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43 新居を求めて
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市街地を抜けたら城壁が在るんだろうと思っていたら、農地だった。その向こうが城壁。ここファラドナの城壁は、市街地だけでなく、農地も一緒に囲んでいる訳だ。
農地は城壁の外にも広がっていて、特に北と南の街道沿いが広い範囲で農地になっていたものだから、ちょっと驚かされた。
城壁は港を囲むように築かれていて、港から約4キロメートル離れている。市街地は港から約2キロで途切れて、何とも長閑な道になる。
あたしは、農地の間に西門まで真っ直ぐ続く道をゆっくり駆けて行く。ゆっくりじゃないと誰かに見咎められた時に不都合だから。
道の途中で擦れ違うのは主に冒険者達。市街地に向かう人の多くは大きな荷物を抱えている。今日の収穫じゃないかな。
西門を抜ける。
20メートル四方くらいの広場を挟んで直ぐの所から下町の町並みになっている。その更に西の北側には森林が、南側には荒野が広がっていると言う話だ。
広場や下町の道は至る所が抉れている。
整備が行き届いてないよね……。雨が降ったら水溜まりになりそうだし、そうなったら非常に歩き難いだろうな。乾いていたって足を取られそうだから、しっかり下を見て歩かないと。
城壁内の市街地でも馬糞を踏まないように下を向いて歩いたけど、ここでは躓かないように下を見なきゃいけない訳だ。
逆にここには馬糞が落ちてない。馬車は通らないらしい。道が狭くて通れないのかもだけど。
何せ、ここから見える下町の道は曲がりくねっていて、幅は3メートルも有れば良い方みたいなんだよね。建物が無秩序に建てられたんじゃないかなぁ。
建物の殆どは木造平屋建て。平屋建てと言えば聞こえが良いけど、荒ら屋にしか見えない。そんな中に、二階建てが立ち並ぶ一画が在って、威風を誇っている。
その二階建ての殆どが宿屋だった。
市街地の綺麗な町並みとはあまりに落差の激しい下町だけど、人通りはかなり多くて、寂れた感じは全くしない。屯して座り込んでいるような人達も居ない。道路や建物の見た目から来る印象よりも治安はいいんじゃないかな。
まあ、観光で見て回ったんじゃないんだけどね……。不動産屋らしき建物が見あたらなかったから、一旦広場に戻る。
環境の落差を考えたら、市街地の住人が下町に来ることは無さそう。市街地の不動産屋はほんとに下町について何も知らなかったんじゃないかと思う。ぞんざいにもなるよね……。
何にしても、うろうろするのは切り上げて、今晩の宿を探さなくちゃ。もう日が暮れ掛けてるから。
途方はとっくに暮れているんだけど。
「こんな所に突っ立ってる奴が居るかと思えば、昼間のねぇちゃんじゃないか」
後ろから声がしたので振り返ったら、昼間に声を掛けて来た冒険者だった。
「あ、先程はありがとうございました」
軽く会釈しながらの返事は、かなり棒読みになってしまった。自覚していた以上に気疲れしていたっぽい。
「ここは、ねぇちゃんみたいな小綺麗な娘の来る所じゃないぞ?」
「え? 綺麗?」
にへら。
頬に手を当てて、「あたしって綺麗」と呟いてみる。
「待て待て。誰が美人だと言った? 小綺麗と言っただろ? 身形のことだ」
「ええー」
しょんぼり。
「何だかめんどくさいねぇちゃんに声を掛けちまったな」
「めんどくさくてごめんなさい」
うん。何か色々めんどくさくなってるもんね。それが滲み出ちゃってるんだね……。
彼は視線を斜め上に向けて、頭を掻いた。
「あーもう。それで今度はどうしたって言うんだ?」
「市民登録するだけのお金が無いので下町で家を借りようかと思ったんですが、何処に行けばいいのか判らなくて……」
「店を開くだとか言ってた癖に、住む場所も無いってのにびっくりだな」
「面目ありません」
カクッと首を傾げた。
彼はと言えば、眉間に深く皺を寄せてこめかみを指で押さえていた。
「今晩の寝床は?」
「いえ、まだ」
首を横に振った。
「金は有るのか?」
「はい。そこそこに」
「だったら、宿屋を紹介してやるから付いて来な」
「はい。ありがとうございます」
「え?」
冒険者が驚いたような顔をした。
「はい?」
「ねぇちゃん。俺みたいな見ず知らずの男にほいほい付いて行っちゃ駄目だろ」
「ええ!? でも、冒険者さんが『付いて来い』って……」
「確かに言ったけどよ。ねぇちゃんは無防備すぎじゃないか? 少しは疑えよ」
「一応、警戒はしてますよ?」
荷物も全て拘束魔法で保護するくらいには警戒しているのだ。正確に言えば、拘束魔法の使い方を知ってからは常に全ての荷物を保護し続けている。
クーロンスの家も逃げ出すまではずっと保護していた。ここはもうあまりに遠くて力が及ばないから、今は解除した状態だけど。
とっくに荒らされてるんだろうな……。
「全くそうは見えないな」
「大丈夫ですよ。それに、冒険者さんは人畜無害っぽいですし」
「そう見えるのか?」
「はい」
彼は口をへの字に歪めた。
「人畜無害ってのは、人に言われると釈然としないのは何故だろうな?」
「さ、さあ……」
思わず視線を彷徨わせてしまった。
「まあ、いいや。さっさと行こうぜ。完全に日が暮れたら足下が危ないからな」
彼は手を掬い上げるように振って、さっさと歩いて行く。
「は、はい!」
あたしは急いで付いて行く。ちょっと焦ってしまったよ……。
道すがらに聞いた話だと、彼はリアルドと言う名前で、この下町で生まれ育って、ここを拠点に冒険者をしているらしい。
リアルドさんは真っ直ぐに二階建ての建物が立ち並ぶ方に歩いて、流れるようにその一つに入って行った。宿屋の看板を出している建物の一つだ。
あたしも続けて入る。
宿屋だと思ったら、30席くらいのの食堂だった! 半分以上の席がお客さんで埋まっている。
宿がどうのと言われて、宿屋に案内された筈なんだけど……、んんん?
「オヤジ、飯を2つだ」
「おう」
オヤジさんは軽い返事で振り返って、あたしに目を留めた。
あたしはついつい彼の頭頂部にまで達しているおでこに目を留めちゃったけど……。
「見ない顔だな」
「は、はいっ」
彼のおでこから視線を引き剥がして答えた。
「依頼者って風でもないな。一体、どこで会った?」
オヤジさんは途中からリアルドさんに尋ねた。
「西門でな。ふらふら危なっかしいから連れて来た」
ええっ!? ふらふらなんてしてないよ!? しっかり後のことを考えてたよ!
「確かにな……。悪い奴に騙されて泣きを見そうだ」
ぐっさり。
……今の精神攻撃は利いた。この人達はあたしが騙されたのを知らないんだけどさ……。
オヤジさんが真顔になる。
「悪いことは言わん。若い娘がこんなどこの馬の骨とも判らん奴にほいほい付いて来るもんじゃない」
「おいおい! 人聞きが悪いな!」
「そうですよ! ちゃんと人畜無害そうなのを見てから付いて来ましたよ!」
あたしが反論したら、リアルドさんにすっごい嫌そうな顔で見られた。オヤジさんも何とも微妙な顔をしている。
ええっ!? あたし、そんなに変なこと言った!?
「まあ、適当に座ってな。料理を持って来るから」
オヤジさんは脱力したようにしながら厨房に行ってしまった。
リアルドさんも脱力したように「こっちだ」とあたしをテーブルに手招きする。
席に着いてから、はたと気付いた。
「あの、メニューとか無いんですか?」
「無い。ここは日替わりだけだ」
「へぇ」
日替わりだけとは強気だ。だけどその方がロスも少なくていいのも確かなんだよね。
そんな食堂にはこれと言った飾り気は無い。木の質感そのままの壁が在って、テーブルと椅子が並んでいて、奥に階段が在るだけ。
あの階段の上が宿の部屋なんだろうね……。
「お待たせ」
「おう」
少しキョロキョロしている間に料理が来てしまった。日本のファミリーレストランも斯くやと言った早さだ。
料理は魚が主体になっている。港町だけのことはある。焼き魚にバジルソースを掛けたもの、煮魚、魚のスープと、パンを除けば魚尽くしだ。
ただこの煮魚は、見た目が醤油で煮付けた魚そのものなんだよね……。魚醤かな?
とにかく食べてみよう。お腹も空いてるし。
「いただきます」
「おう、食え食え」
リアルドさんはもう食べ始めている。
あたしも食べる。やっぱり煮魚から。
……味も濃口醤油っぽいなぁ。
「これって、醤油?」
「お? 醤油が判るとは、お嬢さんは東の島の出身かい?」
「え?」
たまたま通り掛かったオヤジさんの耳にあたしの独り言が届いたらしい。
あたしは人差し指を顎に当てて、斜め上を見ながら日本を思い浮かべてみる。
「あー、確かに東の島って言い方もされますねー」
「やっぱりな。この下町で見ない顔だからそうだろうと思ったよ」
「でも、どうして東の島って?」
「もう随分昔になったけどな、この町に東の島の出身だって奴が住み着いたのさ。醤油を作ってるのもそいつなんだが、壁の中の連中はこんな所に足を運びやしないから、ずっとこの町の者しか使ってない。だから、この町の人間じゃなくて知ってるとなれば、そいつと同じ出身の人間くらいだろ?」
オヤジさんの言う「この町」は、下町のことみたいだね。
それはさておき、「くらいだろ?」と言われてもねぇ……。
「そうなんですか?」
「いやいや、お嬢さんのことだろ?」
あたしには判らないんだから、聞き返されても困る。
「えーと、それはともかく、その人に頼んだら醤油を売って貰えるんでしょうか?」
「貰えるよ。奴は売る相手を選んでる訳じゃない。買うのがこの町の者しかいないだけだからな」
「ほんとですか!? その人の家はどこに!?」
「お、おっ!?」
勢い込んで尋ねたら、オヤジさんに引かれてしまった。
「すいません、つい……」
「そんなに醤油が欲しければ明日にでもリアルドに連れて行って貰いな。今日はもう遅いからな」
オヤジさんは呆れたように言った。
そしてあたしがリアルドさんの顔を窺ったら、リアルドさんは苦笑いしながら「頼まれてやるよ」と言った。
……おねだりなんて、ちょっと恥ずかしいことをしてしまった。
少し頬が熱くなったまま夕食の残りを食べて、あたしはこの店に宿を取った。
農地は城壁の外にも広がっていて、特に北と南の街道沿いが広い範囲で農地になっていたものだから、ちょっと驚かされた。
城壁は港を囲むように築かれていて、港から約4キロメートル離れている。市街地は港から約2キロで途切れて、何とも長閑な道になる。
あたしは、農地の間に西門まで真っ直ぐ続く道をゆっくり駆けて行く。ゆっくりじゃないと誰かに見咎められた時に不都合だから。
道の途中で擦れ違うのは主に冒険者達。市街地に向かう人の多くは大きな荷物を抱えている。今日の収穫じゃないかな。
西門を抜ける。
20メートル四方くらいの広場を挟んで直ぐの所から下町の町並みになっている。その更に西の北側には森林が、南側には荒野が広がっていると言う話だ。
広場や下町の道は至る所が抉れている。
整備が行き届いてないよね……。雨が降ったら水溜まりになりそうだし、そうなったら非常に歩き難いだろうな。乾いていたって足を取られそうだから、しっかり下を見て歩かないと。
城壁内の市街地でも馬糞を踏まないように下を向いて歩いたけど、ここでは躓かないように下を見なきゃいけない訳だ。
逆にここには馬糞が落ちてない。馬車は通らないらしい。道が狭くて通れないのかもだけど。
何せ、ここから見える下町の道は曲がりくねっていて、幅は3メートルも有れば良い方みたいなんだよね。建物が無秩序に建てられたんじゃないかなぁ。
建物の殆どは木造平屋建て。平屋建てと言えば聞こえが良いけど、荒ら屋にしか見えない。そんな中に、二階建てが立ち並ぶ一画が在って、威風を誇っている。
その二階建ての殆どが宿屋だった。
市街地の綺麗な町並みとはあまりに落差の激しい下町だけど、人通りはかなり多くて、寂れた感じは全くしない。屯して座り込んでいるような人達も居ない。道路や建物の見た目から来る印象よりも治安はいいんじゃないかな。
まあ、観光で見て回ったんじゃないんだけどね……。不動産屋らしき建物が見あたらなかったから、一旦広場に戻る。
環境の落差を考えたら、市街地の住人が下町に来ることは無さそう。市街地の不動産屋はほんとに下町について何も知らなかったんじゃないかと思う。ぞんざいにもなるよね……。
何にしても、うろうろするのは切り上げて、今晩の宿を探さなくちゃ。もう日が暮れ掛けてるから。
途方はとっくに暮れているんだけど。
「こんな所に突っ立ってる奴が居るかと思えば、昼間のねぇちゃんじゃないか」
後ろから声がしたので振り返ったら、昼間に声を掛けて来た冒険者だった。
「あ、先程はありがとうございました」
軽く会釈しながらの返事は、かなり棒読みになってしまった。自覚していた以上に気疲れしていたっぽい。
「ここは、ねぇちゃんみたいな小綺麗な娘の来る所じゃないぞ?」
「え? 綺麗?」
にへら。
頬に手を当てて、「あたしって綺麗」と呟いてみる。
「待て待て。誰が美人だと言った? 小綺麗と言っただろ? 身形のことだ」
「ええー」
しょんぼり。
「何だかめんどくさいねぇちゃんに声を掛けちまったな」
「めんどくさくてごめんなさい」
うん。何か色々めんどくさくなってるもんね。それが滲み出ちゃってるんだね……。
彼は視線を斜め上に向けて、頭を掻いた。
「あーもう。それで今度はどうしたって言うんだ?」
「市民登録するだけのお金が無いので下町で家を借りようかと思ったんですが、何処に行けばいいのか判らなくて……」
「店を開くだとか言ってた癖に、住む場所も無いってのにびっくりだな」
「面目ありません」
カクッと首を傾げた。
彼はと言えば、眉間に深く皺を寄せてこめかみを指で押さえていた。
「今晩の寝床は?」
「いえ、まだ」
首を横に振った。
「金は有るのか?」
「はい。そこそこに」
「だったら、宿屋を紹介してやるから付いて来な」
「はい。ありがとうございます」
「え?」
冒険者が驚いたような顔をした。
「はい?」
「ねぇちゃん。俺みたいな見ず知らずの男にほいほい付いて行っちゃ駄目だろ」
「ええ!? でも、冒険者さんが『付いて来い』って……」
「確かに言ったけどよ。ねぇちゃんは無防備すぎじゃないか? 少しは疑えよ」
「一応、警戒はしてますよ?」
荷物も全て拘束魔法で保護するくらいには警戒しているのだ。正確に言えば、拘束魔法の使い方を知ってからは常に全ての荷物を保護し続けている。
クーロンスの家も逃げ出すまではずっと保護していた。ここはもうあまりに遠くて力が及ばないから、今は解除した状態だけど。
とっくに荒らされてるんだろうな……。
「全くそうは見えないな」
「大丈夫ですよ。それに、冒険者さんは人畜無害っぽいですし」
「そう見えるのか?」
「はい」
彼は口をへの字に歪めた。
「人畜無害ってのは、人に言われると釈然としないのは何故だろうな?」
「さ、さあ……」
思わず視線を彷徨わせてしまった。
「まあ、いいや。さっさと行こうぜ。完全に日が暮れたら足下が危ないからな」
彼は手を掬い上げるように振って、さっさと歩いて行く。
「は、はい!」
あたしは急いで付いて行く。ちょっと焦ってしまったよ……。
道すがらに聞いた話だと、彼はリアルドと言う名前で、この下町で生まれ育って、ここを拠点に冒険者をしているらしい。
リアルドさんは真っ直ぐに二階建ての建物が立ち並ぶ方に歩いて、流れるようにその一つに入って行った。宿屋の看板を出している建物の一つだ。
あたしも続けて入る。
宿屋だと思ったら、30席くらいのの食堂だった! 半分以上の席がお客さんで埋まっている。
宿がどうのと言われて、宿屋に案内された筈なんだけど……、んんん?
「オヤジ、飯を2つだ」
「おう」
オヤジさんは軽い返事で振り返って、あたしに目を留めた。
あたしはついつい彼の頭頂部にまで達しているおでこに目を留めちゃったけど……。
「見ない顔だな」
「は、はいっ」
彼のおでこから視線を引き剥がして答えた。
「依頼者って風でもないな。一体、どこで会った?」
オヤジさんは途中からリアルドさんに尋ねた。
「西門でな。ふらふら危なっかしいから連れて来た」
ええっ!? ふらふらなんてしてないよ!? しっかり後のことを考えてたよ!
「確かにな……。悪い奴に騙されて泣きを見そうだ」
ぐっさり。
……今の精神攻撃は利いた。この人達はあたしが騙されたのを知らないんだけどさ……。
オヤジさんが真顔になる。
「悪いことは言わん。若い娘がこんなどこの馬の骨とも判らん奴にほいほい付いて来るもんじゃない」
「おいおい! 人聞きが悪いな!」
「そうですよ! ちゃんと人畜無害そうなのを見てから付いて来ましたよ!」
あたしが反論したら、リアルドさんにすっごい嫌そうな顔で見られた。オヤジさんも何とも微妙な顔をしている。
ええっ!? あたし、そんなに変なこと言った!?
「まあ、適当に座ってな。料理を持って来るから」
オヤジさんは脱力したようにしながら厨房に行ってしまった。
リアルドさんも脱力したように「こっちだ」とあたしをテーブルに手招きする。
席に着いてから、はたと気付いた。
「あの、メニューとか無いんですか?」
「無い。ここは日替わりだけだ」
「へぇ」
日替わりだけとは強気だ。だけどその方がロスも少なくていいのも確かなんだよね。
そんな食堂にはこれと言った飾り気は無い。木の質感そのままの壁が在って、テーブルと椅子が並んでいて、奥に階段が在るだけ。
あの階段の上が宿の部屋なんだろうね……。
「お待たせ」
「おう」
少しキョロキョロしている間に料理が来てしまった。日本のファミリーレストランも斯くやと言った早さだ。
料理は魚が主体になっている。港町だけのことはある。焼き魚にバジルソースを掛けたもの、煮魚、魚のスープと、パンを除けば魚尽くしだ。
ただこの煮魚は、見た目が醤油で煮付けた魚そのものなんだよね……。魚醤かな?
とにかく食べてみよう。お腹も空いてるし。
「いただきます」
「おう、食え食え」
リアルドさんはもう食べ始めている。
あたしも食べる。やっぱり煮魚から。
……味も濃口醤油っぽいなぁ。
「これって、醤油?」
「お? 醤油が判るとは、お嬢さんは東の島の出身かい?」
「え?」
たまたま通り掛かったオヤジさんの耳にあたしの独り言が届いたらしい。
あたしは人差し指を顎に当てて、斜め上を見ながら日本を思い浮かべてみる。
「あー、確かに東の島って言い方もされますねー」
「やっぱりな。この下町で見ない顔だからそうだろうと思ったよ」
「でも、どうして東の島って?」
「もう随分昔になったけどな、この町に東の島の出身だって奴が住み着いたのさ。醤油を作ってるのもそいつなんだが、壁の中の連中はこんな所に足を運びやしないから、ずっとこの町の者しか使ってない。だから、この町の人間じゃなくて知ってるとなれば、そいつと同じ出身の人間くらいだろ?」
オヤジさんの言う「この町」は、下町のことみたいだね。
それはさておき、「くらいだろ?」と言われてもねぇ……。
「そうなんですか?」
「いやいや、お嬢さんのことだろ?」
あたしには判らないんだから、聞き返されても困る。
「えーと、それはともかく、その人に頼んだら醤油を売って貰えるんでしょうか?」
「貰えるよ。奴は売る相手を選んでる訳じゃない。買うのがこの町の者しかいないだけだからな」
「ほんとですか!? その人の家はどこに!?」
「お、おっ!?」
勢い込んで尋ねたら、オヤジさんに引かれてしまった。
「すいません、つい……」
「そんなに醤油が欲しければ明日にでもリアルドに連れて行って貰いな。今日はもう遅いからな」
オヤジさんは呆れたように言った。
そしてあたしがリアルドさんの顔を窺ったら、リアルドさんは苦笑いしながら「頼まれてやるよ」と言った。
……おねだりなんて、ちょっと恥ずかしいことをしてしまった。
少し頬が熱くなったまま夕食の残りを食べて、あたしはこの店に宿を取った。
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