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白鷺雨月

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第五十六話 ぬらりひょんの彼女

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 増税に物価高などいろいろな要因で僕が勤めていた会社は倒産した。
 僕こと影山《かげやま》灰都《はいと》は晴れてニート、すなわち無職になった。
 貯金と退職金、それに失業手当などもろもろあるので、僕は再就職を先送りにすることにした。

 人生の夏休みとばかりに僕はゲームをし、アニメを見ることに没頭した。社畜時代はこれらのオタク趣味に時間を費やすことはできなかったからね。
 一日中ゲームをしたり、アニメを見たりして過ごした。
 さらに僕は前からやりたかったことに取りかかることにした。それはイラスト作成である。
 絵心は子供のころからあったんだよね。
 学生時代はノートのはしに自作キャラクターを描いたりしたものだ。もちろん、他人には見せたりはしなかったけどね。
 百円均一のショップで色鉛筆やカラーのペン、それにスケッチブックなんかを購入する。本当は液タブなんかが欲しかったんだけど、収入のない僕は高価な買い物は控えたいと思う。

 自宅に帰り、僕はイラスト作成にとりかかった。鉛筆で下書きし、それにペンや色鉛筆で色づけしていく。
 まずは試しにかわいい女の子のイラストを描いてみる。
 スマホで制服の女の子をいろいろ検索し、それらをもとに想像力を駆使し、オリジナルの女子を描く。
 気がつけば三時間も過ぎていた。
 手前みそだけど、我ながらうまく書けたと思う。
 そのスケッチブックに描かれた女子高生をスマホで録り、ネットにあげた。まずはXとインスタグラムにあげる。

 お腹が空いたので近くのお弁当屋さんに行き、好物の鶏そぼろ弁当を買う。
 ここのお弁当屋さんは個人経営で、手作り感があっていいんだよな。ボリュームもあるし、値段も安いんだよね。

「五百円になります」
 店員の女の子が僕から五百玉を受け取り、代わりに鶏そぼろ弁当が入ったビニール袋を渡してくれる。

「ありがとう」
 とお礼を言い、僕はそれを受けとる。

 ビニール袋からはお弁当の温かさが伝わってくる。
 ここのお弁当屋さんの店員の女の子がかわいいのも、僕が通う理由でもある。小柄で童顔、笑顔がとてもかわいい。髪型はおかっぱに近いボブカットでどこか猫のような愛らしさがある。
 僕が好きなアニメなんかではこんな女の子と恋に落ちて、ラブコメが始まるんだけどまあ実際はそんなことなんておきない。

 僕は自宅であるワンルームに帰り、インスタントの味噌汁をいれ、鶏そぼろ弁当に箸をいれる。もそもそとお弁当を食べながら、スマホをチェックする。
 すると僕の投稿したイラストにけっこうな数のいいねがついていた。リプライも比較的好意的で承認欲求を満たすのに十分だった。
 気をよくした僕は、もうひとつ気合いをいれてイラストを描いた。

 テーマは昔から好きだった妖怪である。
 さて妖怪の誰をモチーフにしようかなと思案する。
 いろいろ考えて僕はぬらりひょんにすることにした。漫画やアニメでよく題材になることが多い妖怪だ。
 人の家に勝手にあがりこんでご飯を食べるという妖怪である。実は妖怪たちの総大将だとも言われている。
 そのぬらりひょんを女体化しようと思う。女体化はやりがいあるからね。
 どうせ時間はたっぷりあるんだ、好きなものを描こう。
 モデルはあのお弁当屋の店員さんにすることにした。
 彼女のことを考えながらペンを持つと不思議とイマジネーションがふくれ、さらさらと筆がスムーズに進む。

 時間を忘れて、僕はイラストに熱中する。
 
 こんなに何かに集中するのは初めてかもしれない。
 できたらイラストで食べていけたらいいなあ、なんていう妄想が僕の頭にふくらむ。
そうして出来上がったイラストはかなりの力作であった。
 自分で描いたイラストなのにその可愛らしさに思わずにやけてしまう。
 けっこう疲れたけど、良いのができたぞ。

 このイラストもネットにアップする。
 そうすると次々といいねがつき、何度もリポストされる。
 もしかしてプチバズっているかな。
 承認欲求を満たされた僕は満足して、シャワー浴びて寝ることにした。


 翌日、僕は前から見たかった映画がまだ公開されているというのを知り、映画館に向かった。偶然、その日は割引デーだったしね。
 映画ってサブスクなんかで家で見られるけど、映画館でみると一味もふた味もちがうよね。
 映画館を出た僕はファミレスでお昼ご飯を食べて、帰宅する。
 玄関のドアを開けると違和感を覚えた。
 玄関に見ず知らずの靴がある。
 それは女性が履くローファーであった。茶色で革製で、小さくてかわいい。
 もちろんだけど無職の僕に彼女なんていない。いたらお弁当屋の店員さんでへんな妄想なんてしない。

 僕はごくりと生唾を飲む。
 さては不審者か。しかし、どうやって入ったんだ。部屋はきっちり鍵をして出かけたはずなのに。
 僕はゆっくりとそう長くはない廊下を歩き、部屋につながるドアのノブを握る。
 五センチほどの隙間をあけて、中の様子をみる。

 ズルズルと何かをすする音がする。
 僕の部屋で誰かが何かを食べているようだ。
 目をこらして中を見るとこたつに誰かがいる。おかっぱ髪の女の子が買い置きしていたカップラーメンをズルズルとすすっている。
 ごくりと麺を飲み込むとその女性は隙間から覗く僕をみつめた。

「あっ!!」
 僕は思わず声をあげてしまう。
 こたつでカップラーメンを食べているのは僕がイラストにした女体化ぬらりひょんであった。
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