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可哀想な子
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ちょっと変わった話と怖い話、聞いてもらえますか?
私は認知症の母と一緒に暮らしているんですが、その日も母と一緒にテレビを観てました。
別に何か観たいものがあったわけではなかったので、たまたまつけたらやってたニュースをぼんやりと眺めてました。
芸能人の不倫やら政治家の汚職事件やらを適当に聞き流していると、先程まで真面目な表情を浮かべていたアナウンサーが笑顔になり、明るい口調で言いました。
『続いては、先日開園した遊園地から中継です』
その言葉で画面に映し出されるのは、たくさんの家族連れやカップルで賑わう、とても楽しそうな遊園地でした。
そこで待機していたレポーターがマイクを持ち、通行人にインタビューをしていったんです。
付き合いたてと見られるカップル、小学生ぐらいの子供を三人連れた夫婦、仲の良い友達グループと思われる高校生ぐらいの四人組。
その誰もが、笑顔で遊園地について語っていました。
そしてその次に、レポーターは小さな女の子を連れた女性に話しかけました。
『今日は娘さんと一緒にいらしたんですか?』
『ええ、いつも仕事でなかなか遊べないんですが、やっと休みが取れたので』
『なるほど。娘さんは遊園地に来たのは初めてなんですか?』
『はい、少しでも思い出を作ってあげたくて』
『それは素敵ですね。遊園地はどうですか? 楽しいですか?』
レポーターのマイクが女の子に向けられたんですが、女の子は母親の手をぎゅっと握り、何も答えませんでした。
黒い髪のおかっぱで、可愛らしいピンク色のワンピースを着た三歳ぐらい女の子でしたが、顔を俯向けたまま動こうとはしません。
ただ、それぐらいの子なら人見知りなのも当然で、レポーターは『恥ずかしがり屋さんなのかな』と特に気に留めず、次のインタビューに向かいました。
けれど、私はあの女の子を見て、こう思ったんです。
ああ、可哀想に、と。
意味がわかりませんよね。どこにもそんな要素はなかったのに。
でも、私はあの女の子を見て、哀れみの感情を抱いたんです。
これだけだったら、私はこのことを忘れていたでしょう。
しかしその時、隣にいた母が言ったんです。
『可哀想な子だね』
驚きました。
私と思ったことを、母が口にしたんですから。
けれども、先程言ったように母は認知症を患っていて、言葉の意味を問おうとしても、すでに自分で言った言葉すら忘れていました。
これが、ちょっと変わった話です。
まあ、変わった話というか、奇妙な偶然の一致の話ですね。
そしてここからが、怖い話。
……今朝の、女の子が母親から虐待されて死んだニュース、知ってますか?
私は認知症の母と一緒に暮らしているんですが、その日も母と一緒にテレビを観てました。
別に何か観たいものがあったわけではなかったので、たまたまつけたらやってたニュースをぼんやりと眺めてました。
芸能人の不倫やら政治家の汚職事件やらを適当に聞き流していると、先程まで真面目な表情を浮かべていたアナウンサーが笑顔になり、明るい口調で言いました。
『続いては、先日開園した遊園地から中継です』
その言葉で画面に映し出されるのは、たくさんの家族連れやカップルで賑わう、とても楽しそうな遊園地でした。
そこで待機していたレポーターがマイクを持ち、通行人にインタビューをしていったんです。
付き合いたてと見られるカップル、小学生ぐらいの子供を三人連れた夫婦、仲の良い友達グループと思われる高校生ぐらいの四人組。
その誰もが、笑顔で遊園地について語っていました。
そしてその次に、レポーターは小さな女の子を連れた女性に話しかけました。
『今日は娘さんと一緒にいらしたんですか?』
『ええ、いつも仕事でなかなか遊べないんですが、やっと休みが取れたので』
『なるほど。娘さんは遊園地に来たのは初めてなんですか?』
『はい、少しでも思い出を作ってあげたくて』
『それは素敵ですね。遊園地はどうですか? 楽しいですか?』
レポーターのマイクが女の子に向けられたんですが、女の子は母親の手をぎゅっと握り、何も答えませんでした。
黒い髪のおかっぱで、可愛らしいピンク色のワンピースを着た三歳ぐらい女の子でしたが、顔を俯向けたまま動こうとはしません。
ただ、それぐらいの子なら人見知りなのも当然で、レポーターは『恥ずかしがり屋さんなのかな』と特に気に留めず、次のインタビューに向かいました。
けれど、私はあの女の子を見て、こう思ったんです。
ああ、可哀想に、と。
意味がわかりませんよね。どこにもそんな要素はなかったのに。
でも、私はあの女の子を見て、哀れみの感情を抱いたんです。
これだけだったら、私はこのことを忘れていたでしょう。
しかしその時、隣にいた母が言ったんです。
『可哀想な子だね』
驚きました。
私と思ったことを、母が口にしたんですから。
けれども、先程言ったように母は認知症を患っていて、言葉の意味を問おうとしても、すでに自分で言った言葉すら忘れていました。
これが、ちょっと変わった話です。
まあ、変わった話というか、奇妙な偶然の一致の話ですね。
そしてここからが、怖い話。
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