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59 牢屋
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税金を納めた翌日に彼らはやって来た。身形の整った男性と数人の兵士が、まるであたしが税金を納めるのを待ち構えていたみたいにして。
「お前か? 違法に薬物を売っていると言う者は」
「ええ!? 薬物なんて売ってません!」
一体、どこからそんな話が出て来た!?
「だが、魔力回復薬を販売してるのだろう?」
「売っているのは魔力回復薬じゃありません!」
あたしが売っているのは薩摩揚げとチーカマだ。まあ、ちょっと魔力回復前提にはなってるけど、あくまで副次的なもの。だからその辺りはポイッと棚の上に放り投げておく。
「あくまで白を切るつもりなのか?」
「白を切るも何も、あたしは薬物なんて扱ってません!」
「弁明は屯所で聞こう。来て貰うぞ」
「そんな勝手な!」
「逆らうのなら連行するまでだ」
身形の整った男性が顎をしゃくってあたしを指し示したら、兵士達が屋台の中に入って来てあたしの腕を掴んだ。
振り払いたい。だけど、やってしまったらスプラッタな光景が待ってそうだし……。
この躊躇がいけなかった。躊躇っている間に屋台を家探ししていた兵士が、隅に置いていたあたしのずだ袋を手に取る。
「いてっ!」
ところがその兵士が突然悲鳴を上げて、ずだ袋を取り落とした。どこから入り込んだのか、ネズミが兵士に齧り付いている。兵士に叩き潰されそうになったら、ひらりと躱して逃げ出した。
あたしはその隙に、抱き付くようにずだ袋を握り締める。
ホッとした瞬間、湿った布で口を塞がれた。その布から鼻に付く臭いがして、意識が朦朧とする。
薬だ!
それに気付いてももう遅く、あたしの意識は闇に呑まれてしまった。
頭がくらくらする。身体に力が入らない。瞼さえ重くて開けられないから、周りの状況が判らない。
どのくらい気を失ってたのかな……。
耳を澄ませてみたら、聞こえるのはあたしの呼吸の音と、たまにピクッと引き攣ったようになった時に何かが擦れる音だけ。周りには誰も居ないみたい。
それにしても迂闊だった。拘束魔法のお陰で物理的な攻撃や魔法での攻撃には防御がほぼ完璧だから、過信してしまっていた。今回嗅がされたのは眠り薬の類だったみたいだけど、もしもこれが毒薬だったら死んでいた。
これからは気を付けなきゃ。気を付けられればだけど。
それはともかく、どうして身体が動かないんだ? こんなことを考えられてるんだから、眠り薬は切れてる筈なのに。
何か別の薬? 香みたいな臭いはしてるけど……。
この臭いを嗅がないようにしないといけないような? だけど息をしなけりゃ、やっぱり死んでしまう。
毒や薬を使われても、窒息させられそうになっても大丈夫にするにはどうしたら……。
むむむ……。
新鮮な空気が有ればいいんだろうけど……。でもどうやって?
むむむ……。
それはそうとして、喉も渇いたな……。水を飲みたい。
あっ! 水と同じで空気を召喚したらどうかな? 呼吸に合わせて召喚できたら完璧なんじゃないかな。
早速試してみる。空気の召喚は初めてだから、練習から。横たわった身体の頭頂部辺りに有るっぽい右手の指先に召喚する。要領は飲み水魔法と同じで、水と空気の違いが有るだけだ。
魔法を発動しても、成功したかはよく判らなかった。
そよっと、風が吹いたような感じはしたけど……。たまたま風が吹き込んだのかも知れないし……。
これではいけない。今度は顔の前に有るっぽい左手の所に召喚してよう。
今度ははっきりと顔に風を感じた。成功していると思うけど、近くの空気を掻き回しているだけの可能性は否定できない。
それでも安全面は確認できたから、息を吸うのに合わせて、鼻の穴に召喚してみよう。
ふがっ。
少し勢いが有りすぎて変な感じになってしまった。だけど、息を吸っていても、鼻からの風を左手に感じる。間違いなく成功だ。
念には念を入れて、暫く練習。
おおっ! 重くて動かなかった瞼が持ち上げられそうだよ。やっぱり空気に何か混ぜられてたんだ。念の入ったことにさ。
とにもかくにも、周りの空気を吸わないようにして、召喚した空気を吸う。
やった! 身体の感覚が戻って来た!
頭を少し動かして右手を見たら、中指、薬指、小指の3本で、ずだ袋を握り締めていた。
ずだ袋は死守できてたよ! これさえ有ったら、あたしはまだあたしで居られる。そんな気がするんだ。
尤も、あたしが握り締めているものを奪うなんて、普通の人間にはできないんだけどね。それだけの力が拘束魔法には有るのだ。
もう少し動くようになった頭を反対に動かして身体を見てみる。
服に乱れが! ボタンが外されている!
脱がされ掛けたっぽい。未遂事件だ。
あたしをここに連れ込んだ連中は、きっと身体検査のつもりか何かで、あたしの服を脱がそうとして諦めたんだ。気を失ってからずっとこの姿勢だったとしたら、曲げている腕や足が邪魔をして、服を切り裂かないと脱がせられなかった筈。切り裂こうにも、拘束魔法には歯が立たないだろうし。
結局また、拘束魔法に助けられた訳だ。
ん? 首に違和感。
手で触ってみたら、首輪だった。用途は大凡予想できるけど、外すのはここから出て行く時にしよう。
喉も渇いていたので、少しだけ口の中に水を召喚して喉を潤す。それから周りを見回す。
牢屋の中だった。だけど予想の範囲だから驚くことじゃない。
それにしても、この町から出て行くのは遠くないとは思っていたけど、ここまで早いとは思わなかった。
ずだ袋は手元に有るから、今直ぐ着の身着のままでこの町から出て行くこともできる。だけど、眠り薬を用意していた周到さには疑問しかない。この町では怪力と言える程のものは見せていなかったので、兵士の行動がどうにも不自然だもの。
その理由は確かめたいよね。
どのくらいの時間が経ったかはよく判らない。1時間のようにも、2時間のようにも感じられるから。通路側の薄明かりに揺らぎが無いのは、日の光が射し込んでいるからじゃないかと思う。日が沈んでないなら、捕まってからびっくりするような時間は経ってないんじゃないかな?
いつまで待とうか。待たない方がいいのかな?
あ、風だ。
いきなり強い風が吹き出した。激しい風切り音もする。
今度は突然消えた。風が吹いたのは1分間くらいだったと思う。
ガコン。
扉が開くような音。
コツコツコツ。コツコツコツ。
今度は複数の足音。誰かが牢屋に入って来たみたい。
ここは眠った振りをしよう。薄目を開けて通路の方を確かめながら。
コツコツコツ。コツコツコツ。
足音はあたしが居る牢の前で止まった。4人居る。
「まだ起きぬのか?」
「意識は戻っているかも知れませんが、痺れ薬が効いていて暫くは身動きできないでしょう」
やっぱり痺れ薬だった。
それはそうと、さっきはどのくらいの時間で動けるようになったんだっけ? 30分くらい痺れた振りをしたら大丈夫かな?
よく判らないけど、そのくらいで動けるようになった振りをするとしよう。
それにしても、偉そうな感じの声には聞き憶えが有る。だけど今の姿勢で見えるのは足下だけだから、確かめられない。
「ええい! まだか!? 早く起きぬか!」
偉そうな奴が、10分も待ち切れなかったようで、癇癪を起こした。
「直ぐに会っても無駄だと申しましたのに」
「そんな事は知らぬ。貴様、何とかせぬか!」
「こればかりは薬が切れるのを待つしかございません」
「ぬぬ! 使えぬ奴め!」
いやいや、短気に無理を通そうとする方がおかしいから。
コツコツコツ。
偉そうな奴が足を踏み鳴らし始めた。すっごい耳障り。だけど今はまだ我慢、我慢。
「ええい! 起きぬか!」
ガンガンガン。ガンガンガン。
偉そうな奴が、今度は牢屋の格子を叩き始めた。
五月蠅いよ!
「お前か? 違法に薬物を売っていると言う者は」
「ええ!? 薬物なんて売ってません!」
一体、どこからそんな話が出て来た!?
「だが、魔力回復薬を販売してるのだろう?」
「売っているのは魔力回復薬じゃありません!」
あたしが売っているのは薩摩揚げとチーカマだ。まあ、ちょっと魔力回復前提にはなってるけど、あくまで副次的なもの。だからその辺りはポイッと棚の上に放り投げておく。
「あくまで白を切るつもりなのか?」
「白を切るも何も、あたしは薬物なんて扱ってません!」
「弁明は屯所で聞こう。来て貰うぞ」
「そんな勝手な!」
「逆らうのなら連行するまでだ」
身形の整った男性が顎をしゃくってあたしを指し示したら、兵士達が屋台の中に入って来てあたしの腕を掴んだ。
振り払いたい。だけど、やってしまったらスプラッタな光景が待ってそうだし……。
この躊躇がいけなかった。躊躇っている間に屋台を家探ししていた兵士が、隅に置いていたあたしのずだ袋を手に取る。
「いてっ!」
ところがその兵士が突然悲鳴を上げて、ずだ袋を取り落とした。どこから入り込んだのか、ネズミが兵士に齧り付いている。兵士に叩き潰されそうになったら、ひらりと躱して逃げ出した。
あたしはその隙に、抱き付くようにずだ袋を握り締める。
ホッとした瞬間、湿った布で口を塞がれた。その布から鼻に付く臭いがして、意識が朦朧とする。
薬だ!
それに気付いてももう遅く、あたしの意識は闇に呑まれてしまった。
頭がくらくらする。身体に力が入らない。瞼さえ重くて開けられないから、周りの状況が判らない。
どのくらい気を失ってたのかな……。
耳を澄ませてみたら、聞こえるのはあたしの呼吸の音と、たまにピクッと引き攣ったようになった時に何かが擦れる音だけ。周りには誰も居ないみたい。
それにしても迂闊だった。拘束魔法のお陰で物理的な攻撃や魔法での攻撃には防御がほぼ完璧だから、過信してしまっていた。今回嗅がされたのは眠り薬の類だったみたいだけど、もしもこれが毒薬だったら死んでいた。
これからは気を付けなきゃ。気を付けられればだけど。
それはともかく、どうして身体が動かないんだ? こんなことを考えられてるんだから、眠り薬は切れてる筈なのに。
何か別の薬? 香みたいな臭いはしてるけど……。
この臭いを嗅がないようにしないといけないような? だけど息をしなけりゃ、やっぱり死んでしまう。
毒や薬を使われても、窒息させられそうになっても大丈夫にするにはどうしたら……。
むむむ……。
新鮮な空気が有ればいいんだろうけど……。でもどうやって?
むむむ……。
それはそうとして、喉も渇いたな……。水を飲みたい。
あっ! 水と同じで空気を召喚したらどうかな? 呼吸に合わせて召喚できたら完璧なんじゃないかな。
早速試してみる。空気の召喚は初めてだから、練習から。横たわった身体の頭頂部辺りに有るっぽい右手の指先に召喚する。要領は飲み水魔法と同じで、水と空気の違いが有るだけだ。
魔法を発動しても、成功したかはよく判らなかった。
そよっと、風が吹いたような感じはしたけど……。たまたま風が吹き込んだのかも知れないし……。
これではいけない。今度は顔の前に有るっぽい左手の所に召喚してよう。
今度ははっきりと顔に風を感じた。成功していると思うけど、近くの空気を掻き回しているだけの可能性は否定できない。
それでも安全面は確認できたから、息を吸うのに合わせて、鼻の穴に召喚してみよう。
ふがっ。
少し勢いが有りすぎて変な感じになってしまった。だけど、息を吸っていても、鼻からの風を左手に感じる。間違いなく成功だ。
念には念を入れて、暫く練習。
おおっ! 重くて動かなかった瞼が持ち上げられそうだよ。やっぱり空気に何か混ぜられてたんだ。念の入ったことにさ。
とにもかくにも、周りの空気を吸わないようにして、召喚した空気を吸う。
やった! 身体の感覚が戻って来た!
頭を少し動かして右手を見たら、中指、薬指、小指の3本で、ずだ袋を握り締めていた。
ずだ袋は死守できてたよ! これさえ有ったら、あたしはまだあたしで居られる。そんな気がするんだ。
尤も、あたしが握り締めているものを奪うなんて、普通の人間にはできないんだけどね。それだけの力が拘束魔法には有るのだ。
もう少し動くようになった頭を反対に動かして身体を見てみる。
服に乱れが! ボタンが外されている!
脱がされ掛けたっぽい。未遂事件だ。
あたしをここに連れ込んだ連中は、きっと身体検査のつもりか何かで、あたしの服を脱がそうとして諦めたんだ。気を失ってからずっとこの姿勢だったとしたら、曲げている腕や足が邪魔をして、服を切り裂かないと脱がせられなかった筈。切り裂こうにも、拘束魔法には歯が立たないだろうし。
結局また、拘束魔法に助けられた訳だ。
ん? 首に違和感。
手で触ってみたら、首輪だった。用途は大凡予想できるけど、外すのはここから出て行く時にしよう。
喉も渇いていたので、少しだけ口の中に水を召喚して喉を潤す。それから周りを見回す。
牢屋の中だった。だけど予想の範囲だから驚くことじゃない。
それにしても、この町から出て行くのは遠くないとは思っていたけど、ここまで早いとは思わなかった。
ずだ袋は手元に有るから、今直ぐ着の身着のままでこの町から出て行くこともできる。だけど、眠り薬を用意していた周到さには疑問しかない。この町では怪力と言える程のものは見せていなかったので、兵士の行動がどうにも不自然だもの。
その理由は確かめたいよね。
どのくらいの時間が経ったかはよく判らない。1時間のようにも、2時間のようにも感じられるから。通路側の薄明かりに揺らぎが無いのは、日の光が射し込んでいるからじゃないかと思う。日が沈んでないなら、捕まってからびっくりするような時間は経ってないんじゃないかな?
いつまで待とうか。待たない方がいいのかな?
あ、風だ。
いきなり強い風が吹き出した。激しい風切り音もする。
今度は突然消えた。風が吹いたのは1分間くらいだったと思う。
ガコン。
扉が開くような音。
コツコツコツ。コツコツコツ。
今度は複数の足音。誰かが牢屋に入って来たみたい。
ここは眠った振りをしよう。薄目を開けて通路の方を確かめながら。
コツコツコツ。コツコツコツ。
足音はあたしが居る牢の前で止まった。4人居る。
「まだ起きぬのか?」
「意識は戻っているかも知れませんが、痺れ薬が効いていて暫くは身動きできないでしょう」
やっぱり痺れ薬だった。
それはそうと、さっきはどのくらいの時間で動けるようになったんだっけ? 30分くらい痺れた振りをしたら大丈夫かな?
よく判らないけど、そのくらいで動けるようになった振りをするとしよう。
それにしても、偉そうな感じの声には聞き憶えが有る。だけど今の姿勢で見えるのは足下だけだから、確かめられない。
「ええい! まだか!? 早く起きぬか!」
偉そうな奴が、10分も待ち切れなかったようで、癇癪を起こした。
「直ぐに会っても無駄だと申しましたのに」
「そんな事は知らぬ。貴様、何とかせぬか!」
「こればかりは薬が切れるのを待つしかございません」
「ぬぬ! 使えぬ奴め!」
いやいや、短気に無理を通そうとする方がおかしいから。
コツコツコツ。
偉そうな奴が足を踏み鳴らし始めた。すっごい耳障り。だけど今はまだ我慢、我慢。
「ええい! 起きぬか!」
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