天ぷらで行く!

浜柔

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15 家の改装

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 冒険者ギルドでの一悶着の翌日。エクローネは朝早くからやって来た。大工さんを1人連れている。昨日の今日でよく連れてこられたものだと思う。
 あたしは大工さんに希望を言った。そうしたらエクローネが完成予想のスケッチを描いて見せてくれた。
 画の光景は、あたしが想像していたものより良いものだ。彼女の多才さが羨ましい。
 そのエクローネはこれで帰るのかと思ったら、大工さんと寸法を測り始めた。大工さんと面を通して改装内容を決めるまでが彼女の用事じゃなかいのかな?
 何故かな? 急過ぎるから大工さんに助手を頼まれたとか? でも大工さんが忙しいなら、改装は慌てなくていいんだ。改装できたからって、直ぐに開店できるものでもないんだし。
 何でかって、あたしが彼女にあまり構われたくないから。ギルドランクの昇格の話の時の印象が悪かったし、昨日もそう。彼女の都合を押し付けて来るようにしか思えなかった。だから何か裏が有るような気になる。
 あたしの誤解かも知れないけどね。でも、そうだったとしても、もやもやは消えないんだ。

 午後からはもう、大工さんが改装に取り掛かった。準備に何日か掛けてから始めるものとばかり思っていたからびっくりだ。材料の仕入れなんかにも時間が掛かると思うんだけど。
 ここまで来たら、さすがにあたしにだって特別扱いされているのが判る。だから疑問。騙された金額はあたしが突出して多いけど、別にあたしが持っていたお金を取られた訳じゃない。契約書は正式で、あたしが格安で売ってしまっただけのこと。
 だから補償なんてしなくても冒険者ギルドに咎めは無い筈だ。あたしのことなんて知らぬ存ぜぬで押し通したって、何事も無かったように世界は回って行くんじゃないかな。

 1週間で改装が終わった。驚きの早さだよ。
 その間、あたしは酒場のウェイトレスをしていた。時折、おかみさんが言った通りの陰口が聞こえて来て泣きたくなったけど、ぐっと我慢した。殴ってやりたいと思わなかったと言えば嘘になる。だけどそんなことをしたらおかみさんに迷惑を掛けるだけだものね。聞こえないふりをして作り物の笑顔を貼り付けた。
 愛想笑いが随分上手くなった気がする。
 だけどそんな時、おかみさんから痛ましげに見られていたことが有った。それがあたしには陰口より辛かった。
 哀れまれたくはないんだよ!
 噂には、ギルドがドラゴンで10億円儲けたと言うものも有る。最低買い取り額が3億円だって話だから、強ち嘘じゃないんだろう。
 でもそれが本当だったら、賠償金の話の時に「1億円しか支払えない」と言っていたのが判らない。一体、何に使っているんだ? 借金でも有ったのかな?
 色々不思議だけど、噂を追及すると深みに填りそうだから、知らなくてもいいかな。

  ◆

「きゃーっ!」
 パチパチパチ。
 改装が終わった自宅は想像以上に綺麗だった! そりゃ、歓声だって拍手だって出ちゃうよ!
 この1週間、酒場に寝泊まりしていて、改装中の自宅を全く見ていなかったからね。余計に込み上げて来る。
 外壁は新品の杉板のような色で綺麗に塗り直されていて、玄関の扉やひさしが新品に変わってる。全体的に落ち着いた色合いが天ぷらにピッタリだ。
 建物に向かって左端に在る入り口から入って、扉から1メートル半くらいの所にカウンター。カウンターの左側3分の2は下がガラスのショウケースになっている。窓ガラスの入った家が少ないから、ガラスは高価な筈だ。随分奮発してくれたものだと思う。残る右側はカウンターを跳ね上げて出入りできるようになっている。
 入って右側、カウンターの手前奥には、カウンターに向かって2人が座れるだけの小さなベンチも有る。
 このベンチが必要になるほど繁盛したらいいなぁ。
 ベンチの上の所には小さな出窓が在る。
 カウンターの奥、左の壁際に据えられた竈も新しい。元々そこには奥行き50センチメートル程度の暖炉が有ったのだけど、それが竈兼用のものに置き換えられた。1週間でよく設置できたものだと感心する。
 不思議なことに、暖炉は有っても煙突は無かった。煙をどうするつもりだったんだろう? 家を建てた人に聞いてみたい気がする。今回は天井の隅に煙用のダクト造って貰っている。建物の正面までだ。家の中に油が飛び散らないように、換気扇の代わりに魔法で風を起こして換気するつもり。
 竈の横には蛇口の無い流しも設置されている。水はこれまた魔法頼みだけどね。
 家に幾つか有った傷みかけていた部分も全て修理されている。ベッドの土台も新しい。至れり尽くせりだ。
 費用が幾ら掛かったのか少し気になるけど、きっとこれは言わない約束だろう。
「ご満足いただけましたか?」
 エクローネに尋ねられた。
 出来上がりを見て回っている間、エクローネがずっと傍に居たけど、話はしていなかったんだよね。何かを質問すれば答えてくれたのだろうけど、特に質問することも無かった。
 エクローネも黙って後ろから付いて来ただけだ。何度かもの言いたげな仕草をしていたけど、言い難そうにもしていたので、あたしにとって嬉しくも何ともない話だと思って気付かない振りをした。
 今はもう彼女が善人で、業務に忠実だっただけなのは理解している。頭を冷やして考えたら判ることだった。それでも彼女を好きになれないのは、ボタンの掛け違いのようなものなんだ。だけどその掛け違いを一番して欲しくなかった場所でしてくれた。それを彼女が理解しているとは思えない。
 今回の件ではエクローネに随分と無理をさせたような気はする。冒険者ギルドがあたしに施しを与える理由なんて無いんだものね。多分、泣いて感謝でもすればあたし自身はすっきりするんじゃないかな? 施しへの対価を支払ったような気になれる筈だ。
 だけどそうしたくないし、そうしてはいけない気がする。だからあたしは笑うのだ。いつの間にか上手くなった愛想笑いで。
「はい!」
 エクローネは目を見開いただけで何も言わなかった。

 店先に戻ったら、ギルダースさんが待っていた。四角い大きな鍋やざるを手に抱えている。
「こんにちは」
 愛想笑いは絶好調だ。だけど、ギルダースさんは一瞬だけ渋面になった。何故だ?
「これは、職員からの開店祝いの前渡しだと思って受け取ってくれ」
 ギルダースさんは鍋や笊を差し出して来た。お祝いだと言われると断り辛いし、欲しかった物ではある。
 でもさ、冒険者ギルドの職員から貰う謂われは無いんだよね。そんなの受け取り難くない?
 だけど躊躇ってたら押し付けるようにされたから受け取った。ちょっと困惑だ。
 ギルダースさんは小さな四角い石も差し出して来た。
「これは、リドルとエクローネと俺からだ」
「何ですか、これ?」
「通話石と言う魔法道具だ。それぞれで違う番号が刻まれていて、その番号を指定して通話ができる」
 なんと! 電話みたいなものがあるんだ!
「それは、すごいですね!」
「ああ、会話が周りに丸聞こえと言う難点は有るが、商売をするには必須だろう」
「ありがとうございます!」
 電話が有るのと無いのとでは、確かに大きな違いだ。予めこの魔法道具の存在を教えて貰えたのは有り難い。お礼はまあ、どちらかと言うと、情報に対してだね。
 あれ? ギルダースさんの視線を感じる。口元を見られているような……。
 うっわ、緩んでた。急いで口を押さえたね!
 そうしたら何故かギルダースさんに肩を竦められてしまった。
「それでは、商売の成功を願っている」
「私もです」
 それだけを言って、ギルダースさんとエクローネは帰って行った。
 あたしは見送りに外に出る。
「ありがとうございました」
 一応お礼は言うのさ。
 歩いて行くエクローネは俯いていて、ギルダースさんが彼女の頭を撫でているのが印象に残った。

 夜になって、ベッドに潜って、でもエクローネの後ろ姿が頭の中にちらついてなかなか寝付けない。
 あたしは何か失敗したのかな?
 だけど幾ら考えても判らない。判らないものは仕方がない。明日のことを考えよう。営業許可を取って、開店準備を進めなきゃ。
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