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第一話 サッポロ一番とオタクな彼女
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休日の朝七時に吉田和人は眼を覚ました。
隣ですやすやと眠る有希子の頬をなでる。
白くて柔らかな頬を撫でると有希子はむにゃむにゃとコミカルな寝言を言った。
その姿を見て、和人は正直にかわいいと思った。
自分と同じ四十五歳だというのにまったくそうは見えない。
二十代はさすがに言えないが三十代なら余裕で通じると思う。
それにスタイルも抜群だ。出てるところは出ていて、引っ込むところは引っ込んでいる。
ちらりと胸元を見ると豊かな谷間が見える。
これをさわっても誰にも怒られないのかと思うと思わず顔がにやける。
うーんと背を伸ばし、ベッドを降りる。
まだ寝ている彼女の有希子を寝室に残し、和人は洗面所に向かう。
冷たい水で顔を洗う。
マウスウォッシュで口をゆすぎ、電気シェーバーで髭を剃る。
剃り残しを確認する。
鏡にはどこからどう見ても正真正銘の中年男性が写っている。最近増えてきたシミが悩みの種だ。それに額も後退してきているような気がする。
認めたくないものだと和人はシャア・アズナブルの物真似を心中で呟く。
そう和人は自他ともにみとめるオタクであった。すきなジャンルはロボットものと特撮である。
「おはよう」
あくび混じりの声が背後からする。
有希子が起きてきたようだ。
背中越しに彼女の胸の柔らかさを感じる。
それに温かい吐息も。
「おはよう、有希ちゃん」
この年でちゃん付けで呼ぶのはどこか気恥ずかしいが、二人だけなのでまあいいだろうと和人は思った。
「おはよう、和人君」
有希子はそう言い、和人の頬にキスをする。
「ねえ朝ご飯どうする?」
有希子は和人にきいた。
そこで和人は思案する。
朝マックもいいし、近所の喫茶店「小都」でモーニングもいいな。
「そういえば和人君、朝にインスタントラーメン食べるって言ってたわよね。私も朝ラーメンしてみたい」
それは思いも寄らない有希子の提案であった。
確かに和人は朝ご飯にインスタントラーメンを食べることがある。
和人はラーメンが好物なので朝からでも平気だけど、お嬢様育ちの有希子がそれを食べたいなんていうとは思わなかった。まあ四十代でお嬢様というのもなんだなと和人はこころの中で思った。
「ラーメンでいいの?」
確認のために和人はきいてみた。
朝からラーメンなんて女性にはヘビーだなと考えたからだ。
「いいの、私もねラーメン大好きなの。大人になってはまったのよ」
ふふっと微笑む有希子を見て、和人は思わずかわいいと思った。
「じゃあラーメンにしようか」
和人が言とうんうんと有希子は頷き、少女のような顔で喜んだ。
和人が住むマンションのキッチンにはインスタントラーメンが数種類ストックされている。
それは彼がラーメン好きだということもあるし、一人暮らしが長かったということもある。
現在キッチンの棚にはチキンラーメン、うまかっちゃん、サッポロ一番の塩と味噌がある。
さてどれにするかなと悩んでいたら有希子がサッポロ一番の塩を手に取った。
「私これがいい」
と有希子は言った。
「じゃあそれにしよう」
和人はサッポロ一番の塩ラーメンを二袋取り出す。
片手鍋を二つ用意し、それに水を五百ミリリットル入れる。
「昨日お好み焼きをした残りのキャベツがあったわね」
有希子はそういい、冷蔵庫から八分の一玉のキャベツを取り出し、まな板に置く。
トントンとリズミカルに包丁でキャベツを千切りにする。
「健康的だね」
和人は言った。
いつも和人はラーメンに具はいれない。よくて卵やもやしぐらいだ。
「こんなので健康的だなんて和人君、どんな食生活おくってきたのよ」
くくくっと癖のある笑い方を有希子はする。
和人は知っている。
この笑い方をするときは作ったものではなく、心からわらっているときだということを。
「そうだ、おネギさんもあったわね」
有希子は冷蔵庫から長ネギを取り出し、それを水洗いし、トントンと切っていく。
その間に沸騰したお湯に和人は麺をいれて、ほぐしていく。
ある程度ほぐれたら袋の調味料を入れる。
調味料がお湯にとけた頃合いを見計らって有希子が水洗いした野菜を入れていく。
野菜が煮えたら出来上がりだ。
それを有希子が神戸の中華街で買ってきた丼に注ぎ入れる。
しあげに和人はラーメンに別添の切り胡麻を振りかける。
塩ラーメンのいい香りが食欲をそそるなと和人は思った。
「美味しそうね」
そういう有希子を見て和人は何度目かはわからない「かわいいな」を思った。
リビングのテーブルに和人はラーメンを二つ置く。
有希子はジャスミン茶をコップに入れ、それをテーブルに二つ置いた。
このジャスミン茶は有希子が沖縄に出張に行ったときに買ってきたものだ。
ゼータガンダムのコップが和人用でピーチ姫のコップが有希子用であった。
そう、有希子もオタクなのである。好きなジャンルは主にレトロゲームとファンタジーアニメであった。特にロードス島戦記が好きで彼女の部屋にはVHSのソフトがある。もちろんビデオデッキも未だに現役であった。
「いただきます」と和人が言うと同時に有希子も「いただきます」と言った。
麺をすすると小麦の香りが和人の口の中にぶわっと広がった。野菜の甘みがいいアクセントだ。やはりサッポロ一番塩ラーメンは野菜が合う。これだけ野菜をとったのなら、カロリーはほぼゼロだろう。
「ラーメン美味しいね」
麺をむぐもぐと食べたあと、有希子は言った。
「今日はどうするの?」
和人はきいた。
シフト制で働く和人と土日が休みの有希子が珍しく一致した休日だ。
「そうね、日本橋のオタロードでアニメイトに行って、駿河屋でしょ、それにレトロゲームのお店にも生きたいわ」
有希子は指折り、そういった。
これは充実した休日になりそうだと和人は思った。
隣ですやすやと眠る有希子の頬をなでる。
白くて柔らかな頬を撫でると有希子はむにゃむにゃとコミカルな寝言を言った。
その姿を見て、和人は正直にかわいいと思った。
自分と同じ四十五歳だというのにまったくそうは見えない。
二十代はさすがに言えないが三十代なら余裕で通じると思う。
それにスタイルも抜群だ。出てるところは出ていて、引っ込むところは引っ込んでいる。
ちらりと胸元を見ると豊かな谷間が見える。
これをさわっても誰にも怒られないのかと思うと思わず顔がにやける。
うーんと背を伸ばし、ベッドを降りる。
まだ寝ている彼女の有希子を寝室に残し、和人は洗面所に向かう。
冷たい水で顔を洗う。
マウスウォッシュで口をゆすぎ、電気シェーバーで髭を剃る。
剃り残しを確認する。
鏡にはどこからどう見ても正真正銘の中年男性が写っている。最近増えてきたシミが悩みの種だ。それに額も後退してきているような気がする。
認めたくないものだと和人はシャア・アズナブルの物真似を心中で呟く。
そう和人は自他ともにみとめるオタクであった。すきなジャンルはロボットものと特撮である。
「おはよう」
あくび混じりの声が背後からする。
有希子が起きてきたようだ。
背中越しに彼女の胸の柔らかさを感じる。
それに温かい吐息も。
「おはよう、有希ちゃん」
この年でちゃん付けで呼ぶのはどこか気恥ずかしいが、二人だけなのでまあいいだろうと和人は思った。
「おはよう、和人君」
有希子はそう言い、和人の頬にキスをする。
「ねえ朝ご飯どうする?」
有希子は和人にきいた。
そこで和人は思案する。
朝マックもいいし、近所の喫茶店「小都」でモーニングもいいな。
「そういえば和人君、朝にインスタントラーメン食べるって言ってたわよね。私も朝ラーメンしてみたい」
それは思いも寄らない有希子の提案であった。
確かに和人は朝ご飯にインスタントラーメンを食べることがある。
和人はラーメンが好物なので朝からでも平気だけど、お嬢様育ちの有希子がそれを食べたいなんていうとは思わなかった。まあ四十代でお嬢様というのもなんだなと和人はこころの中で思った。
「ラーメンでいいの?」
確認のために和人はきいてみた。
朝からラーメンなんて女性にはヘビーだなと考えたからだ。
「いいの、私もねラーメン大好きなの。大人になってはまったのよ」
ふふっと微笑む有希子を見て、和人は思わずかわいいと思った。
「じゃあラーメンにしようか」
和人が言とうんうんと有希子は頷き、少女のような顔で喜んだ。
和人が住むマンションのキッチンにはインスタントラーメンが数種類ストックされている。
それは彼がラーメン好きだということもあるし、一人暮らしが長かったということもある。
現在キッチンの棚にはチキンラーメン、うまかっちゃん、サッポロ一番の塩と味噌がある。
さてどれにするかなと悩んでいたら有希子がサッポロ一番の塩を手に取った。
「私これがいい」
と有希子は言った。
「じゃあそれにしよう」
和人はサッポロ一番の塩ラーメンを二袋取り出す。
片手鍋を二つ用意し、それに水を五百ミリリットル入れる。
「昨日お好み焼きをした残りのキャベツがあったわね」
有希子はそういい、冷蔵庫から八分の一玉のキャベツを取り出し、まな板に置く。
トントンとリズミカルに包丁でキャベツを千切りにする。
「健康的だね」
和人は言った。
いつも和人はラーメンに具はいれない。よくて卵やもやしぐらいだ。
「こんなので健康的だなんて和人君、どんな食生活おくってきたのよ」
くくくっと癖のある笑い方を有希子はする。
和人は知っている。
この笑い方をするときは作ったものではなく、心からわらっているときだということを。
「そうだ、おネギさんもあったわね」
有希子は冷蔵庫から長ネギを取り出し、それを水洗いし、トントンと切っていく。
その間に沸騰したお湯に和人は麺をいれて、ほぐしていく。
ある程度ほぐれたら袋の調味料を入れる。
調味料がお湯にとけた頃合いを見計らって有希子が水洗いした野菜を入れていく。
野菜が煮えたら出来上がりだ。
それを有希子が神戸の中華街で買ってきた丼に注ぎ入れる。
しあげに和人はラーメンに別添の切り胡麻を振りかける。
塩ラーメンのいい香りが食欲をそそるなと和人は思った。
「美味しそうね」
そういう有希子を見て和人は何度目かはわからない「かわいいな」を思った。
リビングのテーブルに和人はラーメンを二つ置く。
有希子はジャスミン茶をコップに入れ、それをテーブルに二つ置いた。
このジャスミン茶は有希子が沖縄に出張に行ったときに買ってきたものだ。
ゼータガンダムのコップが和人用でピーチ姫のコップが有希子用であった。
そう、有希子もオタクなのである。好きなジャンルは主にレトロゲームとファンタジーアニメであった。特にロードス島戦記が好きで彼女の部屋にはVHSのソフトがある。もちろんビデオデッキも未だに現役であった。
「いただきます」と和人が言うと同時に有希子も「いただきます」と言った。
麺をすすると小麦の香りが和人の口の中にぶわっと広がった。野菜の甘みがいいアクセントだ。やはりサッポロ一番塩ラーメンは野菜が合う。これだけ野菜をとったのなら、カロリーはほぼゼロだろう。
「ラーメン美味しいね」
麺をむぐもぐと食べたあと、有希子は言った。
「今日はどうするの?」
和人はきいた。
シフト制で働く和人と土日が休みの有希子が珍しく一致した休日だ。
「そうね、日本橋のオタロードでアニメイトに行って、駿河屋でしょ、それにレトロゲームのお店にも生きたいわ」
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