失声の歌

涼雅

文字の大きさ
上 下
11 / 33

ぐしゃぐしゃの仮定

しおりを挟む
土に塗れぐしゃぐしゃになったスケッチブックに挟まれていた、ゴミみたいな紙切れ

つい昨日までしっかりと持っていた紙切れ。

いまはもういない。

『ほんと下手だな

 せめて綺麗って言ってもらえるようにしろよ』  

眉を下げる友人に向けた、からかいを含めた茶々の言葉だった

紫音といるとあんなに下がることを知らない口角が、いまはあの紙切れひとつでいとも簡単に下がってしまう

温かい想い以外の言葉はスケッチブックから抜き取ろうと決めていたから、からかいの言葉は切り離しておいたものだった

今となってはもうどうでもいいけれど。

それを挟んだまま、捨てるのを忘れていた

友人の家から直であいつのところまで行ったのだ。

捨てに家へ帰る時間も惜しかった

早く、あいつに会いたかった。

その結果がこれだ。

誤解と思い込みとすれ違いと…

あの時もっと早く気が付いていればこんなことにはならなかったのかもしれない

もっと早く誤解を解けていればこのからかいの言葉を2人で笑えていたのかもしれない

からかいの言葉を切り離していなければスケッチブックから出てくることは無かったのかもしれない

からかいの言葉を書かなければ…

色んな「かもしれない」が浮上していく

しかしどんな「かもしれない」も今となっては、どう足掻いても仮定の話で終わってしまうものだ

しおりを挟む

処理中です...