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神と貴方と巡る綾
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しおりを挟む「そういえば、蘭童から連絡があったぞ」
徹さんの言葉に、当然蛍吾が食いついた。
昨夜のアレコレは全員見なかったことにしようという暗黙の了解みたいな雰囲気で、俺と徹さんで作った朝食をつついていた最中だった。
「今どこだ、沙美は生きてるのか!?」
「落ち着けって」
徹さんの腕に掴みかかる勢いの蛍吾を見て、州月さんが少し驚いた顔をしてから眉間に皺を寄せたので、小声で「蛍吾の親父さんと妹さん。行方不明」と教えてやった。洲月さんは少し恥ずかしそうに頬を染めてから、小さく「ありがとう」と返してくる。
「沙美様……ああ、もう組織じゃねぇから様要らねぇか。沙美な、外に出てすぐ男漁りしようとしたらしくて、さすがの寛容の神も怒って、結界の中から出してもらえなくなってんだと」
「……は」
「どっかの山奥の、他の神様が捨ててった廃神社らしいんだけどな。蘭童はそこに沙美の為に食べ物だの持って通ってるらしい」
健康には問題無いらしいが、毎日メソメソ泣いてる割に反省の素振りが無いからそのうち流石の寛容の神からも見捨てられるんじゃないかって話だぞ、と。徹さんは俺の作った卵焼きを一口噛んでから、「甘い方か」と顔を顰めた。
「あの馬鹿……」
蛍吾は徹さんの話を聞いて頭を押さえて呻いた。シスコンの蛍吾のことだから、今すぐにでもそっちへ向かうと言い出すかと思ったのに、溜め息を吐いて詳細な場所を徹さんから聞いてメモしただけでまた朝飯を食べ出した。
洲月さんの家の冷蔵庫にあったのを出した海苔の佃煮を食べて「これ美味しい」と言った蛍吾に、すかさず洲月さんが「近所の店のだから、帰る前に買っていこうか」と話し掛けている。
「そういや、ヤモリ。座についてなんだが……」
ふと思い出したみたいに言い出した徹さんの言葉を聞いて、ヤモリさんも顔を上げた。
「そうだ、染井川。昨日は言いそびれていたけどね、君は座に就けないよ」
ヤモリさんの言葉に、徹さんが片眉を上げて彼を見る。
「何でだ? 現時点で他に相応しい奴なんか……」
「君、自分がどうして生きてるんだか忘れちゃったのかい?」
あ、と固まった徹さんの口元が引き攣って、頭を掻き毟って唸った。
「あ~~、そうか、そうだった。あの御方は神様嫌いだった」
あああ、と唸る徹さんを見て、何の話をしているのか分からない俺と志摩宮、蛍吾が目を丸くする。徹さんが失態を晒すなんて珍しく、スマホを向けて動画を撮ろうとした俺に視線を向けて徹さんがちゃぶ台を叩いた。
「今から静汰シバいて……、クソ、時間が足りねぇ!」
「静汰くんはやる時はやるんじゃなかったの?」
「死ぬ気でやりゃ出来んだろって程度だ!」
え、何、なんかすごい不穏な予感がする。
「なぁ、まず何の話してるのかちゃんと説明してほしいんだけど」
完全に置いてけぼりなのに、何故か俺の名前が出てきた上に『静汰をシバく』という物騒な言葉が聞こえて慌てて口を挟んだ。
「何度か言ったろ、十一年に一度でかい仕事がある、って」
「あ~……えっと、座がどうとかで、五人必要とか、そういう感じの」
ふぅ、と一度溜め息を吐いた徹さんはポケットから出した煙草に火を点けて、吸おうとしてから周囲が子供ばかりなのに気付いたみたいに窓際に行ってそこを開けてから吸い始めた。いや、もう三人ともそろそろ成人するんだけど。とっくに十八を過ぎているのに、まだまだ彼にとっては子供に見られているみたいで複雑だ。
徹さんはどこから説明しようか迷ったみたいに暫く煙を吐いてから、俺が焦れそうになった頃ようやく口を開いた。
「簡単にいえば、『眠ってた神様がまた眠りにつくまで酒盛りの相手をする』んだ」
「……?」
「簡単だろ? 出来るよな? 静汰」
それだけのことがどうして大仕事なのか、仕事について知らない俺、志摩宮、蛍吾の三人が揃って首を傾げたのを見てからヤモリさんが呆れて徹さんの適当な説明への肉付けを引き継いだ。
「酒盛りは三日三晩ぶっ通し。宴会の間は神様が昔の武勇伝を語ってくれて、その話に出てくる妖怪やら化け物やらが次々その場に顕現するの。僕たちはそれを倒し続けて、余興にされるわけ」
ちなみに僕は幻術で隠れるから戦力として期待しないでね、と続けたヤモリさんは、俺の次に志摩宮を見て考える素振りを見せる。
「僕としては、こっちの彼の方が適任だと思うけどね。霊的に不干渉なら、絶対に一人は生き残れるってことだしね」
神子じゃなくなっても、志摩宮の謎パワーは健在だ。確かに、その仕事の最中に現れるのが妖の類なら、志摩宮はほぼ無敵だろう。彼には何も視えないから、何が起こっているのかも分からないかもしれないが。
「だったらずっと全員で志摩宮とくっついておけば……」
「それはたぶん、神様がつまらないって怒るから駄目かな」
酒のツマミなわけだし、と言われ、渋面を作った。志摩宮には危ないことをさせたくない、と反対しようと口を開きかけたところで、徹さんがフウと煙を吐いた。
「だったら、抜くのは森だな。森と俺が抜けて、静汰と志摩宮を入れる」
「え……」
どうして志摩宮を入れようとするのか。俺が徹さんを睨むのに、志摩宮は徹さんへニコニコと笑顔を向けている。……あ、そっか。志摩宮は本当に何処へでも俺に付いて来たいんだな。
時々、俺よりこいつらの方が通じ合っているんじゃないかと思わされることがある。少し悔しい。いや、仲が良いのは良いことなんだけど。
「染井川、君、どうしてそんなに静汰くんを危ない目に遭わせたがるんだい」
ヤモリさんは俺を座に就かせたがるのが理解出来ないみたいに、胡瓜の漬物を噛みながら徹さんを見る。窓枠に肘をつきながら外へ煙を吐いた徹さんは、またじっくり間を開けてから、
「志摩宮と居た方が双対的に生存率が上がるんだよ」
と答えた。
徹さんの目が志摩宮に向いて、志摩宮もそれを受けて当然とばかりに頷いた。
「俺が傍に居る限り、静汰を死なせません」
言い切る志摩宮に、徹さんも頷きを返す。……だから、俺抜きで通じ合うなって。
「それで、話戻すんだけど、どうして徹さんは駄目なのさ」
「件の神様ってのが、大の神様嫌いなんだよ」
「神様なのに?」
「人間だって人嫌いはいるだろ。とにかく、神子だとか、他の神に仕えてる術師はまずヤマに入ることすら許されねぇんだ」
「ヤマ」
「神様の座す『場』だ。そこが何処だかは、神様に喚ばれた『座』の五人にしか分からねぇし、入れねぇ」
ああ、ダメだ。話がオカルトじみてくると、頭が理解を放棄したくなってくる。逆に蛍吾は興味深そうに徹さんの話をメモし始めた。
俺が嫌そうな表情をしたのを読み取って、徹さんが大袈裟に溜め息を吐く。
「そもそも、あの神様が起きるのも、ヒトの世が安全かを確かめる為ですからね。神嫌いなのにヒト好きなので」
ご馳走さま、と箸を置いたヤモリさんは徹さんの隣へ行って、彼もズボンのポケットから煙草の箱を出して一本出して吸い始めた。朝日に照らされた赤い髪が明るく輝く。
「俺らの手に負えないもん任すなら最適なんだが、そうでもない時は眠ってて貰うのが一番なんだ」
吸い終えた煙草を徹さんが携帯灰皿で擦り消したのを見て、ヤモリさんが灰皿が無いのに気付いて「それ貸して」と指で強請る。ほいよ、と渡したその遣り取りが、なんだか彼らのビジュアルも相まって無性にムカつく。俺だって、もう少し年取れば煙草の似合う渋い男になるし。
「神様が嫌いなら、神になる志摩宮も駄目なんじゃない?」
「いや、まだ成ってはないし、志摩宮自身も他の神に仕えてないしギリセーフだろ、たぶん」
嫉妬を見せると揶揄われるに決まっているから、気にしていない風を装って卵焼きを咀嚼する。うん、やっぱり卵焼きは甘い方が好き。
「どうしても五人必要なの?」
「選ばれるのはこの地──まあ、日本の中の、神に仕えてない術師を上から五人。それを目覚めた神様が選んでヤマへ喚ぶ」
「あ、じゃあここで俺たちがどれだけ話してても、呼ばれる可能性は百パーじゃないんだ?」
「志摩宮くんはともかく、静汰くんは確実だから安心していいよ」
ホッと一安心しかけたのに、ヤモリさんは笑顔で言い切った。さっきはどうして俺を、なんて言っていたのに。
「静汰が行くなら俺も行きます」
「だったらお前も少し修行が必要だな。何も見えねぇままだと、ほぼ間違いなく森が選ばれる」
お前もシゴかれたいか、と不敵な笑みを作った徹さんに、志摩宮は躊躇なく頭を下げた。
「必要なら何でもします。教えて下さい」
それを見た徹さんは目を細めて小さく嘆息して、それから志摩宮を指差しながら俺を見る。
「おい静汰、お前も見習え」
「徹さん、志摩宮への評価高くない?」
「お前が文句多過ぎるんだよ」
吸い終えて携帯灰皿を返してきたヤモリさんからそれを受け取った徹さんは、俺の隣に戻ってきて、わしゃわしゃと乱暴に頭を撫でた。
「あと、二年と少し。鍛え上げるから、覚悟しろよ」
徹さんから受けた数々のスパルタ特訓を思い出してゲンナリするのに、隣の志摩宮はこれまで見たどの笑顔より嬉しそうだった。
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