Ωの恋煩い、αを殺す

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06 ゆめうつつ

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 意識が飛ぶ。
 浮かんで、沈む。
 身体の奥の衝動に任せて自分を弄り、擦り立てては痛みに呻く。
 啜り泣いていると柔らかい手が頭を撫でて、そしてまた意識がふわつく。

「もう触るのをやめなさい。擦り切れてる」

 出来るならする。身体が気持ちいいのを求めて勝手に手を動かすのだ。
 いつまで、何回しても、終わらない。
 満足出来ない。
 中に欲しい。αの肉を、αの精を。
 本能に任せて縋りつきたいけれど、今ここに居るのは俺と、αじゃない体温。

「透くん」

 首を振ってぐずるけれど、腕を掴まれて引き剥がされた。
 いやだ。触っていないと、頭がおかしくなる。

「そこまで辛いなら、もう適当なαを呼んであげようか」

 そんなの、絶対にいやだ。

「どうして?」

 乾以外に触られちゃいけないから。約束したから。

「じゃあその乾くんを呼んでいい?」

 だめ。

「どうして」

 乾は俺にそんなことをしたくないから。

「……番候補にしたんだよね?」

 した。
 俺が恋煩いなんかで成績を落とさないように。

「よく意味が分からないな」

 αにうつつを抜かして、俺の成績が落ちるのを防ぐために、乾は俺の番候補になった。

「……」

 だから、番候補だけど、俺のαじゃない。

「乾くんがそう言ったの?」

 言った。

「乾くんは、二番目が好きなの?」

 違う。
 俺が天才じゃないと乾がαなのにΩに劣っていることになるから、だから俺は一番じゃないとダメなんだ。

「……透くんを一番にしておく為には、αに恋をしたらいけない、って?」

 そう。

「随分勝手なことを言うね」

 いいんだ。

「何が」

 俺は嬉しい。

「……」

 乾が、俺を追ってくれることが嬉しい。
 俺は乾に追ってもらうために頑張ってきた。
 ……たぶん。

「たぶん?」

 考えたことが無かった。
 どうして自分が毎日飽きもせず努力し続けているのか。
 でも、昨日分かった。
 乾が追ってくれるからだ。
 絶対にお前を負かす、って睨んでくれるから、俺はそれを楽しみにしてるんだ。

「相変わらず、母さんと光くんに似て好戦的だね」

 だから乾は俺を見てくれる。
 Ωらしくない俺を、Ωとしてなんか興味の無い俺を、番候補にしてくれた。

「してくれた、って……」

 それだけでいい。
 だって、キスしてくれたんだ。

「……それが原因か」

 俺が言ったんだ。キスしてくれ、って。
 そうしたら、してくれた。
 あれだけでいい。
 俺は、あのキスで十分だ。

「透くんは、乾くんが好きなんだね」

 ……。

「透くん?」

 ……うん。
 好きだ。
 だから、絶対呼ばないで。

「向こうの理由で番候補になったなら、発情期の相手くらいさせればいいのに」

 いやだ。

「どうして? 身体の相性が良ければ本当に番にしてくれるかもしれないよ?」

 ……乾、すごく嫌そうな表情をするから。

「どんな時に」

 俺と話す時。
 俺に触れた時。
 ──キスした時も。嫌そうに、眉間に皺を寄せたまま。
 不本意だと分かっていて、付き合わせたくない。
 こんな乱れた情けない姿を晒したら、もう追ってきてくれないかもしれない。
 俺がただのΩだなんて思われたくない。

「……透くん。大丈夫、大丈夫だよ……」

 鼻の奥が痛んで、目から熱いものが流れていく。ただでさえ歪んだ視界が揺らめいて、瞬きしてもぐずぐずに溶けていく。
 柔らかい掌が、背中を撫でてくれる。
 穏やかな声の子守唄を、久しぶりに聞いた。
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