない顔つきになってしまう。
「その……えー、貴婦人達に人気の騎士ですな。毎年この国で行われる剣術大会で優勝しておりますゆえ」
エクトルがそう答えると、ギデオン皇帝の目が、すっと半眼になった。胡散臭げに白薔薇の騎士をじろじろ睨め付ける。
「ふうん? 優勝? もしかして、女か、おい?」
「ええ、まぁ……」
「がはは、この国の兵力も落ちたもんだな。女に負けるとはなっさけない」
「ははは、これは手厳しい」
エクトルは笑うしかない。
「何なら私が一つ、あのキザ野郎をもんでやろうか?」
「め、滅相もない!」
エクトルは目を剥いた。ローザ王太子殿下とギデオン皇帝がやり合う……一体どんなことになるのか分からない。絶対止めた方がいい。そう思って止めたのに、
「人気の騎士との剣試合なら、ここの女達が喜ぶんじゃないか? 良い余興になる。おい、お前ら、試合用の剣を持ってこい!」
ギデオンはどこ吹く風で、近くにいた衛兵にそう要求し、あれよあれよという間に場を整えてしまった。ダンスフロアが一転、試合場に早変わりだ。誰もが興味津々注目している。
「さあ! 遠慮せずかかってこい!」
試合用の剣を手にギデオンがそう言った。
剣を手にしたギデオンは流石の迫力だ。体が並外れて大きいというだけではない、百戦錬磨の手練れである。鍛え抜かれた筋肉に覆われた体は鋼のようで、闘気を身にまとい、剣を手にした姿は、ただそれだけで他を圧倒する。
が、ローザが動じることはない。
あら、面白そうですわね、そう思ってしまう。
何せ、あの死神のような父親に散々鍛え上げられたのだ。こうして闘気を身にまとったギデオンを前にしてもどこ吹く風だ。戦神と手合わせなど、そうそう出来るものではないだろう。ローザもまた、ふっと不敵に笑う。
了承の印にと、ローザが剣を構えれば、やはり周囲から黄色い声が上がった。
「白薔薇の騎士様!」
「がんばってくださいまし!」
声援が飛び、場の空気が張り詰める。
「ええ、はい。エクトル宰相閣下の特別の計らいで」
ローザが笑う。彼女の白い歯がきらりと光に煌めいて見えた。
「まぁ! エクトル様の!」
エレナが頬を染めて喜び、エクトルとローザを交互に見据えた。興奮で目が輝いている。
「あなた様を喜ばせようとなさったようですよ」
ローザがそう告げると、更にエレナは浮かれはしゃいだ。
「まあぁ! エクトル様が! ありがとうございます! 素敵ですわ。思い出作りのために、結婚披露宴でかような演出をなさってくださったのですね? わたくし、とても嬉しゅうございます!」
「いや、そ……」
白薔薇の騎士に扮したローザの腕を引っ張り、エクトルが耳打ちする。
――ローザ王太子殿下! 何故かような真似を!
流石に叱責口調になってしまう。
――ほほほ、エレナ嬢がわたくしと踊りたいと、そう希望していたようですので、お二人の結婚のお祝いにさせていただこうと思いつきましたの。大丈夫、男性パートも踊れますわ!
――せ、せめて事前に打ち合わせをなさって下さい!
――ええ、次はそういたします。
――次! 次って! いや、ちょ……。
「では、お手をどうぞ」
「ええ、喜んで」
ローザが差し出した手にエレナが自分の手を乗せる。再び、きゃあという黄色い声が周囲から上がった。
エクトルはその様子を見て、成る程、先程の貴婦人達が騒いでいたのは、白薔薇の騎士が会場に現れたからだとそう納得する。
おそらく、自分達の結婚を祝福してくれたのだろう。ローザ王太子殿下の粋な計らいだと分かるが……肝が冷えた。
エクトルは額に浮いた汗を拭う。
市井に出没し、悪人退治をして回っているのが王太子殿下だと知られれば、きっと大目玉を喰らう……って、いや、一体誰に?
エクトルはそこで首を傾げてしまう。
オーギュスト陛下はこの事実を知っている。
つい先日も、このままでいいのかと、それとなく進言したところ、好きなようにさせておけと言われてしまった。陛下自身が目こぼししているのなら、白薔薇の騎士の正体が、おおっぴらになっても特に問題はない?
そう考えるも、エクトルはぶるぶると首を横に振った。
いやいや、もしばれたら、市井に出没する白薔薇の騎士の命を狙う輩が出るかも知れない。やっぱり駄目だ。王太子殿下の身の安全の為にも! ここはきっちり秘密にしておかねば! エクトルがそう決意を新たにする中、
「よう、エクトル、可愛い嫁さんをもらえてよかったな!」
気軽に肩を叩いてきた人物はギデオン皇帝で、エクトルの背がぴんっと伸びた。
「こ、これは皇帝陛下! 恐悦至極、もったいないお言葉、ありがとうございます」
確かに招待状を出したが、まさか皇帝本人が来るとは思っておらず、聖堂で彼の姿を目にしたエクトルは、腰を抜かさんばかりに驚いたものだ。
王太子の結婚式というならいざ知らず、たかが臣下の結婚式に、皇帝自身が出席するなど聞いた事がない。たとえ招待されても、ヴィスタニア帝国の臣下が来ればそれで十分であろう。
――どうだ! 結婚の祝いに駆けつけてやったぞ!
聖堂に現れたギデオンを目にして、エクトルは目を白黒させた。
――わ、私の為にわざわざ?
――水くさいな、旧友だろ? オーギュストと一緒になって遊んだ仲じゃないか。
ギデオンにばしばしと背を叩かれてしまう。
――へ、陛下と私とでは格が違いますぞ!
――堅苦しいこと言うな! オーギュストだってそう言うだろうよ。
ギデオンはそう答えて、豪快に笑った。
「ところで、お前の嫁さんと踊っている、あのキザったらしい奴は誰だ?」
ギデオンが指差したのは、白薔薇の騎士に扮したローザだ。エレナと優雅にダンスを踊っている。煌びやかな二人の姿は注目の的だ。何て言えばいいのやら……。エクトルは何ともいえない顔つきになってしまう。
「その……えー、貴婦人達に人気の騎士ですな。毎年この国で行われる剣術大会で優勝しておりますゆえ」
エクトルがそう答えると、ギデオン皇帝の目が、すっと半眼になった。胡散臭げに白薔薇の騎士をじろじろ睨め付ける。
「ふうん? 優勝? もしかして、女か、おい?」
「ええ、まぁ……」
「がはは、この国の兵力も落ちたもんだな。女に負けるとはなっさけない」
「ははは、これは手厳しい」
エクトルは笑うしかない。
「何なら私が一つ、あのキザ野郎をもんでやろうか?」
「め、滅相もない!」
エクトルは目を剥いた。ローザ王太子殿下とギデオン皇帝がやり合う……一体どんなことになるのか分からない。絶対止めた方がいい。そう思って止めたのに、
「人気の騎士との剣試合なら、ここの女達が喜ぶんじゃないか? 良い余興になる。おい、お前ら、試合用の剣を持ってこい!」
ギデオンはどこ吹く風で、近くにいた衛兵にそう要求し、あれよあれよという間に場を整えてしまった。ダンスフロアが一転、試合場に早変わりだ。誰もが興味津々注目している。
「さあ! 遠慮せずかかってこい!」
試合用の剣を手にギデオンがそう言った。
剣を手にしたギデオンは流石の迫力だ。体が並外れて大きいというだけではない、百戦錬磨の手練れである。鍛え抜かれた筋肉に覆われた体は鋼のようで、闘気を身にまとい、剣を手にした姿は、ただそれだけで他を圧倒する。
が、ローザが動じることはない。
あら、面白そうですわね、そう思ってしまう。
何せ、あの死神のような父親に散々鍛え上げられたのだ。こうして闘気を身にまとったギデオンを前にしてもどこ吹く風だ。戦神と手合わせなど、そうそう出来るものではないだろう。ローザもまた、ふっと不敵に笑う。
了承の印にと、ローザが剣を構えれば、やはり周囲から黄色い声が上がった。
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