悲劇のパソコン

はまだかよこ

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悲劇のパソコン

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 花だよりがうれしい日曜の朝、洗濯機のスイッチを入れてから、メールをチェックしようとのんびりとパソコンを開いた。
「えッ!」
 画面が青いままだ。
『デバイスに問題があります。予期しないエラーが発生しました』
(また何やらトラブルかなあ。しゃーないなあ)
 散歩から帰ってきた夫にみてもらう。
「これは手に負えんな。店に持っていくわ。五年の保証期間ギリギリ間に合うし」
「ラッキー! 頼むね」
 気楽に答えて家事をこなしていたら、スマホに夫からの電話。
「あらー、ごくろうさま」
 とびきりいい声で返事した。でも、
「えらいこっちゃ。ハードディスクが壊れてて、データも壊れてるかもしれんのやて」
「ヒーーー」
 私は息が止まりそうになった。
(パソコンに入れてたあれ、これ、あれ、これ、消える!)
 体中から力が抜けた。
 いままでいろんなことがあった。頭が真っ白になったこと。天井と床がグルっと回ったこと。上から鉛の塊で押さえつけられたこと。
 そして、今度のは、脳天からプシューっと何かが抜けた。漫画でよく見たあれ、まさにあれだった。
立っていられなくなってベッドに倒れこんだ。
 夫が帰ってきて、販売店で渡された「データ復旧サービス」のチラシを見て電話するが、明日の午後にならないと連絡が取れないという。
 思いついて、地域でパソコン講座を開いていた人に電話して、慌てて持ち込んだ。
その方の部屋はものすごくいろんな機械が置いてあってびっくりする。
 私のノートパソコンを調べると、
「うーん、データが無事だといいですが。今のところ50パーセントですね。少し時間をください。明日の夕方にはご連絡します」

 私は力が抜けたまま横になった。眠ることもできず、立ち上がる気力もない。
脳内で、カーさんとヨーさんがポソンポソンと対話を始めた。
 カー「あー、どないしょ、データみんな消えてしもたら」
 ヨー「まあ世間にはありふれたことやで」
 カ「よー分かってるわ」
 ヨ「そしたらそない落ち込まんでもいいやん」
 カ「それでも、私の書き溜めた作品が消えてまうの悲しい。娘に描いてもろた表紙絵どないしょう」
 ヨ「あー、それは辛いな」
 カ「十五、六年書いてきたから、百になるんよ」
 ヨ「数だけはすごいな。ようがんばったあ」
 カ「うん、がんばってん。そらな、世間から見たらゴミみたいな作品ばっかやけど、私には宝物やねん」
 ヨ「投稿サイトに入ってるから何とかなるんちゃう?」
 カ「コピーとかできるかなあ。百作コピーするのにどのくらいかかるかなあ」
 ヨ「なんとかなるよ。命取られるわけやない」
 カ「ブログもな、17年分。そこの本棚にも14年で、2100冊、読んだ本のレビュー並べてたんやけど」
 ヨ「ようまあ飽きもせんと。あほくさ」
 カ「はああああ。せめてデータが残っていますように」
 ヨ「それにしても、なんでバックアップとっとかへんかったん?」
 カ「それやねん、痛恨のミス。USBメモリとかいう小さい四角いのな。もう反省しきりで胸が痛いんやけど、忘れとった。そこがアホやった」
 ヨ「新しいパソコンではきちんとやりや」

 その翌日に、サポートの方からなんとかデータは取り出せると連絡があり、やっとのことで起き上がることができた。
 脳天から抜けたものが、じわっと皮膚からしみ込んで力が湧いてきた。買ってきてもらった豆大福をガブリと口にほうり込む。
(うん、おいしい。大丈夫やな、わたし)
 よっこらせっと体を起こした。
(もういけるね、ほんまに心が折れたときは水も喉とおらないもんね。さあ、新しいパソコンが来たら、大切にしよう。せっかく命拾いした作品や表紙絵だもんね)

 お花見どころではなかった毎日、パソコンの悲劇を二度と起こすまいと、心に誓った。
(それにしても、パソコン代で豆大福何個買えるかなあ。グスン)
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