魔法道具はじめました

浜柔

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第一六話 その閉店後

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「売り上げは多かったでやすが、それを考えに入れても商品の減りが変に多いものがありやすね」
「やっぱりそうかい」
 疲れた身体に鞭打ちつつショウが商品の在庫を確認すると、壊れた商品が有った他、一部の商品の減りが明らかに不自然だった。店内の混雑に紛れて持ち去られたのだと考えられる。
 肩を竦めてショウは言う。
「店に一度に入れる人数をもっと少なくするしかありやせんね」
「客が多ければいいってもんでもないねぇ」
 ルゼは天を仰いだ。
「今日みたいなのが続くようでやしたら人を増やすしかありやせんが、野次馬も多かったでやすから続くとも思えやせんし」
「野次馬が来るからって、あれを撤去なんてしたくはないしねぇ」
 ルゼがキラキラと輝くスタンドを見上げる。
「へい、店の中が明るくて仕事もしやすいでやす」
 ショウは同意はしたものの、数日間は非常に疲れるだろう事に、暗澹たる気持ちも拭いきれない。
 その一方で、一つの思いも湧き上がる。
「だけど、あっしもあれを一つ欲しいでやすね……」
 ルゼがハッとしたように振り向いた。
「すまない、ショウの家の事をすっかり忘れてたよ。累造に頼んでみるかい?」
「いいんでやすかね?」
「何、遠慮してんだい」
 ルゼは苦笑いするが、ショウは累造が累造なりに頑張っているのを既に知っているため、割り込む形になる事に躊躇いを感じた。

「累造、ちょっといいかい?」
 ルゼはショウを伴って累造の部屋へと訪れた。半ば押し切る形で連れて来たのだ。
「はい」
「累造に頼みが有るんだけどね」
「なんでしょう?」
「ほら、ショウ、自分で言いな」
 ショウの背中をドンと押した。ショウが累造と上手く馴染めていないのが気になってもいたので、良い機会である。
「姐さん、痛いでやす」
 ショウがジト目で見るが、取り合わない。
「さっさとしな」
 ショウは観念するように軽く溜め息をついた。

「ボウズ、いや累造さん、あっしにもあの光るやつを作って欲しいんでやすが」
 累造は二人のやりとりを首を傾げてみていたが、ショウの言葉で自分の迂闊さに気が付いた。雑貨店の事ばかり考えていて、通いで勤めているショウの事をすっかり失念していたのだ。
「あ、すいません、だけど少し待って貰えるでしょうか?」
「やっぱ駄目でやすか」
 ショウが少しがっかりした様子を見せた。
 それを全力で訂正する。
「違います違います。どうせなら改良した後のものを渡したいので」
「改良?」
 ルゼがその部分に食いついた。
「はい、今日は新しい仕組みを作ってみたんです」
 そう言って、手元に有る二枚の魔法陣の板を指し示した。昼過ぎまで掛かって描き上げた魔法陣を、閉店後にも改良していたのだ。
 二度、魔法発動の言葉を紡ぐ。
『アラホラサ』
 言葉が元に戻っているのは、起動しただけで光を発する訳ではないため、「出でよ、光っ」では何かが違うと感じられたからである。「起動」や「発動」でもいいかとも考えたが、会話の中に出てきかねない言葉にするのは躊躇われた。
「ん? 失敗したのか?」
「いえ、魔法陣をあっちに向けて、こっちの板のこの木端こばに、こっちの板のこの木端を合わせてみてください」
 二枚の板をルゼに手渡した後、誰も居ない方を指差し、各々の板の木端を指し示した。
「こうかい?」
 言った通りにルゼが板を合わせると、光が迸った。
「おお」
 ルゼの口から感嘆の声が漏れる。しかし、直ぐに光は消えた。ルゼが思わず手をずらしてしまったためだ。
「あれ? 消えたぞ?」
「板をぴったり合わせてないと光らないんです」
 ルゼが「なるほど」と感心しつつ、板を付けたり離したりを楽しげに幾度となく繰り返す。
 その様子を、累造は「スライドさせる筈なんだけどなぁ」と内心で思いつつ、半ば諦観して眺めるのだった。

 一頻り板を光らせて遊んだ後、ルゼは満足げな表情になった。
「ところで、これはこれでもう完成しているんじゃないのか?」
「今のままだと簡単にずれて光が途切れます。扱いやすくするために、板とそれを収める木枠をテンダーさんに発注しようと思っています。それが出来上がってからになりますので、少し時間が掛かるんです」
「そっか、直ぐにできるって訳じゃなさそうだね」
「はい、木枠に合わせた板が必要ですから、魔法陣だけ先に描くと言うのも難しいです」
「なら、仕方ないね」
「そう言う事なので、すいませんがショウさん、少し待っていてください」
 ショウには申し訳なく思う累造である。
「判りやした。期待して待たせて貰うでやす」
 ショウは期待と安堵が入り交じったような表情で笑った。

「それはそれとして、水の分は間に合わせで一つ作ろうと思っています」
「ん? ああ、そうすれば毎度累造に出して貰わなくて済むんだね」
「はい、前回の水販売の時のようにはなりたくありませんから……」
 累造が少し渋い顔をした。
 すると、ルゼもげんなりした顔をする。
「あれは、あたしも疲れたよ。腕が痛くなっちまった」
「確かに疲れやした」
 ショウもしみじみと呟いた。しかしそこで、じっと光る板を見ていたからか、閃きが走った。
「姐さん、その新しい仕組みってやつで少し工夫すれば、水汲みを楽にできやすよ」
「本当かい?」
「へい。目隠しした馬車の上から水樋を這わして、合図で水を出したり止めたりするんでやす」
 ルゼが想像を巡らせるように首を回す。
「うん、それは良さそうだね。ただ、馬車が濡れる事になるのがいただけないね」
 馬車が濡れる所を想像してみると、確かにいただけない。
「そうでやすね。小屋でも建てられればいいんでやすが、中通路を塞ぐ訳にはいきやせんし」
「それなら、衝立をテンダーさんに発注するのはどうでしょう?」
 累造が何かを思い浮かべるような仕草で言った。
「目隠しと水樋の固定だけなら衝立だけでいけそうな気がします」
「そいつはいいね、それで行こうじゃないか」
 その後はショウと累造とで衝立の構造を決めていった。衝立は前と横の三方に立てる事とし、組み立て式で持ち運びがし易いようにする。水樋にも目隠しを兼ねた蓋を付ける。
 合図をどう送るかについては、いっその事、魔法陣のスイッチを棒に繋げて外から動かせるようにしようと言う話になった。それなら水の販売を三人で回すことも可能になる筈である。

 ルゼは真剣に話し合う二人を見詰め、「なんだい、案外気が合いそうじゃないか」と内心で呟いた。
 知らず、柔らかな笑顔が浮かんでいるが、話に夢中になっている二人はそれに気付いていない。
「あら、勿体ない」
 いつの間にか累造の部屋へとやって来ていたチーナが、ルゼと二人を見比べて呟いた。
「チーナ?」
 振り返ったルゼの顔にはもう先程の笑顔は無く、怪訝な色が浮かぶ。
「今日の夕食は四人分で良いでしょうか?」
 チーナは誤魔化すように尋ねた。
「ああ、そうしてくれ」
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