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8章 帰郷!エルフの里へ ~出産騒動編~

メラルダで暮らそう ~呪われた教会の神父2~

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モヤモヤを抱えていても、実際過ぎゆく日々はとても穏やかなもので・・・

・・・もちろん影でナニかが起こってるのかもしれないけど、あたしが知らないという事は、あたしが“知らなくても良い事”だと思うようにした。

皆もメラルダの生活に慣れてきて、出かける人達が増えていく中、必ずと言っていいほどあたしのそばにいてくれるのはエルとミナトちゃんだけだった。

「どうちたの?サーヤまま。ちょっと、げんきない?」
「ん、そんな事ないよ~。お腹がちょっとずつ大きくなってきたなぁって思ってただけ」
「んふ~☆あかちゃん、だいぶおおきくなったの♡♡」
「そうだな、大分身体の形もできてきたし・・・だが、子が大きくなるという事はサーヤへの負担も大きくなるからな・・・少しむくんでいるようだし、マッサージでもするか」
「へへ、お願いしま~す」

お腹の赤ちゃんはとても順調に育っていた。
今は体重が増え過ぎないようにしつつ栄養を取ったり、無理がない程度に身体を動かしたり、ちょっとむくみやすいためエルにマッサージしてもらったりしている。

3人で過ごす時間も大好きなんだけど、皆でワイワイする楽しさを知っているからちょっとだけ寂しい・・・なんてわがままなんだろうね。


いつものようにリビングのソファで過ごしていると、バイトから帰ってきたリンダが「町で配ってた」と言って何か書かれた紙を持ってきた。

「サーヤ、読んでみるか?」
「うん!えっと・・・きょ、う、か、い、の、し、ん、ぷ・・・ひ、と・・・お、そ・・・えぇぇぇ??!!」

教会の神父が人を襲う?!どういう事??!!

続きはエルに読んでもらい、内容を教えてもらうことにした。

**********************************************
教会の神父、ついに人を襲う。
ちまたで噂されていた“呪われた神父”が、毎日行われる礼拝堂の祈りの時間で、つい先日一般参加していた市民男性に突如襲い掛かった
襲われた男性は、当初激しく拒否していたものの、次第に神父を受け入れるようになり、間もなく近くにいた男性も自ら近づいて神父や男性と礼拝堂の中で淫らな行為に没頭し始めた。
もちろん周囲は大惨事になり、警備隊が到着するまで地獄のような行為が行われ、多くの女性や子供達はショックを受け倒れる者も数名いた。

後任の神父が近々来る予定であったが、その前に起こってしまった悲惨な事件である。

警備隊が事情聴取や様々な検査をしたが、薬物や魔法を使われた形跡は特になく、本当に神父が呪われていたとしか思えない状況であり、人々は周囲にいた人に呪いが移っていないかを酷く心配している。
**********************************************

・・・なんて言うか、呪いの効果がえげつない。
これはいろんな意味でこれから先、生きていけないのではないだろうか・・・

「・・・あの狐神父がこんな目に遭うなんて・・・」
「あぁ、予想以上の騒ぎになってしまったようだな」
「ん?予想以上って何が?」
「いや、それは後でセイルが帰ってきたら説明しよう」

セイルが帰って来てから説明?
どんな内容なのか、聞きたいような聞きたくないような微妙な感じだったけど、とりあえずセイルの帰宅を待つことにした。

バイトから帰ってきたリンダは「じゃあちょっとその辺走ってきま~す」と言って、動きやすい服装に着替えてからまた出て行った。
帰ってきた直後なのに元気だなぁ、帰ってくる頃にはお菓子でも用意してあげようかなと、今日のおやつをエルやミナトちゃんと相談して作り始めることにした。



晩ご飯を終えて、各々お風呂に入ったりそれぞれの部屋に戻ったりしている中、セイルから「少し話がある」ということで、あたしとエルはいつものようにリビングのソファに座り、あたしの隣にベルナートさんとカイトくん、別のソファにセイル、フランさんがそれぞれ座って話をすることにした。

「セイル、改まってどうしたの?」
「ふふ☆最近サーヤが気になってることについて、ちゃんと教えてあげようと思ってね♪」
「!!」

エルが今日言ってたセイルが帰ってきたら・・・っていうヤツだ!
・・・でも、ベルナートさんやカイトくん、フランさんまで一緒って言うのはどういう事なんだろう??

「エリュシオンから聞いたけど、サーヤも教会の“呪われた神父”の話は聞いたんだよね?」
「あ、うん。なんかお祈りの最中に一般男性を襲っちゃって凄いことになってたね・・・」

被害者に女性や子供がいなくて安心したけど、よくよく考えたら男性もちょっと可愛そうだなと思ってしまった。

「そうそう☆あれね、実はボク達がやったの♪」
「・・・へ?」
「だが、一番効いたのはエリュシオンの“薬”だろう?私は少々毛を燃やしたり剣で切ったに過ぎないよ。気づかれないよう気配を消しながら加減をするのは、なかなか良い鍛錬になったな」
「俺だって影から足を掴んで転倒させたり、「許さない、呪ってやる」って黒曜石に記憶して、眠ってる時だけ声が流れるよう細工しただけだよ」
「僕は、ちょっと毛を無くそうとしたらコントロールが難しくて禿はげちゃったり、服の一部を消そうとして服が全部消えたりしたけど、別に怪我してないし大したことじゃないよね?」
「ん~、ボクは窓を割ったりろうそくを消したり、かまいたちを使ってちょっと切り刻んだけど・・・この中では一番緩かったかな?」
「・・・」

えっと、ちょっと待って・・・

燃やした?眠ってる時に声を流した?毛が禿はげたり服を全部消すって全裸?切り刻む??
“呪われた神父”の真相が、全部セイル達としては大したことないいたずらみたいに言ってるけど、結構凄いことしてるよね?!
しかも一番効いたのがエルの“薬”ってどーゆーこと??!!

「あの、エルの“薬”って何?」
「ん?俺は「機会があれば使って、効果を教えてくれ」という事で、“男のみに効く興奮剤”をセイルに渡した」
「?!」

いやいやいやっ!!機会があればって、その機会を絶対わかってて渡してるよね??!!

「エリュシオンからは、幻覚と少しだけ麻痺作用のある薬ももらったじゃない☆しかもどっちも使った形跡が残らない優れモノ♪」
「??!!」
「いや、親父から昔いろいろな薬の作り方を教わってな・・・ちょうど持っていたから渡したまでだ」
「???!!!」

そんな薬をタイムリーに持ってるわけないじゃないかっ!
手続きが終わってからちょっと研究室に籠ってたけど絶対その時に作ったに決まってるっ!!!

「・・・だって、あのクソ神父許せなかったんだもん。おにーさんに酷い事言った」
「サーヤの幸せを妨げるヤツは許さない。それに、普通にアイツ、気に食わなかった」
「私はその場にいなかったが、そもそも差別というものが好きじゃないからね。話を聞いたら面白そうだし、力の調整をする良い鍛錬になったよ」

うん。あの狐神父に対して腹を立ててくれたりエルやあたしを想ってくれる気持ちは凄く嬉しい。
・・・フランさんだけちょっとズレてる気がするけど、そこは気にしないでおこう。

「ホントはボクも、あの場でクソ神父を消そうかなと思ったけどそんなことしたらサーヤ達がメラルダで生活し辛くなるでしょ?」
「セイル・・・」
「だから、ボク達が直接消すんじゃなくて“人間”らしいやり方で消そうかなと思ったんだ☆」

・・・その人間らしいやり方というのが、ただ消すよりもえげつないということは気づいているんだろうか・・・

「そしたら、思った以上の大事件になっちゃってビックリしたね☆」

だぁぁぁっ!やっぱり確信犯かっ!!
絶対こうなることわかってたんでしょっ!!!!

「ボクはそこまで大事にする気はなかったよ☆でも、エリュシオンの“薬”がねぇ・・・」

そうだ。エルの薬で狐神父が男の人を襲わなければここまでにはならなかったかも・・・
エルを見るとちょっとバツが悪そうな顔をしている。

「・・・俺だって、あのクソ神父には腹が立っていたんだ。少しくらいはな・・・」

周りがこれだけ怒ってるんだもの、本人だって怒ってるに決まってるよね。
あたしは身体の向きを変えてエルをぎゅっと抱きしめた。

「ふふっ、あたしだってエルに酷いこと言ったあの狐神父に腹が立ってたんだから一緒だよ!ちょっとやり過ぎた感は否めないけど、仕返しできてスッキリしたね!!」
「・・・そうだな。アイツはこの町から去ってもまともに暮らす事もできまい。いい気味だ」




狐神父への報復をきっかけに、エルを含めた精霊王様達を敵に回すといろんな意味で怖いということが改めてわかりました。

どうか今後の生活は平和でありますように・・・―――
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