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番外編置き場
はじまりのはなし その2【コミカライズ配信記念SS】
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〇ミラの町の収穫祭に出かける前日のレオとセイです。再会うきうきです。
〇関連本編はレンタルだと1-5から1-8あたり
――――――――――――――
「レグルス殿下。シリウスです。よろしいでしょうか」
「ああ、入ってくれ」
コンコンという数回のノックのあと、いつもの冷静な声が聞こえて、顔を上げたレグルスは入室を許可した。
部屋に入ってきたのは、涼やかな表情を浮かべる護衛騎士のシリウス。
さらりとした黒髪が、今日も爽やかな男だ。
「首尾はどうだ?」
レグルスがそう問うと、優秀な騎士はにっこりと笑みを浮かべる。
「現在のところ、つつがなく進んでいます。先遣隊もそろそろ到着した頃でしょう」
「そうか……良かった」
シリウスの返事に、レグルスの頬は自然とゆるむ。
明日はいよいよ、かの町の収穫祭に向けて出発だ。すぐにでも再訪したかったが、思いのほか時間がかかり、あれから2年も経ってしまった。
この日に向けて、前倒しで執務をこなし、いつも以上に気合いを入れて勉強も頑張って来た。
宿屋の主人とも連絡をとり、宿には騎士たちがすでに常駐している状態だ。もしかしたら少しむさ苦しいことになってしまっているかもしれない。
ようやく。ようやくだ。
もう一度行きたいと思っていたあの町に、ようやく行くことが出来る。
「収穫祭はとても盛り上がるみたいですね」
レグルスのわくわくを察したシリウスも、同様に笑顔のままだ。小さな主が前向きになれるきっかけになったあの町。
王都から遠く、小さい町ではあるが、温かな場所だった。
「ヤキトリにヤキニク……とても美味しいんだろうな、きっと。イザルからの報告書にこれでもかとばかりに味の感想がしたためられていたからな」
「本当にイザルは……まあ、平和で何よりですね」
旧知の友人の手紙の内容に思うところがあったのか、シリウスはふうとため息をつく。
ミラの身の安全を守るために派遣されたイザルだったが、思いのほか宿屋での暮らしに慣れ、今では定期報告の中で料理についての感想をずらずらと綴って来るようになっていた。
他に事件がないということは何よりなのだが。
以前はレシピを盗もうとする侵入者はチラホラあったが、元々がミラの案である上に、宿屋の主人のカファルも紙には残さず感覚で料理をするため、侵入者の収穫はゼロだ。
夜通しで見張りをしているイザルに見つかり、兵士に引き渡されて……ということが何度かあったが、今は静かなものだ。
バートリッジ公爵がイザルを派遣する程だ。
きっと遠くない未来、ミラは安全のために王都に招かれることになるだろう。
たかが料理。されど料理。
才のあるものは、金のなる木と同じだ。
すでに有名になり始めた星屑亭の存在を知り、調べ上げて彼女のことを利用しようとする者が出てくることは必須だ。
「……ミラは息災のようだな」
「はい。今のところ大きな問題はないようですね。楽しく過ごしているようです」
「そうか」
レグルスは窓の外を見る。
王都の中央にそびえ立つ城の一室から見やるその方向は、あの町がある方向。
「……楽しみだな」
「はい」
「本当に準備は出来ているのか? 出発は予定通り出来るのか?」
「おそらく。今回は騎士団長も随行いたしますので」
「そう言えば、クラークから要望が出ていたな。宿屋の主人とは旧知の仲だったと」
「はい。是非カファル殿にお会いしたいと言っていました」
収穫祭。ミラのいる町。ヤキトリ。
明日が来るのがこんなに待ち遠しいことが、今まであっただろうか。
「――本当に、予定通りに出発出来るのだろうな」
レグルスは知らない。
心配で何度も念を押して確認しているが、結局途中の休憩地からの出発に手間取って、収穫祭に出遅れてしまうことを。
ようやくたどり着いたミラの屋台では、猛烈な売り上げにより、すでにヤキトリもヤキニクも翌日の分まで売り切れで、とんでもない喪失感を味わうことになることを。
「大丈夫ですよ。殿下」
それは、悠然と微笑むこの側近も預かり知らぬところなのだ。
「随分と人が多いな……間に合うのか」
「…………」
「……っ、おいセイ、『大丈夫』はどうした」
「レオ、走りましょう!」
「え、おい、セイ!!」
小さな町に降り立った腹ペコ兄弟は、その人の多さに驚愕し、当初は余裕の表情を浮かべていたシリウスでさえも目の色を変えて慌てて走り出す。
「ごめんなさい。もうお肉がなくなってしまったので、お店は終わりなんです」
やっとの思いで星屑亭の出店にたどり着き、久しぶりに会った懐かしい少女に告げられたのは、無情にもそんな言葉だった。
――――――――――
【お知らせ】
お読みいただきありがとうございます。
本日8/17からアルファポリスさまからコミカライズ配信が始まります!良かったら覗いてみてくださいねー( *´꒳`*)
毎月第三火曜日配信です。
番外編「はじまりのはなし」に出てくる最初は気だるげなレオも盛り込んでいただいています。
今後ともよろしくお願いします!
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「ああ、入ってくれ」
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部屋に入ってきたのは、涼やかな表情を浮かべる護衛騎士のシリウス。
さらりとした黒髪が、今日も爽やかな男だ。
「首尾はどうだ?」
レグルスがそう問うと、優秀な騎士はにっこりと笑みを浮かべる。
「現在のところ、つつがなく進んでいます。先遣隊もそろそろ到着した頃でしょう」
「そうか……良かった」
シリウスの返事に、レグルスの頬は自然とゆるむ。
明日はいよいよ、かの町の収穫祭に向けて出発だ。すぐにでも再訪したかったが、思いのほか時間がかかり、あれから2年も経ってしまった。
この日に向けて、前倒しで執務をこなし、いつも以上に気合いを入れて勉強も頑張って来た。
宿屋の主人とも連絡をとり、宿には騎士たちがすでに常駐している状態だ。もしかしたら少しむさ苦しいことになってしまっているかもしれない。
ようやく。ようやくだ。
もう一度行きたいと思っていたあの町に、ようやく行くことが出来る。
「収穫祭はとても盛り上がるみたいですね」
レグルスのわくわくを察したシリウスも、同様に笑顔のままだ。小さな主が前向きになれるきっかけになったあの町。
王都から遠く、小さい町ではあるが、温かな場所だった。
「ヤキトリにヤキニク……とても美味しいんだろうな、きっと。イザルからの報告書にこれでもかとばかりに味の感想がしたためられていたからな」
「本当にイザルは……まあ、平和で何よりですね」
旧知の友人の手紙の内容に思うところがあったのか、シリウスはふうとため息をつく。
ミラの身の安全を守るために派遣されたイザルだったが、思いのほか宿屋での暮らしに慣れ、今では定期報告の中で料理についての感想をずらずらと綴って来るようになっていた。
他に事件がないということは何よりなのだが。
以前はレシピを盗もうとする侵入者はチラホラあったが、元々がミラの案である上に、宿屋の主人のカファルも紙には残さず感覚で料理をするため、侵入者の収穫はゼロだ。
夜通しで見張りをしているイザルに見つかり、兵士に引き渡されて……ということが何度かあったが、今は静かなものだ。
バートリッジ公爵がイザルを派遣する程だ。
きっと遠くない未来、ミラは安全のために王都に招かれることになるだろう。
たかが料理。されど料理。
才のあるものは、金のなる木と同じだ。
すでに有名になり始めた星屑亭の存在を知り、調べ上げて彼女のことを利用しようとする者が出てくることは必須だ。
「……ミラは息災のようだな」
「はい。今のところ大きな問題はないようですね。楽しく過ごしているようです」
「そうか」
レグルスは窓の外を見る。
王都の中央にそびえ立つ城の一室から見やるその方向は、あの町がある方向。
「……楽しみだな」
「はい」
「本当に準備は出来ているのか? 出発は予定通り出来るのか?」
「おそらく。今回は騎士団長も随行いたしますので」
「そう言えば、クラークから要望が出ていたな。宿屋の主人とは旧知の仲だったと」
「はい。是非カファル殿にお会いしたいと言っていました」
収穫祭。ミラのいる町。ヤキトリ。
明日が来るのがこんなに待ち遠しいことが、今まであっただろうか。
「――本当に、予定通りに出発出来るのだろうな」
レグルスは知らない。
心配で何度も念を押して確認しているが、結局途中の休憩地からの出発に手間取って、収穫祭に出遅れてしまうことを。
ようやくたどり着いたミラの屋台では、猛烈な売り上げにより、すでにヤキトリもヤキニクも翌日の分まで売り切れで、とんでもない喪失感を味わうことになることを。
「大丈夫ですよ。殿下」
それは、悠然と微笑むこの側近も預かり知らぬところなのだ。
「随分と人が多いな……間に合うのか」
「…………」
「……っ、おいセイ、『大丈夫』はどうした」
「レオ、走りましょう!」
「え、おい、セイ!!」
小さな町に降り立った腹ペコ兄弟は、その人の多さに驚愕し、当初は余裕の表情を浮かべていたシリウスでさえも目の色を変えて慌てて走り出す。
「ごめんなさい。もうお肉がなくなってしまったので、お店は終わりなんです」
やっとの思いで星屑亭の出店にたどり着き、久しぶりに会った懐かしい少女に告げられたのは、無情にもそんな言葉だった。
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