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第八話 雨の日とミルクセーキ
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南条真喜子が小学生六年のときのことである。
夏休みまであと数日のとある日の放課後のことである。
その日はバケツをひっくり返した様な雨の日だった。
その滝のような雨を見て、真喜子はうんざりした気分だった。雨のせいだけではない。
真喜子はちらりと自分の手にある傘を見た。
はあ、この傘けっこう気にいってたんだけどな。
真喜子は心の中でそう思った。
真喜子の手にある傘は破られてボロボロだった。
はあっと真喜子は深いため息をついた。
彼女の心は不快と憂うつとむかつきといらだちが入り混じり、混沌とした心中だった。
南条真喜子はときどきこういう目に合う。
真喜子はクラスでも目立つ存在だった。
目鼻立ちのすっきりした美少女で、身長もこのときすでに百六十センチメートルを超えていた。胸もかなり大きい。もう大人用のブラジャーをつけていた。
身長は中学にあがるとさらに十五センチメートルは伸びることになる。
大人びていたが、まだ成長途中なのである。
南条真喜子は大人がランドセルを背負っているという、一見するとこっけいな見た目であった。
この目立つ見た目はデメットとメリットが両方ある。
南条真喜子は少女であるが、タレントの仕事をしている。子供服のモデルをへて、ドラマやバラエティにも出るようになった。
真喜子はすでに大人の世界の入り口に立っていた。いや、もう足を踏み入れていた。
デメリットはクラスメイトの嫉妬とこの様な嫌がらせだった。
ああっ本当にうっとうしいわ。
南条真喜子は誰もいない学校の玄関で盛大に舌打ちした。
どうせやったのは烏野と赤坂だろう。
だいたい見当はついている。
真喜子はこのような嫌がらせを受けたら、必ずやりかえす少女だった。
やられたらやりかえす、そんな勝ち気な性分だった。
あいつら本当にこりないわね。
やれやれと真喜子は何度目かのため息をつく。
復讐は後日として、今日はどうやって帰ろうか。
雨はいっこうにやむ気配はない。
びしょぬれで帰ったら、きっと母は悲しむだろう。
学校に抗議するかもしれない。
自分のマネージャーをしてくれている母親にはあまり迷惑をかけたくない。
これは自分の問題だから、自分で解決したい。
南条真喜子の家は母子家庭であった。
母親は料理研究家でテレビにも出たりしている。
自分の仕事と家庭の両立でめちゃくちゃ忙しいのに、これ以上やることを増やしたくはない。
「おい南条どうしたんだ?」
いろんな事で頭を悩ませていた南条真喜子はその声にふへっと変な声をだしてしまった。
我ながら間抜けな声をだしてしまったと真喜子は恥ずかしくなった。
振り返り、目にはいったのはクラスメイトの男の子だった。
たしか吉田和人君だっけかな。
最近親友の友永有希子の話によく出てくる男の子だ。
ちらりと吉田和人は真喜子の手に持つ傘を見た。
「おい、これ誰にやられたんだ」
顔を真っ赤にして吉田和人は怒っていた。
「そうか、烏野たちだな」
和人はそう付け足した。
真喜子たちのグループと烏野美紀たちのグループがクラスでも対立しているのは、誰もが知ることだ。
「いいよ」
真喜子はそう否定した。
吉田君が怒ってくれるのはちょっと、いやけっこううれしい。でも女子同士のいざこざにあんまり接点のない男子を巻き込みたくない。
それに彼は有希子のお気に入りだ。
そういう意味でも迷惑はかけたくない。
それに復讐は自分の手でする。
この借りは何倍にもして返してやる。
「そうか、じゃあこれ使えよ」
ぐいっと和人は自分の黒い傘を差し出す。
それはもう大人が使うものだった。
きっと彼は背伸びしたくて、こういうのを使っているのだろうと真喜子は考えた。
「いや、いいよ」
真喜子が断わろうとすると和人は無理矢理掴ませた。
「大丈夫、俺は波紋使いだから」
和人はそういうと雨のグランドに駆け出した。
全力疾走で駆け抜けていく。
和人は瞬時にびしょ濡れになった。
「震えるぞハート、刻むぞ心のビード!!」
大声で叫びながら、和人は雨の中に消えていった。
「なに波紋って」
真喜子はクスクスと笑ってしまった。
私はジョセフの方が好きなのよ。
小さくなる和人の背中に真喜子はそう心の中で告げた。
男の子って本当に馬鹿だ。
でもその馬鹿っぽさは愛おしくなる。
たしか吉田君って休憩時間に岸野くんといつもゲームやアニメの話をしているだけの子という印象しかなかった。
けどちゃんと男の子だった。
真喜子は小学生にしては大きな胸にその黒い傘を抱きしめた。
傘の取っ手にはビックリマンシールドが貼られていた。
たしか弟の真司が集めているものだ。
やだわ、好きになっちゃいそう。
そう思いながら真喜子はビックリマンシールが貼られた傘を開き、雨の中を歩く。
これは有希子が気に入るのがわかるわと真喜子は思った。
雨の中を真喜子はモンキーマジックを鼻歌で歌いながら、帰宅した。
ちなみに南条真喜子が憧れる女優は夏目雅子であった。
案の定、翌日びしょ濡れになった和人は風邪をひいた。学校を珍しく休んだ。
「あんた傘どうしたのよ」
和人の母親である涼子は甘いミルクセーキを作ってくれた。
「岸野と宇宙刑事ギャバンの真似をしてたら、壊れたんだ」
「はあっ馬鹿な子ね」
アハハッと涼子は笑った。
その日、涼子は和人の好物のカレーを作ってくれた。
風邪の日にカレーはどうかと和人は思った。
夏休みまであと数日のとある日の放課後のことである。
その日はバケツをひっくり返した様な雨の日だった。
その滝のような雨を見て、真喜子はうんざりした気分だった。雨のせいだけではない。
真喜子はちらりと自分の手にある傘を見た。
はあ、この傘けっこう気にいってたんだけどな。
真喜子は心の中でそう思った。
真喜子の手にある傘は破られてボロボロだった。
はあっと真喜子は深いため息をついた。
彼女の心は不快と憂うつとむかつきといらだちが入り混じり、混沌とした心中だった。
南条真喜子はときどきこういう目に合う。
真喜子はクラスでも目立つ存在だった。
目鼻立ちのすっきりした美少女で、身長もこのときすでに百六十センチメートルを超えていた。胸もかなり大きい。もう大人用のブラジャーをつけていた。
身長は中学にあがるとさらに十五センチメートルは伸びることになる。
大人びていたが、まだ成長途中なのである。
南条真喜子は大人がランドセルを背負っているという、一見するとこっけいな見た目であった。
この目立つ見た目はデメットとメリットが両方ある。
南条真喜子は少女であるが、タレントの仕事をしている。子供服のモデルをへて、ドラマやバラエティにも出るようになった。
真喜子はすでに大人の世界の入り口に立っていた。いや、もう足を踏み入れていた。
デメリットはクラスメイトの嫉妬とこの様な嫌がらせだった。
ああっ本当にうっとうしいわ。
南条真喜子は誰もいない学校の玄関で盛大に舌打ちした。
どうせやったのは烏野と赤坂だろう。
だいたい見当はついている。
真喜子はこのような嫌がらせを受けたら、必ずやりかえす少女だった。
やられたらやりかえす、そんな勝ち気な性分だった。
あいつら本当にこりないわね。
やれやれと真喜子は何度目かのため息をつく。
復讐は後日として、今日はどうやって帰ろうか。
雨はいっこうにやむ気配はない。
びしょぬれで帰ったら、きっと母は悲しむだろう。
学校に抗議するかもしれない。
自分のマネージャーをしてくれている母親にはあまり迷惑をかけたくない。
これは自分の問題だから、自分で解決したい。
南条真喜子の家は母子家庭であった。
母親は料理研究家でテレビにも出たりしている。
自分の仕事と家庭の両立でめちゃくちゃ忙しいのに、これ以上やることを増やしたくはない。
「おい南条どうしたんだ?」
いろんな事で頭を悩ませていた南条真喜子はその声にふへっと変な声をだしてしまった。
我ながら間抜けな声をだしてしまったと真喜子は恥ずかしくなった。
振り返り、目にはいったのはクラスメイトの男の子だった。
たしか吉田和人君だっけかな。
最近親友の友永有希子の話によく出てくる男の子だ。
ちらりと吉田和人は真喜子の手に持つ傘を見た。
「おい、これ誰にやられたんだ」
顔を真っ赤にして吉田和人は怒っていた。
「そうか、烏野たちだな」
和人はそう付け足した。
真喜子たちのグループと烏野美紀たちのグループがクラスでも対立しているのは、誰もが知ることだ。
「いいよ」
真喜子はそう否定した。
吉田君が怒ってくれるのはちょっと、いやけっこううれしい。でも女子同士のいざこざにあんまり接点のない男子を巻き込みたくない。
それに彼は有希子のお気に入りだ。
そういう意味でも迷惑はかけたくない。
それに復讐は自分の手でする。
この借りは何倍にもして返してやる。
「そうか、じゃあこれ使えよ」
ぐいっと和人は自分の黒い傘を差し出す。
それはもう大人が使うものだった。
きっと彼は背伸びしたくて、こういうのを使っているのだろうと真喜子は考えた。
「いや、いいよ」
真喜子が断わろうとすると和人は無理矢理掴ませた。
「大丈夫、俺は波紋使いだから」
和人はそういうと雨のグランドに駆け出した。
全力疾走で駆け抜けていく。
和人は瞬時にびしょ濡れになった。
「震えるぞハート、刻むぞ心のビード!!」
大声で叫びながら、和人は雨の中に消えていった。
「なに波紋って」
真喜子はクスクスと笑ってしまった。
私はジョセフの方が好きなのよ。
小さくなる和人の背中に真喜子はそう心の中で告げた。
男の子って本当に馬鹿だ。
でもその馬鹿っぽさは愛おしくなる。
たしか吉田君って休憩時間に岸野くんといつもゲームやアニメの話をしているだけの子という印象しかなかった。
けどちゃんと男の子だった。
真喜子は小学生にしては大きな胸にその黒い傘を抱きしめた。
傘の取っ手にはビックリマンシールドが貼られていた。
たしか弟の真司が集めているものだ。
やだわ、好きになっちゃいそう。
そう思いながら真喜子はビックリマンシールが貼られた傘を開き、雨の中を歩く。
これは有希子が気に入るのがわかるわと真喜子は思った。
雨の中を真喜子はモンキーマジックを鼻歌で歌いながら、帰宅した。
ちなみに南条真喜子が憧れる女優は夏目雅子であった。
案の定、翌日びしょ濡れになった和人は風邪をひいた。学校を珍しく休んだ。
「あんた傘どうしたのよ」
和人の母親である涼子は甘いミルクセーキを作ってくれた。
「岸野と宇宙刑事ギャバンの真似をしてたら、壊れたんだ」
「はあっ馬鹿な子ね」
アハハッと涼子は笑った。
その日、涼子は和人の好物のカレーを作ってくれた。
風邪の日にカレーはどうかと和人は思った。
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