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三日間の中間考査を終えて、そのまま三連休に入って、翌週。
いつも通りの時間にロータリーへ車をつけると、昇降口の辺りが常になく混んでいた。
テスト結果が掲示されるのは一位から十位までで、気にするのは大体αばかりだから、β達がこれほど結果の掲示される下駄箱前に留まるのは珍しい。
何かあったんだろうか、と継則を伴って昇降口へ入ると、ざわ、とどよめきが起きた。視線のほとんどがこちらを向く光景に、ぞっとして足が止まる。
「……なんなんだ、一体」
「先に様子を見て参りましょうか」
気持ちの良くない光景に、継則が俺の前に出ようとしたところで人だかりの中から乾が顔を出した。
「唐島。こっちから来い」
手を伸ばされて、それに視線を向けるけれど無視して自分の下駄箱へ向かった。群れる生徒が俺の行く先だけ割れる。まるでモーゼだ。面白い。
靴を履き替えていると、乾が歩いてきて隣へ来る。
「結果は見たのか」
「まだだ。お前を待ってた」
「……趣味の良いことだ」
この視線とざわめきが自分に向いてるのを鑑みれば、結果は予想出来る。自分に出来るそれを乾が出来ないなんて有り得ない。わざわざ俺を待つあたり、乾はきっと俺が悔しがる姿を見たいのだろう。
二人でテスト結果の掲示板の前へ向かうと、やはり人が割れる。
一番上へ視線を向けると、そこにはやはり、『乾 悠勝』の名前があった。
「……」
「俺の勝ちだ」
喜びを隠しきれない声に、愛しさが溢れて苦笑になって浮かんだ。
「おい、何笑ってんだ。俺の勝ちだろ」
「同率一位で名前順で勝ったのがそんなに嬉しいかい?」
「うるせぇ。俺の方が上にあるんだから俺の勝ちだ」
くくく、と笑うと、横の乾に睨まれるけれど、さらに笑いが誘われるだけだ。
テスト結果は、俺も乾も、全教科満点だった。苗字が『い』で始まるか『か』で始まるかだけで上下が決まっただけだ。
「可愛いな、君は」
「少しは悔しがれよ」
「いやぁ、悔しいよ。すごく悔しい」
笑いながら乾の背を叩くと、乾はあからさまに拗ねたみたいに唇を尖らせた。ああ、可愛いなぁ。最後まで全力で追ってきてくれて、そして、追い抜いてくれた。初めての敗北が、こんなに嬉しいと思わなかった。
笑って乾とじゃれ合う俺を見て、周囲の生徒が落胆の声を上げて散っていくのが聞こえてくる。ああ、それが狙いだったか。悔しがる俺を見たかったのは、どうやら乾だけではなかったらしい。ご期待に添えなくて申し訳ない。
「二ヶ月も勉強漬けで、頭おかしくなるかと思った。放課後テニス付き合えよ」
結果を見たならもう用は無いと、教室へ足を向けようとした俺に乾がそんな誘いをかけてくる。
「えーと……継則」
「いけません」
「だそうだ。悪いな、乾」
「……は?」
さすがにダメだよな? と継則を窺ったら、やはり駄目出しされてしまった。
乾が立ち止まって、「待てよ」と唸る。
「俺が勝ったろ?」
「いや、それはそうだけど。番でも無いαと二人で過ごすのは外聞が良くないだろう」
正確には継則と長押も同席するだろうけれど、見合い前にすることではない。
ごめんな、と謝ると、制服の二の腕を掴まれた。
「唐島。俺、勝ったよな」
「なんだい、まったく子供みたいに。君の勝ちだよ。あいうえお順のおかげだとしても、君の名前が俺の名前より上にあったのは事実だ」
「だったら」
「……分かったよ。継則、いつなら良い?」
「それは私ではなく、お相手にお聞きになって下さい」
「面倒だなぁ。乾、悪いけど見合いの後でもいいかい? 確か今週の金曜の夜だったから、そこで聞いておくから──……」
自分の予定さえ好きに出来ないなんて不便極まりないな、と肩を竦めようとしたら、強く腕を引かれてバランスを崩しそうになった。
「透様っ!」
俺たちの前を歩いて集う生徒を散らしていた継則が、こちらを振り返って叫ぶ。
転ばないように踏ん張った足が乾の足を踏んでしまって、謝ろうとした瞬間、首の後ろに激痛が走った。
「イッ……」
「何を……!!」
「乾さん!!」
継則の怒りに満ちた声と、長押の叫ぶ声。周囲が一瞬不気味なほど静まって、そして爆発みたいな声に囲まれて耳を塞いだ。なんだ。何が起きた。首の後ろが痛い。ぬる、と痛んだ所が熱い何かに舐められて、それでやっと乾に噛まれたのだと悟った。
「一体、なにを……」
「……何って。知らない訳無いだろ、唐島」
痛むそこを摩ると、指の腹に噛み跡が凹んだ感触があった。
周りがうるさい。継則は乾を俺から引き剥がして、長押は焦ったようにスマホでどこかへ電話している。「なんで乾さんが」「どうして唐島を」と周りの生徒達が動揺して話す声がこだまする。
耳が割れそうな騒音の中で、乾の声だけやけにはっきり聞こえてくる。
「お前はもう、俺の番」
継則に両腕を後ろで拘束されながら、乾はそう言った。欠片も嬉しくなさそうな表情に、ただ指の下の小さな凹みの所為で俺たちの人生が決まってしまったのだと、それだけは理解した。
いつも通りの時間にロータリーへ車をつけると、昇降口の辺りが常になく混んでいた。
テスト結果が掲示されるのは一位から十位までで、気にするのは大体αばかりだから、β達がこれほど結果の掲示される下駄箱前に留まるのは珍しい。
何かあったんだろうか、と継則を伴って昇降口へ入ると、ざわ、とどよめきが起きた。視線のほとんどがこちらを向く光景に、ぞっとして足が止まる。
「……なんなんだ、一体」
「先に様子を見て参りましょうか」
気持ちの良くない光景に、継則が俺の前に出ようとしたところで人だかりの中から乾が顔を出した。
「唐島。こっちから来い」
手を伸ばされて、それに視線を向けるけれど無視して自分の下駄箱へ向かった。群れる生徒が俺の行く先だけ割れる。まるでモーゼだ。面白い。
靴を履き替えていると、乾が歩いてきて隣へ来る。
「結果は見たのか」
「まだだ。お前を待ってた」
「……趣味の良いことだ」
この視線とざわめきが自分に向いてるのを鑑みれば、結果は予想出来る。自分に出来るそれを乾が出来ないなんて有り得ない。わざわざ俺を待つあたり、乾はきっと俺が悔しがる姿を見たいのだろう。
二人でテスト結果の掲示板の前へ向かうと、やはり人が割れる。
一番上へ視線を向けると、そこにはやはり、『乾 悠勝』の名前があった。
「……」
「俺の勝ちだ」
喜びを隠しきれない声に、愛しさが溢れて苦笑になって浮かんだ。
「おい、何笑ってんだ。俺の勝ちだろ」
「同率一位で名前順で勝ったのがそんなに嬉しいかい?」
「うるせぇ。俺の方が上にあるんだから俺の勝ちだ」
くくく、と笑うと、横の乾に睨まれるけれど、さらに笑いが誘われるだけだ。
テスト結果は、俺も乾も、全教科満点だった。苗字が『い』で始まるか『か』で始まるかだけで上下が決まっただけだ。
「可愛いな、君は」
「少しは悔しがれよ」
「いやぁ、悔しいよ。すごく悔しい」
笑いながら乾の背を叩くと、乾はあからさまに拗ねたみたいに唇を尖らせた。ああ、可愛いなぁ。最後まで全力で追ってきてくれて、そして、追い抜いてくれた。初めての敗北が、こんなに嬉しいと思わなかった。
笑って乾とじゃれ合う俺を見て、周囲の生徒が落胆の声を上げて散っていくのが聞こえてくる。ああ、それが狙いだったか。悔しがる俺を見たかったのは、どうやら乾だけではなかったらしい。ご期待に添えなくて申し訳ない。
「二ヶ月も勉強漬けで、頭おかしくなるかと思った。放課後テニス付き合えよ」
結果を見たならもう用は無いと、教室へ足を向けようとした俺に乾がそんな誘いをかけてくる。
「えーと……継則」
「いけません」
「だそうだ。悪いな、乾」
「……は?」
さすがにダメだよな? と継則を窺ったら、やはり駄目出しされてしまった。
乾が立ち止まって、「待てよ」と唸る。
「俺が勝ったろ?」
「いや、それはそうだけど。番でも無いαと二人で過ごすのは外聞が良くないだろう」
正確には継則と長押も同席するだろうけれど、見合い前にすることではない。
ごめんな、と謝ると、制服の二の腕を掴まれた。
「唐島。俺、勝ったよな」
「なんだい、まったく子供みたいに。君の勝ちだよ。あいうえお順のおかげだとしても、君の名前が俺の名前より上にあったのは事実だ」
「だったら」
「……分かったよ。継則、いつなら良い?」
「それは私ではなく、お相手にお聞きになって下さい」
「面倒だなぁ。乾、悪いけど見合いの後でもいいかい? 確か今週の金曜の夜だったから、そこで聞いておくから──……」
自分の予定さえ好きに出来ないなんて不便極まりないな、と肩を竦めようとしたら、強く腕を引かれてバランスを崩しそうになった。
「透様っ!」
俺たちの前を歩いて集う生徒を散らしていた継則が、こちらを振り返って叫ぶ。
転ばないように踏ん張った足が乾の足を踏んでしまって、謝ろうとした瞬間、首の後ろに激痛が走った。
「イッ……」
「何を……!!」
「乾さん!!」
継則の怒りに満ちた声と、長押の叫ぶ声。周囲が一瞬不気味なほど静まって、そして爆発みたいな声に囲まれて耳を塞いだ。なんだ。何が起きた。首の後ろが痛い。ぬる、と痛んだ所が熱い何かに舐められて、それでやっと乾に噛まれたのだと悟った。
「一体、なにを……」
「……何って。知らない訳無いだろ、唐島」
痛むそこを摩ると、指の腹に噛み跡が凹んだ感触があった。
周りがうるさい。継則は乾を俺から引き剥がして、長押は焦ったようにスマホでどこかへ電話している。「なんで乾さんが」「どうして唐島を」と周りの生徒達が動揺して話す声がこだまする。
耳が割れそうな騒音の中で、乾の声だけやけにはっきり聞こえてくる。
「お前はもう、俺の番」
継則に両腕を後ろで拘束されながら、乾はそう言った。欠片も嬉しくなさそうな表情に、ただ指の下の小さな凹みの所為で俺たちの人生が決まってしまったのだと、それだけは理解した。
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