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【6―転換期】前編
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無数の花火は、二分ほどで闇に消えていった。あれから何も変わったことはなく、かといってユリウスと一線を超えたことで地に足が付かないまま、翌朝――。彼と共に出勤したアリシアは、事務室で珍しい光景を見た。
クロードどころか、いつもどこかを飛び回って何かを撃ちまくっているミレーヌが朝から大人しく自分の席に座っている。そして支部長席では、机に両肘をついたフランツが口元で手を組み合わせて神妙な面持ちをしていた。
「?????」
状況が飲み込めないアリシアたちを見やって、フランツは妙に真剣な声音で言う。
「全員そろったね――。それでは、緊急会議を始めます」
ユリウスと顔を見合わせたアリシアは、とりあえず着席して次の言葉を待つ。
「昨日、この街で謎の大規模花火が打ち上がりました。事前の届出がなく、各所から通報があったため警察が確認に行きましたが、現時点で全く手がかりがつかめていません」
(……? 事故ですらなかったってこと?)
明日ニュースになるかも、という話はしていたけれど。ユリウスもつられて真面目な顔になって言う。
「それって、なんの痕跡も見つからなかった――。誰かが、魔法で発生させたかもしれないということ?」
「そう。そうなんだよ。それの何がマズイって、魔法管理局も把握していない大規模魔法が使われたってこと。今回はたまたま花火で、巻き込まれた人もいなかったけど――不届き者は取っ捕まえておかないとマズイってわけ」
住宅街のど真ん中で、大爆発が起きていたかもしれない。そう考えると、急に事の重大さがアリシアにも如実にのしかかって来た。
(え……支部長が謎の構えでいるから気を取られてたけど……一大事だ)
フランツは、最後に両手で口元を覆って情けなく窺い見てくる。
「えっと、ちなみにぃ……ウチは誰もやってないよね……?」
それに、ミレーヌがふわりと答えた。
「そうね、無意識でなければ」
全員を疑心暗鬼に叩き込む発言をもって、緊急会議はお開きとなった。
本部長からリモート会議の通達があり、めそめそしているフランツを残した四人が廊下に出る。真っ先に口を開いたのは、クロードだった。
「あり得ないだろ、魔法使い慣れてるやつが無意識に暴発させるなんて」
ミレーヌがこてんと首をかしげる。
「そうかしら? 私は結構なんとなくで使っているから、否定はできないわ」
「怖ぇよ」
「まあ、魔導具を使わないといけないくらい緩やかな魔力だから、自力で花火なんて上げられないと思うけれど」
彼女の拳銃は、魔力を溜めて圧縮してから射出するための魔導具だ。となれば、怪しいのは元々瞬発力のある魔力の持ち主で――クロードが、私怨九割超えの視線でユリウスを捉える。
「お前、昨日なにしてた」
「え、ああ、一人でぼーっとしていたかな……」
「城に帰る計画立てろっつってんだろ」
誤魔化したら誤魔化したで怒られている。
(結局アレから、ふわふわしちゃって何も決められてないんだよね……。確かに同居は危ないかも、クセになっちゃいそう……)
理性ではそう思うものの、ユリウスと繋がった夜のことを考えただけでも秘唇が開いては閉じる。
(こんな状況なのに……どうしちゃったんだろう、私……)
悶々としながら歩いていると、いつの間にかユリウスとクロードは立ち止まって睨み合っていて――さながらゴールデンレトリーバーと狼の様相である――ミレーヌだけが、不意に声をかけてきた。
「最近、仕事はどう?」
「え、ああ――ど、どう……?」
「病院で治療のお手伝いをしているんでしょう? 私には出来ないことだから、尊敬しているの」
「そ、そんな……ありがとうございます」
うろたえていたアリシアは、曖昧に微笑む。一人では誰も救えないのに、なんだか騙しているような気持ちになってしまったから。
「――でも、私だけの力ではないんです。魔力が足りないから、手を借りていて」
「ふふ、私も魔導具がないと仕事にならないわ。でも、楽しいからそれでいいの」
軽やかに笑う彼女は、やはりアリシアの憧れだった。
(私も、そのくらい割り切れたらなぁ……)
「ところで、私は勝手に出張してくるわね」
(街から出て良いって言われてたかなぁ……)
多少の奔放さに目をつぶれば、だが。
午前中に病院の手伝いを終えたアリシアは、帯剣したユリウスやクロードと合流して街のパトロールをしていた。最悪の場合、大規模魔法を使える例の不届き者と戦闘になるかもしれないということで単独行動を許されなかったのだ。ちなみにクロードは一人でも大丈夫そうという理由で本部から許可が降りているが「ミレーヌがいないなら俺のそばが一番マシ」とのことでアリシアの安全確保に付いている。
よって、道行く人がユリウスに声をかけようとしてクロードに一瞥され怯えて去っていくという流れが出来上がり、アリシアはそれに巻き込まれている。
(一刻も早く、この二人を引き離したい……。花火の犯人、すぐ見つかるといいけど)
大通りにいる人間を手がかりもなく見ていると、ふと、葉の触れ合う音に混ざって声が聞こえてきた。
『知ってる?』
『知らなーい』
(――? 偶然、かな)
誰かの会話が繋がったように聞こえただけなのだろうと、アリシアが気に留めないようにしかけた矢先、
『近くの子に聞いてみて』
明らかに、自分の横にある街路樹から声が聞こえた。
「うわぁ、まただ……!」
思わず身をすくめると、すぐにユリウスが抱きしめてくる。
「えっ、なに、どうしたんだい?」
「木がしゃべってるんです……! 最近幻聴が、」
それに対して、ユリウスを引き剥がしながらクロードが声をひそめた。
「お前、それ……精霊の声が聞こえてるんじゃないのか?」
(精霊? これが……!?)
かつての聖女は、精霊の力を借りて属性魔法を使えたというけれど。末裔のアリシアは、今までその存在を知覚したことすらなかった。
(もしかして、たくさん魔力をもらったから、体が本来の機能を果たしてる……?)
にわかには信じがたいが、試してみるべきことがあった。アリシアは、一時休戦している二人の顔を見回す。
「花火が上がったおおよその場所で、精霊に聞いてみるとか……」
自然に宿る精霊と会話ができるのなら、目撃証言を得られるかもしれない。
クロードが持つスマホから、事務室にいるフランツの声が響く。
『あー、ちょっと待って、花火を見たっていう住民の話から割り出してるところだから――。出た出た、ほぼ確でそっちの緑化公園!』
たどり着いた芝生広場は、ヒマワリ畑に囲まれている。子ども連れや犬の散歩をしている住民がちらほらいる中で、アリシアは目を閉じ耳を澄ませて問いかけた。
(夜に、ここで誰かが魔法を使わなかった? 大きな音と光が、空に広がる魔法)
しばらくすると、下の方から無邪気な笑い声がして、一斉に告げた。
『あかい、あかーい、まっかっか。おひさまがのぼるほうへ!』
「なに? 東に行ったの? 赤いって何が……!?」
尋ね返しても同じことしか言わない。精霊にも意思の疎通のしやすさなど色々とあるようだ。
東へ進みつつ、道中の植物から“赤い人物”の目撃情報を得る。途中でクロードが「返り血でも浴びてるのか」と物騒なことを言っていたが、そうでないことを祈るばかりだった。
そして、何の変哲もない一軒家に到着するが、どうやら屋内には誰もいない。フランツとも連絡がつかず、アリシアたちは仕方なくディオール支部の前まで戻ってきた。
植栽の合間を行き、ホールへ入ろうとすると――小さな木々がざわめく。
『赤いお客が来た』『来た』『来た』『来た』『赤!』
「っ……!?」
アリシアの背筋に冷たいものが走る。その直後、クロードのスマホに着信があってフランツが切羽詰まった様子でまくし立てた。
『ねぇ待って待って、いまドアの前にいるのみんなじゃないよね!? 電話してたら急にドンドンドンって叩かれて! てかずっとドンドンドンって言ってんの! 怖い怖い来客予定とかないんだけど!!??』
「“赤いお客”が……」アリシアが言いかけた段階で、クロードが二階へと走る。
『あ、静かになっ……え、うそ、開けられ――ああぁあっ!? あっ、いや、来ないでぇええええ!!!!!』
スマホから響くフランツの声が、遠ざかって消えた。
急いでユリウスと共に後を追うが、緊迫した状況に耐えられず胸が苦しい。
二階に上がると、開け放たれたドアの前でクロードが立ち尽くしていた。
(そんな……まさか……)
間に合わなかったのか。無力感に苛まれながら、アリシアが事務室の中を見ると――
フランツが、全身赤いコーディネートの幼女に抱き着かれて、その体を触るまいとホールドアップして固まっていた。アリシアと目が合った彼は、言い訳する。
「あっ、いや、違うんだよ、おじさんは何もしてなくてぇ……ホントホント、一ミリも触ってない。ところで助けてくれない?」
あの悲鳴は、コンプライアンス遵守のためだった。
アリシアは、しゃがみ込んで、赤髪に赤リボンの女の子に話しかけてみる。
「えっと、こんにちは。どうしたの?」
すると、赤いワンピースのすそをつかんだ彼女は、ほとんど聞き取れない蚊の鳴くような声でぽつぽつと語り始めた。
女の子が抜け出してきたという幼稚園にフランツが連絡を入れ、ユリウスが彼女と一緒に“王子とお姫様ごっこ”をしてあやしている間、クロードはアリシアから聞いた事の成り行きを渋い顔で聞いていた。
「……それで、小さな花火を出そうと思ったら制御がきかなかったって?」
「うん。親には内緒にするよう言われたらしいんだけど、怖くなって一人で相談しにきたみたい」
「それはまあ……良かったのか悪かったのかわからねぇな」
当の女の子は、落ち着きを取り戻したらしく室内を不思議そうに見回していた。そして、四人分のデスクに広げられた大きな地図に興味を示す。
アリシアも向かいから覗き込むと、街の至るところから一カ所へ向けて矢印が書き込まれていた。花火の目撃情報だろうか、先程までいた緑化公園を指し示している。
「こんなにたくさん」
そのつぶやきに、クロードが素っ気なく答えた。
「支部長の数少ない取り柄だからな、人頼み」
途端に、通話を終えたフランツがスマホをぶんぶんと振る。
「人脈が武器って言ってほしいね! 町内会長さんは全員友達だよ!」
どうやら、町内会の皆さんに情報を提供してもらったらしい。
(クロードは友達がいるって話も聞かないのに……)
あんまり支部長を侮るものでもないと、義兄になんともいえない視線を向けるアリシア。確かに朝一番で謎のテンションを見せられはしたが。
そして、朝の大仰さとは打って変わって、フランツが二人に向けて声をひそめた。
「ちょっと廊下に……」
わざわざ階段の踊り場まで移動して、彼は哀愁すら感じさせるくたびれ具合で言った。
「ちょっとマズイかもね……。花火といえど、近年類を見ない大規模魔法事故ってことだから――」
意図的なものなら、犯人を罰すればまだ収拾がつく。しかし、
「――管理局どころか、魔法そのものへの風当たりが強まりそう」
これが、歴史的な転換期になるかもしれない。その可能性に思い至り、アリシアは息を飲んだ。
クロードどころか、いつもどこかを飛び回って何かを撃ちまくっているミレーヌが朝から大人しく自分の席に座っている。そして支部長席では、机に両肘をついたフランツが口元で手を組み合わせて神妙な面持ちをしていた。
「?????」
状況が飲み込めないアリシアたちを見やって、フランツは妙に真剣な声音で言う。
「全員そろったね――。それでは、緊急会議を始めます」
ユリウスと顔を見合わせたアリシアは、とりあえず着席して次の言葉を待つ。
「昨日、この街で謎の大規模花火が打ち上がりました。事前の届出がなく、各所から通報があったため警察が確認に行きましたが、現時点で全く手がかりがつかめていません」
(……? 事故ですらなかったってこと?)
明日ニュースになるかも、という話はしていたけれど。ユリウスもつられて真面目な顔になって言う。
「それって、なんの痕跡も見つからなかった――。誰かが、魔法で発生させたかもしれないということ?」
「そう。そうなんだよ。それの何がマズイって、魔法管理局も把握していない大規模魔法が使われたってこと。今回はたまたま花火で、巻き込まれた人もいなかったけど――不届き者は取っ捕まえておかないとマズイってわけ」
住宅街のど真ん中で、大爆発が起きていたかもしれない。そう考えると、急に事の重大さがアリシアにも如実にのしかかって来た。
(え……支部長が謎の構えでいるから気を取られてたけど……一大事だ)
フランツは、最後に両手で口元を覆って情けなく窺い見てくる。
「えっと、ちなみにぃ……ウチは誰もやってないよね……?」
それに、ミレーヌがふわりと答えた。
「そうね、無意識でなければ」
全員を疑心暗鬼に叩き込む発言をもって、緊急会議はお開きとなった。
本部長からリモート会議の通達があり、めそめそしているフランツを残した四人が廊下に出る。真っ先に口を開いたのは、クロードだった。
「あり得ないだろ、魔法使い慣れてるやつが無意識に暴発させるなんて」
ミレーヌがこてんと首をかしげる。
「そうかしら? 私は結構なんとなくで使っているから、否定はできないわ」
「怖ぇよ」
「まあ、魔導具を使わないといけないくらい緩やかな魔力だから、自力で花火なんて上げられないと思うけれど」
彼女の拳銃は、魔力を溜めて圧縮してから射出するための魔導具だ。となれば、怪しいのは元々瞬発力のある魔力の持ち主で――クロードが、私怨九割超えの視線でユリウスを捉える。
「お前、昨日なにしてた」
「え、ああ、一人でぼーっとしていたかな……」
「城に帰る計画立てろっつってんだろ」
誤魔化したら誤魔化したで怒られている。
(結局アレから、ふわふわしちゃって何も決められてないんだよね……。確かに同居は危ないかも、クセになっちゃいそう……)
理性ではそう思うものの、ユリウスと繋がった夜のことを考えただけでも秘唇が開いては閉じる。
(こんな状況なのに……どうしちゃったんだろう、私……)
悶々としながら歩いていると、いつの間にかユリウスとクロードは立ち止まって睨み合っていて――さながらゴールデンレトリーバーと狼の様相である――ミレーヌだけが、不意に声をかけてきた。
「最近、仕事はどう?」
「え、ああ――ど、どう……?」
「病院で治療のお手伝いをしているんでしょう? 私には出来ないことだから、尊敬しているの」
「そ、そんな……ありがとうございます」
うろたえていたアリシアは、曖昧に微笑む。一人では誰も救えないのに、なんだか騙しているような気持ちになってしまったから。
「――でも、私だけの力ではないんです。魔力が足りないから、手を借りていて」
「ふふ、私も魔導具がないと仕事にならないわ。でも、楽しいからそれでいいの」
軽やかに笑う彼女は、やはりアリシアの憧れだった。
(私も、そのくらい割り切れたらなぁ……)
「ところで、私は勝手に出張してくるわね」
(街から出て良いって言われてたかなぁ……)
多少の奔放さに目をつぶれば、だが。
午前中に病院の手伝いを終えたアリシアは、帯剣したユリウスやクロードと合流して街のパトロールをしていた。最悪の場合、大規模魔法を使える例の不届き者と戦闘になるかもしれないということで単独行動を許されなかったのだ。ちなみにクロードは一人でも大丈夫そうという理由で本部から許可が降りているが「ミレーヌがいないなら俺のそばが一番マシ」とのことでアリシアの安全確保に付いている。
よって、道行く人がユリウスに声をかけようとしてクロードに一瞥され怯えて去っていくという流れが出来上がり、アリシアはそれに巻き込まれている。
(一刻も早く、この二人を引き離したい……。花火の犯人、すぐ見つかるといいけど)
大通りにいる人間を手がかりもなく見ていると、ふと、葉の触れ合う音に混ざって声が聞こえてきた。
『知ってる?』
『知らなーい』
(――? 偶然、かな)
誰かの会話が繋がったように聞こえただけなのだろうと、アリシアが気に留めないようにしかけた矢先、
『近くの子に聞いてみて』
明らかに、自分の横にある街路樹から声が聞こえた。
「うわぁ、まただ……!」
思わず身をすくめると、すぐにユリウスが抱きしめてくる。
「えっ、なに、どうしたんだい?」
「木がしゃべってるんです……! 最近幻聴が、」
それに対して、ユリウスを引き剥がしながらクロードが声をひそめた。
「お前、それ……精霊の声が聞こえてるんじゃないのか?」
(精霊? これが……!?)
かつての聖女は、精霊の力を借りて属性魔法を使えたというけれど。末裔のアリシアは、今までその存在を知覚したことすらなかった。
(もしかして、たくさん魔力をもらったから、体が本来の機能を果たしてる……?)
にわかには信じがたいが、試してみるべきことがあった。アリシアは、一時休戦している二人の顔を見回す。
「花火が上がったおおよその場所で、精霊に聞いてみるとか……」
自然に宿る精霊と会話ができるのなら、目撃証言を得られるかもしれない。
クロードが持つスマホから、事務室にいるフランツの声が響く。
『あー、ちょっと待って、花火を見たっていう住民の話から割り出してるところだから――。出た出た、ほぼ確でそっちの緑化公園!』
たどり着いた芝生広場は、ヒマワリ畑に囲まれている。子ども連れや犬の散歩をしている住民がちらほらいる中で、アリシアは目を閉じ耳を澄ませて問いかけた。
(夜に、ここで誰かが魔法を使わなかった? 大きな音と光が、空に広がる魔法)
しばらくすると、下の方から無邪気な笑い声がして、一斉に告げた。
『あかい、あかーい、まっかっか。おひさまがのぼるほうへ!』
「なに? 東に行ったの? 赤いって何が……!?」
尋ね返しても同じことしか言わない。精霊にも意思の疎通のしやすさなど色々とあるようだ。
東へ進みつつ、道中の植物から“赤い人物”の目撃情報を得る。途中でクロードが「返り血でも浴びてるのか」と物騒なことを言っていたが、そうでないことを祈るばかりだった。
そして、何の変哲もない一軒家に到着するが、どうやら屋内には誰もいない。フランツとも連絡がつかず、アリシアたちは仕方なくディオール支部の前まで戻ってきた。
植栽の合間を行き、ホールへ入ろうとすると――小さな木々がざわめく。
『赤いお客が来た』『来た』『来た』『来た』『赤!』
「っ……!?」
アリシアの背筋に冷たいものが走る。その直後、クロードのスマホに着信があってフランツが切羽詰まった様子でまくし立てた。
『ねぇ待って待って、いまドアの前にいるのみんなじゃないよね!? 電話してたら急にドンドンドンって叩かれて! てかずっとドンドンドンって言ってんの! 怖い怖い来客予定とかないんだけど!!??』
「“赤いお客”が……」アリシアが言いかけた段階で、クロードが二階へと走る。
『あ、静かになっ……え、うそ、開けられ――ああぁあっ!? あっ、いや、来ないでぇええええ!!!!!』
スマホから響くフランツの声が、遠ざかって消えた。
急いでユリウスと共に後を追うが、緊迫した状況に耐えられず胸が苦しい。
二階に上がると、開け放たれたドアの前でクロードが立ち尽くしていた。
(そんな……まさか……)
間に合わなかったのか。無力感に苛まれながら、アリシアが事務室の中を見ると――
フランツが、全身赤いコーディネートの幼女に抱き着かれて、その体を触るまいとホールドアップして固まっていた。アリシアと目が合った彼は、言い訳する。
「あっ、いや、違うんだよ、おじさんは何もしてなくてぇ……ホントホント、一ミリも触ってない。ところで助けてくれない?」
あの悲鳴は、コンプライアンス遵守のためだった。
アリシアは、しゃがみ込んで、赤髪に赤リボンの女の子に話しかけてみる。
「えっと、こんにちは。どうしたの?」
すると、赤いワンピースのすそをつかんだ彼女は、ほとんど聞き取れない蚊の鳴くような声でぽつぽつと語り始めた。
女の子が抜け出してきたという幼稚園にフランツが連絡を入れ、ユリウスが彼女と一緒に“王子とお姫様ごっこ”をしてあやしている間、クロードはアリシアから聞いた事の成り行きを渋い顔で聞いていた。
「……それで、小さな花火を出そうと思ったら制御がきかなかったって?」
「うん。親には内緒にするよう言われたらしいんだけど、怖くなって一人で相談しにきたみたい」
「それはまあ……良かったのか悪かったのかわからねぇな」
当の女の子は、落ち着きを取り戻したらしく室内を不思議そうに見回していた。そして、四人分のデスクに広げられた大きな地図に興味を示す。
アリシアも向かいから覗き込むと、街の至るところから一カ所へ向けて矢印が書き込まれていた。花火の目撃情報だろうか、先程までいた緑化公園を指し示している。
「こんなにたくさん」
そのつぶやきに、クロードが素っ気なく答えた。
「支部長の数少ない取り柄だからな、人頼み」
途端に、通話を終えたフランツがスマホをぶんぶんと振る。
「人脈が武器って言ってほしいね! 町内会長さんは全員友達だよ!」
どうやら、町内会の皆さんに情報を提供してもらったらしい。
(クロードは友達がいるって話も聞かないのに……)
あんまり支部長を侮るものでもないと、義兄になんともいえない視線を向けるアリシア。確かに朝一番で謎のテンションを見せられはしたが。
そして、朝の大仰さとは打って変わって、フランツが二人に向けて声をひそめた。
「ちょっと廊下に……」
わざわざ階段の踊り場まで移動して、彼は哀愁すら感じさせるくたびれ具合で言った。
「ちょっとマズイかもね……。花火といえど、近年類を見ない大規模魔法事故ってことだから――」
意図的なものなら、犯人を罰すればまだ収拾がつく。しかし、
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