文字の大きさ
大
中
小
20 / 26
どうなる王都編
その3
「さて、第二王女殿下。現在の状況は理解しておられるか?」
色々と混乱したままではある。だがしかし、ザウアーラント辺境伯の質問に答えるべく、一度深呼吸をしたビアンカは、ゆっくり口を開いた。
「姉であり、この国の王位継承権第一位のアデーレが、マルツ侯爵家のご子息との婚約を破棄するという暴挙に出ました。彼女の恋人であるダニエルは陞爵の話が出ているとはいえ、マルツ侯爵家を排斥してまで男爵位を賜ったとしても、王配にはなれないでしょう」
宰相であるマルツ侯爵家との縁があることで、この国の現状を憂う宰相側の派閥をおさえていた節がある。
(でも、それもなくなってしまったわ)
最近の国王は宰相を煙たがっていた。だからこそ姉の愚かな企みに加担したのかもしれない。
代わりに姉の隣に立つダニエルは、今はまだ一介の商人だ。いくら王女からの寵愛めでたいからといえ、爵位を賜ることは出来ても、王配となるには足りない所が多い。
王配とは、女王を補佐し、彼女に何かあった時に代わりに立つことが出来なければならない。
「――仮に強権によって彼を王配の座に据えたとしても、これまでの事を鑑みれば、この国の未来を憂う者は増えるでしょう。そして……」
要は、この国の中枢が弱ってしまう。
諸国にとっては好都合だ。政治的に取り込むにしろ、戦火を起こすにしろ。中央が機能しない国ほど攻めやすいものはない。
民はどうなってしまうのだろう。想像しただけで怖くなってしまう。
ビアンカは眉を寄せ、言葉を濁す。
「なるほど、第二王女殿下は正しく理解されておられる。このままでは、好戦的な諸国に乗っ取られるやもしれぬ」
ザウアーラント辺境伯は、頭をぼりぼりと掻く。南部にいるはずの彼がこうして直々にこの場にいること自体がすでに、異常事態なのではなかろうか。
「戦になるのは困るんだよな~俺たち。国境だから、最前線だし」
隣にいるアルバンは、そう言うとそっとビアンカの前に跪いた。
先ほど繋いだ手がそのままだ。
「ね、ビアンカ」
真剣な赤い瞳がビアンカをじっと見上げてくる。
これまで何度も二人で色々な話をしながら過ごして来たが、こんなアルバンを見るのは初めてだ。
「君さ、この国の王になってくれない?」
あまりに軽く言われたその言葉に、ビアンカは目を丸くする。
自らが王になる。
王位継承権は第二位であるものの、これまで冷遇されていた王女である。そんな考えは毛頭なかった。
アルバンの言葉に、ビアンカは力なく首を横に振った。
無理だ。
「私の声なんて、誰にも届かないわ。まだお父様もご健在で、お姉様たちだっているのに」
ビアンカの周りには誰も味方がいないのだ。
第二王女が王になるということは、姉の継承権が剥奪された上で、国王から譲位されなければならないのだから。
「俺がいるじゃん」
「……え」
「ビアンカのこと、ずっと見てたよ。あの二人はダメだ。この国を救えるのはビアンカしかいないし、俺がずっとビアンカの味方だから」
ニカッと笑うアルバンの笑顔に、ビアンカはたまらない気持ちになる。
「第二王女殿下。あなたが立つと言うのであれば、このザウアーラントが後見に立ちましょう。シェーンハイトの熊男とも私が話をつける。貴殿の優秀さはこれから聞いておりますからな!」
「これって言い方ひどいな、父上」
「頭領と呼べ」
「へいへい。今はその呼び名が気に入ってるんだもんねぇ」
カラカラと笑う海の男に、呆れた声をかける昔馴染みの友人。
寝起きから目まぐるしく起こる出来事に、ビアンカの頭は焼き切れそうだ。
心臓はずっとバクバクと激しく鼓動している。
こわい。
(でも……私に出来ることがあるのならば)
アルバンが教えてくれた外の世界は、民の生命力に満ちていた。その暮らしが壊されてしまうことは嫌だと純粋にそう思う。
「私、この国を変えたい……です。ザウアーラント卿、ご協力お願い出来ますか」
「無論です」
立ち上がったビアンカの瞳には決意が宿る。
ザウアーラント辺境伯に礼をして顔を上げると、いかつい男が優しく微笑んでいた。
「えっちょっビアンカ、俺には!?」
「アルバンも、お願い」
慌てた様子の幼なじみに、ビアンカは思わずくすくすと笑ってしまう。アルバンが味方だと言ってくれたから決意したというのに、おかしなことだ。
ビアンカの笑顔に安堵したアルバンも、ほっとしたように息を吐いた。
「じゃあ、今日から俺がビアンカの婚約者だな!」
「えっ!?」
「えっ?」
「そうなの……?」
「違うの……?」
悲しそうに眉を下げるアルバンの頭上に、見えるはずのない萎れた犬の耳が見えた気がしたビアンカだった。
色々と混乱したままではある。だがしかし、ザウアーラント辺境伯の質問に答えるべく、一度深呼吸をしたビアンカは、ゆっくり口を開いた。
「姉であり、この国の王位継承権第一位のアデーレが、マルツ侯爵家のご子息との婚約を破棄するという暴挙に出ました。彼女の恋人であるダニエルは陞爵の話が出ているとはいえ、マルツ侯爵家を排斥してまで男爵位を賜ったとしても、王配にはなれないでしょう」
宰相であるマルツ侯爵家との縁があることで、この国の現状を憂う宰相側の派閥をおさえていた節がある。
(でも、それもなくなってしまったわ)
最近の国王は宰相を煙たがっていた。だからこそ姉の愚かな企みに加担したのかもしれない。
代わりに姉の隣に立つダニエルは、今はまだ一介の商人だ。いくら王女からの寵愛めでたいからといえ、爵位を賜ることは出来ても、王配となるには足りない所が多い。
王配とは、女王を補佐し、彼女に何かあった時に代わりに立つことが出来なければならない。
「――仮に強権によって彼を王配の座に据えたとしても、これまでの事を鑑みれば、この国の未来を憂う者は増えるでしょう。そして……」
要は、この国の中枢が弱ってしまう。
諸国にとっては好都合だ。政治的に取り込むにしろ、戦火を起こすにしろ。中央が機能しない国ほど攻めやすいものはない。
民はどうなってしまうのだろう。想像しただけで怖くなってしまう。
ビアンカは眉を寄せ、言葉を濁す。
「なるほど、第二王女殿下は正しく理解されておられる。このままでは、好戦的な諸国に乗っ取られるやもしれぬ」
ザウアーラント辺境伯は、頭をぼりぼりと掻く。南部にいるはずの彼がこうして直々にこの場にいること自体がすでに、異常事態なのではなかろうか。
「戦になるのは困るんだよな~俺たち。国境だから、最前線だし」
隣にいるアルバンは、そう言うとそっとビアンカの前に跪いた。
先ほど繋いだ手がそのままだ。
「ね、ビアンカ」
真剣な赤い瞳がビアンカをじっと見上げてくる。
これまで何度も二人で色々な話をしながら過ごして来たが、こんなアルバンを見るのは初めてだ。
「君さ、この国の王になってくれない?」
あまりに軽く言われたその言葉に、ビアンカは目を丸くする。
自らが王になる。
王位継承権は第二位であるものの、これまで冷遇されていた王女である。そんな考えは毛頭なかった。
アルバンの言葉に、ビアンカは力なく首を横に振った。
無理だ。
「私の声なんて、誰にも届かないわ。まだお父様もご健在で、お姉様たちだっているのに」
ビアンカの周りには誰も味方がいないのだ。
第二王女が王になるということは、姉の継承権が剥奪された上で、国王から譲位されなければならないのだから。
「俺がいるじゃん」
「……え」
「ビアンカのこと、ずっと見てたよ。あの二人はダメだ。この国を救えるのはビアンカしかいないし、俺がずっとビアンカの味方だから」
ニカッと笑うアルバンの笑顔に、ビアンカはたまらない気持ちになる。
「第二王女殿下。あなたが立つと言うのであれば、このザウアーラントが後見に立ちましょう。シェーンハイトの熊男とも私が話をつける。貴殿の優秀さはこれから聞いておりますからな!」
「これって言い方ひどいな、父上」
「頭領と呼べ」
「へいへい。今はその呼び名が気に入ってるんだもんねぇ」
カラカラと笑う海の男に、呆れた声をかける昔馴染みの友人。
寝起きから目まぐるしく起こる出来事に、ビアンカの頭は焼き切れそうだ。
心臓はずっとバクバクと激しく鼓動している。
こわい。
(でも……私に出来ることがあるのならば)
アルバンが教えてくれた外の世界は、民の生命力に満ちていた。その暮らしが壊されてしまうことは嫌だと純粋にそう思う。
「私、この国を変えたい……です。ザウアーラント卿、ご協力お願い出来ますか」
「無論です」
立ち上がったビアンカの瞳には決意が宿る。
ザウアーラント辺境伯に礼をして顔を上げると、いかつい男が優しく微笑んでいた。
「えっちょっビアンカ、俺には!?」
「アルバンも、お願い」
慌てた様子の幼なじみに、ビアンカは思わずくすくすと笑ってしまう。アルバンが味方だと言ってくれたから決意したというのに、おかしなことだ。
ビアンカの笑顔に安堵したアルバンも、ほっとしたように息を吐いた。
「じゃあ、今日から俺がビアンカの婚約者だな!」
「えっ!?」
「えっ?」
「そうなの……?」
「違うの……?」
悲しそうに眉を下げるアルバンの頭上に、見えるはずのない萎れた犬の耳が見えた気がしたビアンカだった。
感想 132
あなたにおすすめの小説
『病弱な幼馴染を優先してください』と言った妻が消えた翌日、夫は領地の会計書類が全て白紙になっていることに気づいた
歩人侯爵家に嫁いで五年。ルチアは夫エミルの領地会計・社交・使用人管理を全て一人で担ってきた。だがエミルはいつも幼馴染のアリーチェを優先する。「アリーチェは体が弱いんだ、お前とは違う」——その言葉を百回聞いた日、ルチアは微笑んで離縁届に署名した。「ええ、私は丈夫ですから。どうぞ幼馴染様をお大事に」。翌朝、エミルが目にしたのは——税務報告の締切、領民からの陳情の山、そして紅茶の淹れ方すら知らない自分。三ヶ月後、かつて「地味な妻」と呼ばれたルチアは、辺境伯の財務顧問として辣腕を振るっていた。
もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
婚約破棄されましたが、帝国皇女なので元婚約者は投獄します
けんゆう「お前のような下級貴族の養女など、もう不要だ!」
婚約者として五年間尽くしたフィリップに、冷たく告げられたソフィア。
他の貴族たちからも嘲笑と罵倒を浴び、社交界から追放されかける。
だが、彼らは知らなかった――。
ソフィアは、ただの下級貴族の養女ではない。
そんな彼女の元に届いたのは、隣国からお兄様が、貿易利権を手土産にやってくる知らせ。
「フィリップ様、あなたが何を捨てたのかーー思い知らせて差し上げますわ!」
逆襲を決意し、華麗に着飾ってパーティーに乗り込んだソフィア。
「妹を侮辱しただと? 極刑にすべきはお前たちだ!」
ブチギレるお兄様。
貴族たちは青ざめ、王国は崩壊寸前!?
「ざまぁ」どころか 国家存亡の危機 に!?
果たしてソフィアはお兄様の暴走を止め、自由な未来を手に入れられるか?
「私の未来は、私が決めます!」
皇女の誇りをかけた逆転劇、ここに開幕!
【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」
三回目の人生も「君を愛することはない」と言われたので、今度は私も拒否します
冬野月子「君を愛することは、決してない」
結婚式を挙げたその夜、夫は私にそう告げた。
私には過去二回、別の人生を生きた記憶がある。
そうして毎回同じように言われてきた。
逃げた一回目、我慢した二回目。いずれも上手くいかなかった。
だから今回は。
婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました
由香婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。
彼女は何も言わずにその場を去った。
――それが、王太子の終わりだった。
翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。
裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。
王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。
「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」
ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。
あなたと別れて、この子を生みました
キムラましゅろう約二年前、ジュリアは恋人だったクリスと別れた後、たった一人で息子のリューイを生んで育てていた。
クリスとは二度と会わないように生まれ育った王都を捨て地方でドリア屋を営んでいたジュリアだが、偶然にも最愛の息子リューイの父親であるクリスと再会してしまう。
自分にそっくりのリューイを見て、自分の息子ではないかというクリスにジュリアは言い放つ。
この子は私一人で生んだ私一人の子だと。
ジュリアとクリスの過去に何があったのか。
子は鎹となり得るのか。
完全ご都合主義、ノーリアリティなお話です。
⚠️ご注意⚠️
作者は元サヤハピエン主義です。
え?コイツと元サヤ……?と思われた方は回れ右をよろしくお願い申し上げます。
誤字脱字、最初に謝っておきます。
申し訳ございませぬ< (_"_) >ペコリ
小説家になろうさんにも時差投稿します。