神は絶対に手放さない

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神を裏切り貴方と繋ぐ

Sー40、三人寄らば

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 朝食の後、徹さんはまたそのまま部屋から出て行った。
 少し話をしたそうな顔をしていたけれど、今日は志摩宮が学校だ。志摩宮の部屋で徹さんと二人きりというのも妙なので、無視して黙って帰らせた。
 登校する志摩宮の事も見送って、一人きりで片付けをしながら、自分の言動を思い返して呆れ返る。何が『仲良くシェア』だ。馬鹿馬鹿しい。その馬鹿らしい条件を飲まれるとはもっと思ってもいなかったのだけれど。
 志摩宮を一番に優先するのを、徹さんが許すと思わなかった。
 想定外といえば、志摩宮もだ。前々から徹さんの食事を珍しく文句も言わず食べているとは思っていたけれど、まさか気に入っていたとは。朝食だから比較的アッサリしたメニューが多かったのも気に入る要因だったのかもしれないが、俺より先に懐柔されるとは思わなかった。
 徹さんは徹さんで、恋敵の筈の志摩宮に嫌がらせをすることもなく、むしろ今日など彼に盛った生姜焼きの肉はわざわざ脂身を取り除いたものだった。志摩宮の為に一手間掛けられたそれを、朝はあまり食べられないタイプの筈の志摩宮はしっかり完食してから登校していった。
 複雑な心境で、しかし仲違いしているよりは良いかとも思う。
 俺に二人を御しきれるだろうか。
 不安を消し去ろうにも俺に出来るのはひたすらに紋の練習をするくらいで、その日もひたすら反復練習に打ち込んだ。
 夕方帰宅してきた志摩宮と、夕飯の弁当を買いにスーパーへ行こうと連れ立って表へ出ると、物陰からぬぅと染井川さんが姿を現してビビる。

「……び、っくり、した」
「お前ら、毎日弁当とラーメンの繰り返しはやめろ。自炊しろ」

 そっちは知らんがお前は飯作れるだろ、と言われて呆れる。許した途端に説教かよ。というか、それ知ってるって事は朝以外にも俺らの周りうろついてたなこの人。
 無視して徹さんの横を通り過ぎようとしたのに、志摩宮が俺の肩に手を回して抱き寄せるのでよろけそうになった。

「っとと」
「三食飯炊きしたいならそうハッキリ言って下さい」

 え、今のってそう意味だったの?
 志摩宮の方が余程徹さんのことを分かっているみたいで少し悔しいけれど、そもそも徹さんが素直じゃなさ過ぎるのだ。というか、翻訳機みたいで便利だな志摩宮。
 俺の肩を抱く志摩宮を見るには上目遣いみたいになって、まるで俺が女みたいでやはり少し苛つくけれど、見下ろしてくる目が嬉しそうに弧を描くので許そう。耳と尻尾も見える。……ちょっと待て、志摩宮お前、三食マトモな飯が食えるようになるのを喜んでないか。

「……お前らが嫌じゃなければ」
「嫌も何も今更だろ。勝手に入って勝手に作ってるくせに」

 まったく、と俺が首を振ると、徹さんは無言で口を噤んだ。
 ああクソ、違う。責めたい訳でも拒絶したい訳でもないのに。せっかく『許した』という体にした筈なのに、どうして素直に喜べないんだろう。
 志摩宮の前だからだろうか。罪悪感がそうさせているのかと志摩宮を見るけれど、俺と視線を合わせた彼は面白くなさそうに目を細めた。

「俺も静汰と喧嘩したい」
「は?」
「俺の見たことない顔する静汰、なんかムカつきます。俺とも喧嘩しましょう」
「いや、え……? 志摩宮と?」

 この上俺の癒しである志摩宮とまで険悪になんかなりたくないのに、彼は頬を膨らませてそっぽを向いてしまう。
 うわ、可愛い。なにそれ、可愛い。ひたすらに可愛いんだけど、志摩宮。
 ぷくっと膨れた頬をつつきたくてたまらない。思わず手をわきわきと動かして頬に触れようとするのに、志摩宮は俺の手をバシッと振り払って、それから少し不安そうに俺を見てからまたそっぽを向いた。

「かっ……」

 可愛い。なんだこの、可愛い生き物は。
 ガシッと志摩宮の腕を掴むと、元来た数メートルを家に入る為に戻る。

「あ、あの、静汰……?」
「外でやる事じゃないだろ」

 そうだ。家の中で存分に可愛がらせろ。
 志摩宮の愛らしさに脳の溶けていた俺は、そこに徹さんが居たのも忘れて志摩宮を引き摺って帰ろうとして、背中を蹴り飛ばされて顔面から地面に倒れ込んだ。

「痛ぅ……」
「この、クソガキ……! 俺の前で、いつまでもいちゃつきやがって……限度ってもんがあんだろうがっ」

 俺を蹴った徹さんは足を踏み鳴らして寄ってくると首の後ろの服を掴んで持ち上げて、そのまま何故か志摩宮の家のドアを開けて俺を放り込む。おかしい、鍵は掛けた筈なのに。

「いてて、乱暴だなぁもう」

 キレてるらしい徹さんは玄関に転がる俺の足から靴を剥がすと自分も靴を脱いで上がってきて、そのまま俺を掴んで部屋の奥へ引き摺っていく。

「志摩宮~助けて~~」
「この部屋壁薄いんで静かにお願いしますね」

 徹さんの後ろから家に入って玄関のドアを閉めてきた志摩宮は、俺の助けを求める声を無視してベッドの下の収納を引き出すと、ローションとゴムを出してくる。

「ちょ、志摩宮っ」
「ゴム、XLしか無いんスけど、自分で持ってます?」
「生でヤるから要らね」
「いや、一緒にヤる俺のことも考えて欲しいんスけど……」
「………あの、二人とも?」

 なんか、流れがおかしい。叱られるんだと思っていたのに、何故か徹さんは俺の服を脱がそうとしているし、志摩宮もそれを止めずに、というかもうTシャツ脱いでるし。

「いやいや、あの、し、志摩宮。なんでだよ。止めろよこの人を」
「は? 外で出来ないコトしようって言い出したのはあんたでしょ?」
「っち、違う! 俺はただ、お前が可愛いから撫でまくって愛でようと思っただけで……!」

 なんとか徹さんの下から這い出ようとしている俺に、覆い被さってきた彼が唇を押し付けてきて口の中に舌が捻じ込まれる。

「う……ん、んん」

 ぬめる舌に腔内を舐め回されて、吸われて引っ張られた舌に軽く歯を立てられて力が抜けた。徹さんの唾液が、記憶にあるより甘い。微かな違和感に、そういえば煙草臭くないんだ、と気付く。何故だろうと考える余裕もなく、キスを続けられてしまうと次第に頭がぼんやりしてくる。

「ほーんと、チョロい人ですよね」

 頭上で志摩宮の声がして、ハッと目を開けた。
 まだ唇を併せている俺と徹さんの頭の傍に、志摩宮が丸出しの股間をぶら下げて徹さんの額を指の背で小突く。

「退いて下さい。口は俺が朝から予約してるんスよ」

 チッ、と小さく舌打ちした徹さんは、しかし素直に口を離して体を起こした。

「ローション寄越せ」
「結構サラッとしたやつだから、多めに使った方が良いですよ」
「ん」

 ボトルを志摩宮から受け取った徹さんは俺の下半身のズボンと下着を脱がせにかかってきて、また暴れようとしたのに口に志摩宮の肉茎が挿し込まれて驚きに止まってしまう。

「うー!」
「ちゃんと舐めて、静汰」

 抗議する俺の頭を優しく撫でて、志摩宮は床に押さえつけられた俺の横に座り込んでその股間を押し付けてくる。いやいやいや、おかしい。何この状況。なんで、どうしてこうなった。
 ついていけない俺の下肢から服を脱がせた徹さんもまた、志摩宮の行動を止めようともせず。俺の脚を開かせたと思えば、半勃ちのソコにローションを垂らしてくる。冷たさに震えた俺の股間から、とろりと緩いローションは後ろの狭間の方まで流れていって、それを徹さんが指に纏わせていきなり突き立ててきた。

「っ、ん」
「なんだ、あんまりしてねぇのか」

 硬ぇな、とボヤきながら徹さんに浅い所を掻き回されて、久しぶりの感覚に背筋を反らせて戦慄く。指だけなのに、俺の体はそれが誰のものか覚えている。これからどれだけ気持ちいいことをしてくれるか、勝手に期待して緩みだす。

「……静汰、急に涎たくさん出てきた」
「こいつケツでメスイキすんの大好きだからな。なんで抱いてやってねぇんだ」
「俺が抱いても喜ばないんで」
「へぇ」
「イきますけど、なんかイマイチ反応良く無いんスよね」
「反応良くない、ねぇ。おい静汰、お前こいつとヤんの嫌なの?」

 口は志摩宮の肉が埋まっていて、尻には徹さんの指が入ってきていて。それでどうやって答えろというのか。気持ち良さに体が震えるのを止められない俺の頬を徹さんがひたひたと叩いてきて、志摩宮が腰を引いて肉を抜いていく。

「ぁ……っ、は」
「顔真っ赤」
「静汰。俺とヤんの嫌ですか? 嫌ならやめますけど」

 右の頬を志摩宮に、左頬を徹さんに撫でられる。
 ヤバい。これ、ヤバいって。

「いやじゃ、ない」

 嫌なわけがない。志摩宮の事も確かに好きなのだから。
 どうしよう。完全に二股だ。なんとなく、記憶の新しい徹さんへの気持ちを本命だと思い込んでいた筈なのに、こうして同時に迫られてしまうと分からなくなってしまう。

「と、……徹、さん」

 怖い。確かに徹さんだけを愛していた記憶があるのに、志摩宮だけを好きだった頃の記憶もあるものだから、混乱して分からなくなる。二つの記憶は落ち着いて、自分の中で折り合いはついたと思っていたのに。
 瞼を閉じ、小さく震えて首を振る。どうしたらいいのか、自分の心が分からない。考えると心が壊れそうになる。どちらかなんて選べない。選ぶとしたら、捨てないとハッキリ約束した、志摩宮で──。

「あ、駄目だわこれ。こいつに難しいこと考えさせんの無し」
「やっぱ二股かけさせとくのが正解っぽいスよね」
「おい静汰、いいぞそれで。俺もこいつも、お前の傍に居られりゃそれで十分だ」

 助けを求めるように伸ばしていた手を掴んでくれた徹さんが、その指を噛んできて、痛みに我にかえった。

「それでいい、って……?」
「無理して選ぼうとすんな。つーか、選ばないでくれ。俺ら二人とも、お前から選ばれなかったら死ぬ」

 だからいいんだ、と笑う二人に見下ろされて、それでいいのかと困惑する。そんな俺にばかり都合の良い関係では、そのうち二人共に見限られてしまうんじゃないか。どちらか選ばないと、二人共失うんじゃないか?

「静汰。ちゃんと聞いてましたか。あんたがどっちかを選んだら、もう片方は死にますよ」
「え……」
「いいですか。俺とあんたとこの人、一蓮托生です。諦めて三人で生きましょう」

 志摩宮の言葉に目を丸くするのに、徹さんまでそれに頷いている。

「もともと、強引に奪っちまったからな。二号でも文句は言わねぇよ」
「俺もまぁ、傍に置いてくれるんなら極論ヤれなくてもいいんで」
「なら俺ケツもらうから、お前口だけとかでも良い?」
「専用って事ですか? それならいいですよ」
「ん~でもたまに口もしたくなるだろうしなぁ」
「なら使いたくなったら3Pしましょうか」

 勝手に俺の身体の所有権を分割し合って、勝手に合意した二人は、それでいいな? とばかりに見下ろしてくる。

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