魔☆かるちゃ~魔王はこたつで茶をすする~

浜柔

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62~68

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【62.3ヶ月後】
 ズズズ……。

「茶が美味い」

 今日も魔王は茶をすすりながら漫画を読んでいる。
 オリエの来訪も悪くはなかった。シェフが料理を食べさせる相手が増えたのを喜んでいたので、多少の騒々しさも取るに足らないことであった。
 あれからもう3ヶ月。あの時の騒がしさが少々懐かしくもある魔王だ。

「魔王……」
「え?」

 呼ばれて振り向けば、黄昏れたオリエが立っていた。相変わらずビキニアーマーだ。



【63.興味無し】
「まあ、茶でも飲め」
「……ありがとう」

 オリエはこたつに入って茶を飲む。

「ポン菓子は上手く行かなかったのか?」
「いえ、それは好調よ。家族は生活に困らなくなったし」
「それならどうしてそんなに黄昏れている?」
「家族はみんなお家再興に興味が無いんだもの……」

 オリエはムスッと呟いた。生活が安定したら、家族は先祖がどうだったと言う話もしなくなったらしい。

 せやろな。

 魔王はあっさりした感想を抱きつつ茶をすすった。
 オリエの家族は今が充実したから現実逃避を止めただけなのだ。
 そしてオリエの口調は以前とは違っている。今までが気を張っていただけなのかも知れない。



【64.提案】
「別に家族の意向なんて気にしなくてもいいだろ。お前がしたいようにすれば」
「そうなんだけどさ……」

 オリエは熱から冷めたようなものなのだろう。独りよがりだと気付いたら、やるせなくなったりもするものだ。
 こたつに突っ伏して溜め息を吐くオリエ。気力がごっそり抜けているようだ。

「それなら暫くここで暮らせばいい」

 魔王はあっさり提案した。シェフも料理の作りがいがあることだろう。

「そう? そうさせて貰えるならそれもいいかな。お言葉に甘えさせて貰いましょう」

 煮え切らない言葉を口にするオリエだったが、最後ははっきりと言った。



【65.寝室造り】
 魔王はオリエの寝室造りだ。前回の部屋は取り壊したので今は無い。
 何故か。ダンジョンの奥底と言えども多少の埃は立つもので、壊した方が掃除の手間いらずなのだ。
 実験なんかに使う部屋は1つ在れば十分な魔王である。

「ふあっ!」

 一瞬で部屋が生まれる様子に、オリエは驚きを禁じ得ない。
 その間にも魔王はカタログを捲って部屋を選ぶ。一夜限りではないので少し落ち着いた雰囲気のものだ。

「ふあっ! ふあっ! ふあっ!」
「ぷっ」

 ベッドを始めとした家具をコピーする度にオリエが驚くので、魔王はちょっとだけ噴き出した。
 幸いなことに、オリエは気付かなかったらしい。



【66.夕食前に】
「夕食前に風呂に入ってくるがいい」
「いいの!? やったー!」

 オリエは魔王の提案に弾んだ声で答えた。どうやら風呂が気に入っているらしい。
 そして暫くして、湯上がりのオリエが居間へと戻る。

「いいお湯だったわ」

 タオルで髪を拭きながらさっぱりした声で言うオリエは、また何も身に着けていない。
 しかし枯れている魔王とシェフはそのこと自体に何かを感じることは無い。素朴な疑問が浮かぶだけだ。

 寒くないのかなー。

 魔王はこたつの雰囲気を楽しむため、気温をそれに相応しく設定している。普通の人なら寒さを感じるような気温だ。
 それなのにオリエはまるっきり平気そうにしているのだ。

「晩飯ダ」
「待ってました」

 疑問は夕食に押し出されて、忘却の彼方へ流れて行った。



【67.トンカツ】
「晩飯はトンカツダ」

 シェフが差し出す皿に鎮座するのはサクサクの衣に包まれた大きなトンカツ。食べやすい太さに切り分けられた切り口からは、肉汁が染み出している。

「おおー。今日も食欲をそそる出来映えだ」

 魔王は何も食べる必要が無い。だから食べ物は嗜好品。食欲がそそられるのも美味しそうなものにだけである。
 早速箸で一切れ抓んで齧り付く。サクッと衣の音と一緒に肉の味が口いっぱいに広がって行く。

「美味い!」

 オリエは箸を使えないのでフォークをぶすり。頬張った途端にぱあっと輝くような笑顔を見せる。
 これにはシェフもにっこりだ。骸骨だから判らないけど。



【68.食後のおやつ】
 パリッポリポリ……。

 魔王の食後のおやつは煎餅だ。

 ズズズ……。

「お茶が美味い」
「魔王、この煎餅とは別の菓子は食べないの?」
「無いことはない」
「できれば食べてみたいんだけど……」
「ふーん」

 魔王はお菓子を1つコピーし、袋を開いてオリエに渡す。

「これは?」
「駄菓子だ」
「へぇ……」

 オリエは小首を傾げつつラーメンの麺の欠片のようなものを抓んで口に入れる。

「あ、美味しい……」

 ぱあっと輝くような笑顔になった。
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