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神を裏切り貴方と繋ぐ
Sー30、堕ちろと乞う
しおりを挟む車はガタゴトと路面の悪い山道を登り、数十分かけて染井川さんの家まで戻ってきた。外を観察しながらの道程だったけれど、山に入ってからは全く他の家の灯りが見えなかった。日記によると染井川さんの父親は宗教家だったらしいし、もしかしたら山一つ染井川家の持ち物なのかもしれない。
監禁されていた筈なのに、玄関灯のオレンジ色を見つけてホッとしてしまった。家に帰ってきた、なんて思うのは何年ぶりかで、こそばゆい気持ちになる。
「……俺も『ただいま』でいいのかな」
なんとなく呟いたら、前につんのめってシートベルトが作動するくらい強いブレーキで停止した。何度か乗った限りでは安全運転だった染井川さんにしては珍しい事で、驚いて足を突っ張って耐えて、バクバクいう心臓を押さえながら停まった反動でシートに背中をぶつける。
「あっぶな! なんだよどーしたの染井川さ……」
俺が文句を言おうと染井川さんを見た時にはもう、彼はシートベルトを外して俺の方に身を乗り出してきていた。唇を唇で塞がれて、熱い舌が入ってきて舐め回される。ジャージのチャックを下げられて、開けたそこから下着を掻き分けて素肌の腹に触れられて息を飲んだ。
「……っ、い、がわ、さ」
「口離すな」
キスしてぇ気分なんだ、と間近で囁かれ、また塞がれた。染井川さんの低い声は耳によく馴染んで、俺の中で反響して熱に変わる。腹の中が熱くなって、期待で背筋にぞくぞくしたものが走った。
キスしたいって割に手がもうズボンのチャックまで開けてる訳なんですけど、なんて野暮な事を言う気もない。性急に求められるのは久々で、悪くない。舌同士を擦られ、染井川さんの少し苦い唾液を飲まされながら彼の手に急かされるようにジャージを脱いだ。
吸い付いてくる唇に応じてされるがままになっていたら、気が付けば下半身は全て剥かれていた。やっと唇が離れたと思ったら下着を首から脱がせる為だったようで、それが頭から抜かれたらまたキスが再開される。散々舐められて、唇がふやけそうだ。
「も……、待って」
寒気がして肩を竦めて二の腕を摩って自らを見下ろすと、玄関灯に照らされた身体はもう全裸だった。車内は強めに暖房が効いているが、さすがに全て脱ぐと肌寒さを感じずにはいられない。いつの間に靴や靴下まで脱がされたのだろう。長時間のキスで酸欠になりかけた頭で思い出そうとしてみるが、どうにもぼんやりしてしまってうまく考えられない。
「待ったぞ」
センターコンソールを跨いで狭そうに助手席の方に移ってきた染井川さんが、ヘッドレストに手を置いてシート横のスイッチを引いて背もたれを倒してしまう。影を落とすように上に覆い被さられると、体格差を感じて一瞬怯んだ。俺、こんなデカい人にいつも犯されてたんだっけ。頑丈だな、と思いながら、染井川さんの首に腕を回して抱き着いた。
「おい、それじゃ続きが出来ねぇ」
「ん。……車でするの、嫌なんじゃなかったっけ?」
抱っこで家の中に連れてってくれるんじゃないの、と言ったら、はあ、と呆れたようなため息が返ってきた。
「だったらここで脱がさねぇよ。外の気温考えろ、凍えてぇのか」
だったら何でさっきは嫌がったのだろう。首を傾げたら、訝しげに染井川さんは少し黙って、車の窓を指差した。
「お前、人目とか気にならねぇのか」
「え、だって、周りの家自体少なそうだったし、人通り多そうな感じも無かったし、夜のお寺とかわざわざ来なくない?」
「寺の住職とかが降りてくる可能性はあるだろ」
「あ~……」
確かにそうかもしれない。したいばっかりで頭がいっぱいでそこまで考えていなかった、と素直に言ったら、染井川さんは顎を指で撫でて考える様子を見せた。
「……目先の欲に流されやすいのは考えもんだな」
全くその通りです。反論する気は無いが、そろそろお預けされた股間が痛い。髭の頭が出てきた顎に啄むようにキスすると、眇めた目に見下ろされた。
「ちょっと待ってろ。ストーブつけて、風呂沸かしてくる。服も着とけ」
「えっ」
ここでするんじゃないの!? としがみつこうとした俺だったが、無情な染井川さんが助手席のドアを開けたので手を離して縮み上がった。ヒュウ、と流れ込んできた冷気に一気に熱が冷える。全く脱いでいなかった染井川さんはそのまま外に降りてドアを閉め、玄関の鍵を開けて家の中に入っていってしまった。
慌ててヒーターの通風口に手を当てて、雨露に濡れて冷えた指を擦り合わせる。メーターの気温計を覗いたら外気温は五度と表示されていた。ずっと家の中に引きこもっていたから、外がもう真冬で、どれだけ寒くなるかを忘れていた。
汚れた服をもう一度着るのには抵抗があるが、そうしないと染井川さんの言う通り瞬時に凍えるだろう。
「寒い……けど、したい……」
玉まで寒さに縮んでいるのに、一度熱の入った奥はまだ燻っていてむずむずする。冷めてしまったらしい染井川さんは俺に呆れたような事を言っていたし、もしかしたらもう今夜はお預けされてしまうかもしれない。
「う~……」
お預けは辛い。染井川さんが戻ってくる前にさっさと処理してしまう事にした。車のティッシュを拝借して、先端に当ててこぼれないようにして擦り立てて、すぐに果てた。自分でも思うが、かなり早い。
染井川さんとこんな事になる前は、性欲なんて薄くて、保健体育で『健康の為に若いうちから毎日一回は出しましょう』なんて習ったのを鵜呑みにして、寝る前にトイレでさっさと済ますだけで十分だったから気にならなかったけれど。やっぱりもう少しくらいは我慢出来るようになった方がいいだろうか。
ティッシュを重ねて丸めて、ポケットに突っ込んだ。後でゴミ箱に捨てればいいだろう。
一度出したら幾分か落ち着いた。今度こそ身支度を整えていると、染井川さんが玄関を開けてこちらへ戻ってきて助手席のドアを開けた。
「そろそろ湯が沸くから……、お前」
「え」
じろ、と睨まれて、しらばっくれようとしたのにいきなり股間を掴まれた。そこが萎えて柔らかくなっているのを確認した染井川さんに、前髪を掴まれて引き寄せられたかと思ったら、思いきり舌を噛まれた。
「っだ、いだいっ」
「お前、今日お仕置きな」
「ひっ」
すぐ離されたが、噛まれた舌が錆臭い。口の中に引っ込めると血の味がした。ピリピリ痛む舌に顔を顰めるのに、更に怖い単語が聞こえてビビる。
「お、お仕置きって、なんで」
楽しそうに人の頭に放尿してくるこの男のお仕置きが、俺にとって相当な苦行になる事は想像に難くない。腕を掴まれて外に引っ張り出されて、控え目に抵抗してみせると面倒くさそうに肩の上に抱え上げられてしまった。
「これからじっくりヤるかって準備してきたのに、一人で済ませて涼しい顔してりゃあ当然だろうが」
どうやら続きをしてくれる気はあったようだ。でも、寸止めで放置したのは染井川さんが悪いと思う。ぶつくさ言う俺を担いだまま、染井川さんは家に入った。
「ただいまー」
「……」
「染井川さんも」
染井川さんの靴が敷居を跨ぐのが見えて、帰宅の挨拶をする。ついでに促すと、あぁ? と面倒そうに舌打ちされたが、小さく「ただいま」と言ってくれた。
「おかえり」
なでなで、と担がれているので頭の代わりに染井川さんの背中を撫でたら、俺を掴む染井川さんの手に力が籠められて少し痛い。単に恥ずかしいのか、それとも本気で嫌なのか。俺がただいまとか、図々しかったかな。顔が見えないから判断つかないのが不安だ。
すと、と下された場所はといえば、洗面所だった。風呂には電気がついていて、磨りガラスから見える浴室内はもうもうと湯気が立っていた。傷だらけの手足を思い出し、そのまま入ったら痛いだろうから先に治癒の紋を掛けようかと考える。
「車のエンジン切ってくるから、先入っとけ。……傷はまだ治すなよ」
「え、うん」
駄目なのか。まだ回復しきっていない霊力を枯渇させないように、だろうか。
大人しく言う通りに、服を脱いで浴室に入った。湯を浴びると、少しぬるめにしても傷がじくじくと痛み出した。
風呂に浸かったら、もっと痛いだろう。でも、このまま洗い場に立っているのも寒い。足の深い傷の一つだけでも治してから湯船に入ろうかと考えたタイミングで、慌ただしく染井川さんが洗面所に戻ってくる足音がした。
「染井川さん、一個だけ治していい? さすがに風呂入ったら痛そうだから」
「見せてみろ」
ドアを開けて一応お伺いを立てると、染井川さんは素早く服を脱いで中に入ってきた。珍しく脱いだ服をその辺に放り出してきた彼に、少し驚きつつも後退って浴槽の縁に腰掛けて傷を見せる。
脹脛の真ん中を、折れた木の端で切った所だ。切ったというより抉られたという方が合っているかもしれない。まだ傷が塞がりきっていなかったのか、少し動いたら傷口が引き攣れて血が滲んできていた。
「痛そうだな。ちょうど良い」
ちょうどいい?
どういう意味だと聞くまでも無かった。シャワーのコックを捻った染井川さんは、俺の傷口に勢いよく湯を浴びせ掛けてきたのだ。
「いったあああ!」
「逃げんな。ほら、治癒も掛けてやっから」
じゃばじゃばとお湯をかけられ、悲鳴をあげて逃げようとする俺の足を掴んで、染井川さんは傷に顔を寄せてきた。そのまま舌でべろりと舐められ、鋭い痛みにまた悲鳴をあげる。
「痛いっ、痛いって染井川さんっ!」
暴れようとしても腕力で抑えつけられて、湯で洗い流しては舐められ、舐めた所から治癒の紋を掛けて治されていく。全体的には痛みが減っている筈なのに、わざわざ傷口を開いてから舐めてくる悪趣味な染井川さんの所為で軽い拷問にかけられている気分だ。
「うぅ……いたい……」
「まだどっか痛むか?」
彼から見える範囲の全身を舐めて綺麗にされ、体を摩る俺に染井川さんはまだ「どこだ、見せろ」と寄ってくる。さっきも血が出るくらい舌を噛まれたばかりで、怖くて思わず拒否するみたいに腕を突っ張って染井川さんから距離をとった。とってから、もっと怒らせたらどうしよう、と慌ててそれをやめるのに、染井川さんはそんな俺の仕草を見て困ったように笑った。
「痛ぇばっかりだったか」
「……うん」
「ヤッてる最中は激しい方がよく鳴くくせになぁ。素面ならもうちょい優しい方が好みか?」
腕に残っていた切り傷を、たっぷり唾液を含ませた舌先だけで舐められる。さっきまでみたいに舌で抉られなければそれほど痛みは無くて、チリチリと微かに痛む感覚より染井川さんの舌に舐められる温かい感触の方が強くて性感を刺激された。
「んっ」
小さく声をあげた俺を見て、染井川さんが舌打ちする。何かしてしまったかと思ったら、そうではなかったようで彼は悔しそうに唇を噛んでいた。
「弱めから責めるんだったな……クソ、こういうとこで経験不足が出んのか」
「経験不足……?」
「なんでもねぇよ」
最後の傷も治癒の紋で治してもらい、切り傷だらけだった俺の体は瘡蓋の張った擦り傷だらけの体に進化した。明日にはこの瘡蓋も取れているだろう。本当に便利な紋だ。
手首を引かれて染井川さんと一緒に浴槽の方に入ると、肩を押されて湯船に浸からされた。温まれという事かと思って気を抜きそうになったのに、眼前に猛り立つモノを突き付けられてまさかと染井川さんを仰ぐ。
「してもらった事なかったよな。治癒のお礼がてらやってくれよ」
「あ、ああ……、なんだ」
まさか今度は俺に飲めと言うのかと警戒してしまったから、割と普通で安心した。飲尿するのに比べたら、舐めるくらい全然余裕な気がするから不思議だ。
しっかり上を向いた染井川さんの陰茎の根本に舌を当ててみた。ちょっと舐めた感じでは特に変な味はしない。匂いは、少し汗臭い。そういえば、まだ染井川さんはシャワー浴びてなかったかもしれない。おしっこして洗ってないのを舐めるのかと考えると少し躊躇するけれど、やっぱりおしっこ自体を飲むよりはマシだ。
浴槽の中で膝立ちして、染井川さんのソレを下から上に向かって舐める。カリの縁を舌先でなぞると、少しだけ染井川さんが呻いた。反応してもらえたのが嬉しくて目線だけ上に向けると、俺を睨む彼と目が合う。
「お前なぁ……」
「へ?」
「チンポ舐めて嬉しそうにすんな。出ちまいそうになるだろ」
額を乱暴に撫でられて、ぐっと腰を押し付けられた。開いた口の中に、染井川さんの肉が押し込まれてくる。上顎を押した陰茎の先から、微かに苦いものが滲んでいて眉を顰めた。やや強引に入ってきたくせに、それも半ばまでで止まる。
唇で柔らかく喰むと、弾力のあるそれの皮一枚下に浮き出た血管の感触があった。生きた人間の急所を歯列の下に置いていると思うと、ぞくりとしたものが背筋を駆ける。染井川さんにとって、この行為はどんな意味があるんだろう。単なる支配欲なら、お仕置きだなんて言ってこんな簡単な事をしてこない気がするけれど。
大きく口を開けて、舌を這わせながら頭を前後させて染井川さんの陰茎を口腔で愛撫する。おそらく下手だろうけど、素直に奉仕する俺の姿にご満悦らしい染井川さんは、俺の前髪あたりを撫でてくれる。
歯を立てないように注意しながら無心で頭を動かしていたら、口の中でどんどん育ってきて喉の奥を押されるようになって苦しい。
「……ん、ん」
「なんだ、そろそろ苦しいか」
一度休ませて欲しくて染井川さんの太腿を指で叩いたら、彼は頷いて、俺の後頭部を両手で掴んだ。
「……?」
抜かせてくれないのか、と見上げた俺の視線とぶつかったのは、心底楽しそうな、染井川さんの孤に描かれた双眸。
次の瞬間、喉の奥に突き立てられて吐き気で喉が痙攣した。えぐ、と胸がひっくり返りそうな気配がするのに、喉に挿さっているソレのせいで空気さえ吐けない。舌の裏から唾液が溢れ出てきて、引き抜かれる時にぼたぼたと垂らした。
頭を掴まれたまま、中程まで抜かれたソレはすぐ喉奥に戻ってきて、何度もそれを繰り返されて頭が真っ白になる。喉が痛い。苦しい。息が出来ない。上顎と舌の間の狭い空間を割るように陰茎が往復して、染井川さんの指が毟りたいみたいに俺の髪を掴んだ。
「あー、……やっば……」
ゲッ、ゴボ、と俺の喉から汚い音がするのに、染井川さんは熱に浮かされたみたいな上ずった声で呟いていて、それでこれが彼にとって気持ちいい事なのは理解した。太腿を拳で叩いてやめてくれと懇願するのに、染井川さんは無視して続けてくる。
口の中を激しく往復する肉は硬さを増し、俺の喉に唾液じゃないとろみを増やしながらもっと奥まで犯そうとしてくる。髪の根を掴まれて引っ張られて手綱みたいに乱暴に揺す振られて頭皮が痛い。鼻から息を吸おうとして涎を吸ってしまって咽せるのに、上から「お、それ喉締まってイイな」なんて言われて殺意が芽生えた。
「出すぞ、吐くなよ」
脳震盪を起こしそうなほど好き勝手使われて、喉の奥に流し込まれた。口の中で肉がビクビクと跳ね、否応無しに男の精液を飲み込まされる。舌の根より更に奥で出された所為で、味どころか臭いも分からなかったのはむしろ幸いだったかもしれない。
萎んだ陰茎が口からずるりと抜かれていって、やっと久方ぶりに十分な酸素が吸えてクラクラした。
「なかなか良かったぞ、静……」
撫でてこようとした染井川さんの手を無言で跳ね除けた。
擦られた喉は痛いし、開きっぱなしだった顎も疲れて重い。腫れたような感覚のある唇に触れて、手が震えているのに気が付いた。
怖かった。無理やりされた事が、じゃない。俺が抵抗しているのは分かっていた筈なのに、それを完全に無視された事が。
本気で嫌がっている相手を無視して性処理に使える、染井川さんのそんな本性が見えたみたいで酷く不愉快だった。
「おい」
「ちゃんと反省してるから。……少し、ほっといて」
湯船の中で抱き寄せようとしてくる染井川さんから逃げるみたいに洗い場に出てドアを開けた。洗面所の方に出てタオルを取ると、慌てた様子で染井川さんまですぐに上がってきた。
「静汰、待てって。お前まだ体温まってねぇだろ」
「いい」
「……そんな拗ねんなって。お仕置きだっつったろ?」
「拗ねてない」
「どう見ても拗ねてるだろ、ガキ」
呆れた風な染井川さんを、いつもだったら睨んでいたと思う。けど、どうにもそんな気になれなくて、つれなく目を逸らした。何か返事をするのも億劫で、無言でタオルで体を拭く。拗ねているのだろうか、俺は。染井川さんが俺の思うような人間では無かったから。なら正解だ。染井川さんの言う通りだ。その通りだから、放っておいてほしい。
肩を掴もうとしてきた手から逃げたら、胸を押されて壁に叩きつけられた。背中を打って一瞬息が止まる。
「……なんだよ」
「こっち見ろ」
じろりと睨みあげたら、今にも激昂しそうな表情だった染井川さんが、しかしゆるゆると眉を下げた。
「我儘言っても駄々捏ねても構わねぇから、俺から目ぇ逸らすな。何言っても怒らねぇから、お願いだから黙るな」
……えーと。ごちゃごちゃ言われて、何と言われたのか意味が分からず首を傾げてしまう。しばらく反芻して、無視するなという意味かと理解した。
「無視なんてしてない」
「違ぇよ。あーいや、違わねぇか。無視されんのも嫌だが、言いたい事言わずに黙られんのが嫌なんだ」
染井川さんが自分の方が辛いみたいな顔をするので、少しばかり苛ついてお返しとばかりに彼の胸を突き飛ばした。
「嫌がってんのに無視されると思わなかった」
「は?」
「嫌がったらやめてくれると思ってたのに。染井川さん、本当に鬼畜の人だったんだな」
俺が嘲笑みたいに吐き捨てて洗面所から出ようとするのに、染井川さんは本気で困惑してるみたいにその行く先を阻む。ドアの前に仁王立ちされては通れず、眉間に一層皺が寄っていくのが分かる。しかし、掛けられた次の言葉に正気を取り戻した。
「いや、おい。お前が嫌がってんのなんて今更だろ?」
「……」
「最初っから強姦だったろうが。何を今更怒ってんだ」
そういえばそうだ。でも、違う。だって、俺は気持ち良くなかった。
そこまで考えて、気持ち良ければ無理やりでも良いのか、と自問自答する。一秒後には、まあオッケーかな、と答えが出てしまって、先程言われたばかりの『目先の欲に流されやすい』『お仕置き』という言葉の意味をやっと理解した。
「あ~……」
恥ずかしい。自分の顔を掌に埋めて、猛省して顔が熱い。気持ちいいと流されてしまうから、わざと俺が気持ち良くならない行為を強要する。そういう意図のお仕置きだったのか。
「静汰?」
「ごめん、染井川さん……。うん、今のは完全に俺の八つ当たり。ごめん」
「いや……お前がキレるくらい嫌だったんなら、もうしねぇよ」
悪かったな、と抱き締められて、背中を撫でられた。染井川さんは、やっぱり俺に甘い。
「気持ちいいのに流されないように頑張る」
体を離して、そうだよな男だもんな、とぐっと拳を握ったら、染井川さんはもの凄く複雑そうな顔で口をへの字に引き結んだ。
腹の中で蠢く物体が一層強く振動して、思わず紋を描く指がブレた。
六方の壁で囲った中の上半身だけの女の霊が、壁を引っ搔いて甲高い奇声を上げる。
「おい、遅ぇぞ」
「……っ」
後ろから掛けられる揶揄いの声にも、言葉を返せる余裕が無い。口を開いたらあられもない声が出てしまいそうで、必死に奥歯を噛み締めて目の前の霊に浄化の紋を飛ばした。
午前二時、なんの変鉄もない街中の公園。そこに最近、上半身だけの女の化け物が出るのでなんとかして欲しいという依頼で、俺と染井川さんはここに来ている。
昼間は周辺の調査をして、化け物の正体がどうやら最近自動車事故で亡くなった被害者らしいと予測をつけて、出現まで公園で張る事になったのだが。
夜中に長時間駐車していると怪しまれるからと、ベンチに座って待てと命令されたのはまあ良い。寒いけれど、地域的に雪は全く降らない場所だったし、過剰なくらい厚着させられてブーツの中にもコートのポケットにもホッカイロを入れられて、防寒対策はバッチリだったし。
問題は、俺の中にも、入れられたという事で。
「う……ぁ」
浄化されて生きていた時の姿に戻った女の人の霊をなんとか見届けて、その場に崩れ落ちた。
尻の中でぶるぶると震えるだけだったそれが、今度はぐりぐりと中で円を描くみたいな動きに変化して、耐えきれず地面を指で抉った。これだけの刺激でも、奥の良い所に当たればいつもならイッてしまえる。なのに、今はそれが叶わない。陰茎の根は専用のベルトでキツく締められていて、それの鍵を持っているのは染井川さんだけだからだ。
「そい、がわさ……、も、終わったぁ」
だから早く帰ろう、と後ろを振り向くと、ベンチで煙草を吸っていた彼は横の灰皿で火を消して、ゆっくりとそこから立ち上がった。
「おーおー、イイ顔で蕩けてんなぁ」
顎のラインに沿って指で撫でられると、それだけで全身に震えがくる。中への刺激はもう臨界点を超えていて、外からも触れられたら気が狂いそうだ。
「やぁ……、も、お願い……っ」
「『気持ちいいのに流されない』ようになるんだろ? 家まで我慢しろ」
立ち上がれなくなった俺は荷物みたいに染井川さんの肩に抱え上げられて、それだけで中の玩具の先端が当たる位置が変わって目尻に涙が滲んできた。
「ッ、あぅっ」
戯れみたいにパン、と軽く尻を叩かれて、明らかに善がった声が出てしまって慌てて口を塞ぐ。尻をぎゅっと締めてしまったせいで、より奥に振動が伝わってきてびくびくと身体が跳ねる。ひゅっひゅっと怪しい呼吸をする俺の尻をゆっくりと撫で、染井川さんは愉しげに低く笑った。
「想像以上だ、静汰。永遠に見てられるな」
クソ、クソ、と胸中で毒づくけれど、尻と太腿の境目あたりを指で揉まれて染井川さんの背中に爪を立てた。
「……ぁ、あ、あ」
中で暴れる玩具の先端が、ぴたりと俺を狂わせる所で止まって責めたててきて、我慢しきれず声が漏れる。無理、もう無理。出せないのに、中だけで玩具にイかされる、と未知の期待に呆けて開けた口の端から涎が垂れた。が。
「はぅ……?」
「だからよぉ、とっとけよ、そういうのは」
あと数秒で、たぶんイけた気がするのに。ポケットに忍ばせた玩具のスイッチを切った染井川さんが、呆れたようにまた俺の尻を叩く。
「染井川さ、ん……、なんで、スイッチ、切って」
「なんでって、お前今メスイキしそうになってたろうが。俺の挿入れられるまで待てって」
「メスイキ……?」
「こんだけチンポ絞ってんのにイけるとか、ほんとお前才能あるわ」
公園から少し歩いた、パチンコ屋の駐車場に置いておいた車に戻ってきて、染井川さんは俺を助手席に座らせて股間を揉んできた。ベルトで血流を止められたソコは勃起したくても出来ず、触れられるだけで刺すような痛みが走った。
「ひっ、ぁ」
「家帰ったらこのまま舐めてやるからな」
デニムのチャックを下ろして下着を掻き分け、染井川さんはベルトが外れていないのを確認して指で弾いてきた。鋭い痛みに、しかし長時間ナカを蹂躙されて火照った身体はそれすらご褒美みたいに跳ねてしまう。
「染井川さんっ、も、ここで……っ」
「だぁめだって。ちったぁ我慢ってもんを覚えろよ」
我慢しろと言う癖に、車を発進させた染井川さんは暇潰しみたいに気まぐれにスイッチを入れたり切ったり、振動の強弱や動作の変更で俺を弄んだ。まるで俺が正気に返るのを阻止したいみたいに、熱を下げないような絶妙のタイミングに翻弄される。
山の中に入ってからはスイッチを切ったままにされたけれど、悪路で下から突き上げられる度、中の玩具が奥に突き立てられて息を詰めた。
「歩けるか?」
家に帰り着き、エンジンを切って車から降りた染井川さんが、答えの分かりきった事を聞いてきて歯噛みする。ぶんぶん、と勢いよく首を振ると、長い腕が伸びてきてシートベルトを外して俺を正面から抱き締めた。
「抱っこで連れてってほしいんだったよな」
数日前の俺の戯言を覚えていたらしい染井川さんが揶揄うみたいに言って、けれど悪くはないので彼の首に腕を回してぎゅっと抱き着く。
「かわいいこって」
家に入って、ただいま、と呟いたら染井川さんの声とハモった。なんか少し、嬉しい。熱くなった頰を染井川さんの頰にくっつけたら、彼の頰も心なしか熱を帯びていた。暖房の入っていない家の中は外よりはマシだが寒くて、暖をとるみたいに染井川さんにくっつく。
「ストーブつけてくるから、もう少し待っとけ」
今朝出てくる時に敷きっぱなしだった布団に下されて、離れようとする染井川さんを恨みがましく睨んだら、苦笑して額に口付けられた。続けて優しく頭を撫でられて、心地良さに目を細める。
腕を離すと、染井川さんは部屋の隅のストーブに火を入れに行った。
「中の、出していい?」
動きの止まった玩具は、それでも腹の中に入っているだけで異物感がすごい。嵩張るコートを脱いで布団に入り、その中で服を脱いだ。落ち着いたようでいて、まだ熱は醒めてなんかない。染井川さんにキスされたらきっとまた頭が馬鹿になって意識が飛んでしまうだろうから、新調してもらった外行きの服は先に避けておきたかった。始まってしまったら、体液が付く程度に構っていられる自信はない。
下着を脱いで窄まりに指を這わせると、玩具を入れる時に使われたローションでしっとり濡れていた。玩具の根本はT字になっていて、それより奥まで入っていかないようになっている。返事を待つのももどかしく、そこを掴んで引っ張り出そうとしていたら、ストーブに点火して戻ってきた染井川さんに掛け布団を剥ぎ取られた。
「ったく、本当に我慢のきかねぇガキだな」
悪態をついているようで、染井川さんの目は好色のそれだ。寒さでぶるりと震えた俺の脚を割り開き、その間に陣取って見下ろす狭間に舌舐めずりされた。
「夜んなってから入れたから、少なく見積もっても四時間か。お前にしちゃ頑張った方か?」
「う……っ、んん、ぁ」
俺の手を退け、染井川さんの指が玩具の取っ手を引っ張る。奥に嵌っていた玩具の先端が、腹の中でぐぽ、と音を立てた。ずるりと抜かれて一つめの膨らみを吐き出しただけで、ひどく甘い感覚が響いて腰が戦慄いた。玉が連なったような形状の玩具だったのを思い出し、あと何回繰り返されるのかと期待に息が上がる。
「あと五つだ」
俺の考えを読んだ染井川さんが、二個めの膨らみを吐いた俺の窄まりに顔を寄せてきて襞を舐めた。吐息が掛かるだけでビクつくのに、敏感になったソコを舐められて高い声で鳴かされる。
「やっ、染井川、さ、ん」
「あと四つ」
膨らみを吐く時に窄まりが広げられるのがたまらなくて腰を揺らした。減っていく異物感に、待ち望んでいた筈なのに喪失感で腹の中が切ない。ぼこ、ぼこ、と順調に玩具は抜かれて、とうとう先端も外に出てしまった。玩具を喰めなくなったソコが、埋めてくれる物を探してヒクついているのが分かる。
「とろとろに緩んでんなぁ。……おい、挿入れて欲しいか、静汰」
耳元で囁やかれて、何も考えられなくなってただただ頷く。
「はやく」
恥ずかしげもなく開いた足で染井川さんを挟んで急かすと、べろりと陰茎を舐められた。ベルトの外されない肉は勃起しようとして自ら首を絞めるように、赤黒く色付いて張り詰めていた。その先端を吸われ、気持ち良さより痛みが勝って悲鳴を上げる。
「ヒッ、や、なに? なんでっ」
「俺がなんて言って欲しいか、お前なら分かんだろ」
暴れようとする太腿を腕で押さえ込まれ、陰茎が染井川さんの唇と舌で弄ばれる。ぬるぬるの舌で舐め回され、気絶しそうな痛みと気持ちよさで背筋が弓なりに反った。
「は、や、ああ、染井川さんの、早く、入れてぇ」
「……俺の、なにを?」
「ああぁっ……っ、やぁっ、そ、染井川さんのっ、染井川さんのチンポ、入れて下さい……っ」
強すぎる快感に咽び泣きながら叫んだら、やっと虐めをやめて貰えた。肉茎から口を離した染井川さんは、いやらしくその唇を舌で舐めて深い笑みを見せる。
「……はー、それ、初めて言わせたけど、たまんねぇな。毎度言わせっかな」
「ふざけ……変態……」
口から勝手に出た悪態に、染井川さんは苦笑して俺の頰を撫でてきた。足を掴んで開かれて、窄まりに彼の剛直が充てがわれる。
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