最狂公爵閣下のお気に入り

白乃いちじく

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第五章 コウノトリと受胎告知

第百七十話 思い出のわたあめ(ハロウィンネタⅠ)

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「んー、おいしーい」

 生クリームをたっぷり添えた焼きたてのカボチャパイに、シャーロットが舌鼓を打った。サクサクとした生地は香ばしく、カボチャの自然な甘みとほくほく感が絶妙で、上手くいったとシャーロットは上機嫌である。ただし菓子作りが上手くいったのは、セレスティナとアンジェラの連係プレイがあったればこそ、であるが……

「ええ、とっても美味しいわね」

 エプロンを身に着けたセレスティナとアンジェラが同意する。
 場所は料理クラブの教室で、秋の実りを祝う収穫祭が近いので、今回は供物として代表的なカボチャのお菓子を作った、というわけである。
 ちなみに秋の収穫祭は別名「復活祭」とも呼ばれ、この日は死者が蘇る日だとも言われている。なので邪気を払うという意味で、参加者は全員仮装をするのが常だ。もちろんそれは、この王立魔道学園も例外ではない。生徒全員が気合いを入れて仮装をする。

「ね、ティナはどんな仮装をするの?」

 アンジェラがそう聞いた。ふくふくとしたアンジェラの白い顔は相変わらず幸せそうである。大好きなスィーツを口にしているからかもしれない。

「花の妖精なんかどうかしら?」

 セレスティナが控えめに笑う。仮装用の青いドレスは既に仕立てている。そこへセレスティナ自身が開発した魔道具の『花咲かマイク』を使えば、時の早回しのように次々花を咲かせられる。まさしく花の妖精だ。

「いいわね。シャルは?」

 アンジェラが話をふると、シャーロットは得意げに胸を張った。

「うふふ、わたくしは悪しき魔女よ! とんがり帽子にマントを身に着けるわ! 手にする杖はティナにプレゼントして貰った『雪ん子ステッキ』で決まりね!」

 いろんな物を凍らせて困らせてあげるわ! とやる気満々である。

「きっと素敵な魔女になるわね。あら、それは?」

 アンジェラが目をとめたのは、シャーロットが手にしていた卵大のカラクリ蜘蛛だ。

「んふふー、これ? 子供の頃、パパが作ってくれた魔道具よ。懐かしくなって持ってきたの。見てて?」

 シャーロットがカラクリ蜘蛛を空中で振り回すと、蜘蛛が吐きだした糸がくるくると丸まり、ふんわりわたあめになった。セレスティナとアンジェラが目を輝かせる。

「わぁ! 面白いわ!」

 シャーロットが自慢げに言った。

「そうよう。わたくしもお兄様も散々これで遊んだわ。パパはね、子供の遊び道具を作るのがとっても上手かったの。ちまたで流行っている水鉄砲も召喚ガエルも、元々はわたくし達の遊び道具だったのよ。それを後々になってパパが大量生産して売り出したってわけ」

 ああ、それで……
 セレスティナは納得してしまった。
 残念ながらシリウスは、特別子供が好きというわけではない。自分の思考を邪魔する子供は嫌いだし、遠ざける。だからどうして子供の遊び道具を開発したのか、ちょっぴり不思議だったのだ。
 シャルお姉様とイザークお兄様の為だったのね。

 そう、流石のシリウスも自分の子は可愛がる。だから、子供用の魔道具を開発したのだろう。あくまでシャーロットとイザークの為だけに……
 シリウスらしいわ。
 そんなことを思って、セレスティナはくすりと笑った。

「どう? ティナもやってみる?」

 シャーロットの提案にセレスティナはぱっと顔を輝かせた。

「いいの?」
「もちろんよ。皆で遊ぼうと思って持ってきたんだもの。もう一つあるからアンジーもどうぞ?」

 セレスティナとアンジェラの二人がカラクリ蜘蛛を空中で振り回せば、ふんわりピンクとブルーのわたあめが出来た。囓ればふわふわと甘くて顔がほころんでしまう。

「甘くて美味しい。初めて食べたわ」

 セレスティナの言葉にシャーロットもアンジェラも目を丸くする。

「え? わたあめって子供用のお菓子の定番よね? ティナは食べたことないの?」
「あ、その……」

 セレスティナが言い淀むと、シャーロットはピンと来たようだ。

「あー、ティナの伯父様と伯母様はティナを虐げていたものね? 大方、従姉妹のジーナには食べさせても、ティナには買ってあげなかったんでしょう?」
「き、きっと、たまたまよ」

 セレスティナはそう言って誤魔化した。従姉妹のジーナのようには愛されなかったけれど、あまり悪く言いたくない。実の子じゃないのなら、情を持つのは大変だったろうから。
 そうよ。実の子じゃないのなら、愛されなくても仕方なかったんだわ。
 シャーロットがぷっと頬を膨らませる。

「もう、ティナのお人好し」
「シャルお姉様と出会えて、今は幸せよ?」
「ん、もーう! かーわーいーいー!」

 セレスティナは抱きしめられて、すりすり頬ずりだ。
 本当にシャルお姉様は変わらないわ。仕草が嬉しくてくすぐったい。本当に出会えて良かった。そうだわ! 私もシリウスみたいに子供達が喜ぶような遊び道具を作ってみようかしら。王立魔道学園で開かれる仮装パーティーで遊べるような……

 下校時刻となれば、オルモード公爵一家が自動馬車の前に集合だ。セレスティナが一番乗りで自動馬車に乗り込むも、そこは風船で一杯で、セレスティナは驚いた。透明な風船の中には色とりどりのわたあめが詰まっている。これまた子供が喜びそうな光景だ。

「シリウス? これは……」

 後ろを振り返れば、シリウスが照れ臭げにふいっと視線を逸らした。

「その……安売りしていたので大量購入したんだ。好きなだけ食べるといい」
「そうなの? ありがとう。でも、こんなにたくさん、食べきるのが大変ね」

 セレスティナが戸惑うと、シリウスの表情が不安そうに曇った。

「嬉しくなかったか?」
「いいえ? とっても嬉しいわ?」

 セレスティナがふわりと花が綻ぶように笑えば、たちまちシリウスは上機嫌だ。セレスティナをいつものように膝抱っこし、彼女の艶やかな栗色の髪を撫でつつ、鼻歌である。その様子を目にしたシャーロットは半眼だ。

「これってティナの為ね」
「ティナの為?」

 イザークの疑問にシャーロットが頷く。

「絶対そうよ。きっと、ティナがわたあめを食べたことがないって言ったから、菓子店の店主を呼んで買い占めたんだわ」

 シャーロットの言葉にイザークが驚く。

「え? ティナはわたあめを食べたことないのか?」
「ええ、料理クラブでティナがそう言ったの。多分、パパもあれを聞いたのね」

 イザークの婚約者であるジャネットが傍の風船を一つ手に取った。金髪の美しい女性だが、高身長で凜々しく、剣の達人でもある。

「へー……セレスティナはわたあめを食べたことがないのか。なら、何か食べてみるか? ほら、いろんな味があるみたいだ。苺にレモンにバニラ……コーヒー牛乳なんて言うのもある」
「そうね、レモンがいいわ」
「分かった。これだな?」

 ジャネットが黄色いわたあめの入った風船を手渡せば、セレスティナがありがとうと礼を口にする。黄色いわたあめを食べ始めたセレスティナを眺めつつ、イザークがぼそりと言う。

「なぁ、シャル。料理クラブでの会話ってことは……」
「言わぬが花よ。ティナが喜んでいるからそれでよし?」

 イザークとシャーロットがぼそぼそと言い合う。

「どう考えても父上はストーカーだよなぁ。ティナが喜ばなければ犯罪……」
「何か言ったか?」
『なんでもありませぇん!』

 内緒話の筈が、きっちりシリウスに突っ込まれ、シャーロットとイザークの声がハモった。苦手なトマトとセロリが食卓に上るのはご免蒙るといったところか。
 当のセレスティナはと言えば、レモン味の黄色いわたあめに夢中であった。幸せそうに千切ったわたあめをちまちま口へ運んでいる。そこへシリウスがセレスティナの頭にちゅっとキスを落とし、セレスティナの頬がほんのり色づく。もうお馴染みの光景だ。

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