天ぷらで行く!

浜柔

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17 コスト削減できるかな

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 あたしも頑張って走った。頑張って人や建物を「避けた」かも知れない。
 それでも少しおかみさんを待たせた様子。何かにぶつかるのを怖れず、気にせずなら、おかみさんにも追い付けそうだけど、それをやったら大惨事だものね。
 おかみさんはあたしの家をしげしげと見ていた。
「おかみさんは、移動する時にいつも走ってるんですか?」
「そうだよ。鍛練の一貫みたいなものさ」
「鍛練でしたか……」
 隙あらば鍛練ってことかぁ。戦闘力を維持するにはそのくらいの努力が必要だってことなのか。
「そんなことより、建物はいい感じに仕上がってるじゃないか」
 おかみさんが満足そうに笑う。まるで自分のことを喜んでいるみたいに。
 本当に面倒見のいい人だ。
「あ、はい。お陰様で。ここでこうしているのも何ですから、どうぞ中へ」
「ああ、お邪魔するよ」
 おかみさんを店舗スペースの奥の台所に案内する。台所で作業したままになってるからね。そして、油と副産物を見せる。
「これは、とうもろこし粉だね」
 胚芽が少ないだけだから、見る人が見たら一発で判るんだろう。
「こっちは何だい?」
「それはコーンフレークです。とうもろこし粉を焼いたものです」
「このまま食べられるのかい?」
「はい」
 ひょいぱく。
 おかみさんはコーンフレークを口に放り込んだ。躊躇いが無いのに驚くような、躊躇われても困るような……。
 サクサク。
 おかみさんがコーンフレークを噛む。
「うん、悪くないね。殆ど味がしないけど、味は付ければいいんだしね」
「はい」
「これは?」
「大豆が潰れたものです」
「これが大豆? どうやったらこんなに潰れるんだろうね」
 おかみさんは1ミリメートルにも満たない薄さに潰れた大豆を手に取って、めつすがめつ眺めている。
「それは、油を絞る時にギュッとしたとしか……」
「それもそうだね。これは?」
「大豆粉です」
「なるほどね。だけど、売れるかどうかは何とも判断つかないね。おや? これは牛乳かい?」
「いえ、それは豆乳です」
「ん?」
 おかみさんは首を傾げた。
「大豆の絞り汁みたいなものです。飲んでみますか?」
「ああ」
 カップに豆乳を汲んで、おかみさんに渡す。
 おかみさんは不思議そうに1口飲んで、顔を顰めた。
「なんだか、独特の臭味が有るね」
「それはまあ……。お口に合いませんでしたか?」
「ああ。見た目が牛乳みたいだから、余計に変な感じがするのかね……」
 おかみさんは豆乳を飲むのを諦めた。
「あたしの出身地でも豆乳を嫌いな人も多いですから、仕方ないです」
 日本人みんなが豆乳を好きな訳じゃないからね。それどころか、嫌いな人の方が多いかも知れないし。
「こっちの絞り滓みたいなのは?」
「豆乳を絞った絞り滓です」
「食べられるのかい?」
「はい。だけど、このままでは美味しくありません」
 ひょいぱく。
 おかみさんはおからを1つまみ口に入れて、舌を出した。
「ほんとだね。こっちは米かい?」
「はい。米から糠を取り除いたものです」
「ふぅん、米って白いものだったんだね」
「ええ、まあ」
 白さに感心するってことは、ここでは玄米をそのまま食べるのが普通なのだろう。
「これは?」
「糠です。それは油を絞った絞り滓です」
「見るからに不味そうだね」
「はい」
「こっちは?」
「そのお米を炊いたものです」
 ひょいぱく。
 おかみさんはご飯を口に放り込んで、少し首を捻る。
「味が無いね」
「お……そうですね」
 おかずと一緒に食べるものだからと言おうとして止めた。この米はピラフやパエリアにでもしないと美味しくないから、おかずが有っても駄目っぽいんだよなぁ。残った米はそっち方面でどうにかしよう。
「どうでしょう? 売れるでしょうか?」
「うーん」
 おかみさんは首を捻った。
「確実なのはとうもろこし粉かね。米とコーンフレークとやらも売ろうと思えば売れるだろう。他のはよく判らないね」
「そうですか……」
 とうもろこしはともかく、白米や大豆を加工した品物はおかみさんにとって初めて見るものみたいだから、判らなくて当然なのかも知れない。
 とうもろこしは手間が掛かるので避けたかったのだけどね……。残り物を売るなら、できる限りとうもろこしにするのがいいのかな?
「ところで、あんたが店で売ろうってのは有るのかい?」
「え? あ、すみません、今は準備していません」
「どんなものを売るのか知っておきたいんだけど、直ぐに用意できるかい?」
「はい。材料さえ買ってくれば、そんなに手間は掛かりません」
「じゃ、あたしは旦那とエクローネを連れてくるから、用意しておいておくれ」
 おかみさんは、あっと言う間に走って行った。

 あたしは呆けておかみさんを見送ってしまっていた。
 おかみさんの話の展開にちょっと付いて行けなかった……。でも、こうしている場合じゃない。急いで市場に行かなきゃ。
 買うのはナス、じゃがいも、人参、玉葱、小麦粉。ナス、じゃがいも、それに人参と玉葱のかき揚げにするつもり。
 市場に行って、ちょっとだけ困った。小麦粉はふすまが混じったものしか売ってない。ふすまが混じっていても天ぷらはできるけれど、今回は小麦粒を買って製粉するとしよう。

 買い物から帰ったら、エクローネがもう家の前で待っていた。
「こんにちは。あの、おかみさんは?」
「こんにちは。リドルさんなら旦那様をお迎えにいらっしゃっています」
 そう言うエクローネは勤務時間じゃないの? こんなにあっさり抜けて来ていいのかな? あたしを優先してくれてるのかも知れないけど、それはそれで何だか少し重いなぁ。
 悪いことをされてる訳でもないし、冒険者ギルドには改装費用を出して貰った手前もあるし、おかみさんが呼び出したこともあるしで、追い返したりはしないと言うか、できないけどね。
「そうですか。では、ここでは何ですからどうぞ」
「お邪魔します」
 エクローネにはおかみさんと旦那さんが来るまで入り口横のベンチに座って待って貰う。一階にはここしか座れる場所が無いんだ。
 あたしは天ぷらの下拵えをする。コーンフレークや何かの説明は旦那さんが来てからだ。
 予め拘束魔法で圧力を掛けた水に浸けておいた小麦を風刃魔法で大雑把に割って、板に挟んで圧迫したら、ある程度が粉になる。それを篩えば白い小麦粉の完成。
 作業の途中で目に入ったエクローネの顔には驚きが貼り付いているように見えた。風刃魔法になのか、あたしに魔法が使えることになのかは判らないけど。
 野菜は桶に入れ、魔法で水流を起こして洗う。じゃがいもの泥も綺麗に落ちてピカピカだ。
 ナスは半分に切り、太い部分に2ヶ所ほど切れ目を入れる。人参は皮が付いたまま千切りにし、玉葱は皮を剥いて薄切りにする。じゃがいもは皮が付いたままさいの目切りにする。
 ナスとじゃがいもには強めに塩を振って、香り付け程度に胡椒を振る。何も付けずに食べられるようにね。天つゆが無いから塩を強めにしないと味が足りないんだ。
 それから小さい鍋に大豆油を入れて、竈に乗せて加熱する。その間に小麦粉をさっくりと溶く。

 準備が粗方終わった頃に、おかみさんが戻って来た。旦那さんも一緒だった。旦那さんは割と恰幅がいいのに、どことなくダンディな印象が有る。
 3人を台所に案内しようと思ったけど、台所には4人入るだけの広さが無かった。3人には店舗の方で待って貰って、コーンフレークや何やをそちらに運ぶ。取り皿やスプーンも一緒にね。
 一通り運んだら説明だ。
「それでは、説明しますね」
「いや、あんたは準備の方を進めておくれ。あたしが説明しておくよ」
「あ、はい。ではお願いします」
 してくれると言うものを断る理由も無いものね。
「あ、そうだ。採れる油の量を聞いてなかったから、それだけ教えておくれ」
「はい。それぞれ100リブの重さの材料から採れる油は、大豆が15リブ、とうもろこしが1リブ半、米が1リブ半です。とうもろこしはもっと上手くすれば2リブ以上採れるかも知れません」
「あいよ」
「では、さっきおかみさんが食べたものはご自由にどうぞ」
 リブはここでの重さの単位で約400グラム。換算は勿論あたしの感だ。
 さて、あたしは天ぷらを揚げるとしましょうか。
 ……あれ? 思い出したけど、油の量はあたしのチート込みで絞った量だ。普通に人力で絞ったりすると、もっと少なくなる筈。
 だけど、口から出ちゃったものはもう取り返しがつかないよね……。ま、いいか。
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