【R18】無能王子の傀儡計画 怠惰に寵姫たちと暮らしたいだけです

白鷺雨月

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第三十七話 イザベラ・レノーア伯爵夫人

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 レイシャン王国のイザベラ・レノーア伯爵夫人の領地は南方にあり、元ハルトムート公爵領と接している。
 ハルトムート家がエルディア王国の北方守護を任せられている様にレノーア家はレイシャン王国の南方守護を委任されている。
 セリーナはそのレノーア家当主のイザベラを調略しようと提案した。
「私に策がございます。シオン殿下が協力していただければ必ずやイザベラはこちらにつきます」
 自信満々にセリーナは言う。
 僕はセリーナの策に乗ってみようと思う。
 イザベラという人物を味方にできたなら、現在北方を守る黒騎士ロシュフォールの牽制となる。
 シリウス王に対して戦力の劣る僕たちは戦略で対抗しなければいけない。
 この策はぜひ成功させたいところだ。

 翌日、僕たちは大森林奥にある転移魔法陣に向けて出発した。同行するのはセリーナとエルクである。
 僕は愛馬オリオンに乗り、セリーナはエルクと共にヘラクレスに乗る。
 大森林の道案内はアルベルトに頼んだ。
 大森林は迷宮に等しく、猪牙オーク族か土鬼ドワーフ族の案内がなければすぐに道に迷う。
 転移魔法陣は銀竜山脈の麓にあり、旅程は約二日ほどだ。
 一日目の夜にアルベルトの村で休んだ。
 アルベルトの村の住人から僕たちは歓待を受けた。狩りの獲物を村人に分け与えていたことに感謝された。悪い気はしない。
「ところでヒルダはお役に立てていますかな?」
 夕食時にアルベルトにそう尋ねられた。
 ヒルダことヒルデガルトには世話になっている。ヒルダは料理上手しかも巨乳だ。
 その巨乳を使ってのパイズリはとても気持ちいい。
「ええとてもお世話になっています。とくにパイ……」
 これはまずい。
 ヒルダの巨乳でパイズリしてもらったことを思い出していたら、父親のアルベルトに言ってしまうところだった。
「パイ?」
 アルベルトが不思議な顔をしている。
「ヒルダのミートパイは格別です」
 どうにか取り繕う。
「わが娘は料理が得意ですからな」
 にこやかにアルベルトは微笑む。
 隣のセリーナがいつもの妖艶な笑みを浮かべていた。

 アルベルトの村を朝早くに出て、昼過ぎにはその転移魔法陣があるという祠に到着した。
 そこにはジュピターが待機していた。
 どうやらスノウ・ホワイトから応対を命じられていたようだ。
「殿下、私も連れて行ってください」
 僕はそのジュピターの申し出を受け入れた。
 好奇心の強い彼は外国を見てみたいのだという。
「いいよ、ジュピターも一緒に行こう」
 僕はこのオタク気質のある土鬼ドワーフを気に入っている。僕の数少ない男友達だ。

 オリオンとヘラクレスをアルベルトに預けて、僕たちは祠に入る。
 馬が転移魔法陣で転移できないのは欠点だと思う。
 
 祠の中にはあの王城地下で見た魔法陣と同じものが床に刻まれていた。
 僕たちはその魔法陣の中央に進む。
 次の瞬間、視界が光に包まれる。
 目が眩しさから癒えたころ、視界にうつるのはまるで違うものだった。石造りの部屋だ。
 その部屋の端に一人の女性が立っていた。
 上半身は鉄鎧で下半身は白いスカートという姿だ。
 赤毛の背の高い美人だ。
 目元のほくろがセクシーだ。
 腰に長剣ブロードソードをぶら下げている。
「貴君がエルディアのシオンか?」
 そう訊かれた。
 敬称をつけずに呼ばれるのは母親のクラウディアに会ったとき以来だな。
 僕はそうだと答える。

「お久しぶりです。イザベラ様」
 セリーナが丁寧に頭をさげる。
 警戒したエルクが僕の真後ろにたち、背中の戦斧に手をかける。
 どうやら目の前の人物があのイザベラ・レノーア伯爵夫人ということか。
 年齢は恐らく三十代後半だろうか。落ち着いた雰囲気の美人だ。
 でもこの声とこの顔、見覚えがあるな。
 
「どうした、人の顔をじろじろ見るのは失礼ではないかね」
 イザベラは僕を睨むように見る。次に不敵な笑みを浮かべる。
 その笑みを見て僕はある人物を思いだした。
 淫夢の魔女リリムだ。
「リリム……」
 僕は思わず口走る。

「そうです。イザベラ様はリリム様の末裔なのです。そして我が夜の教団の女司祭プリーステスの一人でございます」
 うふふっとセリーナはあの妖艶な笑みを浮かべる。
 なるほどそのつながりがあるから、イザベラは調略に応じるとセリーナは踏んだのか。

「シオン、あなたのことを試させてもらう」
 僕の手を掴むとイザベラはどこかに連れていこうとする。
 エルクがイザベラの手を引き剥がそうとするが、それをセリーナは止めた。
「シオン殿下、あとは貴方様におまかせいたします。イザベラはある条件を提示しました。その条件をかなえられるのは王子殿下のみです」
 エルクの手を止めながら、セリーナは真剣な顔でいう。
 その様子を興味津々な顔でジュピターは見ている。


 僕はイザベラに手を引かれて、その部屋を出た。
 どうやらここはイザベラが城主をつとめるレノーア城の地下だということだ。
 魔法陣の部屋を出て、廊下を手を引かれて歩く。
 僕は別の部屋に連れていかれた。
 そこは質素で広い部屋だった。
 大きなベッドが真ん中に置かれ、壁のまわりには明かり用のランプがいくつかかけられている。
 それだけの部屋だ。

 イザベラはばきばきと鎧の留め具を外していく。
 白いワンピースのような服だけになる。
 腰の長剣をベルトごと壁掛けにかけた。
 イザベラは固い手のひらで僕の頬を掴む。
 エルクのように剣を握り続けた人間の手だ。
「私は十五歳でレノーア家に嫁いだ。嫁いですぐに夫のダミアンは戦死した。それ以来二十年、私は夫にかわりこの地を守ってきた。私はまだ女としての悦びを知らない。セリーナはシオンならばそれを教えてくれると言った」
 突如、秀麗な顔が近づき唇が重ねられる。
「私に忘れられないものを体験させたなら、味方になってやろう」
 僕はイザベラに唇を噛まれた。
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