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仰向けに寝かされたベッドから見える今日の部屋は、普通のホテルみたいだった。
白いシーツのベッドに、アイボリーの合皮のソファ。ベッドサイドに置かれた間接照明のオレンジが唯一の明かりで、天井の照明は全部落とされている。
この前の部屋みたいに用途の分からない大型家具なんかは置いてなくて、ベッドの前に大きな鏡がある以外はビジネスホテルだって言われても違和感無い。
呼吸を落ち着けながら部屋を見回していると、僕の体を跨いだまま、潮島はセーターとシャツを脱いだ。照明で照らされた白い肌が見えて、ドキッとした。そういえば前回は、結局潮島が服を脱いだのは全部が終わってからだったような気がする。アイマスクを脱がされた時も、露出した股間以外は服を着込んでいたし。
「モルちゃんも脱ごうね」
上だけ脱いだ潮島が、僕の上から退いて引き起こし、コートやその下の服を順に脱がせては畳んでくれる。
「ご主人様、は……?」
僕だけが全裸に剥かれたのが恥ずかしくて聞くと、潮島は少し驚いた顔をしてから、
「俺はいいんだよ」
と答えた。何でなのか、理由は教えてくれない。
「今日は、前より少しだけ嫌なことがあるかもしれないけど……いちいち逃げないでね」
優しい声のまま、嘲るような言い方をされて胸の辺りがツキンと痛んだけれど、言い返さずに目を伏せて頷いた。
今の僕はモルフォ。それを受け入れてしまった。だから今は、素直でいていい。反抗しなくていい。潮島を傷つけることを言わなくていい。
ちゅ、と正面から軽くキスされると、震え上がるくらい気持ち良かった。ぐぐ、と股間が持ち上がったのが分かる。さっきまでの愛撫ではイきそうなのを何度も寸前で止められていたから、キスだけでもそれが蘇る。
潮島は一度離れると、僕を後ろから抱きかかえ直して身体を弄り始めた。
「あ、の……、今日は、アイマスクは」
「この部屋には無いし、俺も持ってきてないよ?」
「そ……ですか、ぅ、あ」
視線を上げると、壁の大きな鏡に映った自分の姿が見えてしまう。
素っ裸で平らな胸を弄り回されて、陰茎は勃起して顔が上気して真っ赤だ。見たくなくて目を閉じても、不意の刺激に目を開けた時に見てしまうのが恥ずかしい。
「やぁ、ご主人様ぁっ……見ないで……」
目を開けて鏡を見ると、鏡越しに必ず潮島と目が合う。細めたその双眸はじっと僕の顔を見つめていて、情けなく喘ぐ喉を撫でられて細かく震えるのを嬉しそうにしていた。
「嘘つき。見てもらえて嬉しいでしょ」
「ちが……」
「ならほら、目ぇ開けて」
閉じちゃダメだよ、と囁かれて、こわごわ瞼を上げた。やっぱり潮島と目が合って、でも目を閉じちゃいけないから横へ視線を逸らした。
「鏡見て」
顎を掴まれて正面を向かされる。鏡の中の僕を見させられて、その痴態に自分の姿なのに興奮してしまう。
顎から外れた指が首をなぞって胸へ落ちて、人差し指でピンと立った乳首を押し潰された。それだけで勃起した陰茎の先から透明な汁がぽこりと溢れてくるのが見えた。もう片手は親指と人差し指で乳首を挟んでコリコリと揉んだり、爪で先端を引っ掻いたりしてくる。
「あ、ご、めんなさ、……めん、なさ」
弄られ慣れてきた乳首は真っ赤に色付いて、そこだけ僕の体じゃないみたいに見えた。僕の見慣れた薄茶色の平たい乳首はもう無くて、潮島の指をもっとと強請る。
刺激が欲しくて、焦らされたままの腰が我慢出来ずに揺れた。先端から短い間隔で先走りを垂らして、情けなく勃起した陰茎が揺れに合わせて臍を叩く。
それらを全て、つぶさに、潮島は見ている。僕の痴態を触覚と聴覚と視覚とで楽しんで、それでもまだ足りないみたいに僕の肩を甘噛みして舐め回してくる。
「乳首弄られて、えっちな声出してるの、見られて嬉しいよね?」
「ひぁ……っ」
だから、その囁き声に弱いんだって。
潮島の優しい声にゆっくり囁かれると、言われたこと全部に頷いてしまいそうになる。
「ほら、言って」
復唱しろと言われると拒めない。だって、今の僕はご主人様の奴隷だから。
「僕はっ……、乳首弄られて、えっちな声出して……見られて、喜んでいます……っ」
口に出したら、それが僕の本音だったみたいにすら思えてきた。だってほら、鏡の中の僕が嬉しそうに笑ってる。
「かわいい」
ちゃんと言えたご褒美だよ、と潮島が僕の陰茎を握って、ちゅこちゅこと上下に擦ってくれた。堪え性の無い僕のそこは二、三回扱かれただけでイッてしまって、絶頂を貰えた筈なのに物足りなくて唇を噛んだ。
「……モルちゃん、不満そう」
そんな事ない、と首を横に振るのに、潮島は全て見通してるみたいに、今度は僕の根本を掴んで扱き始めた。
「こうして欲しかったんでしょ」
「んん、ぁ、ちが、ご……め、なさぃ」
「どっち?」
くすくす笑う潮島は、きつく根元を絞りながら、小指で僕の陰嚢を叩く。吐き出したばかりの自分の精液を使ってぬるぬるした彼の手に扱かれると、腰が蕩けそうな心地がした。
背を反らして気持ち良さに胸を揺らすのを見て、潮島が「ああ」と思いついたみたいに言ってくる。
「ごめん、手が足りないから、乳首は自分で弄ってくれる?」
「え……」
「上も下も気持ちいいの、好きでしょ?」
そうするのが当然みたいに指示されて、急かす声のままに自分の乳首に手を伸ばす。人差し指の腹で先っぽを撫でると、潮島に触られるのとは違う感触がした。
鏡の中の僕が、恥ずかしさに泣きそうな顔をしている。なのに、後ろからそれを見つめる潮島はとても嬉しそうに笑うから、もっと彼に見てもらいたくて指で摘んで引っ張った。
「乳首、引っ張るの好き?」
「……いえ」
「じゃあどうして何度もしてるの?」
「ご主人様に、……僕の乳首、見て、欲しくて」
「見てほしい? どうして?」
「あっ……ご主人様に、気持ちいいこと教えてもらったからぁ……、いっぱい弄って、ほしいんですっ……」
「今、お前のチンポ弄ってるから無理だよ」
「でも、自分の指じゃ、違うぅ」
駄々を捏ねるみたいに言いながら、両胸の乳首を引っ張ってみせると、潮島がごくんと喉を鳴らす音がした。
「我儘な奴隷だなぁ」
根本を絞られたまま扱かれるのは、頭がおかしくなりそうなほど気持ちいい。気持ち良さに素直になり過ぎた僕の陰茎を、潮島は咎めるみたいに掌でバチンと叩いた。
「やぁっ」
「だったらもっと恥ずかしいことして見せて。そしたら、乳首舐めながらチンポ扱いてあげる」
「……恥ずかしい、こと……?」
潮島は僕を責める手を止め、一度離れてベッドのサイドボードの戸棚を開けて何か探しだした。ラブホテルって、エッチに使う色々な物がベッドの傍にしまわれてるんだな。
開かされていた立て膝を下ろして崩した正座みたいな格好で待っていたら、潮島が取り出したのは何かのボトルのようだった。半透明のボディに赤いキャップの付いたそれは、コンビニなんかでも見たことがある。
潤滑ローションだ。見たことはあるが使うのは初めてだ。
「まずは」
潮島の目が、なんとなく冷たい。
なんで? 何かした? と不安になった僕に、彼はボトルではなくデニムのポケットから出した小さな銀色の弾丸みたいなものを渡してきて、淡々と告げる。
「それ、ケツに入れて五分我慢してから中身出してきて。あ、トイレ行ってやれよ」
「へ……」
「あー、やっぱ男だとこういう時に冷めちまうなぁ」
うーんと伸びをしてベッドに倒れた潮島は、僕に目だけで早く行けと言って瞼を閉じてしまった。
「寝てたら起こして」
手渡された包みを見下ろして、彼の台詞を反芻して。それが、下剤である事を悟る。そして、それを使わされる意味も。
そっとベッドから降りて、トイレへ向かう。中で包装を剥がして、そっと尻に挿入した。さすが専用の薬だけあって、痛くもないし簡単だった。
女の子だったら、こんな必要も無く挿入されたんだろうな。面倒くさがる潮島の態度も分からなくはない。けれど、だったら僕なんかを呼ばなければいいのに。男同士というのを嫌悪しているなら、僕を嫌っているなら、何故僕を呼びつけた。
頭の中でさんざん悪態をついて、だけれどやっているのは彼に抱かれる為の準備だ。僕の方が訳が分からない。彼の声が悪い。優しくされたら拒めないし、あんなに気持ち良いことをされたらもっと先も期待してしまうに決まってる。
具合の悪くなってくる腹を抱えて、トイレの中で蹲った。
甘やかしてから冷たくして泣かすのが好きだと言っていた。これもそうだったらいいのに。それなら我慢出来る。でも、本気で彼に疎ましがられたら泣いてしまいそうだ。もし準備が出来て部屋に戻って、彼の気持ちが萎えていて帰れと言われたらどうしよう……。
すっかり腹の中を出しきって、でもラブホテルの洗浄便座を使うのは抵抗があって結局一度シャワーを浴びた。とろとろになった自分の股間は、触っていないのにまだ緩く勃起していた。床と水平を保つ己の下半身が情けなくて、タオルで隠しながら部屋に戻った。
「……なんで隠してんの?」
潮島は寝ていなかった。
使っていたスマホをベッドに置いて、僕が股間を隠しているのを不審そうに咎めてくる。
「あの……半勃ちだから、なんか恥ずかしくて」
「見せて」
タオルを取って、水平の肉を見せたら潮島から失笑が洩れた。うぅ、やっぱり馬鹿にされるのは精神的にきつい。
泣きそうになるのを我慢して唇を噛んだら、潮島が少し視線を外してから僕を見て優しげに微笑んでくれた。ぎゅっと心臓が掴まれたみたいに苦しくなる。その表情だ。僕はそれに弱いんだ。
「鏡に手をついて、俺の方に尻を突き出して」
潮島はベッドの端の方に移動して、そこに腰掛けた。僕に、その前で尻を見せろと言う。
鏡に手をつくところまでは出来たけれど、彼の方にお尻を出す格好は恥ずかしくて、中途半端に腰だけ後ろにしたような立ち方になってしまった。ぴっちり太腿を閉じているから、その奥までは見えないと思う。
「手で開いて、ちゃんと綺麗に出来たか見せて?」
「……っ」
見られたくないからこの格好なのに、潮島はソコこそを見せろと責めた。
「両手でお尻持って、左右に開くんだよ。モルちゃんのお尻の穴、早く見せて」
潮島の声は優しく、僕の羞恥心と怯えも見透かして安心させるようにゆっくりと話しかけてくる。
ごめんなさいって謝らされるより、ご主人様って呼ぶのより、お尻の穴を見られる方が恥ずかしい。普通に生きてたら、こんな事をする必要なんてよっぽどの事が無ければありえない。お医者様でもない男にお尻の穴を見せるなんて。しかも、見せた後はきっと弄られるのだ。排泄する穴に男の陰茎を挿入されて、性器にされてしまうのだ。
自分の想像に、ぞくぞくと背筋が戦慄いた。
怖いのに、恥ずかしいのに、──されたくて、我慢出来なくなる。
「ご主人様……っ、お願い、です、冷たくしないで……」
今蔑むような事を言われたら、立ち直れなくなってしまう。
それでなくとも、潮島の前だと精神がギリギリなのだ。見せたくない所を見せて嘲笑われたら、心が折れてきっと泣き崩れてしまう。
自分の手で、尻たぶを掴んで左右に開いて見せた。
普段外気に晒されることの無い場所が、冷たい空気に触れて寒気がした。
僕のソコは、変な色をしていないだろうか。肛門って普通何色なんだろう。知らない。他の人のも、自分のすら見た事なんて無いんだから。
尻肉を掴む指が震える。何も言ってくれない潮島が怖い。まだ何も言われていないのに、恐怖で目頭が熱い。
ひっひっと短く息を吸う僕の背後で、潮島が息を吸う音がした。何を言われる? 怖い、怖い、怖い。
「かわいい」
漏らされた呟きに、安堵で脱力した。緊張していた膝から力が抜けてガクガクと震える。鏡に額をくっつけて、はぁあ、と細く息を吐いた。良かった、嫌がられてない。僕の汚いところを見ても、潮島は引いてない。
「お尻の穴見られてイくなんて、えっち過ぎるよ、モルちゃん」
「……っ?」
何を言われたか分からず、自分の足元を見てその意味を知った。ぼたぼたと、陰茎の先から白濁が垂れていた。緊張が解けた瞬間に、そっちも瓦解してしまっていたらしい。
「ごめんなさいは?」
「ぁ……、お、お尻の穴を見られて、恥ずかしくて精子出して、ごめんなさい……」
お尻の穴を見られるのに比べたら、それを口にするのなんて全然恥ずかしさのレベルが違う。だって事実だし。
息を荒くする僕を、潮島はベッドに座ったまま優しく言葉で責めた。
「恥ずかしいと精子出しちゃうの?」
「は、はい……ごめんなさい」
「じゃあ、これからお尻の穴に俺の指入れるところみたら、何回もイッちゃうね?」
「あっ……ごめんなさいぃ」
「まだしてもいないのに、想像してお尻揺れちゃってるよ?」
「うぅ、は、はい、そうです……ご主人様の指、想像して……っ、僕、もう」
「もう? だめだよ、まだダメ。もっと想像して。俺の指がモルちゃんのお尻に入って、ぐちゅぐちゅ音させながら出たり入ったりするんだよ。足広げて鏡越しにそれ見ながら、俺に気持ち悪、って囁かれて泣いちゃうんだよ、モルちゃんは」
ぞくぞくする。潮島の言葉は容易に想像できて、泣いてる僕を見て彼が嬉しそうに笑うのすら目に浮かぶようだ。でも、冷たくされると分かっていれば、それほど怖くはなくなる気がした。たぶん泣いてはしまうけれど、怖いのは随分薄れる。
背後からの視線が、僕の排泄孔に注がれているのを痛いほど感じた。強請るみたいに穴が収縮しているのも、その奥でまた陰茎が勃起しはじめたのも、彼からは見えているに違いない。
「可愛いモルちゃん。俺の指は何本入るかな? 三本入ったらご褒美に乳首舐めながらチンポ握っていつまでもイけないように一晩中虐めてあげるね」
「あぁぁ……っ」
それを想像して、たまらなくなってその場に崩れ落ちた。
僕の頭の中の僕は、もう彼の指でよがり狂っておかしくなっている。これ以上されたら、現実に戻ってこれなくなる。
「やだ……やだぁあ……」
頭を抱えて啜り泣き始めた僕に、潮島は近付いてきた。ひたひた、と素足が二、三歩床を踏む音がして、ぎゅっと抱き締められる。
「大丈夫だよ。なんにも怖くない。モルちゃんが壊れちゃうのは俺の前だけ。俺の奴隷になってる時だけ、俺のモルちゃんは恥ずかしいのでイッちゃう変態になるんだよ」
「やだ……変態なんて、嫌だ……」
「嫌じゃないよ。かわいいよ。ね、ほら、もっかい想像してごらん。俺の指、お尻に入れられて、あんあん言ってるでしょ? 気持ち良くなってるモルちゃん、俺はとっても好きだなぁ」
指で髪を梳くみたいに撫でられて、潮島の体温に包まれて。優しい言葉で肯定されたら、流されてしまいそうだ。
「ほんと……? ご主人様、僕、好き……?」
嫌われたくないと、強く思った。好きでいてくれるなら、怖くても頑張れる。撫でてくれる手に僕の手を重ねたら、やけに汗ばんでいた。
「……好きだよ」
潮島の返事は小さくて、僕を心底安心させてはくれなかったけれど。これ以上駄々を捏ねたらまた冷められてしまうかと、今さらになって恥ずかしくてなって頷いてみせた。
「分かりました。僕、ご主人様に、全部預けます。冷たくされても、信じます。ご主人様が僕を好きでいてくれるって」
言っている途中で、唇が覆われた。噛みつくみたいに唇を吸われて、舌が引っ張られて彼の口の中で舐め回される。首の後ろを掴まれて、逃げられない状態で流し込まれて口の中が潮島の唾液でいっぱいになった。ごく、と飲んだのを、潮島は首を撫でて笑ってくれる。
「……」
何か言おうと唇を離した潮島は、しかし何も言わずに小さく舌打ちした。
けれど、僕を見つめる目は優しい。
「いっぱい気持ちよくしてあげるよ」
僕をベッドに引っ張りあげて、潮島は覆い被さってきた。
彼の言葉に嘘は無く、一晩中気持ちよくて泣かされて、冷たくされて泣かされた。小さな飾り窓のカーテンの外から朝日が差してきてもそれは続いて、解放されたのは昼過ぎだった。
頭がぽやぽやで、まともな語彙が戻ってくるまで時間がかかった。
だから気付かなかったのだ。潮島が一度も達していないって事に。
白いシーツのベッドに、アイボリーの合皮のソファ。ベッドサイドに置かれた間接照明のオレンジが唯一の明かりで、天井の照明は全部落とされている。
この前の部屋みたいに用途の分からない大型家具なんかは置いてなくて、ベッドの前に大きな鏡がある以外はビジネスホテルだって言われても違和感無い。
呼吸を落ち着けながら部屋を見回していると、僕の体を跨いだまま、潮島はセーターとシャツを脱いだ。照明で照らされた白い肌が見えて、ドキッとした。そういえば前回は、結局潮島が服を脱いだのは全部が終わってからだったような気がする。アイマスクを脱がされた時も、露出した股間以外は服を着込んでいたし。
「モルちゃんも脱ごうね」
上だけ脱いだ潮島が、僕の上から退いて引き起こし、コートやその下の服を順に脱がせては畳んでくれる。
「ご主人様、は……?」
僕だけが全裸に剥かれたのが恥ずかしくて聞くと、潮島は少し驚いた顔をしてから、
「俺はいいんだよ」
と答えた。何でなのか、理由は教えてくれない。
「今日は、前より少しだけ嫌なことがあるかもしれないけど……いちいち逃げないでね」
優しい声のまま、嘲るような言い方をされて胸の辺りがツキンと痛んだけれど、言い返さずに目を伏せて頷いた。
今の僕はモルフォ。それを受け入れてしまった。だから今は、素直でいていい。反抗しなくていい。潮島を傷つけることを言わなくていい。
ちゅ、と正面から軽くキスされると、震え上がるくらい気持ち良かった。ぐぐ、と股間が持ち上がったのが分かる。さっきまでの愛撫ではイきそうなのを何度も寸前で止められていたから、キスだけでもそれが蘇る。
潮島は一度離れると、僕を後ろから抱きかかえ直して身体を弄り始めた。
「あ、の……、今日は、アイマスクは」
「この部屋には無いし、俺も持ってきてないよ?」
「そ……ですか、ぅ、あ」
視線を上げると、壁の大きな鏡に映った自分の姿が見えてしまう。
素っ裸で平らな胸を弄り回されて、陰茎は勃起して顔が上気して真っ赤だ。見たくなくて目を閉じても、不意の刺激に目を開けた時に見てしまうのが恥ずかしい。
「やぁ、ご主人様ぁっ……見ないで……」
目を開けて鏡を見ると、鏡越しに必ず潮島と目が合う。細めたその双眸はじっと僕の顔を見つめていて、情けなく喘ぐ喉を撫でられて細かく震えるのを嬉しそうにしていた。
「嘘つき。見てもらえて嬉しいでしょ」
「ちが……」
「ならほら、目ぇ開けて」
閉じちゃダメだよ、と囁かれて、こわごわ瞼を上げた。やっぱり潮島と目が合って、でも目を閉じちゃいけないから横へ視線を逸らした。
「鏡見て」
顎を掴まれて正面を向かされる。鏡の中の僕を見させられて、その痴態に自分の姿なのに興奮してしまう。
顎から外れた指が首をなぞって胸へ落ちて、人差し指でピンと立った乳首を押し潰された。それだけで勃起した陰茎の先から透明な汁がぽこりと溢れてくるのが見えた。もう片手は親指と人差し指で乳首を挟んでコリコリと揉んだり、爪で先端を引っ掻いたりしてくる。
「あ、ご、めんなさ、……めん、なさ」
弄られ慣れてきた乳首は真っ赤に色付いて、そこだけ僕の体じゃないみたいに見えた。僕の見慣れた薄茶色の平たい乳首はもう無くて、潮島の指をもっとと強請る。
刺激が欲しくて、焦らされたままの腰が我慢出来ずに揺れた。先端から短い間隔で先走りを垂らして、情けなく勃起した陰茎が揺れに合わせて臍を叩く。
それらを全て、つぶさに、潮島は見ている。僕の痴態を触覚と聴覚と視覚とで楽しんで、それでもまだ足りないみたいに僕の肩を甘噛みして舐め回してくる。
「乳首弄られて、えっちな声出してるの、見られて嬉しいよね?」
「ひぁ……っ」
だから、その囁き声に弱いんだって。
潮島の優しい声にゆっくり囁かれると、言われたこと全部に頷いてしまいそうになる。
「ほら、言って」
復唱しろと言われると拒めない。だって、今の僕はご主人様の奴隷だから。
「僕はっ……、乳首弄られて、えっちな声出して……見られて、喜んでいます……っ」
口に出したら、それが僕の本音だったみたいにすら思えてきた。だってほら、鏡の中の僕が嬉しそうに笑ってる。
「かわいい」
ちゃんと言えたご褒美だよ、と潮島が僕の陰茎を握って、ちゅこちゅこと上下に擦ってくれた。堪え性の無い僕のそこは二、三回扱かれただけでイッてしまって、絶頂を貰えた筈なのに物足りなくて唇を噛んだ。
「……モルちゃん、不満そう」
そんな事ない、と首を横に振るのに、潮島は全て見通してるみたいに、今度は僕の根本を掴んで扱き始めた。
「こうして欲しかったんでしょ」
「んん、ぁ、ちが、ご……め、なさぃ」
「どっち?」
くすくす笑う潮島は、きつく根元を絞りながら、小指で僕の陰嚢を叩く。吐き出したばかりの自分の精液を使ってぬるぬるした彼の手に扱かれると、腰が蕩けそうな心地がした。
背を反らして気持ち良さに胸を揺らすのを見て、潮島が「ああ」と思いついたみたいに言ってくる。
「ごめん、手が足りないから、乳首は自分で弄ってくれる?」
「え……」
「上も下も気持ちいいの、好きでしょ?」
そうするのが当然みたいに指示されて、急かす声のままに自分の乳首に手を伸ばす。人差し指の腹で先っぽを撫でると、潮島に触られるのとは違う感触がした。
鏡の中の僕が、恥ずかしさに泣きそうな顔をしている。なのに、後ろからそれを見つめる潮島はとても嬉しそうに笑うから、もっと彼に見てもらいたくて指で摘んで引っ張った。
「乳首、引っ張るの好き?」
「……いえ」
「じゃあどうして何度もしてるの?」
「ご主人様に、……僕の乳首、見て、欲しくて」
「見てほしい? どうして?」
「あっ……ご主人様に、気持ちいいこと教えてもらったからぁ……、いっぱい弄って、ほしいんですっ……」
「今、お前のチンポ弄ってるから無理だよ」
「でも、自分の指じゃ、違うぅ」
駄々を捏ねるみたいに言いながら、両胸の乳首を引っ張ってみせると、潮島がごくんと喉を鳴らす音がした。
「我儘な奴隷だなぁ」
根本を絞られたまま扱かれるのは、頭がおかしくなりそうなほど気持ちいい。気持ち良さに素直になり過ぎた僕の陰茎を、潮島は咎めるみたいに掌でバチンと叩いた。
「やぁっ」
「だったらもっと恥ずかしいことして見せて。そしたら、乳首舐めながらチンポ扱いてあげる」
「……恥ずかしい、こと……?」
潮島は僕を責める手を止め、一度離れてベッドのサイドボードの戸棚を開けて何か探しだした。ラブホテルって、エッチに使う色々な物がベッドの傍にしまわれてるんだな。
開かされていた立て膝を下ろして崩した正座みたいな格好で待っていたら、潮島が取り出したのは何かのボトルのようだった。半透明のボディに赤いキャップの付いたそれは、コンビニなんかでも見たことがある。
潤滑ローションだ。見たことはあるが使うのは初めてだ。
「まずは」
潮島の目が、なんとなく冷たい。
なんで? 何かした? と不安になった僕に、彼はボトルではなくデニムのポケットから出した小さな銀色の弾丸みたいなものを渡してきて、淡々と告げる。
「それ、ケツに入れて五分我慢してから中身出してきて。あ、トイレ行ってやれよ」
「へ……」
「あー、やっぱ男だとこういう時に冷めちまうなぁ」
うーんと伸びをしてベッドに倒れた潮島は、僕に目だけで早く行けと言って瞼を閉じてしまった。
「寝てたら起こして」
手渡された包みを見下ろして、彼の台詞を反芻して。それが、下剤である事を悟る。そして、それを使わされる意味も。
そっとベッドから降りて、トイレへ向かう。中で包装を剥がして、そっと尻に挿入した。さすが専用の薬だけあって、痛くもないし簡単だった。
女の子だったら、こんな必要も無く挿入されたんだろうな。面倒くさがる潮島の態度も分からなくはない。けれど、だったら僕なんかを呼ばなければいいのに。男同士というのを嫌悪しているなら、僕を嫌っているなら、何故僕を呼びつけた。
頭の中でさんざん悪態をついて、だけれどやっているのは彼に抱かれる為の準備だ。僕の方が訳が分からない。彼の声が悪い。優しくされたら拒めないし、あんなに気持ち良いことをされたらもっと先も期待してしまうに決まってる。
具合の悪くなってくる腹を抱えて、トイレの中で蹲った。
甘やかしてから冷たくして泣かすのが好きだと言っていた。これもそうだったらいいのに。それなら我慢出来る。でも、本気で彼に疎ましがられたら泣いてしまいそうだ。もし準備が出来て部屋に戻って、彼の気持ちが萎えていて帰れと言われたらどうしよう……。
すっかり腹の中を出しきって、でもラブホテルの洗浄便座を使うのは抵抗があって結局一度シャワーを浴びた。とろとろになった自分の股間は、触っていないのにまだ緩く勃起していた。床と水平を保つ己の下半身が情けなくて、タオルで隠しながら部屋に戻った。
「……なんで隠してんの?」
潮島は寝ていなかった。
使っていたスマホをベッドに置いて、僕が股間を隠しているのを不審そうに咎めてくる。
「あの……半勃ちだから、なんか恥ずかしくて」
「見せて」
タオルを取って、水平の肉を見せたら潮島から失笑が洩れた。うぅ、やっぱり馬鹿にされるのは精神的にきつい。
泣きそうになるのを我慢して唇を噛んだら、潮島が少し視線を外してから僕を見て優しげに微笑んでくれた。ぎゅっと心臓が掴まれたみたいに苦しくなる。その表情だ。僕はそれに弱いんだ。
「鏡に手をついて、俺の方に尻を突き出して」
潮島はベッドの端の方に移動して、そこに腰掛けた。僕に、その前で尻を見せろと言う。
鏡に手をつくところまでは出来たけれど、彼の方にお尻を出す格好は恥ずかしくて、中途半端に腰だけ後ろにしたような立ち方になってしまった。ぴっちり太腿を閉じているから、その奥までは見えないと思う。
「手で開いて、ちゃんと綺麗に出来たか見せて?」
「……っ」
見られたくないからこの格好なのに、潮島はソコこそを見せろと責めた。
「両手でお尻持って、左右に開くんだよ。モルちゃんのお尻の穴、早く見せて」
潮島の声は優しく、僕の羞恥心と怯えも見透かして安心させるようにゆっくりと話しかけてくる。
ごめんなさいって謝らされるより、ご主人様って呼ぶのより、お尻の穴を見られる方が恥ずかしい。普通に生きてたら、こんな事をする必要なんてよっぽどの事が無ければありえない。お医者様でもない男にお尻の穴を見せるなんて。しかも、見せた後はきっと弄られるのだ。排泄する穴に男の陰茎を挿入されて、性器にされてしまうのだ。
自分の想像に、ぞくぞくと背筋が戦慄いた。
怖いのに、恥ずかしいのに、──されたくて、我慢出来なくなる。
「ご主人様……っ、お願い、です、冷たくしないで……」
今蔑むような事を言われたら、立ち直れなくなってしまう。
それでなくとも、潮島の前だと精神がギリギリなのだ。見せたくない所を見せて嘲笑われたら、心が折れてきっと泣き崩れてしまう。
自分の手で、尻たぶを掴んで左右に開いて見せた。
普段外気に晒されることの無い場所が、冷たい空気に触れて寒気がした。
僕のソコは、変な色をしていないだろうか。肛門って普通何色なんだろう。知らない。他の人のも、自分のすら見た事なんて無いんだから。
尻肉を掴む指が震える。何も言ってくれない潮島が怖い。まだ何も言われていないのに、恐怖で目頭が熱い。
ひっひっと短く息を吸う僕の背後で、潮島が息を吸う音がした。何を言われる? 怖い、怖い、怖い。
「かわいい」
漏らされた呟きに、安堵で脱力した。緊張していた膝から力が抜けてガクガクと震える。鏡に額をくっつけて、はぁあ、と細く息を吐いた。良かった、嫌がられてない。僕の汚いところを見ても、潮島は引いてない。
「お尻の穴見られてイくなんて、えっち過ぎるよ、モルちゃん」
「……っ?」
何を言われたか分からず、自分の足元を見てその意味を知った。ぼたぼたと、陰茎の先から白濁が垂れていた。緊張が解けた瞬間に、そっちも瓦解してしまっていたらしい。
「ごめんなさいは?」
「ぁ……、お、お尻の穴を見られて、恥ずかしくて精子出して、ごめんなさい……」
お尻の穴を見られるのに比べたら、それを口にするのなんて全然恥ずかしさのレベルが違う。だって事実だし。
息を荒くする僕を、潮島はベッドに座ったまま優しく言葉で責めた。
「恥ずかしいと精子出しちゃうの?」
「は、はい……ごめんなさい」
「じゃあ、これからお尻の穴に俺の指入れるところみたら、何回もイッちゃうね?」
「あっ……ごめんなさいぃ」
「まだしてもいないのに、想像してお尻揺れちゃってるよ?」
「うぅ、は、はい、そうです……ご主人様の指、想像して……っ、僕、もう」
「もう? だめだよ、まだダメ。もっと想像して。俺の指がモルちゃんのお尻に入って、ぐちゅぐちゅ音させながら出たり入ったりするんだよ。足広げて鏡越しにそれ見ながら、俺に気持ち悪、って囁かれて泣いちゃうんだよ、モルちゃんは」
ぞくぞくする。潮島の言葉は容易に想像できて、泣いてる僕を見て彼が嬉しそうに笑うのすら目に浮かぶようだ。でも、冷たくされると分かっていれば、それほど怖くはなくなる気がした。たぶん泣いてはしまうけれど、怖いのは随分薄れる。
背後からの視線が、僕の排泄孔に注がれているのを痛いほど感じた。強請るみたいに穴が収縮しているのも、その奥でまた陰茎が勃起しはじめたのも、彼からは見えているに違いない。
「可愛いモルちゃん。俺の指は何本入るかな? 三本入ったらご褒美に乳首舐めながらチンポ握っていつまでもイけないように一晩中虐めてあげるね」
「あぁぁ……っ」
それを想像して、たまらなくなってその場に崩れ落ちた。
僕の頭の中の僕は、もう彼の指でよがり狂っておかしくなっている。これ以上されたら、現実に戻ってこれなくなる。
「やだ……やだぁあ……」
頭を抱えて啜り泣き始めた僕に、潮島は近付いてきた。ひたひた、と素足が二、三歩床を踏む音がして、ぎゅっと抱き締められる。
「大丈夫だよ。なんにも怖くない。モルちゃんが壊れちゃうのは俺の前だけ。俺の奴隷になってる時だけ、俺のモルちゃんは恥ずかしいのでイッちゃう変態になるんだよ」
「やだ……変態なんて、嫌だ……」
「嫌じゃないよ。かわいいよ。ね、ほら、もっかい想像してごらん。俺の指、お尻に入れられて、あんあん言ってるでしょ? 気持ち良くなってるモルちゃん、俺はとっても好きだなぁ」
指で髪を梳くみたいに撫でられて、潮島の体温に包まれて。優しい言葉で肯定されたら、流されてしまいそうだ。
「ほんと……? ご主人様、僕、好き……?」
嫌われたくないと、強く思った。好きでいてくれるなら、怖くても頑張れる。撫でてくれる手に僕の手を重ねたら、やけに汗ばんでいた。
「……好きだよ」
潮島の返事は小さくて、僕を心底安心させてはくれなかったけれど。これ以上駄々を捏ねたらまた冷められてしまうかと、今さらになって恥ずかしくてなって頷いてみせた。
「分かりました。僕、ご主人様に、全部預けます。冷たくされても、信じます。ご主人様が僕を好きでいてくれるって」
言っている途中で、唇が覆われた。噛みつくみたいに唇を吸われて、舌が引っ張られて彼の口の中で舐め回される。首の後ろを掴まれて、逃げられない状態で流し込まれて口の中が潮島の唾液でいっぱいになった。ごく、と飲んだのを、潮島は首を撫でて笑ってくれる。
「……」
何か言おうと唇を離した潮島は、しかし何も言わずに小さく舌打ちした。
けれど、僕を見つめる目は優しい。
「いっぱい気持ちよくしてあげるよ」
僕をベッドに引っ張りあげて、潮島は覆い被さってきた。
彼の言葉に嘘は無く、一晩中気持ちよくて泣かされて、冷たくされて泣かされた。小さな飾り窓のカーテンの外から朝日が差してきてもそれは続いて、解放されたのは昼過ぎだった。
頭がぽやぽやで、まともな語彙が戻ってくるまで時間がかかった。
だから気付かなかったのだ。潮島が一度も達していないって事に。
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