Ωの恋煩い、αを殺す

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 シャワーを浴びて、浴槽に浸かる。二人で入るのにぎゅうぎゅう詰めになる狭苦しい浴槽で、右隣に座る悠勝の左腕と左足が隙間なくくっ付いている。下手に広さがあって触れたり触れなかったりよりは緊張しないか、と悠勝に話し掛けようとしたら、彼はぐっときつく唇を噛んで何かに耐えるような表情をしていた。

「……」
「……」

 好きだと言われた直後でなければ、行為が嫌で仕方無いんだろうと誤解していたに違いない。黙り込む悠勝の表情は暗く、眉間には深い皺が寄っている。黙り込む彼に何と話しかけていいか分からず、沈黙が流れた。
 初体験って、こんな雰囲気で行うべきことなんだろうか。緊張するのは分かるけれど、それにしても、し過ぎだと思う。俺が身動ぎして湯に波が立つのすら悠勝に無用な刺激を与えてしまいそうで、どうしたらいいものやら考えてしまう。

「悠勝」
「……なに」
「俺の膝の間においで」

 は? と口を開けて俺を見て止まった悠勝に、「狭いから」と言い訳をして、横並びでなく前後に並ぶように入ろう、と提案した。

「ぎゃ、逆じゃね……?」
「どっちでも構わないよ。俺の背中にその股間を押し当てたいというなら逆でもいい」

 どちらにする、と聞くと、視線を色々なところへウロウロさせた彼は十数秒してからやっと俺に背中を向けた。彼の身体を脚を開いたところへ迎え入れて、上半身を抱き寄せた。

「っ……!」
「そんなに可愛らしい態度をとって、もしかして俺に抱いてほしいのかい?」

 緊張で震える悠勝の身体を両腕でぎゅっと抱き締めると、ギリギリと歯噛みする音が聞こえてくる。

「君は、そうやってすぐ言葉を飲み込んでしまうね」

 裸で触れ合っているというのに、俺は緊張どころか段々安心感さえ芽生えてきた。
 悠勝は、こんなに不器用な男だったんだな。
 知らなかった一面は、しかし今までを振り返るとしっくりと納得出来るから不思議だ。俺に合わせて性悪のフリをしていたというのは、あながち嘘では無いんだろう。

「悠勝。片想いじゃないんだ。俺に、俺の大好きな、君の言葉を聞かせて」

 指の下で、悠勝の身体が鼓動を打っている。ただそれだけで、こんなに嬉しい。ただこうして抱き締めているだけで、こんなに満たされる。
 悠勝にそれを分かって欲しくて、ゆっくりと彼の肌を撫でた。不意にその手首が掴まれて、湯の中から持ち上げられたかと思えば、手の甲をちゅうと吸われた。

「くすぐったい」
「……俺は、根はお前みたいに口の回るタイプじゃない」

 ちゅ、ちゅ、と何度も手にキスされて、指先の方へ向かってくるとゾクゾクした。指の根本あたりをかぷ、と噛まれた後、ぺろりと舌に舐められて腕が跳ねた。

「お前の嫌味を聞くのは好きだけど、それに何て返したらいいか考えるのは正直疲れる」
「おや。黙って負けを認めてもいいんだよ?」
「これからはそうする」
「え……」

 狭い湯船の中で身体を反転させた悠勝が、正面から俺の唇へキスしてくる。

「俺が黙ったら、お前の可愛さの勝ち」
「は?」
「ずっと愛でてたい」

 両頬を悠勝の掌で包むように掴まれて、視線しか動かせないようにされた状態で間近から見つめられて顔が熱くなった。

「……透も照れるんだな」

 今度は唇へ触れるだけのキスを繰り返されて、照れはあるけれど逃げようとも思わない。
 俺の頬を撫でていた手が耳を撫で、首筋から肩を下りて背中へ回ってくる。唇を合わせる時間が少しずつ長くなって、そのうち舌が入ってきた。悠勝の舌は俺の舌を舐めるのが好きで、舌先だけでじゃれ合っているみたいで気持ち良さよりも笑いがこみ上げてくる。

「ゆ、う……、なんだか、違う気が」
「それ、イイ」
「うん……?」
「悠、って」

 もっと呼んで、と言われて、悠、と呼んだ声も彼の口の中に飲み込まれていく。また舌が俺の口の中に入ってきて、今度はゆっくりと舌の奥の根本まで舐められた。
 俺の背中を撫でる悠勝の手が心地良い。彼の背に俺も腕を回して、湯船の中で抱き合いながら互いの口腔内を貪った。

「……ん」

 唾液の交換にも慣れて頭がぼぅっとしてきた頃、ようやく悠勝の手が俺の尻を撫でて、その狭間に指を滑り込ませてきた。
 唇の隙間から違和感の声を上げた俺に、悠勝の目が不安そうに細められて手が止まる。いい気分なのにごちゃごちゃと何か言う気分にもならず、ただ背中に回した腕に力を籠めた。
 正しく伝わってくれたのか、悠勝の指が俺の窄まりを探り当てて、周辺をやわやわと揉み出した。
 発情期でもないソコは今はただの排泄器官の筈で、だからこの間のように中から勝手に潤んだりはしてこないようだ。どうやって行為に及ぶのだろうか、とされるがままになっていたら、急に指の先が中に埋められてきて痛みに竦み上がった。

「ちょ……っ、い、痛いよ」
「あ、わ、悪い」

 顔を離して抗議すると、眉をハの字にさせた悠勝はすぐに指を抜いた。

「すげぇいい感じだったから、このまましたくて焦った。すまん」
「……別に、謝らなくていい」

 確かに、今の雰囲気で俺の準備が出来ていたら、そのまま受け入れていただろう。
 潤滑剤は部屋の方にあるから上がるか、と言われて一人ずつ身体を洗って風呂を上がると、さっきまでの行為が急に気恥ずかしくなってきて、悠勝の方を見るのすら何だか気不味くなってしまった。
 タオルで身体を拭いただけの全裸で部屋の方へ戻ると、きちんと整えられたベッドのシーツですら行為のために誂えられたみたいで直視出来ない。

「透、えっと……緩めるから、四つん這いになって」
「……」

 何をされるのか想像に難くなく、ベッドへ上がったはいいけれど今さらになって逃げ出したくなってくる。

「…………嫌だって言ったら?」

 往生際が悪いのは分かっているけれど、気が付けば俺の口からは弱音が漏れていた。それを聞いた悠勝は、掌に出した潤滑ローションを掌の中でくちくちと捏ねて、そしてへにゃりと笑う。

「もっかい最初からする」

 最初から? と首を傾げた俺の顎を片手で掴んで、悠勝がまた口付けてきた。ちょんちょんと触れるだけを繰り返されて、最初からってそこからか、とつられて笑って舌を伸ばして彼の唇を舐めた。

「少しだけ飛ばしてくれ」
「……りょーかい」

 口の中で舌が擦れ合うけれど、それがどちらの口の中なのか分からない。溶け合いたいみたいに深く口付けて、俺の意識がそこへ向いている隙に、悠勝が俺を膝の上に抱え上げて、後ろから狭間にローションで濡れた指を滑らせてきた。ぬる、ぬる、と窄まりの上を撫でられて、逃げたくなる意識をキスの方に集中する。

「痛かったら、すぐ言って」

 一瞬唇を離した悠勝に囁かれて、噛みつくみたいに唇を吸った。わざわざ意識させないで、勝手に進めてくれ。
 焦ったいほどゆっくりと指が入ってきて、すぐまた抜かれていく。何度も出入りされてむず痒く、しかし痛みは無い。浅いところから、次第に深く埋まってくる。
 キスに集中していたいのに、どうにも指の動きが気になってしまって、気が付けばキスをやめて悠勝に縋り付いていた。
 ぬち、ぬち、と粘着質な音が、俺の身体を緩めていく。抱き着いた悠勝からは薄っすら花の匂いがする。もっとそれを嗅いでいたくて腕に力を込めると、ぶわ、と匂いが濃くなった。

「……ん……君の匂い、好き」

 キスもだけれど、彼のフェロモンを嗅ぐだけで頭がぼぅっとなる。
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