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第二章 麗し殿下のお妃様
第十八話
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「嫌な予感はしたんです」
何となく妹の様子がおかしかったと、クラリス王女殿下は告白した。でも、確たる証拠もなしに告発するような真似も出来ず、今回の事件に至ってしまったとか。
「君は似ていないねぇ。アニエス王女殿下と」
オスカーがそう言うと、クラリス王女殿下は俯き、下がった眼鏡を押し上げた。
「ええ、まぁ……わたくしは交友が苦手で。読書ばかりしているので、陰気だと陰口をたたかれます。双子の筈なのに、美しい妹とは月とすっぽんで……申し訳ありません」
「君の方が綺麗だと思うけど?」
クラリス王女殿下は驚いた顔をした。
「毒々しい花は好きじゃないんだよねぇ、僕。ひっそりと咲く花が好き。ビーのようにね」
オスカーが笑いながら私を引き寄せ、キスをする。クラリス王女殿下はこわばっていた顔をようやく和らげて、
「仲がよろしいんですのね? うらやましいですわ」
そう言って笑った。クラリス王女殿下が退出すると、
「オスカーはいつから気が付いてたの?」
私はそう聞いてみた。調べさせたってことは、彼女の行動が怪しいと思っていたんだよね? とそう問うと、
「ああ、最初から」
オスカーがにっこりと笑う。え? 最初から?
「だってねぇ、結婚している相手に対して、色目を使う女ってどうかと思う」
え? 色目? オスカーが苦笑する。
「ビーはそういうところ鈍いよねぇ。ま、いいんじゃない? 君はそのままで」
なし崩しにベッドへ押し倒されるも、
「いちゃつくのはもうちょっと後にしてもらえるかい?」
声に驚いて身を起こせば、夕闇の魔女がそこにいる。
「何でここにいるの!?」
流石にオスカーが抗議した。私も抗議したい。慌てて衣服を整える。良かった未遂で。
「何でって、約束しただろ? 小説のネタにしてもいいって」
「夜の営みまで見せるつもりはないよ!」
オスカーの怒声に、夕闇の魔女が顔をしかめた。
「だから、ちゃんと止めたじゃないか。あたしだってね、他人の子作りを覗く趣味はもってないよ。追加で聞きたいことがあってね」
「追加で聞きたいこと?」
「そ。アニエス王女殿下、もの凄くいいね、あれ。悪役にぴったりだ。でも、あんた面白くなさ過ぎなんだよ。悪巧みを、あれよあれよという間に暴いちまってさ。そんなんだから嬢ちゃんは、あれがあんたに言い寄ってたってすら気が付かない。のほほーんとしっぱなしだ」
え? 言い寄ってたの?
「ほうら、これだ」
夕闇の魔女が肩をすくめる。
「面白かないよ、あんなの。頭切れすぎだ、あんた。もうちょっと、ほら、ああいった悪女に振り回されるのが、ロマンス小説の定番だろ?」
「で、何が聞きたいわけ?」
不機嫌さを隠さずにオスカーが言う。
「アニエス王女殿下の交友関係。あんた調べさせたろ? それ、全部見せな。そういった人物も絡めて書くと面白いんだよ」
「ほんっと悪趣味だ」
オスカーが差し出した書類を目にして、
「おやまぁ、本当に派手だ。これじゃあ、一体誰の子か分からないんじゃないのか?」
「多分ね。でも、そんなことこっちの知ったこっちゃないよ」
「もしかして、ずっと見てたんですか?」
私が口を挟むと、夕闇の魔女が書類からちらりを視線を上げ、
「そりゃ、そうさ。あんた達を小説にするんだからね」
そう言った。何だか気恥ずかしくなってきた。どこで彼女の目が光っているのか分からず、
「どうせなら、ずっとここにいませんか?」
そう提案してみた。見えるところにいた方がいいと思ったのだが、
「ビー、ちょっとそれは!」
「おや、いいのか! そりゃあ、願ったり叶ったりだ!」
オスカーに止められるも、夕闇の魔女がすぐさま了承し、断れなくなった。
「ビー……あのねぇ……」
「ごめんなさい」
結局オスカーは諦めてくれたらしく、
「いいよ、気にしないで」
そう言って額にキスしてくれた。本当、ごめんなさい。
何となく妹の様子がおかしかったと、クラリス王女殿下は告白した。でも、確たる証拠もなしに告発するような真似も出来ず、今回の事件に至ってしまったとか。
「君は似ていないねぇ。アニエス王女殿下と」
オスカーがそう言うと、クラリス王女殿下は俯き、下がった眼鏡を押し上げた。
「ええ、まぁ……わたくしは交友が苦手で。読書ばかりしているので、陰気だと陰口をたたかれます。双子の筈なのに、美しい妹とは月とすっぽんで……申し訳ありません」
「君の方が綺麗だと思うけど?」
クラリス王女殿下は驚いた顔をした。
「毒々しい花は好きじゃないんだよねぇ、僕。ひっそりと咲く花が好き。ビーのようにね」
オスカーが笑いながら私を引き寄せ、キスをする。クラリス王女殿下はこわばっていた顔をようやく和らげて、
「仲がよろしいんですのね? うらやましいですわ」
そう言って笑った。クラリス王女殿下が退出すると、
「オスカーはいつから気が付いてたの?」
私はそう聞いてみた。調べさせたってことは、彼女の行動が怪しいと思っていたんだよね? とそう問うと、
「ああ、最初から」
オスカーがにっこりと笑う。え? 最初から?
「だってねぇ、結婚している相手に対して、色目を使う女ってどうかと思う」
え? 色目? オスカーが苦笑する。
「ビーはそういうところ鈍いよねぇ。ま、いいんじゃない? 君はそのままで」
なし崩しにベッドへ押し倒されるも、
「いちゃつくのはもうちょっと後にしてもらえるかい?」
声に驚いて身を起こせば、夕闇の魔女がそこにいる。
「何でここにいるの!?」
流石にオスカーが抗議した。私も抗議したい。慌てて衣服を整える。良かった未遂で。
「何でって、約束しただろ? 小説のネタにしてもいいって」
「夜の営みまで見せるつもりはないよ!」
オスカーの怒声に、夕闇の魔女が顔をしかめた。
「だから、ちゃんと止めたじゃないか。あたしだってね、他人の子作りを覗く趣味はもってないよ。追加で聞きたいことがあってね」
「追加で聞きたいこと?」
「そ。アニエス王女殿下、もの凄くいいね、あれ。悪役にぴったりだ。でも、あんた面白くなさ過ぎなんだよ。悪巧みを、あれよあれよという間に暴いちまってさ。そんなんだから嬢ちゃんは、あれがあんたに言い寄ってたってすら気が付かない。のほほーんとしっぱなしだ」
え? 言い寄ってたの?
「ほうら、これだ」
夕闇の魔女が肩をすくめる。
「面白かないよ、あんなの。頭切れすぎだ、あんた。もうちょっと、ほら、ああいった悪女に振り回されるのが、ロマンス小説の定番だろ?」
「で、何が聞きたいわけ?」
不機嫌さを隠さずにオスカーが言う。
「アニエス王女殿下の交友関係。あんた調べさせたろ? それ、全部見せな。そういった人物も絡めて書くと面白いんだよ」
「ほんっと悪趣味だ」
オスカーが差し出した書類を目にして、
「おやまぁ、本当に派手だ。これじゃあ、一体誰の子か分からないんじゃないのか?」
「多分ね。でも、そんなことこっちの知ったこっちゃないよ」
「もしかして、ずっと見てたんですか?」
私が口を挟むと、夕闇の魔女が書類からちらりを視線を上げ、
「そりゃ、そうさ。あんた達を小説にするんだからね」
そう言った。何だか気恥ずかしくなってきた。どこで彼女の目が光っているのか分からず、
「どうせなら、ずっとここにいませんか?」
そう提案してみた。見えるところにいた方がいいと思ったのだが、
「ビー、ちょっとそれは!」
「おや、いいのか! そりゃあ、願ったり叶ったりだ!」
オスカーに止められるも、夕闇の魔女がすぐさま了承し、断れなくなった。
「ビー……あのねぇ……」
「ごめんなさい」
結局オスカーは諦めてくれたらしく、
「いいよ、気にしないで」
そう言って額にキスしてくれた。本当、ごめんなさい。
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