華麗に離縁してみせますわ!

白乃いちじく

文字サイズ
特大
66 / 93
仮面卿外伝【第一章 太陽と月が出会う時】

第二話 最愛の君がただ一つの花

 オーギュストを中庭の薔薇園へと案内したブリュンヒルデは、そこで二人っきりのお茶会を開いた。用意したのは、独特の酸味があるウラド産の紅茶だ。ブリュンヒルデのお気に入りの品である。菓子は帝都でも評判のキリエのマドレーヌを取り寄せていた。そう、オーギュストの為に……

 ブリュンヒルデはそっと微笑む。
 意外な事にオーギュストは甘いものが好きだ。

 なので、ブリュンヒルデは自分でも菓子を焼く。そして、ブリュンヒルデの手作りが並ぶ茶会には、必ずギデオンも参加する。普段は茶会など下らんと言い切っているにもかかわらず、だ。その上、菓子を独り占めしようとして、ブリュンヒルデに叱られることもしばしばだ。

 ふと、ブリュンヒルデの指に輝く婚約指輪に目をとめたオーギュストは、嬉しそうに笑った。ブリュンヒルデの手を取り、よく似合っていると口にする。

「ありがとう」

 褒められてブリュンヒルデが頬を染めれば、オーギュストが小さな箱を差し出した。

「こちらはどうかな?」

 オーギュストのそれは、反応を窺うような眼差しだ。
 ブリュンヒルデが箱を手に取って開けると、中から現れたのは、同じくピンクダイヤをあしらった髪飾りだった。繊細で美しい。一流の細工師の手によるものだろう。
 ブリュンヒルデがうっとりと言う。

「素敵……」
「気に入ったか?」
「ええ、とても」
「それは良かった。細工師に急いで作らせた甲斐があった」

 オーギュストが笑う。ゆったりとした甘く優しい二人だけの時間だったが、そこへ突如、子供の声が割り込んだ。しかもヴィスタニア語ではない、シシリア語である。

「通してください! オーギュスト殿下に話があるんです!」

 ブリュンヒルデは目を丸くした。そう、衛兵に止められ、通してと騒いでいるのは、例の気の強そうなカレン王女だったのだ。礼儀がなっていないとアンバーが文句を言った相手である。

「あら? シシリアの……」
「ああ、第二王女だな。いい、通せ」

 オーギュストが衛兵にそう命令すると、通されたカレン王女は興奮しきった様子で、ずずいっと押し迫った。

「オーギュスト殿下! 正直に答えてください! ブリトニーお姉様のどこが気に入らなかったんですか?」

 カレン王女が口にしたのはやはりシシリア語だが、オーギュストもブリュンヒルデも問題なく理解出来る。どちらも語学は堪能だ。

 いきなりな質問に、ブリュンヒルデはあっけにとられてしまった。
 どういうことかと詳しく話を聞けば、どうやらシシリアの第一王女であるブリトニーは、オーギュストに懸想していたようだ。見合い話も随分前から持ちかけていたらしい。それなのに、ここで二人の婚約を知らされ、寝耳に水だったカレンは不機嫌になったようだ。

 ああ、それでとブリュンヒルデは納得してしまう。それで朝から不機嫌で、挨拶もせず通り過ぎたのだと……
 つまみ出されてもおかしくない状況だったが、オーギュストは特に腹を立てた様子もない。

「そうだね……ああ、君、この子の分のお茶を入れて」
「かしこまりました」

 傍で控えていたアンバーが一礼し、オーギュストの指示に従った。

「さ、座るといい。お菓子はどうかな?」
「え、あ……ありがとうございます」

 オーギュストが差し出した菓子を美味しそうにカレンは頬張り、はっとなる。

「ち、違います! そうじゃなくて!」

 顔が真っ赤だ。お菓子につられ、和やかになりかけたところをカレンが憤慨する。

「聞きたいことがあるんです! どうしてお姉様のお見合い話を蹴ったんですか?」
「君はブリトニー王女殿下が好きなんだね?」

 オーギュストが問うと、カレンの表情がぱっと明るくなる。

「はい! 大好きです! 自慢の姉です! オーギュスト殿下と絶対絶対お似合いです!」
「そうか。でも、残念だけれど、私はヒルデを愛しているんだ。君の期待には応えられない」
「姉の方が綺麗です! 賢いです! 殿下だって姉をもっとよく知れば……」

 オーギュストがふわりと笑う。

「そうか……なら、君は君の姉よりも綺麗で賢い人なら、君の姉とすげ替えていいんだね?」
「え……」

 カレンは目を丸くする。次いでさあっと青ざめた。そんなこと考えたこともなかったのだろう。オーギュストがたたみみかけるように、わたわたするカレンの顔を覗き込んだ。

「君はブリトニー王女殿下を他の誰かと取り替えたい? もっと綺麗で賢くて優しい人に? そんな人が姉になったら、ブリトニー王女殿下はいらないと、そう思うのかな?」

 カレンが泣きそうな顔で首を振る。

「そ、そんなの嫌です! 私は今のお姉様が大好きなんです! 他の誰かと取り替えたりできません! 姉の代わりになる人なんていませんから!」
「そう……私にとってはそれがヒルデなんだ。他の誰かと取り替えるなんて出来ない。わかるかな?」

 カレンがぐっと言葉に詰まり、俯いた。

「私はね、君が姉を愛するようにヒルデを愛している。どうか私から奪わないで欲しい。分かってくれるね?」

 ぽんぽんとあやすように頭を撫でる。
 カレンの手がぎゅっと自分のドレスを掴んだ。

「……オーギュスト殿下はブリュンヒルデ皇女殿下のどこが好きなんですか?」

 ややあってから、カレンがもそもそとそう口にした。

「ああ、それはギデオンにも散々聞かれたな……」

 オーギュストが手にした茶を一口口に含む。

「上げたら切りがないけれど、そうだね……優しくて努力家で、一緒にいて心が安らぐところかな? そうそう、彼女は語学がとても堪能でね、大陸に存在する殆どの言葉を理解出来る」

 ぶっと口にした茶を吹きそうになり、カレンは目をまん丸くする。

「え……大陸中の言葉を、ですか?」

 自分が理解出来るのはシシリア語だけ……そう言いかけて、カレンは止めた。
 オーギュストが微笑んだ。

「そう。どうしてだか分かるかな? いろんな国の人達と仲良くしたいからだと、ヒルデは言うんだ。才能に裏打ちされた努力のたまものだよ。通訳をと考えてもよかったろうに、それだと本当の意味で仲良くはできないからって……凄いだろう?」

 楽しそうにオーギュストが笑う。

「周囲に対する気遣いも好ましい。子供の頃、木に登って降りられない子猫を助けたのはまぁ、悪い事じゃない。ただ、その結果、怪我をすればお付きの者達の責任になる。その場にいた大人達に任せるべきだったね。そのことを話して聞かせたら、今度から気を付けるから、どうか叱らないで上げてって必死になって謝って……可愛かったよ」

 オーギュストがふわりと笑うも、ブリュンヒルデは身を縮めた。
 出会った当初、木に登った子猫を追いかけた時の事だと分かり、ブリュンヒルデは恥ずかしくて仕方がない。忘れて欲しいと思う。

 あの後、木の枝を折って落下した自分を受け止めてくれたのが、オーギュストだ。一緒にいた侍女達は真っ青になっていた。生きた心地もしなかったのだろう。確かに今思えば馬鹿なことをしたと思う。木に登って鳴いている子猫しか見えていなかった。

「へー……そんなことが?」
「ああ、ヒルデはね、何にでも一生懸命なんだ。見ているだけでここが温かくなる」

 オーギュストが、とんとんと自分の胸を叩いた。

「ヒルデの手は温かい。未来を見晴らすその眼差しにも心引かれる。彼女と一生を共にしたいと、私は心底そう思う。けれど、そういった美点を全部あげても、ほら、こうしてヒルデの顔を見ると、そんな思いが全部吹っ飛ぶくらいの威力がある。彼女の良さをどれだけ並べ立てても、彼女の微笑みにはかなわない。傍にいてくれるだけで嬉しい、そう思ってしまうんだ」

 じっとオーギュストに見つめられて、ブリュンヒルデは顔を真っ赤にさせた。愛していると言われなくても、これほど分かってしまう眼差しがあるだろうか。
 オーギュ、あなたの方こそ温かいわ。抱きしめられているような錯覚を覚えるもの。
 心の中でブリュンヒルデがそう告げた。

「……何となくわかります」

 カレンがぼそりと口にする。

「私もお姉様の笑顔が大好きです……別の誰かでは駄目だと思います」

 しょげた様子のカレンに、オーギュストが皿を差し出した。

「お菓子はどう?」
「いただきます」

 すんっとカレンがしゃくり上げる。

「……ごめんなさい」
「いや、分かってくれて嬉しいよ。ブリトニー王女殿下はいい妹を持ったね」
「失礼な真似をしました」
「ここでの話は秘密にしておこうか」

 じっとカレンがオーギュストを見上げた。

「オーギュスト殿下のような兄が欲しかったです」
「それは光栄だね」

 笑った顔はやはり太陽のように温かい。もらったお菓子を手土産に、カレンが姿を消すと、ブリュンヒルデがぽつりと言う。

「オーギュって、人たらしかもしれないわ」
「それは褒め言葉か?」
「ちょっと焼けるかなって……」
「焼き餅? それは嬉しいな」

 伸ばされたオーギュストの手が唇に触れ、ブリュンヒルデはどきりとする。それが口元についたクリームを取ったのだと分かって、頬が熱を持つ。
 やだ、子供みたいだわ……

「ヒルデは私が好きか?」
「ええ、それはもちろん……」

 今更な質問だとブリュンヒルデは思う。嫌なら婚約などしない。

「なら、幼なじみのいいお兄さんはそろそろ卒業したい」
「どうして?」

 目をぱちくりさせると、オーギュストが苦笑する。

「それだ。あんまり無邪気にされるのはな。いつまでもお兄さん扱いされるのは、嬉しい反面、寂しくもある。せっかく婚約したんだ。男として、未来の夫として意識して欲しい。分かるか?」

 未来の夫……
 染み入るようにその言葉を理解すると、何だか気恥ずかしくなる。くいっと顎を持ち上げられ、身を乗り出したオーギュストの唇がブリュンヒルデのそれに触れた。
 ふわりとブリュンヒルデの頬が色づく。

 驚きと羞恥と嬉しさが入り交じってうまく反応できない。見上げれば、自分を見下ろす緑の瞳と目が合った。もう一度触れ合う。確かめるようにさらにもう一度……。腰を引き寄せられ、深く口付けられたのは何度目か。

 官能を引き出すようなそれは、大人への階段を上らせるようだった。ふわふわした気持ちで、ぼんやりと見上げれば、オーギュストが笑った。

「愛している、ヒルデ。誰よりも……」

 ぼうっと夢心地でブリュンヒルデはその囁きを聞いた。わたくしも、そう言いたかったけれど、心が夢の中を彷徨っていたので、言いそびれたと気が付いたのはずっと後だった。


 その夜、ドレッサーの前でブリュンヒルデの金の髪を丁寧に梳りながら、アンバーが言った。

「オーギュスト殿下は情熱的ですよねぇ。冷静沈着な方ですから、もの凄くクールに見えるのに、激しい炎のようですわ。赤い薔薇に例える方もいらっしゃるようですよ?」
「赤い薔薇?」
「赤い薔薇の花言葉は情熱ですもの。あ、熱烈な恋という意味もありますわ」
「熱烈な恋」

 ぼっとブリュンヒルデの顔が火照る。茶会でのオーギュストとの口付けを思い出したのだ。親愛を示す軽いものではなく、あれはどう見ても恋人に捧げるもの……きちんとそういった目で見てくれていたのだと、改めて意識する。
 ブリュンヒルデは、とくとくと脈打つ自身の心臓にそっと手を当てた。嬉しかった。彼を思うだけでこうして胸が熱くなる。

 部屋のドアをノックされ、アンバーが扉を開ければ、現れたのは一通の手紙を携えたシシリアの従者だった。差出人はカレン王女である。手紙には少々たどたどしいヴィスアニア語で「昼間はごめんなさい。ブリュンヒルデ皇女殿下も姉と同じくらいお綺麗です。お幸せに」そう書かれていた。
 ブリュンヒルデは微笑んだ。

「ヴィスタニア語を勉強してくれたのね? 嬉しいわ」

 また遊びにいらっしゃい。そういったメッセージを添え、ブリュンヒルデはカレン王女に美しく咲いた蘭を一輪贈った。美しい淑女になりますようにとの願いを込めて。

感想 1,157

あなたにおすすめの小説

初夜のあとに愛する人がいると言われたので祝福で身体の時間を一日戻しました 表紙

初夜のあとに愛する人がいると言われたので祝福で身体の時間を一日戻しました

夫婦となって初めて迎えた夜、セレンティアは夫リオールから「俺には、愛する人がいる」と告げられる。 彼が初夜を済ませた理由は、三年後に白い結婚として婚姻無効を申し立てられないようにするためだった。 けれどリオールは知らなかった。セレンティアの祝福《一日回帰》が、自分自身の身体にも使えることを。 セレンティアは自分の身体の時間を一日前へ戻し、三年間、侯爵家の妻として務めを果たすことを決める。 夫に愛されるためではない。三年後、白い結婚としてこの家を出ていくために。
恋愛 完結 短編
文字数:12,593
【完結】私の出産日に初恋の人を選んだ夫、あなたを彼女に返品します 表紙

【完結】私の出産日に初恋の人を選んだ夫、あなたを彼女に返品します

「子供っぽい嫉妬はやめろ」私が命懸けで出産した日、夫のヴィンセント侯爵は初恋の人の所へ行ってしまった。理由を説明して欲しいと言うと、子供っぽい嫉妬をやめろと厳しい声で言われてしまう。しかも初恋の相手がいきなりやってきて「侯爵様は昔から私を命懸けで助けてくれるんです」と悪びれもせずに言い放った。妻よりも初恋相手を優先する夫は必要ないので私は夫を初恋相手へ返品した。すると生まれてから一度も人に頭を下げたことのないヴィンセントが、ボロボロになって私に頭を下げてきて⋯⋯。
恋愛 連載中 長編
文字数:94,149
もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ? 表紙

もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
恋愛 完結 長編
文字数:146,033
妹ばかり愛した家族へ。私が王太子妃になった日、皆さんは謝りました。けれど、もう遅いのです 表紙

妹ばかり愛した家族へ。私が王太子妃になった日、皆さんは謝りました。けれど、もう遅いのです

幼い頃から妹の引き立て役として生き、婚約者まで奪われて家を追放された侯爵令嬢エレナ。 傷ついた彼女が助けた青年は、身分を隠した王太子だった。 一年後、王太子妃となったエレナの前に現れたのは、今さら「家族だから」と擦り寄ってくる両親と妹。 けれど彼女は、もう二度と振り返らない。
恋愛 完結 短編
文字数:21,872
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~ 表紙

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。
恋愛 完結 ショートショート
文字数:9,943
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】 表紙

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
恋愛 完結 短編
文字数:23,845
一夜の過ちで懐妊したら、幼なじみの冷酷皇帝に溺愛されました 表紙

一夜の過ちで懐妊したら、幼なじみの冷酷皇帝に溺愛されました

没落貴族の娘・柳月鈴は、宮廷で医官見習いとして働いていた。 ある夜、皇帝即位の宴で酒に酔い、幼なじみだった皇帝・李景珩と再会する。 遠い存在になったはずの彼。 けれど、その夜をきっかけに月鈴の運命は大きく動き出す。 冷酷と恐れられる皇帝が、なぜか彼女だけには甘すぎて――。
恋愛 完結 短編
文字数:15,184
幼馴染しか見えない婚約者と白い結婚したので、夜明け前にさよならしました 表紙

幼馴染しか見えない婚約者と白い結婚したので、夜明け前にさよならしました

公爵令嬢レティシアは、家同士の都合で伯爵アルフレッドに嫁ぐ。 けれど夫は結婚後もずっと幼馴染のシルヴィばかりを優先し、婚礼の夜から夫婦として触れ合おうともしなかった。名ばかりの妻として伯爵家を支え、領地経営まで立て直しても、彼にとってレティシアは“都合のいい伯爵夫人”でしかない。 やがて結婚一周年の夜、アルフレッドが自分を手放す気はない一方で、幼馴染を屋敷に迎え入れようとしている会話を聞いてしまったレティシアは、ついに決意する。 ――もう、この結婚には見切りをつけよう。 夜明け前、彼女は離縁の準備を整え、伯爵邸を出奔。 身を寄せた北の港町で薬舗を手伝いながら、自分の力で生きる穏やかな日々を手に入れていく。そこで出会ったのは、身分ではなく一人の女性として彼女を尊重してくれる青年医師ノアだった。 一方、都合よく尽くしてくれる妻を失ったアルフレッドは、ようやく自分が何を失ったのかを思い知ることになる。 幼馴染ばかりを優先する婚約者との白い結婚に終止符を打ち、傷ついた公爵令嬢が新天地で本当の幸せを掴む、離縁から始まる逆転ラブストーリー。
恋愛 完結 ショートショート
文字数:10,760