2 / 11
第二話 ファミコンが来た日
しおりを挟む
三十数年前のことだ。
吉田和人が小学生高学年のときにファミコンがやって来た。
ゴールデンウィークも終わった五月のとある日曜日、お昼の狐うどんを食べていると父の良雄が口を開いた。
「和光電気にファミコンを買いに行くぞ」
それはいつもの父の気まぐれだった。
和人の父である良雄は新しいものが好きだった。この日のように突然思いつきCDコンポやレーザーディスクプレイヤー、ビデオデッキなんかを買ってきては母親の涼子に叱られるのである。
また懲りずに良雄は当時人気絶頂であったファミコンが欲しくなったようで、その買い物に和人を誘ったのだ。
もちろん和人に断る理由はない。
どのみち無駄使いを叱られるのは父良雄の役目だ。自分は付き添うだけだ。
和人は友人の家で遊ばせてもらったスーパーマリオの面白さを思い出した。あれが我が家で出来るなんて夢にまでみたことだ。
うどんを急いで食べて、和人は出かける準備をした。愛用の南海ホークスのキャップをかぶり、カローラに乗り込む。
良雄はカーステレオにカセットテープを差し込む。車内にゴダイゴの銀河鉄道999が流れる。
二十分ほどのドライブで和光電気についた。
和光電気のおもちゃコーナーは文字通り夢の国だった。レゴにガンプラ、ラジコン、ゲイラカイトなどが所狭しと陳列されている。
良雄は太陽の牙ダグラムのプラモデルをじっと見つめている。
さっきはジリオン銃を真剣な顔で見ていた。
もしかすると心がわりするかもしれない。
危機感を覚えた和人はファミコンコーナーに行こうと父親を促す。
「そうだな」
ゾイドコーナーに行こうとした父親の袖を引っ張る。
ゾイドもジリオンも捨てがたいがこの日はファミコンを買いにきたのだ。初志貫徹しなくてはいけないと和人は考えた。
結局この日、良雄は当初の予定通りファミコンの本体を購入した。ソフトはスーパーマリオとグラディウス、ポパイの英語であった。
ファミコンは勉強に使えるという言い訳のためにポパイの英語は購入された。
けっこうな出費に母親の涼子に良雄は叱られた。ふてくされた涼子はこの日、晩御飯を作らなかった。
この日の晩御飯は良雄の得意料理であるボンカレーとなったのは今ではいい思い出だ。
ファミコンとソフト三本を購入した良雄と和人は帰宅して早々、テレビにつなげた。
ブラウン管テレビにファミコンをつなげる作業はかなりの苦労を強いられた。
ようやくつながり良雄はファミコンの電源を入れる。
スーパーマリオのカセットを差し込むとあの耳から離れないテーマ曲が流れる。
ファミコンの赤いコントローラーを握り、良雄はスタートボタンをおす。
テレビ画面の小さなマリオが軽快に走り出す。
和人が危ないと言おうとした瞬間、マリオはクリボーに当たり死んでしまった。
和人は唖然とする大人の顔を初めて見た。
ファミコンが家に来てから和人の生活は一変した。ゲーム中心の生活になったのである。
休み時間の話題はゲームのことばかりだ。
ゲームつながりで友だちも増えた。
今でも付き合いのある岸野と友人になったのもこのときだ。
岸野は手先が器用で絵心があり、攻略本のようなウイザードリィのマップを作って見せてくれた。令和の今では岸野は漫画家兼イラストレーターとして活躍している。
六月になったある日、一人で学校からの帰り道を歩いていると一人の少女が眼前にあらわれた。
急に出てきたのでぶつかりそうになった。
綺麗に切り揃えられた前髪が特徴的なかわいらしい少女であった。白いブラウスがいかにも裕福な家の子だということを証明していた。
和人はこの少女を知っている。
同じクラスの友永有希子だ。
なんだよ危ないなと和人は思い、左によけて通ろうとする。
そうすると友永も左に移動して和人の前に立ちはだかる。
邪魔だなと和人は思い、今度は右に移動する。
そうすると友永も右に移動した。
「何かようなの?」
和人は呆れながらきいた。
友永は黙っアスファルトの地面を見ている。口元だけ動かしてごにょごにょと言っている。
「えっ何なの?」
じれったいなと思いながら和人はきいた。早く帰ってグラディウスをやりたいのになと彼は思っていた。
「よ、吉田君ってファミコン持っているのよね」
じっと和人の眼を見て友永は言った。
それが和人にとって友永有希子という少女を女性として意識した瞬間であった。
頬を赤くして話しかける友永有希子のことをかわいいと思った。
「持ってるよ」
和人は答えた。
自分がファミコンを持っていることと友永有希子とどういう関係があるのだろうか。
友永とはクラスメイトであるが、話すのは初めてと言っていいほどだ。
「あ、あの……」
友永はまたもじもじしだした。
アスファルトの地面と和人を何度も交互に見る。じれったいなと思ったが、和人は待つことにした。
「私、ファミコンしたいの!!」
それは思ったより大きな声だった。
思いきっていったせいで声が大きくなったのかもしれない。
友永は大声を出してしまったせいか顔を真っ赤にしてアスファルトの地面だけを見ている。
なんだそんなことかと和人は思った。
「なんだそんなことか。いいよ、ファミコン一緒にやろう」
和人の言葉を聞いた友永はにこりと笑った。
その笑顔を見て和人は胸の奥底が本の少しだけ痛むのを覚えた。でもその痛みはなぜか心地よいものだった。
友永有希子を連れて帰り、和人は一緒にファミコンで遊んだ。パートから帰ってきた母親の涼子はにこにこしながらカルピスをいれてくれた。
カルピスは今まで味わったことのない濃いものだった。
カルピスってこんなに美味しいものだったなんてと和人は感動すら覚えた。
友永有希子が家に遊びにきたときだけ、この濃くて美味しいカルピスを飲むことができた。
これが友永有希子と和人の出会いであった。
吉田和人が小学生高学年のときにファミコンがやって来た。
ゴールデンウィークも終わった五月のとある日曜日、お昼の狐うどんを食べていると父の良雄が口を開いた。
「和光電気にファミコンを買いに行くぞ」
それはいつもの父の気まぐれだった。
和人の父である良雄は新しいものが好きだった。この日のように突然思いつきCDコンポやレーザーディスクプレイヤー、ビデオデッキなんかを買ってきては母親の涼子に叱られるのである。
また懲りずに良雄は当時人気絶頂であったファミコンが欲しくなったようで、その買い物に和人を誘ったのだ。
もちろん和人に断る理由はない。
どのみち無駄使いを叱られるのは父良雄の役目だ。自分は付き添うだけだ。
和人は友人の家で遊ばせてもらったスーパーマリオの面白さを思い出した。あれが我が家で出来るなんて夢にまでみたことだ。
うどんを急いで食べて、和人は出かける準備をした。愛用の南海ホークスのキャップをかぶり、カローラに乗り込む。
良雄はカーステレオにカセットテープを差し込む。車内にゴダイゴの銀河鉄道999が流れる。
二十分ほどのドライブで和光電気についた。
和光電気のおもちゃコーナーは文字通り夢の国だった。レゴにガンプラ、ラジコン、ゲイラカイトなどが所狭しと陳列されている。
良雄は太陽の牙ダグラムのプラモデルをじっと見つめている。
さっきはジリオン銃を真剣な顔で見ていた。
もしかすると心がわりするかもしれない。
危機感を覚えた和人はファミコンコーナーに行こうと父親を促す。
「そうだな」
ゾイドコーナーに行こうとした父親の袖を引っ張る。
ゾイドもジリオンも捨てがたいがこの日はファミコンを買いにきたのだ。初志貫徹しなくてはいけないと和人は考えた。
結局この日、良雄は当初の予定通りファミコンの本体を購入した。ソフトはスーパーマリオとグラディウス、ポパイの英語であった。
ファミコンは勉強に使えるという言い訳のためにポパイの英語は購入された。
けっこうな出費に母親の涼子に良雄は叱られた。ふてくされた涼子はこの日、晩御飯を作らなかった。
この日の晩御飯は良雄の得意料理であるボンカレーとなったのは今ではいい思い出だ。
ファミコンとソフト三本を購入した良雄と和人は帰宅して早々、テレビにつなげた。
ブラウン管テレビにファミコンをつなげる作業はかなりの苦労を強いられた。
ようやくつながり良雄はファミコンの電源を入れる。
スーパーマリオのカセットを差し込むとあの耳から離れないテーマ曲が流れる。
ファミコンの赤いコントローラーを握り、良雄はスタートボタンをおす。
テレビ画面の小さなマリオが軽快に走り出す。
和人が危ないと言おうとした瞬間、マリオはクリボーに当たり死んでしまった。
和人は唖然とする大人の顔を初めて見た。
ファミコンが家に来てから和人の生活は一変した。ゲーム中心の生活になったのである。
休み時間の話題はゲームのことばかりだ。
ゲームつながりで友だちも増えた。
今でも付き合いのある岸野と友人になったのもこのときだ。
岸野は手先が器用で絵心があり、攻略本のようなウイザードリィのマップを作って見せてくれた。令和の今では岸野は漫画家兼イラストレーターとして活躍している。
六月になったある日、一人で学校からの帰り道を歩いていると一人の少女が眼前にあらわれた。
急に出てきたのでぶつかりそうになった。
綺麗に切り揃えられた前髪が特徴的なかわいらしい少女であった。白いブラウスがいかにも裕福な家の子だということを証明していた。
和人はこの少女を知っている。
同じクラスの友永有希子だ。
なんだよ危ないなと和人は思い、左によけて通ろうとする。
そうすると友永も左に移動して和人の前に立ちはだかる。
邪魔だなと和人は思い、今度は右に移動する。
そうすると友永も右に移動した。
「何かようなの?」
和人は呆れながらきいた。
友永は黙っアスファルトの地面を見ている。口元だけ動かしてごにょごにょと言っている。
「えっ何なの?」
じれったいなと思いながら和人はきいた。早く帰ってグラディウスをやりたいのになと彼は思っていた。
「よ、吉田君ってファミコン持っているのよね」
じっと和人の眼を見て友永は言った。
それが和人にとって友永有希子という少女を女性として意識した瞬間であった。
頬を赤くして話しかける友永有希子のことをかわいいと思った。
「持ってるよ」
和人は答えた。
自分がファミコンを持っていることと友永有希子とどういう関係があるのだろうか。
友永とはクラスメイトであるが、話すのは初めてと言っていいほどだ。
「あ、あの……」
友永はまたもじもじしだした。
アスファルトの地面と和人を何度も交互に見る。じれったいなと思ったが、和人は待つことにした。
「私、ファミコンしたいの!!」
それは思ったより大きな声だった。
思いきっていったせいで声が大きくなったのかもしれない。
友永は大声を出してしまったせいか顔を真っ赤にしてアスファルトの地面だけを見ている。
なんだそんなことかと和人は思った。
「なんだそんなことか。いいよ、ファミコン一緒にやろう」
和人の言葉を聞いた友永はにこりと笑った。
その笑顔を見て和人は胸の奥底が本の少しだけ痛むのを覚えた。でもその痛みはなぜか心地よいものだった。
友永有希子を連れて帰り、和人は一緒にファミコンで遊んだ。パートから帰ってきた母親の涼子はにこにこしながらカルピスをいれてくれた。
カルピスは今まで味わったことのない濃いものだった。
カルピスってこんなに美味しいものだったなんてと和人は感動すら覚えた。
友永有希子が家に遊びにきたときだけ、この濃くて美味しいカルピスを飲むことができた。
これが友永有希子と和人の出会いであった。
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる