恋した相手は貴方だけ

白乃いちじく

文字の大きさ
7 / 43
本編

第六話 レッツ・グールダンス

しおりを挟む
 クリフの叫びに、村の若者達が顔を見合わせる。

「そりゃあ、まぁ……仕方ないんじゃね?」
「そうそう、だってあいつヴァンパイアだし、あんなもんだろ?」
「魔物なんだからさ、不気味で当たり前?」

 そう言って取り合わない。

「ダンスうまいしな? 俺もあんな風に踊りたい」
「あ、お前もそう思った? 俺も俺も」

 和気藹々と楽しそうだ。レイチェルの結界のおかげで教会内は安全なので、危機感は綺麗に消えているらしい。クリフがぎりぎりと歯を噛みしめれば、セイラが囁いた。

「あの不気味なヴァンパイアは、男にはモテるみたいね?」

 女にはモテないと暗に言えば、クリフは機嫌を直したようだ。

「ん? ああ、そうだな、女には相手にされないけど、男には人気か! ははっ!」

 クリフが小馬鹿にしたように笑う。


◇◇◇


「グールが村に大量に押し寄せてきて……」

 ブラッドが住む邸へ知らせに走ったのは、酒場の女将とその従業員達だった。当初、村人達の対応をした鬼人のイライアスにビクビクである。緑の肌をした巨体はやはり魔物のそれだ。ぱっと見は、ブラッドよりも恐ろしく見えるかもしれない。

「あのう、フォークスさん、こちらは……」
「ああ、俺の使い魔だ。気にしなくていい」

 びくびくする村人にブラッドそう告げれば、一応ほっとしたようだ。
 グール……遺体に悪鬼が取り憑くと、人を食う生ける死者になる。そんなに強いわけでもないが、普通の武器だと切っても突いても死なないからやっかいだ。

「……レイチェルは教会か?」

 ブラッドの問いに酒場の女将が頷いた。
 だろうな。レイチェルの神聖魔法なら、グールを退けられる。安全だ。
 ブラッドが霧に姿を変えて教会へ急げば、綺麗な輝きがすっぽり教会を覆っていた。レイチェルが張った神聖結界である。その輝きに押しのけられたグールが、教会の周囲を未練がましくうろうろ徘徊していた。

「にゃにゃにゃーーーー!」
「はいやぁああああああ!」

 聞き覚えのある声にブラッドがそちらを見れば、ピンク髪の猫獣人ニーナが跳ね回り、大柄な女剣士ジョージアナが手にした大剣で、グールの脳天をかち割っている。
 わざわざ教会から出て来てグール退治か……。中で大人しくしてりゃいいのにな。レイチェルの結界はまずもって破れない。

 ブラッドは体を霧に変えたままグールに突進した。彼は死霊を直接攻撃できる。なので、取り憑いた悪鬼の幽体を直接ぶった切って、地獄へ強制退去出来るというわけだ。グールの遺体を行動不能なまで切り刻む必要がない点が、他の者達と大いに違っていた。

「ひゃははははは! おらおらおら! 邪魔だてめぇら! とっとと地獄へ帰れ!」

 ブラッドは歓喜した。純粋に切り刻むのが楽しいからである。
 グールの顔面に拳から突き出すかぎ爪をぶち込めば、ビクンと悪鬼の震えが武器を通して伝わってくる。どうしたって口角が上がる。ブラッドの拳から突き出す武器はブラッディ・クロー、赤いかぎ爪だ。それが閃き、赤い軌道を描くと、グールの体を支配していた悪鬼は、奇声を上げ霧散する。

 ブラッドの攻撃は直接幽体を破壊するので、死者達にとんでもない苦痛を与える。悪鬼達が痛みに悲鳴を上げ、身をよじるたびに感じるのは、心地よさ、陶酔だ。悪鬼どもを切り裂くたびに、その感触に、上げる奇声にブラッドの体が震え、ダンスを踊る時のように気分が高揚する。
 ひ、ひひひ、ああ、駄目だ。楽しくて仕方がない。

「レッツ、ダンス!」

 ブラッドは赤い催眠派で死者達を支配し、操った。遺体に取り憑いた悪鬼を支配すれば、当然、グールはブラッドの言いなりである。彼と同じダンスを踊りながら、同じグールを攻撃する様はなんとも奇妙だった。完全な同士討ちである。
 グール同士の攻撃なので、これまた悪鬼の力が直に伝わり、負けた方が霧散する。悪鬼の支配から解放された遺体は、ただの死体に逆戻りだ。

「凄いにゃー! 凄いにゃー!」

 興奮したニーナが、周囲でぴょんぴょん跳ね回っている。

「おいおいおい……」

 大剣を振るっていたジョージアナが呆れたように動きを止め、眼前の光景を前に苦笑する。ブラッドとグールと猫娘のゾンビダンスである。滅多に見られない光景だ。

「ジ、エンド!」

 ブラッドが拳を左右に突き出せば、赤い刃――ブラッディー・クローが二体のグールの頭部に深々と突き刺さる。ビクビクンとグールの体が震え、ブラッドが赤いかぎ爪を引き抜けば、どさりとグール化していた遺体がくずおれた。もはやただの死体である。
 残ったのは、腐りかけの遺体遺体遺体の山だ。腐りかけの遺体を踏み越えてブラッドが歩き出せば、猫娘のニーナが目を輝かせた。

「お前、凄いにゃー!」

 そういって抱きつこうとするも、やはり失敗に終わる。さっと避けられ、いい加減にしろと頭をはたかれた。不満げな瞳でニーナはブラッドをじっとりと見るも、彼は素知らぬ顔だ。

「ブラック・ジョークか?」

 グールどもが踊るとは思わなかったと、ジョージアナが苦笑交じりに言う。

「面白かったろ?」

 ブラッドが口角を上げれば、ジョージアナが頷いた。

「そうだな。お前が凄いのは分かった」

 三人で教会の中に入れば、わっと歓声だ。避難していた村の者達がブラッド達を取り囲む。

「凄いよ、フォークス!」
「ああ、グールが踊るなんて、一体どうやったんだ?」
「精神操作だ。お前達にもやったろ?」

 ブラッドがそう答えると、さらに周囲がざわついた。

「へー……ヴァンパイアってほんっとすげー」
「お前が味方で良かったよ」
「ああ、本当に凄い。助かった、ありがとう!」

 口々に村の若者が褒めそやす。

「はっ! どこが凄いんだよ!」

 声を荒げたのはクリフだ。

「あれくらいなんだよ! 俺だって剣が持てればあれくらい……大体襲ってきたグールを操れるなんておかしいぞ! 今回の騒動はフォークスが引き起こしたんじゃないのか? お前達もよく考えろよ! グールを操れるのなら、襲わせることも可能だろ?」
「え?」
「いや、でも……」
「それはちょっと、なぁ?」

 村の者達が困惑気味に顔を見合わせる。

「フォークスだぜ? 人間を襲わない奇特な奴だ」
「そうそう、無害なヴァンパイアだよ」

 クリフが叫ぶ。

「どこが無害だよ! 俺はフォークスのせいでこの有様だって言うのに! そうだよ、俺はフォークスのせいで、肉離れを起こして戦えなかったんだ! きっとわざとだ! 俺を戦えないようにしておいてから村を襲わせて、英雄を気取っただけだ! 今回の襲撃事件は全部そいつの仕業に決まってる! お芝居だよ!」

 クリフが俺に指を突きつけると、エイミーが目を吊り上げ反論した。

「ちょっと、あんた、それ言い過ぎよ!」

 腰に手を当て睨み付ける。

「だいたいフォークスは十一年間、ずっとあたし達の村を守ってくれたじゃないの! フォークスがこの村にやって来た時の魔獣襲撃事件忘れたの? あれだってフォークスがいなかったら、村が全滅してたっておかしくない事件だったじゃない」

 ジョージアナがずいっと進み出た。背が高いので迫力がある。

「そうだな、言いがかりにしか聞こえない」
「クリフそれ、駄目にゃ。ブラッドは良い奴……じゃなくて、えー……今までずっと村を守護してきてくれた奴にゃ? ちゃんと感謝するにゃ?」

 友達だと思っていた三人の女から責められて、クリフはたじたじだ。

「お、お前ら、なんでそんな奴を庇うんだよ? 俺とは友達だろ?」

 エイミーがびーっと舌を出す。

「ばーか、レイチェルを振った時点で、あんたなんんか、べーよ、べー!」
「……まぁ、評価は下がったな」
「あちしはクリフ、嫌いじゃないにゃ? でも、レイチェル好きにゃ? 優しいにゃ? ブラッドはお気に入りにゃ? ダンス上手くて最高にゃ? もう酒飲み友達にゃ? 友達の悪口言う奴、嫌にゃー」

 三人の女達の言いように、クリフが目を剥く。

「なななな、なんだよ、お前ら! そりゃねーだろ? そんな奴のどこがいーんだよ!」

 そこへ、寄り添っていたセイラがクリフを庇った。

「クリフの言うことももっともよ? あなた達、どうかしているわ。もう少し考えなさいよ。グールを操れるなんて恐ろしいじゃない。そもそも彼はヴァンパイアだもの。何かを企んでいてもおかしくないわよ。少しは疑った方が……」
「止めて下さい! なんにも知らないくせに!」

 声を荒げたのは、今まで教会に結界を張っていたレイチェルだった。
 全員の視線が教会の深奥に向く。
 見ると、奥の祭壇からレイチェルが、こちらへ向かって歩いてくるところだった。ひらひらとした白い神聖服を身につけ、手には聖神官から与えられた杖を握っている。神々しいとはこういうことだろうか、歩くごとに白金の長い髪が揺れ、大きな金色の瞳にはうっすらと涙がにじんでいて、今にも泣き出しそうだ。

しおりを挟む
感想 25

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜

高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。 婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。 それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。 何故、そんな事に。 優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。 婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。 リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。 悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。

【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない

くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、 軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。 言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。 ――そして初めて、夫は気づく。 自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。 一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、 「必要とされる存在」として歩き始めていた。 去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。 これは、失ってから愛に気づいた男と、 二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。 ――今さら、遅いのです。

王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る

家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。 しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。 仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。 そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。

夫が運命の番と出会いました

重田いの
恋愛
幼馴染のいいなづけとして育ってきた銀狼族の族長エーリヒと、妻ローゼマリー。 だがエーリヒに運命の番が現れたことにより、二人は離別する。 しかし二年後、修道院に暮らすローゼマリーの元へエーリヒが現れ――!?

愛しの第一王子殿下

みつまめ つぼみ
恋愛
 公爵令嬢アリシアは15歳。三年前に魔王討伐に出かけたゴルテンファル王国の第一王子クラウス一行の帰りを待ちわびていた。  そして帰ってきたクラウス王子は、仲間の訃報を口にし、それと同時に同行していた聖女との婚姻を告げる。  クラウスとの婚約を破棄されたアリシアは、言い寄ってくる第二王子マティアスの手から逃れようと、国外脱出を図るのだった。  そんなアリシアを手助けするフードを目深に被った旅の戦士エドガー。彼とアリシアの逃避行が、今始まる。

【完結】愛したあなたは本当に愛する人と幸せになって下さい

高瀬船
恋愛
伯爵家のティアーリア・クランディアは公爵家嫡男、クライヴ・ディー・アウサンドラと婚約秒読みの段階であった。 だが、ティアーリアはある日クライヴと彼の従者二人が話している所に出くわし、聞いてしまう。 クライヴが本当に婚約したかったのはティアーリアの妹のラティリナであったと。 ショックを受けるティアーリアだったが、愛する彼の為自分は身を引く事を決意した。 【誤字脱字のご報告ありがとうございます!小っ恥ずかしい誤字のご報告ありがとうございます!個別にご返信出来ておらず申し訳ございません( •́ •̀ )】

悪役令嬢だとわかったので身を引こうとしたところ、何故か溺愛されました。

香取鞠里
恋愛
公爵令嬢のマリエッタは、皇太子妃候補として育てられてきた。 皇太子殿下との仲はまずまずだったが、ある日、伝説の女神として現れたサクラに皇太子妃の座を奪われてしまう。 さらには、サクラの陰謀により、マリエッタは反逆罪により国外追放されて、のたれ死んでしまう。 しかし、死んだと思っていたのに、気づけばサクラが現れる二年前の16歳のある日の朝に戻っていた。 それは避けなければと別の行き方を探るが、なぜか殿下に一度目の人生の時以上に溺愛されてしまい……!?

処理中です...