天ぷらに愛を、(with 女神のお使い)

浜柔

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一九 配達だって楽じゃない

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 注文は来ないつもりだったが、配達サービス開始から四日目、通話石に呼び出しが入った。
「はい、天ぷら屋です」
『どこにでも配達するってのは本当なのか?』
「はい、町から五イグの範囲ならどこにでも伺います」
『なら、配達してくれ』
「はい、ではまず注文個数をお願いします。配達可能なのは天ぷらセットのみとさせて頂いています」
『四つだ』
「はい、四つですね。次に配達場所をお願いします」
『迷宮の二二階だ』
「二二階までのお届けですか?」
『そうだ』
「配達料に二二〇〇〇ゴールドの追加料金が発生しますが、宜しいでしょうか?」
『いいぜ』
「代金合計は二五二八〇ゴールドになりますが、宜しいでしょうか?」
『いいって言ってんだろ』
「はい、承りました」
 その後、通話石の番号を聞いて受付を終えた。
 注文が来てしまいましたよ。配達料は商品代金より遙かに多い。これはこれで微妙な気分だ。
 とにもかくにも、商品を早速用意して出発する。

 町を出るまでに三分ほど掛かった。門を出る時にも身分証の提示が必要だからだ。これを考えると、町の中と外とで配達料金を変えるのも有りだろう。
 町の門から迷宮傍の集落までは一分余りで到着する。二二階までの地図を買って迷宮に入ろうとすると、番人に止められた。
「あんた、その格好で入ろうってのか?」
「そうですけど?」
 あたしの格好はシャツとズボンに防寒着だ。既に寒くなっているので、外では防寒着を着ている。
「自殺でもしようってのか?」
「そんな訳ないじゃないですか。二二階まで配達ですよ」
 そう言って、あたしは商品を掲げて見せた。
 番人は訳が判らないと言う顔をする。
「どうしても入るのか?」
「はい」
「遭難しても自己責任だぞ?」
「そうでしょうね」
 番人は溜め息を吐いて、さっさと行けとばかりに手を振った。

 迷宮には初めて入る。当たり前のように暗いので魔法で明かりを灯すと、清潔とは言い難い光景が広がった。
 さっさと配達を終わらせよう。
 迷宮は自然物とも人工物とも付かない壁をしている。階層が便宜的なことも判った。階が増えても必ずしも降る訳ではない。横に繋がる部分も有れば、昇っている場合すら有る。ただ、全体的には螺旋を描くようにして下へと降りている。
 そんな迷宮をひたすら走る。途中、かなり多くの冒険者と擦れ違った。それは刹那に移ろっていく。
 広い通路であれば幅一〇メートル程度は有る。しかしそれでも人を避けるのは大変だ。人にはぶつからないように気を付けていると、どうしても魔物などに対しては疎かになり、時折引っ掛けてしまう。蹴飛ばしてしまう感触からすると、あまり後ろを振り返りたくない。振り返らずとも帰りにはやっぱり見るのだと思うと気が重い。

 そんな中、二〇階の広間の二一階へ続く通路を牛頭の魔物が塞いでいた。誰かと戦っているようだが、あたしには関係のないことだ。魔物は右手に棍棒らしきものを持っているので、あたしは右、つまり魔物から見て左側を迂回して通り過ぎようとした。
 すると、有ろう事か魔物があたしの目の前に棍棒を振り下ろしてきた。
 咄嗟に魔物の手、腕、肩、頭の順に踏み付けるようにして回避し、広間の反対側へと着地する。頭を踏み潰してしまったらしく、足にぬるっとした感触がまとわりついて気持ち悪い。
 傍で、魔物の倒れる音が響く。
「何てことをしてくれたんだ!」
 誰かが叫んだ。見れば、一人の冒険者があたしに向かって剣を突き出している。
「もうちょっとで倒せそうだったんだ! それを横から掻っ攫うとはどう言う了見だ!」
 こいつは、何を言ってるんだ?
 改めて周りを見れば、全部で六人居る。二人は血を流して倒れている。気絶しているのだろう。一人は蹲ったままだ。立っているのは三人で、皆が傷だらけである。あたしに剣を向けているのは立っている中の一人だ。
 冒険者達は六人で魔物と戦って、三人が倒されたと見える。その様子と、動かなくなった魔物とを見比べると、この冒険者達が倒せたとはとても思えない。魔物の体にはあたしが踏み付けた部分以外にも傷が沢山付いているが、元気よくあたしに棍棒を振り下ろすくらいだったのだから、まだまだ力は残っていた筈だ。
「おい……やめ……」
 蹲っている冒険者があたしに剣を向けている冒険者を諫めようとしているみたいだが、どうやら彼の耳には入っていない。
「おい! 何とか言ったらどうなんだ!」
 叫び声が耳障りでイラッとした。噂の事と言い、どうにも冒険者とは相性が悪い気がする。八つ当たり気味に通路を塞いだままになっている牛頭だった魔物を蹴り飛ばした。
 蹴る一瞬だけ魔物を拘束魔法で保護したので魔物は潰れずに吹っ飛んでいき、壁にぶつかり砕け散った。
 そして、腰に手を当て、冒険者に向かい直して言い放つ。
「邪魔なのよ!」
 見れば、皆、口を開いたままガタガタと震えだしている。この程度で震えるくらいなら端から文句を言ってこなければいいのだ。
 馬鹿馬鹿しいのであたしは先を急いだ。

 二二階に達したところで通話石を取り出し、配達先を呼び出す。
『なんだ?』
「天ぷら屋です。今、二二階に着きましたので、通話石はそのままで暫くお待ちください」
『何!?』
『はっはっは、俺の勝ちだな』
『まさか、ほんとに来るとは……』
 通話石から不穏当な発言が聞こえてくる。むむむ。
 それから間もなく、あたしは配達先の冒険者四人を見つけた。
「お待たせしました。ご注文の天ぷらセットをお持ちしました。二五二八〇ゴールドになります」
「は? そんな金払うわけないだろ? もう用は済んだから帰っていいぜ」
「今、何と?」
「帰れって言ってるんだ」
「ひゃっはっはっ、そうだ、もう用はねーから帰んな」
「それとも、今から気持ちいーことでもすっか?」
「おー、それ良いんじゃね? どうせこんな所、誰も来ねーんだし。ひゃーっははは」
 四人の冒険者達は下品に笑いながら、下卑た台詞を言い募った。
 あたしはこめかみが引き攣るのを感じた。
「それでは、ご注文を取り消されると言うことでしょうか?」
「注文? 元々賭のネタ相手に注文なんてする訳ねーだろ。馬鹿じゃねーの?」
「そう、ですか」
 あたしは近くに転がっている石を拾って冒険者達に突き出した。冒険者達の方は冒険者達の方で、あたしに襲いかかろうと立ち上がって身構えている。
 ゴキャッ。
 冒険者達の目の前であたしは石を握り潰した。手を開くと、砂がさらさらとこぼれ落ちていく。
「お支払い頂けないのならお客さんじゃありません。賭に使われた迷惑料として股間のものをこうさせて頂きましょうか?」
 あたしはにへらと笑う。さっきの冒険者のことも有って、かなり苛ついている。
 冒険者達は顔を引き攣らせたものの、今度は剣や杖を向けてきた。二人が前衛、二人が後衛のようだ。
「温和しくしていれば気持ち良くはなっても痛い思いをせずに済んだのになあ、おい!」
 如何にもチンピラなお言葉頂きました。
 そして、冒険者達は一斉に襲いかかってきた。
 あたしは後衛からの魔法は無視し、前衛から振り下ろされる切っ先を掴んで握り潰す。そして、胸元に潜り込むようにして前衛を後衛にぶつけるように押し投げた。四人は縺れるようにして転がっていく。
 呻き声が響く。冒険者達はたったこれだけで起き上がれないようだ。
「温和しくしていれば痛い思いをしなくて済んだのに、残念ですねー。それで、お支払いの方はどうなさいますか?」
 あたしは、にたーっと笑って問い掛けた。
「毎度ありー」
 何にしても、無駄足にならずに済んだのだけは良かった。

 帰り道、転がっていると思っていた魔物の骸は無く、代わりに赤い石が転がっているのを見つけた。仄かに輝いて見えるその石を幾つか拾ってあたしは迷宮を出た。
「あんた、大丈夫なのか!?」
 入る時に話した番人があたしの足を見て、驚いたように問い掛けてきた。
 自分の身体を見てみると、上半身は概ね無事なものの下半身はでろでろに汚れている。念入りに洗わないといけない。
「はい、平気ですよ。これは返り血ですから」
 あたしの言葉に、番人は絶句したようだ。
 そんな事はさておいて、あたしは赤い石のことを番人に聞いてみることにした。
「こんな石を見つけたんですが、何か判りますか?」
「ああ、これが魔石だ。魔物の身体の中に出来るものだ。いや、魔石を持つから魔物なのか」
「それで、何かに使えるものなのでしょうか?」
「おいおい、魔石が魔法道具の材料なのは常識じゃないか。ここに入る冒険者達の殆どは魔石を集めるために入ってるんだぞ?」
「なるほど、ありがとうございます」
 そして、あたしの初めての配達は終わった。

  ◆

 それから程なくして、あたしの店がぼったくりだと言う噂が流れた。
 今後、迷宮の中のような場所では冒険者には容赦しないようにしようと、心に誓った。
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