恋した相手は貴方だけ

白乃いちじく

文字の大きさ
36 / 43
本編

第三十五話 君が好き*R15*

しおりを挟む
 レイチェルは緊張していた。今いる場所は自分にあてがわれた自室だが、そわそわと落ち着かない。寝衣を身に着けた格好で、ベッドの端に何度も座り直す。昼間ブラッドが口にした「なら、今夜」という言葉のせいである。

 血をあげるだけ、あげるだけなんだけれど……
 ヴァンパイア・キスが性愛に通じると今では知っているので、はい、どうぞと気軽に言えなくなっている。カサンドラに言わせると、吸血行為は疑似性交と同じらしい。

 ――あなたがまだ純潔ってことは、大事にされている証拠かしら?

 レイチェルが首を傾げると、カサンドラが意味ありげに笑った。

 ――あらぁ? 気が付かない? ヴァンパイア・キスって、強力な媚薬みたいなものなのよ? なし崩しに男女の関係まで持っていくなんて簡単よ。でも、彼は手を出していない。きっとあなたの心が大人になるのを待っているのね。

 あなた、とっても愛されてるわ、そんなカサンドラの囁きが耳に残っている。

「あのう、ブラッドさん」

 レイチェルが声をかけると、本人に「ブラッド」と言い直された。腰をかがめたブラッドに顔を覗き込まれる。困ったような、不満そうな顔だ。

「俺、婚約者だし未来の夫だろ? 敬称はいらないよ。それともずっとこのまんま?」

 あ、そ、そうよね……ニーナにも言われたわ。
 レイチェルは慌てて言い直した。

「ええっと……ブラッド?」
「なに?」

 笑う顔がもの凄く嬉しそうで、再度レイチェルの頬が熱を持つ。隣に腰掛けたブラッドの重みでベッドがぎしりとたわみ、レイチェルは飛び上がりそうになった。ドキドキと心臓の鼓動が煩い。

「私、貴方が好き、です」

 そう告白するも、ブラッドの顔を見られない。心音が鳴り止まず、ぎゅっと握った自分の手に視線を落としたままだ。

「結婚もしたいですし、ずっと一緒にいたいって思います。血も上げたいです。ただ、その……神殿と交わした誓約があって、二年間は結婚出来ません。その間は純潔でないといけない決まりがあって、ですね……ええっと……」
「最後までするのは駄目ってことだな?」

 ブラッドにそう問われて、レイチェルはこくんと頷く。つと、キスをされた指先から快感が走り、噛み付かれたのだと分かった。

「ん……ふ……」
「気持ちいい?」

 ペロリと指先を舐めるブラッドの仕草が妙に艶めかしくて、レイチェルの体がぶるりと震えた。

「その……はい……」

 レイチェルはようようそう答えた。漏れ出るのは熱い吐息だ。

「大丈夫、君が嫌がることはしないよ……貧血にならない程度に血をもらって、あとは……君が気持ちよくなるまで、体を触るくらい、かな……」
「でも、あの、ブラッドは? 男の人ってその……」

 性欲はちゃんと発散させないと辛いと聞いている。大丈夫なのかしら?

「俺、ヴァンパイア」

 そう答えたブラッドにころんと押し倒され、レイチェルの心臓が跳ね上がった。目の前には女性のように柔らかな美貌を持つブラッドの顔があって、赤い瞳にじっと見下ろされている。血のように赤い……でも綺麗。反応を見られているようで、もの凄く恥ずかしい。

「知って、ます」

 レイチェルの戸惑いなど知らぬげに、身をかがめたブラッドに唇を奪われる。はむような動作は優しいのに官能的で、ずるりと入り込んだ熱い舌が、レイチェルのそれを絡め取り、逃がさない。視界をかすめる赤い輝きに翻弄されつつ、鷲掴みにされた胸からも快感が走った。敏感な突起をつままれ、びくりとレイチェルの体が震える。

「ヴァンパイアはね、吸血が一番の快感なんだよ」

 とろりとした快楽の向こうから、ブラッドの声が聞こえる。

「最後まで出来れば、そりゃあその方が良いけれど、ヴァンパイアが吸血によって得られる快感は、性交のそれを上回る。だから性欲を覚えると、どうしても血を飲みたくなるんだ。特に君の血は最高かな。酩酊しそうになるくらい。で……ほら、俺の事好き? 言って? レイチェル……」
 好きよ、好き……
「好き、です……」

 途切れ途切れにそう告白すると、彼が笑んだような気がした。
 こんな風に笑ってくれるだけで、どきどきするくらい……

「そして俺の場合、君の愛情が最高のご馳走なんだ。君から向けられる好意でも酔っ払う。君が好きで好きでたまらないから」

 ブラッドが首筋に顔を埋め、途端、快感が体を駆け抜けた。噛み付かれたのだと悟る。レイチェルの口から漏れたのは、自分でも信じられないほど甘い甘い声だ。


     ◇◇◇


 ブラッドは白い首筋に牙を突き立て、彼女の血を味わった。
 美味い……
 ああ、最高だ……

 五臓六腑に染み渡るって、まさにこういう事を言うんだろうな。とろりとした芳醇な血の香りに恍惚となり、耳をくすぐる甘い声に、どうしたって口角が上がる。同時にレイチェルの体がびくりと震え、達したのが分かった。ああ、ちょっと力を加えすぎたか? 我慢に我慢を重ねているから、ちょい先走り過ぎちまうんだよな。

 彼女の首筋に口づけたまま、彼女の素肌にも触れる。つうっと指先で刺激すれば、びくんとレイチェルの体が反応した。血を貰いながら、ショーツの中に手を入れると、ねっとりとした粘液が指にまとわりついてくる。嬉しいくらいとろとろだ。綻んだ花弁を指でほぐせば、さらに可愛らしい反応をする。まるで寒さに震える小鳥のよう。

 ブラッドが赤い瞳を細めた。
 大丈夫だ、レイチェル、ほら、怖がらなくていい。俺は君を害したりしない。嫌がることもしない。開く扉は少しずつ、な?
 そう優しく胸の内で語りかけながらも、自分の中に渦巻く衝動を意識し、ブラッドの赤い唇が、自分を嘲るように弧を描く。それは、まさに魔性の笑みだ。

 残念ながら、自分には魔物特有の残虐性がある。俺は魔物だからな……どうしたって、こんな風に震える小鳥を慈しむより、いたぶりたい、そんな衝動が消えない。もちろん、そんなものは俺自身が許さないけれど。
 偽りかもな、この俺は……
 ふっとそんな考えがブラッドの脳裏をかすめた。

 レイチェルの甘やかな声に体温に歓喜しつつも、昏い情動が同時に存在する。それに蓋をするけれど消えてはくれない。ああ、そうだ……君の愛を得るために必死に、自分の本性を偽り続ける道化だ。人間らしくふるまって、本当の自分を隠し続ける。それでも君といられるのなら……

 指をぐいっと根元まで押し込めば、レイチェルがぐっと抱きついてきた。
 いいな、これ……全身で好きだと言われているみたいだ。
 たっぷりと蜜を含んだ膣は二本の指を楽々飲み込み、前後に動かせばねっとりと絡みついてくる。淫靡な水音が響いてたまらない。本当にとろっとろだ。

「レイチェル? ほら……俺が好き?」

 ふるりと体が震えて、す、き……と、レイチェルに熱っぽく耳元で囁かれて、こっちもぞくりとなる。最高に気持ちいい。口にするレイチェルの血がまるで麻薬だ。

「俺が好き?」
「好、き……」
「愛してる?」
「愛して、る……」

 途切れ途切れにそう答えてくる。
 指の動きを早めると、ぎゅうっとレイチェルの抱きつく力が強まるから、これまたたまらない。今一度血を貰うと、びくんと体が震えて、再度レイチェルが達したことを知る。
 最後に足の付け根からも血を貰った。もちろんエロティックでそそられるから。恥ずかしがる姿がまたいい。ほんっと、やみつきになりそうだ。


◇◇◇


「俺が好き?」

 ブラッドに耳元でそう囁かれて、レイチェルの体がかぁっと熱くなる。抱きついているので、彼の体温が吐息が直に伝わってくる。筋肉で覆われたブラッドの体は、痩せているのにやはり力強い。背に回された腕も……
 ええ、好きよ、好き……
「好、き……」

 レイチェルがようようそう答えると、潜り込んでいたブラッドの指の動きが速くなる。卑猥な水音が耳朶を打ち、レイチェルの羞恥心にさらに拍車がかかるも、漏れ出る甘い声は止められない。

「愛してる?」
「愛して、る……」

 口づけられた首筋からも快感が走り、快楽の絶頂に押し上げられたレイチェルの体がびくんと跳ねた。大丈夫か? そう問われて、レイチェルはこくんと頷く。
 体が熱い……

 くたりと力の抜けた体で、ぼうっと天井を眺めていると、足の付け根にも口づけられて、レイチェルは悲鳴を上げそうになった。恥ずかしくてたまらない。なのに広げた両足の間には、ブラッドの体があるので、足を閉じることは出来なかった。
 や、駄目……
 口づけられた太ももから走る快感が強烈で、思考が焼き切れそうだった。あっという間に絶頂へと押し上げられ、意識が飛びそうになる。

「レイチェル、愛してる」

 ふと気が付けば、赤い瞳のヴァンパイアが自分を見下ろしていた。
 何度達したか分からない。レイチェルはぼうっとその姿を見返した。精悍だけれど、女性のように柔らかい美貌だ。微かに笑う口元が、やはり妖艶である。
 愛している……その言葉が体の隅々にまで染み渡るよう。

 私も、レイチェルはそう言いたかったけれど、思考が千々に乱れていて、中々言葉になりそうにない。胸が上下に波打っている。
 最後にそっと重ねられただけの口付けは、一番甘かったかもしれない。

しおりを挟む
感想 25

あなたにおすすめの小説

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

大人になったオフェーリア。

ぽんぽこ狸
恋愛
 婚約者のジラルドのそばには王女であるベアトリーチェがおり、彼女は慈愛に満ちた表情で下腹部を撫でている。  生まれてくる子供の為にも婚約解消をとオフェーリアは言われるが、納得がいかない。  けれどもそれどころではないだろう、こうなってしまった以上は、婚約解消はやむなしだ。  それ以上に重要なことは、ジラルドの実家であるレピード公爵家とオフェーリアの実家はたくさんの共同事業を行っていて、今それがおじゃんになれば、オフェーリアには補えないほどの損失を生むことになる。  その点についてすぐに確認すると、そういう所がジラルドに見離される原因になったのだとベアトリーチェは怒鳴りだしてオフェーリアに掴みかかってきた。 その尋常では無い様子に泣き寝入りすることになったオフェーリアだったが、父と母が設定したお見合いで彼女の騎士をしていたヴァレントと出会い、とある復讐の方法を思いついたのだった。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

どなたか私の旦那様、貰って下さいませんか?

秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
私の旦那様は毎夜、私の部屋の前で見知らぬ女性と情事に勤しんでいる、だらしなく恥ずかしい人です。わざとしているのは分かってます。私への嫌がらせです……。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 政略結婚で、離縁出来ないけど離縁したい。 無類の女好きの従兄の侯爵令息フェルナンドと伯爵令嬢のロゼッタは、結婚をした。毎晩の様に違う女性を屋敷に連れ込む彼。政略結婚故、愛妾を作るなとは思わないが、せめて本邸に連れ込むのはやめて欲しい……気分が悪い。 彼は所謂美青年で、若くして騎士団副長であり兎に角モテる。結婚してもそれは変わらず……。 ロゼッタが夜会に出れば見知らぬ女から「今直ぐフェルナンド様と別れて‼︎」とワインをかけられ、ただ立っているだけなのに女性達からは終始凄い形相で睨まれる。 居た堪れなくなり、広間の外へ逃げれば元凶の彼が見知らぬ女とお楽しみ中……。 こんな旦那様、いりません! 誰か、私の旦那様を貰って下さい……。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

不実なあなたに感謝を

黒木メイ
恋愛
王太子妃であるベアトリーチェと踊るのは最初のダンスのみ。落ち人のアンナとは望まれるまま何度も踊るのに。王太子であるマルコが誰に好意を寄せているかははたから見れば一目瞭然だ。けれど、マルコが心から愛しているのはベアトリーチェだけだった。そのことに気づいていながらも受け入れられないベアトリーチェ。そんな時、マルコとアンナがとうとう一線を越えたことを知る。――――不実なあなたを恨んだ回数は数知れず。けれど、今では感謝すらしている。愚かなあなたのおかげで『幸せ』を取り戻すことができたのだから。 ※異世界転移をしている登場人物がいますが主人公ではないためタグを外しています。 ※曖昧設定。 ※一旦完結。 ※性描写は匂わせ程度。 ※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載予定。

処理中です...