追放されたオレを拾ったやつが超カンジ悪い!

甘糖めぐる

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本編

16話 そうはならないだろ(なった)

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 国王の暗殺は、ジュードに罪を擦り付けて始末するつもりなのだろう。ダンジョンの探索も、死を前提とした命令に他ならない。

 ――ジュードだけでも逃がそう。

 自然と、そう考えていた。

 ――どうする? 今のあいつでも、窓を蹴破って飛び降りるくらいはできるか? オレが三人分の注意を引き付けて、盾にさえなれたらいける。問題はこの、魔力を封じる手錠……。

「連れて行け」

 王太子が騎士に命じる。その一瞬で閃いた。――身体強化がなくても、自分の関節くらい外せる。

 試したこともない。でも、やるしかない。

「――!」

 自分の左親指に思い切り力をかける。強い痛みと嫌な音。無理やり方向を変えて手錠の輪を通し、一気に引き抜く。

 ――外れた!

 オレが走り出したことに気付いた面々が、一斉にこちらを見る。騎士は王太子を守ろうと剣を抜くが、オレが目指すのはジュードの元だ。見当が外れた騎士の反応が、一瞬遅れる。

「ジュード!」

 あとは盾になるだけだ。大人しくしていても死ぬなら、こっちの方がいい。

 なのに、あいつに手を伸ばしたのは、どうしてだっけ。

 ジュードが、拘束されたままの手をこちらに伸ばす。二人の指先が触れ合う。騎士の剣先が、オレの頭上から影を落とす。

 途端に、閉ざされたはずの室内で暴風が巻き起こった。

「――!?」

 屈強な騎士でさえも体勢を崩す。オレは押し出されるようにして剣先から逃れ、ジュードの足元に倒れ込んだ。

「おい、リヒト」

 それだけで意図を察知できると思っているのか。ちらりとこちらを見たジュードの手に触れるため、即座に起き上がる。

 魔力を封じられたこの状況で、ジュードが魔法なんて使えるわけがない。そう思っていても、先程の現象が頭をよぎる。
 再び剣を手に取る騎士たちも同じようで、表情には隠しきれない動揺が浮かんでいた。

 王太子がなにかの魔法を詠唱し始める。

「動くな」

 ジュードが制止をかける。それからオレたちは、意味のわからないものを見せられた。

 ジュードの手を取り巻く、目に見えるほど高濃度の魔力。キン、と甲高い音が鳴ったかと思うと、手錠がバラバラになって床に落ちた。

 ――化け物か、こいつ!?

 魔力を封じる手錠を、魔力で破壊しやがった。

 気圧される騎士たちを、王太子が焚き付ける暇もなく。ジュードはオレを抱え上げると、低い声で告げる。

「ヨハンスクラート。次に俺の身内に手を出したら、殺す」

 また魔法を使うのだろうから、ジュードの首に手を回してしっかり抱きつく。強い風が吹き荒れて、反射的に目をつむる。
 そろりと様子を確認すると、もうジュードはオレを抱えたまま、窓から空中へと飛び出していた。

 ここ、塔の最上階だけど。

「うわぁああジュードぉおお!」
「うるさい」

 急降下。着地前に風魔法でワンクッション入ったけど、めちゃくちゃ怖かった。

 オレを抱えたまま逃走するジュードにかける言葉が、ろくに思い付かなくて。

「なんで助けに来たんだよ。ほっとけばよかっただろ、勝手にヘマして捕まったやつのことなんて」

 だなんてことを、口走っていた。
 そして、遠慮のない答えを聞く。

「お前の為じゃない。すでに居場所が知られている以上、あのまま応じずにいたら今度はエマが狙われる可能性があった」
「ああ……はいはい、そうだよな」
「まあ、あれだけやっておけば牽制になっただろ。セージも騒ぎに気づいて警戒するはずだ」

 そっけない態度。オレを助けに来たわけじゃない。わかってる。でも、やっぱり意地を張っておきたい。

「言っとくけど、オレは捕まったから人質になってたんだからな。自分から、お前を売りに行ったわけじゃないから」
「……わかってる。結局、最後まで敵に回らなかったな。なぜだ?」

 そういえば、なぜだろう。

 たぶん、

「その程度の男だと、思われたくなかったから」
「はは、なんだそりゃ」

 笑った。ジュードが。今までオレに向けたことのない、屈託のない笑顔だった。

 それを見て、今日の怖いとか痛いとかは、全部綺麗に吹き飛んだ。

 ◇◇◇

 薬屋に帰ると、

「リヒトさん! ジュード!」

 待ち構えていたエマから、即座に回復薬を押し付けられる。オレは自分でやった指の脱臼だけだったから、全然大丈夫だったんだけど、ものすごく心配させてしまったらしかった。

 そんな不安な中でも、ジュードが無茶をすると踏んで魔力回路に作用する回復薬も準備していたのだから、さすがとしか言いようがない。

 それから風呂を済ませたりして、いつもより遅い時間にベッドに入る。
 ジュードは、またオレを後ろから抱え込んで、落ち着いた声で言った。

「色々なことは、また明日話すから。今日はもう、何も考えずに寝ろ」
「ん……そうする」

 疲れがどっと押し寄せてきて、うとうとしながら返事をする。なのに。

 ――こいつ……またオレの耳を触ってる!?

 ふにふに、すりすり。ちょっと待った程度では、やめる気配がない。さっき寝ろって言ったばかりの張本人が。

「おい、ジュード、早く寝ろって。なに? オレを触らないと眠れないわけ?」

 からかってみると、しばらくの沈黙のあと、

「そうかもな」

 と、小さな声で返ってきた。

 ――え? なんだって?

 呆気に取られる。幻聴かもしれない。
 ジュードはそれ以上、なにも言わなかった。
 オレも、驚いたけど、なんだか触り方がすごく優しくて気持ちが良くて、また次第にうとうとし始める。

 いつしか眠りに落ちて、次に意識が浮上したのは、どさりという何かが落ちたような音を聞いた時だった。

「ん……?」

 目を開けると、ちょうど、壁際のテーブルの横にジュードが座り込んでいるのが見えた。早朝の薄明かりの中、壁に背中を預けて、片足を投げ出し、うつむき気味に目を閉じている。

「ジュード? おい、そんな所でなにしてるんだよ」

 意識がないように見えたから、焦って駆け寄ると、ジュードは薄く目を開いて言った。

「薬が切れて……体が」
「動かないの!? 飲み忘れってこと!? そういうのは気づいた時に言えよ、なんで駄目になってから言うかな。てか、その状態で一人で歩いて転んだら危ないだろ、馬鹿なの?」

 テーブルの上にあった薬の瓶を手に取る。本来はオレがさらわれてごたごたしていた時間帯に飲むものだったから、ちょっとオレのせいでもあるんだけど。でも、人を頼ろうとしない癖は直させないといけない。

 ――ところで、これ、どうやって飲ませるんだ? 体が動かない人間に対して、飲み薬を……?

 この時、寝起きのオレの頭は、変な回り方をしていた。

 ――口移しか。

 瓶を開けて、中身を口に含んだところで気がつく。

 ――いや、オレが触れてれば、ジュードが自分で飲めるじゃん。

 遅い。気付くのが遅い。もう手遅れだ。
 恥じらったらおしまいだ。そのまま勢いに任せて、ジュードの顔を上げさせて、口移しで薬を流し込む。

「っ――?」

 ジュードの喉の奥から、困惑した声が漏れた。ごめん、勝手に唇を奪った。

 薬をあらかた流し終える。唇を離すのが名残惜しかった。

 ――いつも飲んでる薬を忘れるって……もしかして、オレが人質になって、動揺した……のかな。

 ゆっくり唇を離して、指先は頬に触れたままにして――恐る恐る目を開けると、ジュードは呆気に取られた様子で

「馬鹿だろ、お前……」

 と、自分でもよくわかっていることを言ってきた。

 何も言い返せない。というか、恥ずかしくてまともに顔を見られない。

「おい、リヒト。こっち向け。そんな強い薬、少しも飲むな」
「……?」

 もう一度ジュードを見ると、頭を抱き寄せられた。

「全部、寄越せ」

 今度は、ジュードから、オレの唇に合わせてくる。

「――!」

 やわらかくて、温かくて、優しく吸われて。

 ――これじゃあ、まるで、本物のキスみたいだ。
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