最狂公爵閣下のお気に入り

白乃いちじく

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第五章 コウノトリと受胎告知

第百七十三話 十八才のシリウスにご用心(ハロウィンネタⅣ)

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「やあん、ティナ、可愛いわぁ!」

 花の妖精に扮装したセレスティナを見て、シャーロットが身をよじった。青い花びらをイメージしたドレスに、キラキラと輝く白銀の羽を背に着けている。シリウスの色だと一発で分かるけれど、シャーロットは気にしないことにする。いつもの事だと流した。

「シャルお姉様も綺麗よ?」

 セレスティナがそう言って笑う。
 ここはオルモード公爵邸の一室で、シャーロットの格好はとんがり帽子の魔女の格好だ。足には空中を歩ける『星屑パンプス』で、手には雪と氷を作り出す『雪ん子ステッキ』だ。ドレスの色も口紅もパープルで、不気味な美しさを演出している。

「お兄様とジャネットは海賊の格好なのね」

 シャーロットが傍に立つ二人を見て、ふふっと笑った。剣を身に着け、カボチャ色の海賊服を身に着けたイザークとジャネットの二人は、どちらも凜々しい。

「支度は出来たか? 行くぞ」

 ノックと共に入ってきた青年に、全員が目を丸くした。

「え」
「もしかして……」
「父上?」

 シャーロット達が驚くのも無理はない。ヴァンパイアの格好をしたシリウスは、イザークと同じ十八才の青年になっていたからだ。
 全員の視線がシリウスに集中する。
 普段のシリウスが貫禄ある美男子なら、こちらは美青年という形容がぴったりであろうか、片眼鏡はいつもと同じだが、古めかしい紳士服とマントを羽織ったシリウスは、神秘的なヴァンパイアのイメージそのままだ。特に長い白銀の髪が漆黒の衣装に映えて美しい。

「そうだ、私だ。ティナ?」

 微笑んだシリウスに手を差し出されて、セレスティナの頬が朱に染まる。
 素敵……
 差し出されたシリウスの手におずおずと自分の手を載せれば、ぐっと引き寄せられる。シリウスに綺麗だと囁かれて、心がふわりと舞い上がった。

「うわぁ……なにこれ。パパってば、もの凄く美々しいわ!」

 シャーロットの指摘に、シリウスの眉間に皺が寄る。

「……褒めているのか? それとも貶しているのか?」
「格好良いわよう。けど、今より線が細いのね?」

 身長は同じくらいだが、幾分ほっそりとして見える。

「そうだな? 今の体型になるのは二十才くらいからだ」

 シリウスが頷けばさらりと白銀の髪が揺れる。色は同じ白銀でも、愛娘のシャーロットとは髪質が若干違う。シリウスはストレートで、シャーロットの髪は緩くウェーブしている。
 シャーロットがしげしげとシリウスを見た。

「若返る魔道具を作ったのよね? もしかして子供にもなれる?」
「ああ、それが?」
「やあん。パパが子供だった頃を見てみたいからに決まって……」
「いくぞ」

 希望を遮られてシャーロットはお冠だ。セレスティナを連れたシリウスの背を追いかける。

「もう……パパの子供の頃の写真、一枚もないんだけどぉ?」
「あんなものは見なくていい」

 やけに不機嫌である。

「えー? あ、もしかして不細工だったとか?」
「ああ、そうだ。二目と見られないような顔だった」

 シリウスがしれっと言い切り、シャーロットの目が半眼だ。

「パパが言うと説得力ないわ。美醜の見分けがつかないくせに、何言ってんだか。他に考えられるのは……あ! もの凄く可愛かったとか?」
「……ひらひら虫」
「うそうそ冗談よ、冗談!」

 シャーロットが慌てて取りなした。ひらひら虫はシリウスがくすぐりの刑に使うカラクリ虫だ。成人前のこれを使った仕置きは、イザークもシャーロットも笑い死にさせられるかと思ったものだ。触れられたくないことには触れないのが一番であろう。

 王立魔道学園に着けば、三学年合同の仮装パーティーだ。カボチャを筆頭に可愛らしくデフォルメしたスケルトンや大蜘蛛などで飾り立てられている。
 仮装した生徒達が集うパーティー会場の中で、担任教師のエバ・マシュートを見つけたセレスティナは、さっそく自分が開発した「おばけパイプ」を実演して見せた。

「これを公爵夫人が開発なさったんですか?」

 エバは感心しきりで、ふわふわと虚空に浮かぶ可愛らしいお化けスモーク達に視線は釘付けだ。セレスティナがそっと恥ずかしそうに目を伏せる。

「ええ。皆に楽しんで貰いたくて。魔道花火と同じように使っていただければと」

 サザリアでセレスティナが開発した好きな絵柄を花火に出来る魔道花火「キラキラスパーク」は既に貸し出している。セレスティナの申し出に、教諭のエバは喜んだ。

「ありがとうございます、公爵夫人! きっと盛り上がりますよ!」

 エバの言葉通り「お化けパイプ」は大反響だった。皆がこぞってセレスティナが開発した魔道具を手に、ピカピカ発光するお化けスモークを作り出す。

「ティナ、凄いわ。これ、とっても楽しい!」

 そう言ってはしゃいだのは、ぽっちゃり顔が愛らしいアンジェラである。童話に出てくる赤い頭巾をかぶった女の子の格好だ。お下げにした淡いブロンドを赤いリボンで飾り、手にしている籠には手作りのカボチャクッキーが詰まっている。きっとクラスメイト達に配る予定なのだろう。

「売ったら大もうけできそうね」

 そう言って目を輝かせたのは、王女のエリーゼだ。金髪碧眼の美少女である彼女は、輝くティアラを身に着けたウェディングドレス姿である。ただし、顔色の悪いメイクが施されている。死者の花嫁なのだそう。
 会場はあっという間にピカピカ光るお化け達で一杯になった。誰もが「お化けパイプ」に夢中である。けれど、セレスティナに敵意を抱いているクラスメイトのレイ・グラシアン侯爵令息の目は冷淡だった。眼鏡をくいっとあげ、面白くもなさそうに鼻を鳴らす。

「はっ、あんなの単なる子供だましじゃないか」

 くだらない、そう言ってそっぽを向く。

「そうだよなぁ」
「こんなのを喜ぶのはお子ちゃまだよ」
「そうそう、馬鹿馬鹿しいよな」

 常日頃からグラシアン侯爵令息にひっついている男子生徒達は彼の意見に同調するも、周囲で騒ぐ声までは消せない。「お化けパイプ」に夢中になっている生徒達は、はしゃぎまくっている。発光するお化け達がふわふわと空中に浮かぶ様は、やはり幻想的で可愛らしい。そんな中、意気揚々とシャーロットに手を差し出したのは、虎獣人のジュリオだった。

 一房黒髪が混じったオレンジ色の髪の可愛らしい男の子だ。そう、可愛らしい。ジュリオは十七才であったが、ぱっと見、十四、五才に見える童顔である。

「シャル! 俺と踊ってくれ!」

 元気いっぱいにそう告げたジュリオは仮装をしていなかったが、虎耳と尻尾で十分かもしれない。柔らかそうな虎耳と臀部から伸びた尾っぽがチャーミングである。

「オルモード公爵閣下、よろしいですか?」

 ジュリオが横手のシリウスに確認する。やけに礼儀正しい。この前の失態の挽回をしたいといったところだろうか。シリウスの視線が横手のシャーロットに向く。

「……シャル?」
「あー、そうね。一曲くらいいいわよ? けど、よく父だって分かったわね?」

 シャーロットがちらりとシリウスに視線を走らせる。
 シリウスは今十八才の青年の姿だ。ヴァンパイアの格好が恐ろしく似合っている。なのに、ジュリオは迷うことなく、今のシリウスをオルモード公爵だと言い切った。

「ん? だって匂いが同じ」

 シャーロットの問いにけろりとジュリオが答える。確かに獣人は鼻がいい。犬と同じように匂いで個体を識別出来るのだろう。納得したシャーロットはジュリオの手を取り、揃ってダンスホールに消えた。海賊姿のイザークとジャネットがその後に続く。

「ティナ?」

 差し出されたシリウスの手をセレスティナが喜んで取った。シリウスとダンスを踊れば、ただそれだけでふわふわと夢心地だ。ダンスホールから下りると、セレスティナに気のある男子学生、ルディ・ビエラ男爵令息がそろりと近寄った。夜会服に身を包んだ彼はきちんと髪をなでつけ、お洒落をしていた。頬が若干赤い。

「あのう、オルモード公爵夫人、ぼ、僕とも踊って……」

 下さいと、ルディは最後まで言い切る事が出来なかった。傍にいたシリウスにぎろりと睨み付けられたからだ。殺気すら含んだ青い瞳にルディは震え上がり、失礼しましたーと叫んで消える。賢明だ。シリウスが従者として付いてきていたハロルドに目を向けた。

「ハル? 飲み物を」
「かしこまりました。何をお持ち致しましょう」

 マジックドールである銀色ボディのハロルドの赤い瞳が笑みを形作る。

「私はシャンパンを。ティナは……オレンジ?」
「ええ、お願いするわ」

 セレスティナが答えるとハロルドが一礼し、人混みの中に消えた。
 その後、飲み物を手にテラスに出れば、カボチャをくりぬいて作ったランタンが城のような校舎を彩っている。セレスティナは改めてヴァンパイアの格好をしているシリウスに目を向けた。そこにいるのはセレスティナと同じ年の十八才のシリウスだ。十代の彼はなんだかくすぐったい。

「どうした?」
「ん……こうしてると、シリウスと一緒に学生になったみたいで嬉しいの」
「……学園生活は楽しいか?」
「ええ、とっても。お友達もたくさん出来たわ。ありがとう、シリウス」
「君の笑顔が一番の返礼だな」

 シリウスがくすりと笑い、唇に軽い口付けが落とされる。軽いけれどとっても甘い。それはシリウスのいつもの仕草だったのだけれど、横やりを入れた者がいた。

「結婚したばかりだというのに、もう浮気か?」

 揶揄する言葉でセレスティナがはっとなれば、そこにはレイ・グラシアン令息がいた。眼鏡の奥の瞳は相変わらず冷淡だ。睨み付けられているようにも感じてしまい、セレスティナは身を縮めた。

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