【R18】無能王子の傀儡計画 怠惰に寵姫たちと暮らしたいだけです

白鷺雨月

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第二十八話 シリウス王の戦い

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 リチャード・ハルトムートはその光景が信じられなかった。
 二倍の兵力を持つ自軍がいとも簡単に打ち破れている。鶴翼は穴だらけでその意味をなさないでいる。

 ジグスムントとミネルバの部隊は機動力を生かし、戦場を縦横無尽に駆けていく。
 彼らの部隊が駆け抜ける度にハルトムート軍の翼に穴があき、羽が飛び散る。
 その羽とは死んでいくハルトムート軍の将兵たちであった。
 さらに追い打ちをかけるようにシリウス王直属の部隊が各個撃破に動く。
 穴だらけになったハルトムート軍は連携もとれずにただただシリウス王の軍に刃の餌食になっていく。
 その光景をリチャード・ハルトムートは指を咥えて見ていたわけではない。
 リチャード・ハルトムートとしても長年北部国境を守っていた誇りがある。
 王国の守護者たる者の自負だ。
 それに妹のエレノアを婚約破棄され、あまつさえ辱めを受けさせたという恨みがある。
 シリウス王のことを許しておくことは出来ない。
 それにこの戦場でシリウス王を討ち取れば、自分が王位につくチャンスもある。そのような野心がリチャードにはあった。
 ハルトムート家は遡れば王家につらなる血統だからである。

 もう一人の王子シオンは現在行方不明である。
 地下牢で見つかった死体は巧妙にできた偽物であった。またシオン王子の腹心であるジルドレンとエルクも行方不明だ。
 妹のエレノアはその行く先を知っているようだったが、彼女の口は固かった。
 だがおおよその見当はつく。
 恐らくジルドレンの姉ゾルジアが治めるフェリオンに身を寄せているのだろう。
 この際、無能王子の蔑称をもつシオンには西の辺境に引っ込んでいてもらおう。リチャードはそう考えた。
 シリウス王と直接対決し、自分が勝ち、そして王権を握るのだ。
 だがその野心は脆くもくずれつつあった。

 なんとか自軍を再編成しようとするが、黒衣の騎士団の動きが速く、うまくいかない。
 そうこうしているうちにハルトムート軍は徐々に軍勢を減らされていく。

 シリウス王の本隊が先頭になり右側をヴァジュラ隊、左側をガネーシャ隊が続く。紡錘陣形となり、バラバラの羽となったハルトムート軍を殲滅していく。
 
 ヴァジュラはエルディア王国の南東に位置する群島諸国出身の女戦士であった。黒い肌に優美な体格をしている。黒豹の異名をもつヴァジュラの豊かな体には長い鎖が巻かれていた。
 この鎖にはグレアの魔法がかけられていて、伸縮自在であった。
 かなりの重量の鉄鎖を頭上で降り回し、ヴァジュラはそれを敵兵の頭めがけて振り下ろす。
 熟れた西瓜が割れるかのように敵兵の頭は叩き割られる。脳髄を飛び出したハルトムート兵が大量生産される。

 ガネーシャは南方異大陸の東の果ての出自と言われている。牙の生えた象の鉄兜をいつもかぶっている。その素顔を知るのはシリウス王だけだと言われている。
 二メートル近い巨躯であるが、巨人族ではない。
 幅広い円月刀二本を自在に操る剣士であった。
 二刀流の剣士である。
 足だけで巧みに馬を操り、両手の円月刀でハルトムート兵を葬っていく。
 この恐ろしげな容姿も相まってガネーシャは悪魔のように恐れられた。
 ガネーシャの異名は象の牙であった。

 さらに黒星将筆頭のロシュフォールが戦場に到着した。
 ロシュフォールが持つ漆黒の魔剣は銘をソウルイーターという。見たものに耐え難い恐怖心を与え、その刃に斬られると文字通り魂を喰われる。
 斬られたものは一命を取り留めても生きる屍となるのである。
 使用者にはソウルイーターに斬られた者の怨嗟の声が常に聞こえ続けるという呪いの剣でもある。
 普通の人間が持てば数秒と精神を保つ事が出来ないが、ロシュフォールは平然としている。
 禍々しい漆黒の剣を見ただけで、バハムート兵は恐怖のため動きを止める。
 実った麦穂を刈るようにロシュフォールは敵兵を刈っていく。

 ロシュフォールは剣士としても一流であったが指揮官としても一流であった。
 残りの部隊に的確な指示をだし、ハルトムート軍を翻弄する。

 大柄な女戦士と鞍を共にするのはターニャであった。彼女の右肩には優美な羽をもつカラスが止まっている。
 ターニャの目は閉じられていた。
 彼女は自身の目で光を見たことがない。
 ターニャは生まれながらにして光を見ることができなかった。
 その代わり他者と感覚を共有できるという魔術を体得していた。
 ほっそりとした体を灰色のローブに包むターニャはカラスを空に飛ばす。
 愛鳥であるカラスと感覚を共有する。
 カラスの視界には戦場から離脱しようとするリチャード・ハルトムートの姿が見えた。
 三十騎ほどの騎士に守られて北に逃げようとしていた。
「あらあら、一軍の将たる者が情けない」
 甲高い声でターニャは一人言う。
 形の良い顎に人差し指を当て、わずかな時間思案する。
「もっとも近いのはミネルバね」
 ターニャは感覚を共有したカラスをミネルバの元に飛ばす。
 一度、空を旋回したカラスはミネルバの元に降下する。


 幾人ものハルトムート兵を焼き殺し、斬り殺したミネルバの元にターニャのカラスが飛来する。
「リチャード、北、すぐそこ」
 人間の言葉を話すことができないカラスが無理矢理に話す。ガサガサの聞き取りにくい声だが、なんとか意味をミネルバは理解した。
「ターニャ、ありがとう。また甘いものでも奢るよ」
 カラスに礼を言い、ミネルバは北に馬を走らせる。
 年の近いミネルバとターニャは親友であった。
 戦場以外の彼女らはごく普通の可愛らしい少女たちであった。それは悪魔でも戦場以外での話だ。

 ミネルバは全速力で愛馬を走らせる。
 すぐに騎兵の集団を見つけた。
 三十騎ほどの騎士に守られて、その中央に黄金の鎧を装備した男がいる。
 その豪華な鎧を着た人物こそがリチャード・ハルトムートであった。
 わずか数名の騎士に追いつかれたリチャード・ハルトムートは護衛に迎撃を命じる。
 リチャードの騎士はミネルバの魔剣サラマンダーに消し炭にされる。
 真紅の業火にリチャードの秀麗な顔が照らされる。
 リチャードが気がついたときにはミネルバに肉薄され、魔剣サラマンダーに下腹部をつらぬかれた。
 瞬時に炎に焼かれ、ただの炭となったリチャードは落馬した。
「リチャード・ハルトムート!!火の鳥ミネルバが討ち取った!!」
 少女の声が戦場に鳴り響いた。
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