2 / 4
前編 お土産
しおりを挟む
二件目、さっきと同じ症状の犬を助けてみると、今度は特に疲れずに済んだ。
「あれ……なんだか、楽かも……」
メィシーにキスをされたから元気になった、という、なんのことだかよくわからない理論が頭をよぎる。
そんなリセナの隣で、彼は楽しそうにニッコリと笑った。
「おや。おやおや。聖女様には、もっと癒しの時間を提供した方がよさそうですね」
そして、彼女の両肩に手をぽんと置く。
「さあ、あなたのご実家へ参りましょうか」
◆
メィシーは、エルフの里長。
リセナは、シーリグ商会の一人娘であり、その一員。
それぞれの拠点が違う夫婦は、互いの実家を訪れて共に過ごす時間を設けていた。元々、メィシーは里の試練を乗り越えるため、リセナの魔力増幅の力を借りようと二年前に現れたのだが――彼女の幼馴染いわく『簡単にリセナに惚れやがったチョロくて胡散臭い男』である。
今も「実は、ちょうどいいお土産があるんですよ。使ってみましょうね」と言って、ご機嫌な様子でウエストポーチをごそごそやっている。
リセナは、自室のベッドに腰かけたまま身構えた。
――なにをされるんだろう……。とにかく、平常心、平常心……。さっきは、とても見せられないような顔しそうだったし……ちゃんとしなきゃ。
彼女が努めて澄まし顔をしていると、メィシーは取り出した瓶から手のひらに薄黄色の液体を垂らす。
「メィシーさん、それは……?」
「マッサージオイルです。里で採れたハーブを使っているんですよ。――では、手を貸していただけますか?」
言われるままに差し出すと、メィシーは彼女の手を包み込んで、ゆっくりマッサージを始めた。
手をさすったり、揉んだりされているだけなのに、心までほぐされていく感覚がする。
――すごい……気持ちいい……。
彼の眼差しも、声音も穏やかで、それすら心地よかった。
「どうですか? 心と体は密接に繋がっていますからね。こうして触ってあげると、気分が良いでしょう?」
リセナがこくりとうなずくのを見て、彼は、きゅっと口角を上げる。ちょっと、いたずらっぽい笑みだった。
「では、次は、背中もマッサージしてみましょうか」
「えっ」
あからさまに動揺しかけて、リセナはなんとか笑顔を取り繕う。
「そ、そうですね、お願いします」
――わぁ……服を脱いでってこと、だよね? ここで断ったら、意識しすぎって思われちゃう。というか、メィシーさんが全然一線を越えてこないから……いつまで経っても“このくらい”が恥ずかしい……。
彼に背を向けて、服のボタンに手をかける。
するりと服を下ろすと、不意に、メィシーの指がリセナの背中をなぞり上げた。
「ひゃっ……!?」
「ふふっ、ごめんなさい、つい。じゃあ、ベッドにうつぶせになってくださいね」
メィシーは、いつもは大人の余裕がある男性だけれど――たまに、こんなふうに、子どもじみた無邪気な一面を見せる。
いや。今は、リセナの見えていないところで、面白い玩具を見つけた、いたずらっ子の笑みを浮かべていた。
リセナが上半身を露わにしてうつぶせになると、その背中にオイルが垂らされる。ひんやりとした感触に、彼女の肩がぴくりと跳ねた。
――っ、さっきは、自分の手で温めてたのに……? な、なんで……?
もちろん、面白いからである。
メィシーは、それから、正しい手順でリセナの背中を揉みほぐしていった。それでも、なめらかな指が肌をはう感触には得も言われぬ感覚があって、彼女はおかしな反応をしないよう、枕やシーツをつかんで必死に耐えていた。
それなのに、ふと、彼が指先に力を入れてある一点を押し込んだ。
「っ……!?」
ぞくりと快感に似た何かが体を駆け抜けて、リセナは思わず背中をそらす。
――なっ、なにこれ……!?
頭上では、メィシーがくすくすと笑い声を漏らしていた。
「どうしたのですか? 突然、そんなに驚いて」
「え、や、あの――」
「ここが良いんですか?」
「っ、あ」
同じ場所を、何度も刺激される。その度に体が勝手に跳ね、口元がゆるみ、声が漏れる。
「あっ、やっ――待っ、ん、んぅ……!」
緩んだ顔を枕に押し付け、ひた隠しにしたままでは、逃げたくても逃げられない。
結局、メィシーが手を止めた時には、彼女は肩で息をしてベッドの上でぐったりとしていた。その脱力感でさえも、心地がいい。
リセナが息を整え見上げると、メィシーは、相変わらず機嫌が良さそうに微笑んでいた。
「どうでしたか? どれほどの効果があるのか、明日、試してみましょうね」
人体としては、血行不良で感覚が過敏になるのは普通のことなのだけれど。リセナがなんだか恥じらっている様子だったので、彼はそのことについては黙っておくことにした。
「あれ……なんだか、楽かも……」
メィシーにキスをされたから元気になった、という、なんのことだかよくわからない理論が頭をよぎる。
そんなリセナの隣で、彼は楽しそうにニッコリと笑った。
「おや。おやおや。聖女様には、もっと癒しの時間を提供した方がよさそうですね」
そして、彼女の両肩に手をぽんと置く。
「さあ、あなたのご実家へ参りましょうか」
◆
メィシーは、エルフの里長。
リセナは、シーリグ商会の一人娘であり、その一員。
それぞれの拠点が違う夫婦は、互いの実家を訪れて共に過ごす時間を設けていた。元々、メィシーは里の試練を乗り越えるため、リセナの魔力増幅の力を借りようと二年前に現れたのだが――彼女の幼馴染いわく『簡単にリセナに惚れやがったチョロくて胡散臭い男』である。
今も「実は、ちょうどいいお土産があるんですよ。使ってみましょうね」と言って、ご機嫌な様子でウエストポーチをごそごそやっている。
リセナは、自室のベッドに腰かけたまま身構えた。
――なにをされるんだろう……。とにかく、平常心、平常心……。さっきは、とても見せられないような顔しそうだったし……ちゃんとしなきゃ。
彼女が努めて澄まし顔をしていると、メィシーは取り出した瓶から手のひらに薄黄色の液体を垂らす。
「メィシーさん、それは……?」
「マッサージオイルです。里で採れたハーブを使っているんですよ。――では、手を貸していただけますか?」
言われるままに差し出すと、メィシーは彼女の手を包み込んで、ゆっくりマッサージを始めた。
手をさすったり、揉んだりされているだけなのに、心までほぐされていく感覚がする。
――すごい……気持ちいい……。
彼の眼差しも、声音も穏やかで、それすら心地よかった。
「どうですか? 心と体は密接に繋がっていますからね。こうして触ってあげると、気分が良いでしょう?」
リセナがこくりとうなずくのを見て、彼は、きゅっと口角を上げる。ちょっと、いたずらっぽい笑みだった。
「では、次は、背中もマッサージしてみましょうか」
「えっ」
あからさまに動揺しかけて、リセナはなんとか笑顔を取り繕う。
「そ、そうですね、お願いします」
――わぁ……服を脱いでってこと、だよね? ここで断ったら、意識しすぎって思われちゃう。というか、メィシーさんが全然一線を越えてこないから……いつまで経っても“このくらい”が恥ずかしい……。
彼に背を向けて、服のボタンに手をかける。
するりと服を下ろすと、不意に、メィシーの指がリセナの背中をなぞり上げた。
「ひゃっ……!?」
「ふふっ、ごめんなさい、つい。じゃあ、ベッドにうつぶせになってくださいね」
メィシーは、いつもは大人の余裕がある男性だけれど――たまに、こんなふうに、子どもじみた無邪気な一面を見せる。
いや。今は、リセナの見えていないところで、面白い玩具を見つけた、いたずらっ子の笑みを浮かべていた。
リセナが上半身を露わにしてうつぶせになると、その背中にオイルが垂らされる。ひんやりとした感触に、彼女の肩がぴくりと跳ねた。
――っ、さっきは、自分の手で温めてたのに……? な、なんで……?
もちろん、面白いからである。
メィシーは、それから、正しい手順でリセナの背中を揉みほぐしていった。それでも、なめらかな指が肌をはう感触には得も言われぬ感覚があって、彼女はおかしな反応をしないよう、枕やシーツをつかんで必死に耐えていた。
それなのに、ふと、彼が指先に力を入れてある一点を押し込んだ。
「っ……!?」
ぞくりと快感に似た何かが体を駆け抜けて、リセナは思わず背中をそらす。
――なっ、なにこれ……!?
頭上では、メィシーがくすくすと笑い声を漏らしていた。
「どうしたのですか? 突然、そんなに驚いて」
「え、や、あの――」
「ここが良いんですか?」
「っ、あ」
同じ場所を、何度も刺激される。その度に体が勝手に跳ね、口元がゆるみ、声が漏れる。
「あっ、やっ――待っ、ん、んぅ……!」
緩んだ顔を枕に押し付け、ひた隠しにしたままでは、逃げたくても逃げられない。
結局、メィシーが手を止めた時には、彼女は肩で息をしてベッドの上でぐったりとしていた。その脱力感でさえも、心地がいい。
リセナが息を整え見上げると、メィシーは、相変わらず機嫌が良さそうに微笑んでいた。
「どうでしたか? どれほどの効果があるのか、明日、試してみましょうね」
人体としては、血行不良で感覚が過敏になるのは普通のことなのだけれど。リセナがなんだか恥じらっている様子だったので、彼はそのことについては黙っておくことにした。
14
あなたにおすすめの小説
新婚初夜に『白い結婚にしてほしい』と言われたので論理的に詰めたら夫が泣きました
ささい
恋愛
「愛人がいるから、白い結婚にしてほしい」
政略結婚の初夜にそう告げた夫ルーファス。
妻カレンの反応は——
「それ、契約不履行ですよね?」
「あなたの感情論、論理的に破綻してますよ?」
泣き落としは通じない。
そして初夜の翌朝、夫は泣いていた。
逃げ道は全部塞がれ、気づけば毎日論破されていた。
これは、論破され続けた夫がなぜか幸せになる話。
氷のメイドが辞職を伝えたらご主人様が何度も一緒にお出かけするようになりました
まさかの
恋愛
「結婚しようかと思います」
あまり表情に出ない氷のメイドとして噂されるサラサの一言が家族団欒としていた空気をぶち壊した。
ただそれは田舎に戻って結婚相手を探すというだけのことだった。
それに安心した伯爵の奥様が伯爵家の一人息子のオックスが成人するまでの一年間は残ってほしいという頼みを受け、いつものようにオックスのお世話をするサラサ。
するとどうしてかオックスは真面目に勉強を始め、社会勉強と評してサラサと一緒に何度もお出かけをするようになった。
好みの宝石を聞かれたり、ドレスを着せられたり、さらには何度も自分の好きな料理を食べさせてもらったりしながらも、あくまでも社会勉強と言い続けるオックス。
二人の甘酸っぱい日々と夫婦になるまでの物語。
追放された悪役令嬢はシングルマザー
ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。
断罪回避に奮闘するも失敗。
国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。
この子は私の子よ!守ってみせるわ。
1人、子を育てる決心をする。
そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。
さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥
ーーーー
完結確約 9話完結です。
短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。
氷の騎士と契約結婚したのですが、愛することはないと言われたので契約通り離縁します!
柚屋志宇
恋愛
「お前を愛することはない」
『氷の騎士』侯爵令息ライナスは、伯爵令嬢セルマに白い結婚を宣言した。
セルマは家同士の政略による契約結婚と割り切ってライナスの妻となり、二年後の離縁の日を待つ。
しかし結婚すると、最初は冷たかったライナスだが次第にセルマに好意的になる。
だがセルマは離縁の日が待ち遠しい。
※小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。
下賜されまして ~戦場の餓鬼と呼ばれた軍人との甘い日々~
星森
恋愛
王宮から突然嫁がされた18歳の少女・ソフィアは、冷たい風の吹く屋敷へと降り立つ。迎えたのは、無愛想で人嫌いな騎士爵グラッド・エルグレイム。金貨の袋を渡され「好きにしろ」と言われた彼女は、侍女も使用人もいない屋敷で孤独な生活を始める。
王宮での優雅な日々とは一転、自分の髪を切り、服を整え、料理を学びながら、ソフィアは少しずつ「夫人」としての自立を模索していく。だが、辻馬車での盗難事件や料理の失敗、そして過労による倒れ込みなど、試練は次々と彼女を襲う。
そんな中、無口なグラッドの態度にも少しずつ変化が現れ始める。謝罪とも言えない金貨の袋、静かな気遣い、そして彼女の倒れた姿に見せた焦り。距離のあった二人の間に、わずかな波紋が広がっていく。
これは、王宮の寵姫から孤独な夫人へと変わる少女が、自らの手で居場所を築いていく物語。冷たい屋敷に灯る、静かな希望の光。
⚠️本作はAIとの共同製作です。
離婚を望む悪女は、冷酷夫の執愛から逃げられない
柴田はつみ
恋愛
目が覚めた瞬間、そこは自分が読み終えたばかりの恋愛小説の世界だった——しかも転生したのは、後に夫カルロスに殺される悪女・アイリス。
バッドエンドを避けるため、アイリスは結婚早々に離婚を申し出る。だが、冷たく突き放すカルロスの真意は読めず、街では彼と寄り添う美貌の令嬢カミラの姿が頻繁に目撃され、噂は瞬く間に広まる。
カミラは男心を弄ぶ意地悪な女。わざと二人の関係を深い仲であるかのように吹聴し、アイリスの心をかき乱す。
そんな中、幼馴染クリスが現れ、アイリスを庇い続ける。だがその優しさは、カルロスの嫉妬と誤解を一層深めていき……。
愛しているのに素直になれない夫と、彼を信じられない妻。三角関係が燃え上がる中、アイリスは自分の運命を書き換えるため、最後の選択を迫られる。
溺愛王子の甘すぎる花嫁~悪役令嬢を追放したら、毎日が新婚初夜になりました~
紅葉山参
恋愛
侯爵令嬢リーシャは、婚約者である第一王子ビヨンド様との結婚を心から待ち望んでいた。けれど、その幸福な未来を妬む者もいた。それが、リーシャの控えめな立場を馬鹿にし、王子を我が物にしようと画策した悪役令嬢ユーリーだった。
ある夜会で、ユーリーはビヨンド様の気を引こうと、リーシャを罠にかける。しかし、あなたの王子は、そんなつまらない小細工に騙されるほど愚かではなかった。愛するリーシャを信じ、王子はユーリーを即座に糾弾し、国外追放という厳しい処分を下す。
邪魔者が消え去った後、リーシャとビヨンド様の甘美な新婚生活が始まる。彼は、人前では厳格な王子として振る舞うけれど、私と二人きりになると、とろけるような甘さでリーシャを愛し尽くしてくれるの。
「私の可愛い妻よ、きみなしの人生なんて考えられない」
そう囁くビヨンド様に、私リーシャもまた、心も身体も預けてしまう。これは、障害が取り除かれたことで、むしろ加速度的に深まる、世界一甘くて幸せな夫婦の溺愛物語。新婚の王子妃として、私は彼の、そして王国の「最愛」として、毎日を幸福に満たされて生きていきます。
狼隊長さんは、私のやわはだのトリコになりました。
汐瀬うに
恋愛
目が覚めたら、そこは獣人たちの国だった。
元看護師の百合は、この世界では珍しい“ヒト”として、狐の婆さんが仕切る風呂屋で働くことになる。
与えられた仕事は、獣人のお客を湯に通し、その体を洗ってもてなすこと。
本来ならこの先にあるはずの行為まで求められてもおかしくないのに、百合の素肌で背中を撫でられた獣人たちは、皆ふわふわの毛皮を揺らして眠りに落ちてしまうのだった。
人間の肌は、獣人にとって子犬の毛並みのようなもの――そう気づいた時には、百合は「眠りを売る“やわはだ嬢”」として静かな人気者になっていた。
そんな百合の元へある日、一つの依頼が舞い込む。
「眠れない狼隊長を、あんたの手で眠らせてやってほしい」
戦場の静けさに怯え、目を閉じれば仲間の最期がよみがえる狼隊長ライガ。
誰よりも強くあろうとする男の震えに触れた百合は、自分もまた失った人を忘れられずにいることを思い出す。
やわらかな人肌と、眠れない心。
静けさを怖がるふたりが、湯気の向こうで少しずつ寄り添っていく、獣人×ヒトの異世界恋愛譚。
[こちらは以前あげていた「やわはだの、お風呂やさん」の改稿ver.になります]
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる