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本編
15話 ダンジョン探索の理由
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もう、外は真っ暗だ。
もしかしたら、オレのお先も真っ暗かもしれない。
「あの、なんで……オレがダンジョンに? しかも、アンテルと一緒に……?」
「ああ、知り合いだったか? やつは囚人の身だからな、釈放と引き換えにダンジョン最深部攻略を命じた。まあ、あの実力では帰ってこないだろうが」
「え……じゃあ、オレは……?」
「……本気でわからないのか? 王太子である私が、民間人を拉致した証拠など残しておけるわけがないだろう。まあ、最深部から帰還できる実力があるなら、生かして兵として使ってやるが」
オレがダンジョンで死ねば証拠隠滅。攻略して帰ってくれば道具が増える。
――マジかよ、こいつヤバいやつじゃん。
いや、そんなの知ってたはずだけど。
――というか、アンテルとダンジョンに入って帰って来られるわけない。絶対、囮にされる……!
王太子が、使い魔でジュードの元へ手紙を送ったと言ってから、もう一時間以上経っている。助けに来るつもりなら、とっくに到着している頃だ。
つまり、オレは予定通り見捨てられたし、完全に馬鹿なことをした。
――あー……こんなことなら、さっさとジュードを売って田舎に帰ればよかった。もう意味わかんない。これでオレになんの得があるっていうんだよ。あいつが好きになってくれるわけでもないのにさあ……! あいつにとって、オレは、ただの都合の良い道具で……。
そう考えると、涙が出てきた。
――馬鹿みたいだ。本当に馬鹿だ。一人で勝手に報われない想いなんか貫いちゃって。そんなに大事か、あいつが。
ぽたぽたと落ちる雫を見た王太子が、口を開く。
「もう一通、君が泣いて助けを求めているという手紙でも送るか?」
そうすれば、さすがに絆されて助けに来てくれるかもしれない。
「っ……」
嗚咽をのみこんで、答える。
「嫌です」
その直後、部屋の扉がノックされた。知らない男の声で「到着いたしました」と聞こえる。
「――通せ」
王太子が答えると、扉が開いて――騎士に連れられたジュードが、堂々と入ってきた。
両手首には、オレと同じ魔力を封じる手錠。武器はなし。それに対して、相手側は帯剣した騎士が二人と王太子だ。とても逃げられる状況じゃない。
「なっ――」
なんで来たんだよ。そう問いかける前に、こちらを見たジュードが目を見張った。
「お前……なにか、されたのか?」
「え、いや……なにも」
オレが泣いていたから? なんでそんなことを気にするんだ。ジュードにとっては、どうでもいいことのはずなのに。
王太子は、自分を睨んでいるジュードへ静かに語りかける。
「そう早るな。取り引きをしたくて呼んだんだ」
「はっ、脅迫の間違いだろ。それで? なにが望みだ」
あまりにも平然と、それは告げられた。
「国王の暗殺」
自分たちの父親であり、国の最高権力者。それを暗殺しろという言葉を聞いて、絶句する。
ジュードでさえも、返答が数秒遅れた。
「……へえ。いつまでも自分に王位が回ってこないことが、そんなに我慢できないか?」
「いいや、それだけで暗殺など企てない。……そうだな、十年前のあの件。お前は、私の独断によるものだと思っているだろうが、実際は違う。お前の反逆を恐れた、国王の命令だ」
「ああ、確かにろくでもないやつだとは思ってるけどな。お前の嘘じゃないのか? 前回は、セージが川に落ちて流されそうだから助けてくれ、だったか」
ジュードは、薄ら笑いを崩さない。
王太子が小さなため息をつく。
「信じられないのも無理はない。それなら、別の依頼にしよう。ダンジョンの最深部へ繋がる転移魔法陣を設置してもらいたい」
「なんだ、お抱えの探索部隊じゃ足りなくなったか? そこまでして、なぜあの場所にこだわる」
出会った時から、ジュードがずっと気にしていたことを、王太子は答えた。
「あれは、古代の地下資源採掘場になっている。国の発展に必要なものだ。成功したあかつきには、お前の呪いも解こう」
本心かどうかは、わからない。
顔から笑みを消して、しばらく静かに王太子を見据えていたジュードは、また口の端を持ち上げた。
「気が向いたら手伝ってやる。今日はもう、これでいいだろ」
「そう簡単に帰すと思うか?」
「……だよな」
つぶやきと共に、眉間にしわが刻まれる。
二人の騎士がジュードへの警戒を強めて、一気に空気が張り詰めた。
もしかしたら、オレのお先も真っ暗かもしれない。
「あの、なんで……オレがダンジョンに? しかも、アンテルと一緒に……?」
「ああ、知り合いだったか? やつは囚人の身だからな、釈放と引き換えにダンジョン最深部攻略を命じた。まあ、あの実力では帰ってこないだろうが」
「え……じゃあ、オレは……?」
「……本気でわからないのか? 王太子である私が、民間人を拉致した証拠など残しておけるわけがないだろう。まあ、最深部から帰還できる実力があるなら、生かして兵として使ってやるが」
オレがダンジョンで死ねば証拠隠滅。攻略して帰ってくれば道具が増える。
――マジかよ、こいつヤバいやつじゃん。
いや、そんなの知ってたはずだけど。
――というか、アンテルとダンジョンに入って帰って来られるわけない。絶対、囮にされる……!
王太子が、使い魔でジュードの元へ手紙を送ったと言ってから、もう一時間以上経っている。助けに来るつもりなら、とっくに到着している頃だ。
つまり、オレは予定通り見捨てられたし、完全に馬鹿なことをした。
――あー……こんなことなら、さっさとジュードを売って田舎に帰ればよかった。もう意味わかんない。これでオレになんの得があるっていうんだよ。あいつが好きになってくれるわけでもないのにさあ……! あいつにとって、オレは、ただの都合の良い道具で……。
そう考えると、涙が出てきた。
――馬鹿みたいだ。本当に馬鹿だ。一人で勝手に報われない想いなんか貫いちゃって。そんなに大事か、あいつが。
ぽたぽたと落ちる雫を見た王太子が、口を開く。
「もう一通、君が泣いて助けを求めているという手紙でも送るか?」
そうすれば、さすがに絆されて助けに来てくれるかもしれない。
「っ……」
嗚咽をのみこんで、答える。
「嫌です」
その直後、部屋の扉がノックされた。知らない男の声で「到着いたしました」と聞こえる。
「――通せ」
王太子が答えると、扉が開いて――騎士に連れられたジュードが、堂々と入ってきた。
両手首には、オレと同じ魔力を封じる手錠。武器はなし。それに対して、相手側は帯剣した騎士が二人と王太子だ。とても逃げられる状況じゃない。
「なっ――」
なんで来たんだよ。そう問いかける前に、こちらを見たジュードが目を見張った。
「お前……なにか、されたのか?」
「え、いや……なにも」
オレが泣いていたから? なんでそんなことを気にするんだ。ジュードにとっては、どうでもいいことのはずなのに。
王太子は、自分を睨んでいるジュードへ静かに語りかける。
「そう早るな。取り引きをしたくて呼んだんだ」
「はっ、脅迫の間違いだろ。それで? なにが望みだ」
あまりにも平然と、それは告げられた。
「国王の暗殺」
自分たちの父親であり、国の最高権力者。それを暗殺しろという言葉を聞いて、絶句する。
ジュードでさえも、返答が数秒遅れた。
「……へえ。いつまでも自分に王位が回ってこないことが、そんなに我慢できないか?」
「いいや、それだけで暗殺など企てない。……そうだな、十年前のあの件。お前は、私の独断によるものだと思っているだろうが、実際は違う。お前の反逆を恐れた、国王の命令だ」
「ああ、確かにろくでもないやつだとは思ってるけどな。お前の嘘じゃないのか? 前回は、セージが川に落ちて流されそうだから助けてくれ、だったか」
ジュードは、薄ら笑いを崩さない。
王太子が小さなため息をつく。
「信じられないのも無理はない。それなら、別の依頼にしよう。ダンジョンの最深部へ繋がる転移魔法陣を設置してもらいたい」
「なんだ、お抱えの探索部隊じゃ足りなくなったか? そこまでして、なぜあの場所にこだわる」
出会った時から、ジュードがずっと気にしていたことを、王太子は答えた。
「あれは、古代の地下資源採掘場になっている。国の発展に必要なものだ。成功したあかつきには、お前の呪いも解こう」
本心かどうかは、わからない。
顔から笑みを消して、しばらく静かに王太子を見据えていたジュードは、また口の端を持ち上げた。
「気が向いたら手伝ってやる。今日はもう、これでいいだろ」
「そう簡単に帰すと思うか?」
「……だよな」
つぶやきと共に、眉間にしわが刻まれる。
二人の騎士がジュードへの警戒を強めて、一気に空気が張り詰めた。
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