慟哭の螺旋(「悪役令嬢の慟哭」加筆修正版)

浜柔

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第二話 徘徊-4

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 ――ここは一体どこ!?

 王都を出立から数日、エカテリーナは道を失っている。
 災難から逃れようと慌ただしく東へと旅立つ商人の馬車に便乗した。ハイデルフト領は王都から見れば東南東に位置するため、東に向かって進めば大丈夫な筈なのだ。ところが乗った馬車は途中で曲がり、有らぬ方向へと進んだ。一度ひとたび方向を見失なった後はもう為す術を持たないエカテリーナであった。
 だからとへこたれはしない。為す術がなければ適当にやってしまえとばかりに適当な馬車に便乗して別の町を目指す。運良く覚えのある町に行き着けば方角も判ろうと言うものだ。客観的には良いはずのないこれを、エカテリーナはひたすら繰り返す。
 明後日の方向へと向かう馬車に乗り込んだことは数知れず、客室に入れず屋根の上に乗った時には転げ落ちたりもする。落ちた場所が悪ければ馬車を追い掛けることも叶わず、歩かなければならない。歩かなければならないのは適当な馬車が見つからない場合もだ。そんな時、仕方なく次の町まで歩いて向かうのだが、気付けば道の無い鬱蒼とした森の中であったりする。
 疲れる肉体を持っていないのが幸か不幸か判らない有り様であった。
 ところが、人にも帰巣本能が有るのかどうか、王都を発って半年余り後にハイデルフト領の領都へと帰り着くに至った。

 久しく目にしていなかった領主館。昔年の面影は既に無く、見事なまでに焼け落ちていた。
 領主館の焼け跡に入り、位置的に食堂だった場所へと行くと、エカテリーナを向かえる人が居た。母、兄、そしていつの間に帰っていたのか、父のハイデルフト候である。エカテリーナが駆け寄ると、三人に微笑みで迎えられた。
 エカテリーナも父や兄に微笑みを返し、母と抱き締め合う。母や兄も既に亡くなっていることは哀しかったが、三人がずっと自分を待っていてくれたことが嬉しかった。
 父母が寄り添い合い、その横に兄が立つ。父が差し出した手にエカテリーナが手を重ねると、三人は光の粒となって消えた。
 これ以上迷うことなく三人は旅立ったのだと、残されたエカテリーナは安堵した。
 エカテリーナは旅立てなかったのだ。

 ――我ながら業の深いことです。

 覚悟の違いかも知れない。だが、迷って直ぐであれば一緒に旅立てたようにも思えた。
 だが、父や自身の晒された首を、荒らされた屋敷を、捨て置かれた執事長とメイド長の亡骸を、焼け落ちた領主館を見て、母や兄が既に亡いことも知ったエカテリーナの心には闇が差していた。
 三人が待っていてくれた喜びも、その旅立ちに合わせて家族の命を奪った者への憎しみに変わった。
 もはや恨めしい思いが募るばかりなのだ。

 酒場などで住民の会話を盗み聞く。
 半年以上の間、領主館が放っておかれたのはハイデルフト候のせいだった。エカテリーナを待つ間、何人なんぴとも敷地に入らせないようにしていたのだ。
 そのハイデルフト候も旅立ったことから、この先はエカテリーナも与り知らぬところで再建なり何なりが進むのだろう。
 エカテリーナにとっては、そんな未来よりも過去が問題である。領主館の焼失は攻め込んだ者達の付け火によると聞き及んでいた。

 ――このまま捨て置ける筈がありませんよね?
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