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14 ギルドの秩序
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1時間あまり経ってから、ギルド長がギルダースさんに連れられて来た。ほんとに首根っこを捕まえられている。ギルド長が逃げも隠れもしたのかも知れないし、ギルダースさんが説得しようとして埒が明かなかったから実力行使に出たのかも知れない。
職員は病欠と町を離れている人を除いて全員集合したらしい。病欠の人については、エクローネが本人のところに赴いて臥せっているのを確認したらしい。
この間に冒険者ギルドに居た冒険者は全員外に出されていて、ギルドも一時的に閉鎖されている。
「放せ! 放さんか! わしはギルド長だぞ!」
「黙りな!」
おかみさんの一喝でギルド長が静かになった。若干ぷるぷる震えている。おかみさんに凄まれたらみんなこんな風になるみたい。
おかみさんが2枚の契約書をギルド長に突き付ける。
「ギルド長、随分舐めた真似をしてくれたようだね」
「し、知らん! そんな偽造書類なんぞ、わしは知らん!」
「書類を一目見ただけで、よく偽造だなんて判ったね?」
「知らん! わしは知らん!」
「はっ! まったく会話にならないね」
おかみさんは忌々しげに吐き捨てた。
「あんたが知ってようと知ってなかろうとどうでもいいんだよ。この娘とあんたとの契約と、あんたとギルドとの契約を取り消す気は有るかい?」
「ふん! なんでわしがそんなことをしなきゃならんのだ! 契約や正式なものだ。取り消す必要など無い!」
「ああ、確かに契約書は正式だよ。表向きにあんたがやらかしたのは1枚の書類偽造だけだから、大した罪にはならないだろうね」
「ふ、ふん! 判っているではないか」
ギルド長は虚勢を張ってる感じ?
「だけど、それじゃ、ギルドの秩序が保たれないんだよ。なあ、エクローネ?」
「は、はい……」
エクローネは沈痛な面持ちで俯いた。ギルドランクの昇格の話の時に、あたしに言った言葉がブーメランになってるものね。おかみさんもそのことに掛けて言ったのかな?
それにしても腹立たしい。あたしの事情なんて斟酌せずに秩序を押し付けた癖に、自分達は秩序もへったくれもないんだから。
おかみさんはまたギルド長へと向き直る。
「それで、書類偽造に関わったのは何人だい?」
「知らん!」
「5名です。退職した者を含めると8名になります」
ギルド長の後ろから声が被さった。見覚えがある。ギルド長に付き従っていた人だ。
「あんたは?」
「ギルド長の秘書を務めさせて頂いております、ランドルと申します」
「それで、あんたは話す気があるのかい?」
「はい」
「ランドル! おのれ!」
「はいはい、ギルド長は黙ってな」
おかみさんは騒ぐギルド長の靴を脱がせて口に突っ込んだ。
「むー、むー、むー」
ギルド長が何やら叫ぶけど、声にはなっていない。
「ギルド長、もう止めましょう。正直言って疲れました」
ランドルは今までのことを洗いざらい話した。
かなり前からあたしの時と同様の手口で、何度となく冒険者から獲物を騙し取っていたらしい。あたしの時ほどの大物は今まで無かったのと、騙し取る額も精々半分だけだったから、ギルダースさんもエクローネも気付かなかったのだろうって話だ。査定にはそのくらいのぶれが有るからだって。
総額は億単位にはなっていた様子。どれだけの回数を繰り返したのか想像もしたくない。そんな回数をギルダースさんやエクローネの目を盗んで行っていたと言うからびっくりだ。
話を聞いていたギルダースさんもエクローネも項垂れている。気付かなかったことがショックだったのかな?
だけどここで被害者ぶられてもなぁ。
「呆れたもんだね」
おかみさんは怒るのも忘れたように、何故か寂しそうにしている。
もしかしたらおかみさんにとっても冒険者ギルドは大切な場所なのかも知れない。あたしにはどうでもいい場所でしかないけど。
「何にしても、罪には罰を与えないといけないね。退職した者も含めて迷宮の89階送りってところかね。生き残れば無罪放免でいいだろう」
「89階だと!? 最前線じゃないか! そんな所に行くなど死にに行くようなものではないか!」
いつの間にか靴を吐き出していたギルド長が叫んだ。おかみさんの目が据わる。
「ギルド長。あんたの声は怒りを持続させるのにもってこいだね」
「何だと!」
「そうだね、ギルド長は1年間、他の者は2ヶ月間の89階勤務としよう。ギルド長は罰金も5億ゴールドだ。罰金がギルドに入ることは無いけどね、ギルド長が持っているより行政で使った方が有意義だろう」
契約書が偽造されていても、実際の取り引きには本物が使われているので、法的には被害者に補填されたりしないらしい。
「ふざけるな! そんなこと貴様が勝手に決めて良いものではないぞ!」
おかみさんはギルド長の襟元を掴んで睨み付けた。
「いいんだよ。あんたはここにランク2が3人居ることを忘れてないか? 今すぐあんたの首を刎ねることだってできるんだ」
「あ……」
ギルド長は目を見開いて、痙攣を起こしたように震えて言葉を失った。
「精々、罰金を払う資金を迷宮で稼いで来るんだね」
ギルド長に言い捨てるように言った後、おかみさんはエクローネに向き直った。
「さて、エクローネ。この娘のことなんだがね。ギルドでちゃんと補償してやっておくれよ?」
「はい、勿論です。具体的にはランク5での再登録と、賠償金として1億ゴールドを支払うと言うことでいかがでしょうか? 本来なら、3億ゴールドを賠償するべきだと思いますが、今はギルドの出費も多いために1億が限界なのです」
「そうかい。まあ、そう言うことならしょうがないね。チカ、あんたはそれでいいかい?」
あ、おかみさんに初めて名前で呼ばれた気がする。ちょっと感動かも。いや、それは今はどうでもいいことだ。
あたしは首を横に振る。エクローネの言った内容に、少々カッチーンと来たんだ。
「冒険者ギルドの再登録なんてしません。どうせまた義務の話が出てくるのが目に見えていますから」
エクローネは便宜を図ったつもりかも知れないけど、言ってた秩序はどこに行ったんだ!? それにまた勝手にランク3に上げようとするんじゃないの? もう全く便宜になってないんだよ。迷惑なんだよ!
「賠償の方も、掛からない筈だった税金さえどうにかして貰えれば、それだけでいいです。騙されたのはあたしの責任ですし……。それより、この事件のことは公表してください。あたしが3億ゴールドも持っていると思われているのは迷惑です」
また変なのに絡まれるのは嫌だ。
賠償の話も何か嫌。可哀想な人に恵んでやると言われているようで惨めになる。
「そんなことをしていいのかい? あんたの方こそ、ドラゴンを騙し取られた間抜けと陰口を叩かれるよ?」
「はあ、それならそれで仕方ありません。間抜けだったのは事実ですし……」
ここでギルドから毟れるだけ毟るのがこの世界の流儀かも知れないけど、そこのギルド長と同じことをするようで嫌だ。
とにかくこんな連中と同じになるのが嫌なんだよ!
それにね。何も起きなければ、あたしは騙されていたことにも気付かないままだったと思う。相場を知らないから査定額を誤魔化されていても判らないんだ。だから自分への戒めのためにも断った方がいいように思う。
「そうかい……」
おかみさんもエクローネも何だかもどかしげな表情をするけど、あたしには理由が判らない。不憫にでも思われてるのかな?
「それでは、税金をギルドで納付して、納税証明書を発行しましょう」
「そうだね。もう1つ、家の改装なんてどうだろう?」
「改装ですか?」
「ああ、この娘は店を開きたいらしいんだけど、改装費用が無いらしいんだ」
「承りました」
「あんたもいいかい?」
おかみさんの提案はきっと全てが善意だ。だからそれを全部無下にするのも申し訳ない感じがする。
「はい。改装なら」
あたしが提案を受け入れたら、おかみさんとエクローネはあからさまにホッとする表情をした。ギルドにとっては出費や手間が増えるのにおかしなことだ。
その後、あたしは納税証明書を貰って、独りで家路についた。おかみさんはギルドに残って後始末をするらしい。
今日はなんだか気疲れしたので早く寝るとしよう。迷宮とか言う、邪神を連想しそうなことは聞かなかったことにしよう。
職員は病欠と町を離れている人を除いて全員集合したらしい。病欠の人については、エクローネが本人のところに赴いて臥せっているのを確認したらしい。
この間に冒険者ギルドに居た冒険者は全員外に出されていて、ギルドも一時的に閉鎖されている。
「放せ! 放さんか! わしはギルド長だぞ!」
「黙りな!」
おかみさんの一喝でギルド長が静かになった。若干ぷるぷる震えている。おかみさんに凄まれたらみんなこんな風になるみたい。
おかみさんが2枚の契約書をギルド長に突き付ける。
「ギルド長、随分舐めた真似をしてくれたようだね」
「し、知らん! そんな偽造書類なんぞ、わしは知らん!」
「書類を一目見ただけで、よく偽造だなんて判ったね?」
「知らん! わしは知らん!」
「はっ! まったく会話にならないね」
おかみさんは忌々しげに吐き捨てた。
「あんたが知ってようと知ってなかろうとどうでもいいんだよ。この娘とあんたとの契約と、あんたとギルドとの契約を取り消す気は有るかい?」
「ふん! なんでわしがそんなことをしなきゃならんのだ! 契約や正式なものだ。取り消す必要など無い!」
「ああ、確かに契約書は正式だよ。表向きにあんたがやらかしたのは1枚の書類偽造だけだから、大した罪にはならないだろうね」
「ふ、ふん! 判っているではないか」
ギルド長は虚勢を張ってる感じ?
「だけど、それじゃ、ギルドの秩序が保たれないんだよ。なあ、エクローネ?」
「は、はい……」
エクローネは沈痛な面持ちで俯いた。ギルドランクの昇格の話の時に、あたしに言った言葉がブーメランになってるものね。おかみさんもそのことに掛けて言ったのかな?
それにしても腹立たしい。あたしの事情なんて斟酌せずに秩序を押し付けた癖に、自分達は秩序もへったくれもないんだから。
おかみさんはまたギルド長へと向き直る。
「それで、書類偽造に関わったのは何人だい?」
「知らん!」
「5名です。退職した者を含めると8名になります」
ギルド長の後ろから声が被さった。見覚えがある。ギルド長に付き従っていた人だ。
「あんたは?」
「ギルド長の秘書を務めさせて頂いております、ランドルと申します」
「それで、あんたは話す気があるのかい?」
「はい」
「ランドル! おのれ!」
「はいはい、ギルド長は黙ってな」
おかみさんは騒ぐギルド長の靴を脱がせて口に突っ込んだ。
「むー、むー、むー」
ギルド長が何やら叫ぶけど、声にはなっていない。
「ギルド長、もう止めましょう。正直言って疲れました」
ランドルは今までのことを洗いざらい話した。
かなり前からあたしの時と同様の手口で、何度となく冒険者から獲物を騙し取っていたらしい。あたしの時ほどの大物は今まで無かったのと、騙し取る額も精々半分だけだったから、ギルダースさんもエクローネも気付かなかったのだろうって話だ。査定にはそのくらいのぶれが有るからだって。
総額は億単位にはなっていた様子。どれだけの回数を繰り返したのか想像もしたくない。そんな回数をギルダースさんやエクローネの目を盗んで行っていたと言うからびっくりだ。
話を聞いていたギルダースさんもエクローネも項垂れている。気付かなかったことがショックだったのかな?
だけどここで被害者ぶられてもなぁ。
「呆れたもんだね」
おかみさんは怒るのも忘れたように、何故か寂しそうにしている。
もしかしたらおかみさんにとっても冒険者ギルドは大切な場所なのかも知れない。あたしにはどうでもいい場所でしかないけど。
「何にしても、罪には罰を与えないといけないね。退職した者も含めて迷宮の89階送りってところかね。生き残れば無罪放免でいいだろう」
「89階だと!? 最前線じゃないか! そんな所に行くなど死にに行くようなものではないか!」
いつの間にか靴を吐き出していたギルド長が叫んだ。おかみさんの目が据わる。
「ギルド長。あんたの声は怒りを持続させるのにもってこいだね」
「何だと!」
「そうだね、ギルド長は1年間、他の者は2ヶ月間の89階勤務としよう。ギルド長は罰金も5億ゴールドだ。罰金がギルドに入ることは無いけどね、ギルド長が持っているより行政で使った方が有意義だろう」
契約書が偽造されていても、実際の取り引きには本物が使われているので、法的には被害者に補填されたりしないらしい。
「ふざけるな! そんなこと貴様が勝手に決めて良いものではないぞ!」
おかみさんはギルド長の襟元を掴んで睨み付けた。
「いいんだよ。あんたはここにランク2が3人居ることを忘れてないか? 今すぐあんたの首を刎ねることだってできるんだ」
「あ……」
ギルド長は目を見開いて、痙攣を起こしたように震えて言葉を失った。
「精々、罰金を払う資金を迷宮で稼いで来るんだね」
ギルド長に言い捨てるように言った後、おかみさんはエクローネに向き直った。
「さて、エクローネ。この娘のことなんだがね。ギルドでちゃんと補償してやっておくれよ?」
「はい、勿論です。具体的にはランク5での再登録と、賠償金として1億ゴールドを支払うと言うことでいかがでしょうか? 本来なら、3億ゴールドを賠償するべきだと思いますが、今はギルドの出費も多いために1億が限界なのです」
「そうかい。まあ、そう言うことならしょうがないね。チカ、あんたはそれでいいかい?」
あ、おかみさんに初めて名前で呼ばれた気がする。ちょっと感動かも。いや、それは今はどうでもいいことだ。
あたしは首を横に振る。エクローネの言った内容に、少々カッチーンと来たんだ。
「冒険者ギルドの再登録なんてしません。どうせまた義務の話が出てくるのが目に見えていますから」
エクローネは便宜を図ったつもりかも知れないけど、言ってた秩序はどこに行ったんだ!? それにまた勝手にランク3に上げようとするんじゃないの? もう全く便宜になってないんだよ。迷惑なんだよ!
「賠償の方も、掛からない筈だった税金さえどうにかして貰えれば、それだけでいいです。騙されたのはあたしの責任ですし……。それより、この事件のことは公表してください。あたしが3億ゴールドも持っていると思われているのは迷惑です」
また変なのに絡まれるのは嫌だ。
賠償の話も何か嫌。可哀想な人に恵んでやると言われているようで惨めになる。
「そんなことをしていいのかい? あんたの方こそ、ドラゴンを騙し取られた間抜けと陰口を叩かれるよ?」
「はあ、それならそれで仕方ありません。間抜けだったのは事実ですし……」
ここでギルドから毟れるだけ毟るのがこの世界の流儀かも知れないけど、そこのギルド長と同じことをするようで嫌だ。
とにかくこんな連中と同じになるのが嫌なんだよ!
それにね。何も起きなければ、あたしは騙されていたことにも気付かないままだったと思う。相場を知らないから査定額を誤魔化されていても判らないんだ。だから自分への戒めのためにも断った方がいいように思う。
「そうかい……」
おかみさんもエクローネも何だかもどかしげな表情をするけど、あたしには理由が判らない。不憫にでも思われてるのかな?
「それでは、税金をギルドで納付して、納税証明書を発行しましょう」
「そうだね。もう1つ、家の改装なんてどうだろう?」
「改装ですか?」
「ああ、この娘は店を開きたいらしいんだけど、改装費用が無いらしいんだ」
「承りました」
「あんたもいいかい?」
おかみさんの提案はきっと全てが善意だ。だからそれを全部無下にするのも申し訳ない感じがする。
「はい。改装なら」
あたしが提案を受け入れたら、おかみさんとエクローネはあからさまにホッとする表情をした。ギルドにとっては出費や手間が増えるのにおかしなことだ。
その後、あたしは納税証明書を貰って、独りで家路についた。おかみさんはギルドに残って後始末をするらしい。
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