ファミコンが来た日

白鷺雨月

文字の大きさ
6 / 11

第六話 ロードス島戦記は僕が守る

しおりを挟む
三十数年前の七月はじめごろ、和人は友人の岸野雄一郎の家で遊んでいた。
岸野はファミコンだけでなく、МSXも持っていた。
МSXはテレビにつなげるタイプのパソコンでファミコンとはまた違ったゲームを遊ぶことができた。
岸野は八月の誕生日にPCエンジンもかってもらうのだという。
まったく羨ましいかぎりだと和人は思った。
武蔵模型というお店でPCエンジンのアールタイプのデモ画面を見たとき、あまりの色のきれいさに感動したものだ。

しかし、ファミコンもまだまだすてたものではない。
沙羅曼蛇やグラディウスなどおもしろいゲームの数ならファミコンの方が上だと思う。

この日、和人はМSXで岸野と一処に三国志IIをプレイしていた。岸野は曹操を選択し、和人は孫権を選んだ。
「曹操って悪いやつだろう。なんでそんなの選ぶんだ?」
和人は訊いた。
その時の和人の三国志の知識はその程度だ。
そう言えば、前にテレビでやっていた「三国志天翔ける英雄たち」というアニメは面白かった。
父親の良雄がビデオ録画してくれたので何度でもみることができる。
他にも良雄はジャッキー・チェンやブルース・リーの映画も録画していた。

「チッチッチ」
と岸野はきざったらしく人差し指をふる。お前は怪傑ズバットかと和人は心の中でつっこんだ。

「あのアニメはオリジナルが過ぎるんだよ。せめて横山三三国志ぐらい読まないとな」
漫画に詳しい岸野は言った。
「ところで吉田は三国志の武将でだれが好きなんだ?」
岸野は訊いた。
和人が好きな武将は陸遜だ。
ゲームのビジュアルがかっこいいからだ。

「陸遜か、渋いな。俺は姜維かな。ラストの主人公は姜維だしな」
岸野は言った。
このあと、三国志をプレイしながら最近読んでいる漫画の話しをした。
岸野はジョジョの奇妙な冒険にはまっているという。
「バスタードめちゃくちゃ面白いな」
和人はバスタードにはまっていた。
それを言うと岸野はゲラゲラと笑った。
「おまえエロいな」
という岸野の言葉に和人はほっとけよと答えた。

岸野の家には漫画がたくさんある。
岸野の姉が漫画好きでかなりの数を集めているのだという。
しかも岸野の姉の優子は漫画も描いているのだという。
和人が読ませてくれと頼んだら、やめとけと岸野に断られた。
聖闘士星矢の瞬と氷河が抱きあっている漫画だぞと止められた。
このときの和人にはその意味が良くわからなかった。

和人が岸野おすすめのジョジョを読んでいると誰かがドアをノックする。
「雄君入るよ」
それは岸野の姉の優子の声だった。
優子は勝手に入ってくる。
優子は中学生で夏服の制服を着ていた。髪型は聖子ちゃんカットでけっこうかわいい。
和人はちょっとだけ恥ずかしかった。読んでいる漫画がバスタードやオレンジロードでなくて良かったと思った。

「あんたのクラスメイトが来てるよ」
優子の背後からあらわれたのは友永有希子だった。
有希子は大きな紙袋を持っていた。
それよりも和人が気になったのは、有希子の目が赤く腫れていることだった。ついさっきまで泣いていたのだろう。

「吉田君、岸野君……」
鼻をすすりながら有希子は二人の名前を呼ぶ。
優子はいつの間にか消えていた。
と思ったらコーヒー牛乳とおにぎりせんべいをもってきて、机の上に置いて出ていった。

ただならぬ様子に岸野は和人の顔を見る。
クラスの男子で有希子が和人の家でファミコンをプレイしているのを知っているのは岸野だけだ。

「ど、どうしたの……」
しぼり出すように和人は有希子に訊く。
一言訊いただけなのに喉が乾いた和人はコーヒー牛乳をごくりと飲んだ。
手持ち無沙汰な岸野はおにぎりせんべいを食べていた。

「パパがロードス島戦記を捨ててこいって……」
ぽろぽろと涙を流しながら有希子は言う。
岸野が有希子にティッシュを渡すと盛大に鼻をかんだ。
女子でもこんな鼻のかみかたをするんだと和人は思った。

有希子の紙袋の中身はロードス島戦記の文庫本と破られたポスターであった。
そのポスターはパーンとディードリットが描かれていて、ものすごくかっこいいものだった。
書店に貼られていたものを有希子が店主の好意でもらったものだった。
それを有希子の父親にみつかってしまったという。
有希子の父親は厳しい人で漫画は図書室にある世界の歴史かはだしのゲンしか読ませてもらえないという。
アニメは世界名作劇場しか見せてもらえないという。
ゲームなんてもってのほかだ。
一度それとなく有希子が聞くとゲームは頭が悪くなると言った。
ロードス島戦記のアニメのようなポスターが父親の逆鱗に触れたようで文庫本も捨てろといわれたということだ。


「ポスターもったいないな」
絵が好きな岸野がため息交じりに言った。

それにしても有希子の父親という人は厳し過ぎると和人は思った。
ロードス島戦記は有希子が一番好きな小説だということを和人は知っていた。
ロードス島戦記のことを聞くと有希子はやたらと早口で語るのを和人は知っている。

「ちょと待ってろよ」
岸野が言うと部屋の勉強机にあるセロハンテープを取り出す。
破られたポスターを後ろ向きにして、きれいに並べる。岸野は破れ目にそってテープを貼っていく。
元通りとまでは言えないが、かなりきれいに修復された。

「すげえな岸野」
素直に和人は友人の手先の器用さに感心した。
「すごい岸野君」
有希子も岸野を褒めた。
有希子が岸野を褒めるのを見て、和人は胸がチクチクする思いがした。

「せっかくなおしてもらっても……」
有希子が岸野の部屋の壁を見た。
幻魔大戦、ガンダム、トランスフォーマー、ゾイドといったポスターが壁いっぱいに貼られていた。

「なら俺がもらうよ。そのロードス島戦記も俺の部屋においてやるよ」
和人が言うと有希子は泣くのをやめて、にこりと笑った。
その笑顔を見て友永かわいいと和人は思った。
「ありがとう吉田君」
有希子は和人の手をギュッと握った。
和人は身体が熱くなるのを覚えた。

こうしてロードス島戦記は和人の部屋にやってきた。
和人がファンタジーものにはまるきっかけとなった事件である。
和人がロードス島戦記を読んでいると母親の涼子に褒められた。
字だけの本を読んで偉いと独特の言い回しで褒められる。
ロードス島戦記にはかっこいいイラストがいっぱい載っているのだが、母親からしたらそれでも文字だけの小説だった。
親でも友永のところとはずいぶん違うなと和人は思った。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

処理中です...