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白鷺雨月

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第七十二話 ハングドマンコレクション⑧

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 首にロープを食い込ませた男は充血した目で僕たちをにらんでいる。
「葉子は僕のコレクションだ。返してもらおうか」
 ふひゅうふひゅうとあの呼吸音混じりに犯人Aは言った。

 細井瞳はちらりと僕たちを見た。
「どうだい、あんなざれ言を言っているがそうなのかい」
 
「そんなことあるものか。僕たちの命は僕たちのものだ」
 僕は答えた。
 白猫のヨウコも牙をむき出しにして、怒りもあらわだ。
 そうだ。
 一度、葉子はあの男に命という何物にも代えがたいものを奪われている。
 今度、また、ヨウコの命まで奪われてなるものか。
 僕の怒りに震える肩を夢食みジャックは優しく撫でた。
「ああ。ああ、わかったよ。私にまかせな」
 自信満々の様子で細井瞳は言った。

 なんて頼りがいのある言葉だろうか。
 僕は思った。

 そんな僕たちを分厚い刃を持つナイフの刃を舐めながら、その男は高笑いした。
 甲高い笑い声が公園内に響く。
「わかってないな、おまえたち」
 完全に見下した声で犯人Aは言った。
「この集合意識の世界では精神の力が全てだ。選ばれた僕は貴様らなど思いも寄らない力を持っているのだ。夢魔となった者の上位種だけが持つ力があるのだ。貴様らはその力の前に僕のコレクションになるのだ」
 犯人Aは締め付けられた喉からふひゅうふひゅうと呼吸音を鳴らしながら、わけのわからないことを言った。

 犯人Aがその言葉を言った後、彼の目の前が眩しいほど光った。
 その光の中からあるカードが浮かびあがった。
 そのカードにはロープで首を吊られた男がデザインされていた。
 その絵はどことなく犯人Aに似ていた。
「これが選ばれた者だけが持つことを許されたこの集合意識の世界の力を濃縮させたものだ。吊られた男ハングドマンのアルカナだ」
 なおも犯人Aは高笑いをする。

 そのカードにどんな意味があるか分からなかったが、その禍々しさからとんでもないものに思えた。
 僕は生物が持つ本能的な部分で恐怖を感じた。

 細井瞳はそのカードを見て、どこかあきれた顔をした。
「なんだい、そんなものがおまえの自信の源なのかい」
 あきれた顔で細井瞳は言った。

 細井瞳はジャケットの内側からなにかを取り出した。
 それはあの犯人Aが出したものと酷似していた。
「それなら私も持っているよ」
 細井瞳は三枚のカードを空中に放り投げた。
 カードは横並びに浮遊する。
「私も持っているのさ。教皇ハイプリースト死神デスムーンのアルカナをね」
 にやりと笑いながら、細井瞳は言った。


 三枚ものアルカナと呼ばれるカードを見て、犯人Aは驚愕し、恐怖し、最後に怒った。
「くそ、そんな訳あるものか。僕こそが選ばれた人間なんだ」
 そう言い、首のロープをふりほどいた。素早くロープの先端にナイフを繋げるとすさまじい力でふりまわした。
「僕こそが、僕こそが選ばれた人間なんだ。おまえは僕の世界から出ていけ」
 振り回したナイフが細井瞳の顔めがけて襲いかかる。
 文字通り必殺の攻撃だ。
「まだわかってないようだね。おまえはおまえが思うほど特別ではないんだよ。おまえはたいしたことのない存在なのさ。それを教えてやるよ」
 細井瞳は三枚のタロットカードを犯人Aに向って投げる。
 三枚のタロットカードは三角形に犯人Aを取り囲む。
 三角形の内側に狐面の男たちがあらわれて、犯人Aを羽交い絞めにした。
 そしてどこかに連れていった。
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