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第二章 秋
第一四話 嘘
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俺達はこの日の内に鉄杭とロープを調達して温泉宿に向かった。
ホーリーが手にするのは予備の剣、俺が手にするのは鉈だ。
着ていた服も持っていた剣も何もかもが落とし穴に落ちたので全部代わりを用意した。
そう、俺には予備の剣の持ち合わせが無い。
何度も送還される結果になっては素手で挑まなければならなくなるので何か対策しなければなるまい。
道中には何ごとも無く、温泉宿に着いたのは日暮れ頃だ。
今度のホーリーは「頼もう」とは言わずに右手の紐を引く。
学習する美少女であった。
程なくしてパタパタとした足音が近付いて来る。
「お客さん達!?」
メーアの第一声は驚きに満ちた声だった。
「何を驚いているのだ?」
「あ、あの……」
メーアは躊躇うように言い淀む。
「取り敢えずお部屋にどうぞなのです」
話したいことが有るものの、用意するものが有るのでそれから話すと言う。
そうして先に俺達を部屋まで案内したメーアが大きな袋とシートを担いだロベンスと共に再び部屋を訪れたのは、部屋に着いてからほんの数分後のことだ。
「これはお客様の服と持ち物なのではありませんの?」
そう言う間にもロベンスがシートを床に広げ、メーアが袋から取り出した品物をその上に並べる。
ランプ、剣、背負い袋、服、靴と殆どが見覚えの有る品物だ。
女物の下着には見覚えが無いがホーリーが顔を真っ赤にしながらあたふたと奪って隠したところを見ると、ホーリーには見覚えの有る品物らしい。
俺が着ていた服には大穴が空いて滲んだ血の染みが付いている。
どう見ても致命傷。
一方でホーリーの服はそうなっていない。
恐らく刺に刺さるまえに送還されたのだ。
「確かに俺達のものだけど、これをどうして……?」
不思議なのはこれらがどうしてここに有るのか。
いずれも落とし穴の下に有る筈である。
「立て札より奥に入って罠に掛かった方の遺品は当宿の近くに吐き出されるのです」
何でも、犠牲者の肉体と持っていた食糧はダンジョンに吸収されるので残らないのだとか。
そんなことが有るのかとホーリーの様子を窺えば、ホーリーも同じことを問いたげに俺を見ていた。
知らないらしい。
だから半信半疑ながらも「そんなことが……」とメーアの言葉に相槌を打った。
「それでなのです。
服の穴はどう見ても致命傷なのです」
俺もそう思う。
「これでどうしてお客様が生きているのかは伺いませんし、これらはお返しします」
メーアから引き継いでロベンスが言う。
「そしてどうか奥に行くのは諦めてください。
奥に行って帰った者は居りません」
その真剣な言葉に俺は一瞬息が詰まり、半ば無意識にホーリーを見る。
ホーリーは少し考え込むように目を閉じ、また開けると表情を引き締めた。
「そうはいかんのだ。
このダンジョンに有ると言うエリクサーを持ち帰らなければならない」
「エリクサー?」
ロベンスは問い掛けるようにメーアを見、メーアは頭を振って応える。
「知ってる?」「知らない」なんて会話が為されたのだろう。
「聞いたことが有りませんが、エリクサーとは何でしょう?」
「万病に効く霊薬だ」
「霊薬ですか? それがこのダンジョンに有るとおっしゃるのですか?」
ロベンスはまた問い掛けるようにメーアを見、メーアもまた頭を振って応える。
「そのようなものはこのダンジョンには有りませんが……」
「どうしてそう言い切れるのだ? ご主人は奥に行ったことが有るのか?」
「い、いえ。
滅相もありません」
ロベンスは両手と共に首を左右に振った。
「ならば行って確かめねば判らぬではないか」
「そ、そうですね……」
ロベンスは困惑した表情でメーアと顔を見合わせた。
そして説得を諦めたらしく、それ以上の止め立ての言葉を紡ぐこと無く部屋を辞して行った。
懐具合としては探索を継続したいが、心情的には俺も彼らと似たようなもので、エリクサーを諦めた方が良いと思う。
そもそもの話が胡散臭いのだ。
ロベンスの言う通りに奥に行った者が誰も帰っていないのなら、第三王女はどうやってエリクサーの存在を知ったのか。
「エリクサーの話がそもそも嘘だったんじゃないか?」
俺にはそう思える。
「殿下は嘘などおっしゃらない。
万が一、殿下の勘違いだったとしてもペッテが気付く筈だ」
「お、おう……」
ここでまたペッテなのか。
ホーリーはペッテに頼りすぎだろう。
ホーリーを愛でるのに全力を傾けていると思われるペッテが傍に居たらそうなっても仕方ないのかも知れないが。
それとは別にどうにももやもやとした違和感が燻ってしまい、どうにも消えてくれなかった。
夕食は昨日と同じく温泉を楽しんでから。
鳥肉のローストを中心に、鳥肉とタルタルソースがふんだんに使われたメニューだ。
俺には鳥肉料理のバリエーションが楽しめて文句の無いものなのだが、ホーリーの表情はあまり動かない。
ペッテの料理を食べる時とは大違いだ。
昨日今日と連続での鳥肉とタルタルソースだから、若干飽きたのも有るだろうとは思う。
その料理を運ぶメーアはと言えば、先の件は無かったかのような振る舞いだった。
食後は特にすることも無く、早々に寝る。
こうしてみると、温泉以外に楽しむものが無いのは退屈だ。
夏場にこの宿の客が少ないのも判る気がする。
ここでは屋外の空気を吸うこともできないのだ。
一方、冬場は部屋に籠もりがちになるのでどこに居ても大差無いに違いない。
「だったら温泉を楽しもう」と皆が考えても不思議ではない。
ホーリーが手にするのは予備の剣、俺が手にするのは鉈だ。
着ていた服も持っていた剣も何もかもが落とし穴に落ちたので全部代わりを用意した。
そう、俺には予備の剣の持ち合わせが無い。
何度も送還される結果になっては素手で挑まなければならなくなるので何か対策しなければなるまい。
道中には何ごとも無く、温泉宿に着いたのは日暮れ頃だ。
今度のホーリーは「頼もう」とは言わずに右手の紐を引く。
学習する美少女であった。
程なくしてパタパタとした足音が近付いて来る。
「お客さん達!?」
メーアの第一声は驚きに満ちた声だった。
「何を驚いているのだ?」
「あ、あの……」
メーアは躊躇うように言い淀む。
「取り敢えずお部屋にどうぞなのです」
話したいことが有るものの、用意するものが有るのでそれから話すと言う。
そうして先に俺達を部屋まで案内したメーアが大きな袋とシートを担いだロベンスと共に再び部屋を訪れたのは、部屋に着いてからほんの数分後のことだ。
「これはお客様の服と持ち物なのではありませんの?」
そう言う間にもロベンスがシートを床に広げ、メーアが袋から取り出した品物をその上に並べる。
ランプ、剣、背負い袋、服、靴と殆どが見覚えの有る品物だ。
女物の下着には見覚えが無いがホーリーが顔を真っ赤にしながらあたふたと奪って隠したところを見ると、ホーリーには見覚えの有る品物らしい。
俺が着ていた服には大穴が空いて滲んだ血の染みが付いている。
どう見ても致命傷。
一方でホーリーの服はそうなっていない。
恐らく刺に刺さるまえに送還されたのだ。
「確かに俺達のものだけど、これをどうして……?」
不思議なのはこれらがどうしてここに有るのか。
いずれも落とし穴の下に有る筈である。
「立て札より奥に入って罠に掛かった方の遺品は当宿の近くに吐き出されるのです」
何でも、犠牲者の肉体と持っていた食糧はダンジョンに吸収されるので残らないのだとか。
そんなことが有るのかとホーリーの様子を窺えば、ホーリーも同じことを問いたげに俺を見ていた。
知らないらしい。
だから半信半疑ながらも「そんなことが……」とメーアの言葉に相槌を打った。
「それでなのです。
服の穴はどう見ても致命傷なのです」
俺もそう思う。
「これでどうしてお客様が生きているのかは伺いませんし、これらはお返しします」
メーアから引き継いでロベンスが言う。
「そしてどうか奥に行くのは諦めてください。
奥に行って帰った者は居りません」
その真剣な言葉に俺は一瞬息が詰まり、半ば無意識にホーリーを見る。
ホーリーは少し考え込むように目を閉じ、また開けると表情を引き締めた。
「そうはいかんのだ。
このダンジョンに有ると言うエリクサーを持ち帰らなければならない」
「エリクサー?」
ロベンスは問い掛けるようにメーアを見、メーアは頭を振って応える。
「知ってる?」「知らない」なんて会話が為されたのだろう。
「聞いたことが有りませんが、エリクサーとは何でしょう?」
「万病に効く霊薬だ」
「霊薬ですか? それがこのダンジョンに有るとおっしゃるのですか?」
ロベンスはまた問い掛けるようにメーアを見、メーアもまた頭を振って応える。
「そのようなものはこのダンジョンには有りませんが……」
「どうしてそう言い切れるのだ? ご主人は奥に行ったことが有るのか?」
「い、いえ。
滅相もありません」
ロベンスは両手と共に首を左右に振った。
「ならば行って確かめねば判らぬではないか」
「そ、そうですね……」
ロベンスは困惑した表情でメーアと顔を見合わせた。
そして説得を諦めたらしく、それ以上の止め立ての言葉を紡ぐこと無く部屋を辞して行った。
懐具合としては探索を継続したいが、心情的には俺も彼らと似たようなもので、エリクサーを諦めた方が良いと思う。
そもそもの話が胡散臭いのだ。
ロベンスの言う通りに奥に行った者が誰も帰っていないのなら、第三王女はどうやってエリクサーの存在を知ったのか。
「エリクサーの話がそもそも嘘だったんじゃないか?」
俺にはそう思える。
「殿下は嘘などおっしゃらない。
万が一、殿下の勘違いだったとしてもペッテが気付く筈だ」
「お、おう……」
ここでまたペッテなのか。
ホーリーはペッテに頼りすぎだろう。
ホーリーを愛でるのに全力を傾けていると思われるペッテが傍に居たらそうなっても仕方ないのかも知れないが。
それとは別にどうにももやもやとした違和感が燻ってしまい、どうにも消えてくれなかった。
夕食は昨日と同じく温泉を楽しんでから。
鳥肉のローストを中心に、鳥肉とタルタルソースがふんだんに使われたメニューだ。
俺には鳥肉料理のバリエーションが楽しめて文句の無いものなのだが、ホーリーの表情はあまり動かない。
ペッテの料理を食べる時とは大違いだ。
昨日今日と連続での鳥肉とタルタルソースだから、若干飽きたのも有るだろうとは思う。
その料理を運ぶメーアはと言えば、先の件は無かったかのような振る舞いだった。
食後は特にすることも無く、早々に寝る。
こうしてみると、温泉以外に楽しむものが無いのは退屈だ。
夏場にこの宿の客が少ないのも判る気がする。
ここでは屋外の空気を吸うこともできないのだ。
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「だったら温泉を楽しもう」と皆が考えても不思議ではない。
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