魔法道具はじめました

浜柔

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第七八話 一抹の寂しさ

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 客が増えると普段では売れない商品が売れる頻度も上がる。特に一見の客や会計待ちの客の視線は目新しいものを求めて彷徨うもので、その視線は売れ残りの商品に向かうのである。それらのショウにとっては目新しくも何ともない品々も、客の目にはそうは映らない。時折「あれは何?」と客に問われてしまうのである。その際、説明に窮してしまうことがまま有ることにショウは愕然とした。当たり前だった筈の商品の正体がよく判らない。端から知らないものも有れば、聞いたのに忘れてしまったものも有る。そして、売れ残っている商品の大半はそんな品物だった。
 明らかに装飾品だったり実用品だったりすれば説明は不要だ。客自身が見れば判る。そしてそんな品物であれば値段は高くても物珍しさが有るためにプレゼント用としてそれなりに売れる。そしていよいよよく判らない品物ばかりが残される。それもかなりの数がである。店頭に並べられなくて倉庫に眠っているものも多い。
 そんな商品の殆どはルゼが他の町から仕入れてきたもので、交易都市であるキオンプロへと訪れた時には特に珍しいものが多かった。

 その頃のルゼは不機嫌そうに眉間に皺を寄せていたり暗く鬱ぎ込んでいたりするのが日常だったが、珍しい商品を仕入れて来てその説明をする時だけは少し陽気だった。しかし、説明を終えるとシュンと哀しげな顔になってしまう。その理由が最初は判らなかったが、何回か繰り返す内に悟った。探しものが見つからなかったのだと。
 累造と出会う以前のルゼは仕入の旅から戻ると何日かを接客して過ごしていた。客相手には努めて明るく振る舞う反動からか、客が居ない時には鬱ぎ込んでしまう。それが毎日積み重なっていき、一〇日もすると限界を迎えてまた仕入の旅へと赴いた。そう、見つかる筈のないものを探しに行くのだ。
 ショウとてそんなルゼを止めようかと考えなかった訳ではない。だが、思い止まった。ルゼ自身にも判っていないだろうことを説得してどうなるものでもないからである。何より鬱ぎ込むルゼを見続けるのが辛かった。さりとて見捨てるなどできる筈がなく、ただ旅立つルゼを見送るしかできなかった。そんな妥協点的な危ういバランスで成り立つ日々がただ流れていた。
 そんな日々が終わったのはつい最近である。そう、ルゼが累造を連れて来た時に終わった。探しものが見つかったと言わんばかりのルゼのはしゃぎように面食らった。累造の扱いについても、恋い焦がれた生き別れの肉親に再会したとでも言わんばかりである。
 それ故にルゼの探しものが何だったのかを確信するに至った。直ぐにではなかったが。

 累造が現れて以降、ルゼが仕入の旅に出たのは一度切りだ。その旅は一つの訃報と共に終わった。その時にルゼが仕入れた商品は、そうなることが判っていたかのように僅かな数でしかなかった。急な出立と言い、旅そのものが目的だったような仕入れの量と言い、謎ばかりの旅だ。旅の理由を累造やルゼに尋ねても「セウスペルが望んだ」と言うだけで、ショウには謎が残されるだけだった。
 その一度切りの旅も正体不明の商品の追加には役立たなかったと言って良い。一方で商品は徐々に売れていく。倉庫で埋もれている商品が日の目を見るのは喜ばしいと思いながらも、商品が減る一方では寂寥感も伴ってくる。いつか倉庫の商品も尽きてしまうだろう。
 そう思える根拠も有る。ルゼが旅に出なくなって接客をする日々になって以降、正体不明の商品の減りが早いのだ。仕入れたルゼ自身は納得ずくで仕入れているのだから商品説明に滞りが無い。そうして説明を受けた後、ルゼに「な? 面白いだろ?」とにこやかに問い掛けられれば、客の方も「本当にねぇ」とうっかり買ってしまうのだ。ルゼが旅に出なくなってからは、そんな様子をショウ自身も横目で見ることも多かった。マレタを雇って客足が伸びたことでショウが仕入れに追われ、ルゼに接客をほぼ毎日依頼するようになってからは毎日のように倉庫から商品を持ち出す勢いである。
 そんな正体不明の商品を店の賑やかし程度には維持したいとは考えているが、ルゼのようにはいかないだろうとも感じている。ルゼには特殊な才能が有るとしか考えられない。ルゼの仕入れて来た品物は売れ残りを出しながらも収支が赤字にならないのだ。赤字にならないだけで経営の改善にはならなかったが、同じことをショウ自身が行ったとしても不良在庫を抱えるだけの未来しか見えない。店の賑やかし程度と言うのは現実を見た目標なのである。
 目標の根拠はルゼの父である二代目の方針だ。それを踏襲する。
 ショウは二代目であるルゼの父に雇われて店の営業の何たるかを教わった。かなりの厳しさだったことを憶えている。今振り返れば、二代目がひよっこだったショウに自らの全てを教え込もうとしていたのだと判る。何か予感めいたものを感じていたのかも知れない。
 その二代目は地道に定番商品を売って店を維持する人で、正体不明な商品はあくまで店の賑やかし程度に留めていた。その方針は初代であるルゼの祖父のものを踏襲していたと聞いている。直接知っているのは二代目であるため、ショウとしては二代目の方針を踏襲することになる。
 そんな先代達が仕入れた商品も僅かながら今も残っている。その中にもよく判らない商品が紛れている。
 初代の頃からずっと棚に鎮座していると言われる置物に至っては、客にも売り物ではなく装飾だと思われている節が有る。ショウも最初は売り物とは思っていなかったので、一般客なら尚更である。今となっては店の象徴のような言われようもする。
 その置物は手足の生えた蛇のような身体に角の生えた頭と牙の生えた大きな口を持った不思議な生き物を象ったもので、遙か西に大洋を越えた先に有る国で作られた物だと言われるが、真偽のほどは判らない。

  ◆

「ショウ、また何か見繕って出してくれ」
 仕入から戻ったショウにルゼが棚を指差しながら言った。見れば棚に空きが有る。
「また売れたんでやすか」
 ショウは呆然と棚を見た。暫くしてから口をあんぐりと開けてしまっているのに気付いて慌てて口を閉じた。
 この分だと想像以上に早く仕入の旅に出なければいけなくなる日が来る。
「姐さんは余所の町で商品を仕入れる時って何か根拠みたいなものが有って商品を選ぶんでやすか?」
「そんなのは、売れる値段の半額以下なら買うってだけだよ」
 ルゼは当たり前のように言うが、「それが出来れば苦労しないのだ」と心の中で叫ぶよりなかった。

  ◆

「今日は遅くなったので送って行くでやすよ」
「あ、はい。ありがとうございます」
 日が短い冬は閉店時間を早めている。そのため、いつもなら明るい内にマレタが帰宅できるのだが、在庫整理が必要になった日などはその限りではない。そんな日はショウがマレタの自宅近くまで送って行くのである。
 外に出ると降るような星空が広がっている。だが、ショウやマレタが目を向けることは殆ど無い。日常の風景でしかないのだ。それよりも外に出た途端に身体の芯まで冷えそうな冷気が襲って来るのが辛い。雑貨店内が暖かいために尚更である。
「雑貨店の中って不思議と暖かいですよね。外に出ると途端に寒さが凍みます」
「お客さんが多いと暖かくなるもんでやすよ」
 ショウの答えは半分事実で半分嘘だ。累造が作った暖房の魔法陣で少し暖めていることは、マレタにはまだ秘密である。
「じゃあ、もっとお客さんが増えると真冬でも安心ですね」
「マレタが居ればそれも夢じゃないかも知れないでやすね」
「え? そんな、私なんてまだまだですよ。私もうびっくりしちゃったんですよ。ルゼさんって凄い方ですよね。ルゼさんに商品の説明を受けて買わずに帰ったお客さんの方が珍しいくらいです。私も見習いたいものですけど、どうしたらいいんでしょうね」
 一気に捲し立てたマレタが若干息を切らした。ショウは苦笑いするだけだ。
「姐さんは天才でやすからね。真似はできないでやす。あっしから見ればマレタも姐さんとは違う意味での天才でやすから、マレタは今のまま頑張るといいと思うでやすよ」
 その後、分かれ道まで恥ずかしげに顔を真っ赤にしたマレタの口が止まることはなかった。内容は「あの星とあの星を結んだら」などの取り留めもないもので、ショウは若干呆れつつもただ聞くだけである。
 そして分かれ道。
 マレタを見送りながらショウは決意を新たにする。ルゼやマレタのような天才が周りに居るのを偶然とは思いたくない。彼女たちを支えるのが自らの役割なのだと信じるだけである。
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